アロマターゼ高発現KGN細胞及び三次元共焦点顕微鏡による内分泌代謝撹乱物質のスクリーニングシステムの開発

文献情報

文献番号
200200929A
報告書区分
総括
研究課題名
アロマターゼ高発現KGN細胞及び三次元共焦点顕微鏡による内分泌代謝撹乱物質のスクリーニングシステムの開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
名和田 新(九州大学大学院医学研究院病態制御内科第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 柳澤 純(筑波大学応用生物系食品化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ホルモン類似の作用を持つ天然および人工化学物質である内分泌撹乱物質は、生殖系への不可逆的な作用が懸念されているが、鋭敏なスクリーニングシステムは確立されていない。本研究では、我々が開発した二つのoriginal 系を用いて内分泌撹乱物質の効率的スクリ-ニングシステムを確立する。すなわち、(1)我々が最近確立したヒト卵巣顆粒膜細胞株KGN細胞株は高いアロマターゼ活性(エストロゲン合成活性)を有することから、アロマターゼ活性に影響を与える物質をスクリーニングする。(2)我々はアンドロゲン受容体(ARの標的遺伝子の転写活性は細胞核内でのARのクラスター形成が必須であることを三次元共焦おいて証明した。この系を用いてARの転写活性を阻害する物質をスクリーニングする。以上のことを主目的とするが、同時に今後、内分泌撹乱物質の作用機構を解明する上で、アンドロゲン受容体の作用機構並びにaromatase 活性の調節機構の基礎的研究についても平行して行った。
研究方法
(1) KGN細胞 のアロマターゼ活性調節並びに内分泌撹乱物資の影響:
KGN細胞はFSH 受容体を発現し、高いアロマターゼ活性を保持する。既報(Endocrinology142: 437-445、2001)にしたがって培養し、種々の化学物質を添加後、アロマターゼ活性はandrostenedeioneを基質そして、3H2O法 により測定した。また、aromatatase遺伝子の転写活性はCYP19 の卵巣顆粒膜細胞特異的promotor (promotor II)とluciferase 遺伝子を連結し、luciferase assay にて解析した。(2)アンドロゲン受容体(AR)の作用機構並びにAR活性に及ぼす内分泌撹乱物質の影響: AR 転写活性は androgen 応答配列を含むMMTV(mouse mammalian tumor virus) promotor 上流とluciferase を連結したMMTV-luciferase construct を用いたluciferasee assay にて解析した。また、GFP-ARをCOS-7細胞で発現させ、核で融合たんぱく質が発する蛍光の分布パターンを取得すると同時に、Hoechst 33342でクロマチン構造を染色し、共焦点顕微鏡でその核内局在について観察した。(3) (3)60種類の内分泌攪乱物質について、ERαの転写活性に及ぼす影響をルシフェラーゼ・アッセイによって検討した。また、HeLa細胞の核抽出液より、ERαにリガンド依存的に結合する蛋白質群を精製し、Massフィンガープリント法にて蛋白質を同定した(柳澤)。
結果と考察
(1)アロマターゼ活性におよぼす内分泌かく乱物質の作用:ヒト卵巣顆粒膜細胞株KGN細胞を樹立し、60種類の化学物質をスクリーニングし、imposexの原因物質である有機スズ化合物が、転写段階でアロマターゼ活性を抑制する成績を得た。またアロマターゼ活性を亢進させる化学物質として、新しくベノミルを同定した。ベノミルのアロマターゼ活性抑制機序としてcAMP-PKAおよびPKC系以外のシグナル伝達経路の関与を明らかにしつつある。(2)新たなステロイドホルモン受容体転写共役因子のクローニング:AR-AF-1結合蛋白質ANT-1をクローニングし、pre-mRNAのスプライシングに関与するp102 U5snRNP-binding proteinと同一であることを明らかにした。AR-AF-1の強い恒常的転写活性化能は、ARの転写・翻訳カップリング複合体へのリクルートである可能性を提唱した。(2)内分泌かく乱物質の受容体/転写共役因子複合体への作用機序:蛍光蛋白質GFPで標識したARの、核内における空間的分布、クロマチン構造との関係を三次元的に再構成した共焦点レーザー顕微鏡画像により可視化した。すなわちこのシステムを用いてAF-1とAF-2のという二つの転写調節領域の相互作用にによりARは転写活性化されること、その際、ARが構成する核内のARコンパートメントへは、p300/CBP依存性にSRC-1、TIF-IIなどの転写共役因子がリクルートされること、さらにER、グルココルチコイド受容体も同一のコンパートメントへ集積することなど、ARの作用機構に関する重要な知見を明らかにした。(3)内分泌撹乱物質のARへの影響:抗アンドロゲン製剤のフルタミドはARに結合し核移行するが標的遺伝子は活性化しない。我々は約60種類の科学物質の中からニトロフェン、ビンクロゾリン、pp'-DDEが、フルタミドと同様にAR のリガンド依存性の核内クラスター形成を阻害することを見い出し、抗アンドロゲン作用を有する内分泌撹乱物質のスクリーニング方法を確立した。今後、内分泌撹乱物質のスクリーニング検体をさらに増やし、検討する予定である。 (4)primordial germ cellにおよぼす内分泌かく乱物質の作用:生殖腺が形成される以前の胎仔マウスの全身にARが発現しており、未分化胚細胞であるES細胞においてもARが発現していた。抗アンドロゲン剤投与は、生殖腺原器へ遊走するprimordial germ cell数を減少させた。未分化胚細胞から始原生殖細胞への分化にARが関与していることが考えられ、内分泌かく乱物質は始原生殖細胞の増殖、移動にとどまらず、その分化自身にも影響を及ぼす可能性が示された。我々はin situ hybridyzation法にてこの時期におけるARの発現を初めて明らかにしており(未発表)、ARは期の胎児発生に根幹的役割を担っていることを示唆する。(5)in vivoでの抗アンドロゲン作用の検討: in vitroの細胞培養系では増殖抑制効果を示さない抗アンドロゲン剤が、in vivoでは極めてユニ
ークな遠隔転移抑制効果を発揮することを明らかにしつつある。従来、抗アンドロゲン作用のin vivoでの効果判定は主に生殖腺重量測定で行われてきた。我々は前立腺癌の転移モデルマウス系の作成に成功した(未発表)。このユニークな転移モデル系においては精巣摘出あるいはflutamide投与によってこの遠隔転移を完全に抑制したことから、in vivoにおける抗アンドロゲン作用物質の有力なスクリーニングシステムと成りうることが示された。本システムを用いて、抗アンドロゲン性内分泌撹乱物質のin vivo における大規模なスクリーニングを施行する予定である。(5)内分泌攪乱物質がER?の転写活性に及ぼす影響:60種類の内分泌攪乱物質について、ER?の転写活性に及ぼす影響を検討した結果、多くの内分泌攪乱物質がERαの転写活性を抑制または促進することが明らかとなった。(6)ERαの転写制御機構:HeLa核抽出液より、エストロゲン依存的にERαに結合する新規転写共役因子複合体TFTCを精製し、この複合体が乳癌の増悪に関与することを示した。(7)内分泌攪乱物質の作用機構:ダイオキシンのレセプターであるAhR/Arntがリガンド未結合型ERαに結合し、転写活性化因子をリクルートすることによって、ERαの転写活性を促進することを見出した。ダイオキシンは、エストロゲン様作用を示すことが従来より知られているが、その分子メカニズムに関しては不明であった。本研究によりダイオキシンのレセプターであるAhR/Arntがリガンド未結合型ERαに結合し、転写活性化因子をリクルートすることによって、ERαの転写活性を促進することが判明した。さらに、内分泌攪乱物質の一つであるButyl benzyl phthalate (BBP)がERαに結合し、AF-1活性を促進することによって乳癌の増悪を引き起こす可能性が明らかとなった。内分泌攪乱物質が示すさまざまな作用は、それらの物質の結合によって誘導されるERαの構造変化の違いと、その結果生じる転写共役因子のリクルートの違いに起因するものと考えられる。同じようにERαに結合する内分泌攪乱物質でも、どのような転写共役因子をERαにリクルートするかをin vitroで検討することによって、生体内での影響を予測することが可能となる。ER?の転写活性制御機構を分子レベルで詳細に知るために、新たな転写共役因子の探索と解析を行う。さらに、リクルートする転写共役因子を指標にし、内分泌攪乱物質を分類するとともに生体への作用を予測する予定である。
結論
内分泌撹乱物質のスクリーニングシステムとして(1)ヒト卵巣顆粒膜細胞株KGN細胞株の高いアロマターゼ活性を指標とする系(2)アンドロゲン受容体(AR)の転写活性化能は細胞核内でのARのクラスター形成と相関することを利用して抗アンドロゲン活性を担う物質をスクリーニングする系(3)内分泌攪乱物質の多くは、エストロゲンの作用を攪乱することから、エストロゲンレセプター(ER?)ERαの転写活性に及ぼす影響を検討する系を立ち上げ、それぞれ、いくつかの内分泌撹乱物質を同定した。さらにその分子基盤となるAR, ERαの転写制御機構の研究の一環としてそれぞれ新しい共役因子ANT-1または複合体TFTCを同定した。また、ダイオキシンのレセプターであるAhR/Arntがリガンド未結合型ERαに結合し、転写活性化因子をリクルートすることによって、ERαの転写活性を促進した。さらに、内分泌攪乱物質の一つであるBBPがERαに結合し、AF-1活性を促進することによって転写活性を増加させた。

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