文献情報
文献番号
200200928A
報告書区分
総括
研究課題名
環境ホルモン受容体センシング法による内分泌かく乱性の順位予測
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
下東 康幸(九州大学大学院理学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 坂口和靖(九州大学大学院理学研究院)
- 野瀬 健(九州大学大学院理学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
24,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌かく乱作用が懸念される非常に多数の既存の化学物質を、迅速にスクリーニングする方法が必要とされている。しかしながら、現在検討されているスクリーニング法は、ホルモン受容体への結合性、ホルモン活性、抗ホルモン活性の3つの活性についてそれぞれ別途に試験されねばならず、きわめて煩雑であり、非効率的である。したがって、これら3つの異なる活性を統合的に評価し、化学物質の内分泌かく乱作用性を高精度に予測する方法論の開発が急務である。こうしたなか最近、我々は「化学物質のホルモン受容体への結合に伴う受容体コンホメーション変化を感知・センシングする」という、全く新しい着想に基づく抗体アッセイ法の開発に成功した。本研究課題は、「ホルモン受容体結合能および活性化能の同時評価測定法」であるこの方法を、「化学物質の内分泌かく乱作用性の順位予測法」として確立しようとするものである。この方法は原理的には、細胞核内の転写因子をホルモン受容体とする一連の核内受容体の全てに適用できる方法である。本研究では、化学物質の内分泌かく乱作用性が最も強く危惧されている女性ホルモン・エストロゲン受容体に対する評価法開発を基点として、以下の項目について検討する。
① エストロゲン受容体コンホメーション変化センシング抗体を用いた、化学物質の内分泌かく乱作用性の順位予測法の確立
② 核内受容体全般についての一般的な内分泌かく乱作用性の順位予測法の確立
③ 受容体コンホメーション変化センシングモノクローナル抗体の作製による予測法の進化改良
① エストロゲン受容体コンホメーション変化センシング抗体を用いた、化学物質の内分泌かく乱作用性の順位予測法の確立
② 核内受容体全般についての一般的な内分泌かく乱作用性の順位予測法の確立
③ 受容体コンホメーション変化センシングモノクローナル抗体の作製による予測法の進化改良
研究方法
抗体作製)エストロゲン受容体に対するコンホメーション変化センシング抗体は、次の操作手順により作製した。(1)抗原ペプチド(受容体の第12ヘリックスを含む断片ペプチド)の化学合成、(2)架橋試薬のキャリアタンパク質・ヘモシアニン(KLH)への結合、(3)エピトープペプチドのKLHへの結合、(4)ウサギへの免疫、(5)KLH抗体の免疫沈降除去、抗原ペプチドでのアフィニティクロマトグラフィーによる抗体の精製。こうした一連の操作で調製した抗体について、抗原ペプチドおよびエストロゲン受容体に対する応答を通常のELISA法により調べた。
(抗体アッセイ)センシングアッセイ:エストロゲン受容体 (40 nM) に対して化学物質 (10-11~10-5 M) を室温で1時間反応させ、リガンド-受容体複合体を調製した。この溶液を予めウシ・サイログロブリンに結合した抗原ペプチドをコートした96穴イムノプレートに移した。これにセンシング抗体溶液を加えて4℃で終夜反応させた。溶液は一括除去により捨て、プレートを洗浄した後、酵素HRP標識2次抗体溶液を加えて1時間反応させた。その後、過酸化水素/ABTSを基質とした酵素反応により溶液を発色させ、405 nmの吸光度よりプレート上のペプチドに結合した抗体量を定量した。
センシングアッセイの解析:受容体のコンホメーション変化量(抗体応答)は、基準の17_-エストラジオールに対する相対値として、プレートに残存する2次抗体の酵素活性値の測定値から、次式により算出した。
D(%) = (A - B) x 100 / (C - B)
D: コンホメーションン変化量(抗体応答)
A: 受容体および試験化学物質を添加したときの測定値
B: 受容体のみ添加したときの測定値
C: 受容体および過剰量の女性ホルモンを添加したときの測定値
さらに、各化学物質の濃度に対して抗体応答をプロットし、抗体応答が平衡に達した最大抗体応答性Rmax(%)として、これをグラフより算出した。また、得られたシグモイド様曲線を解析プログラムALLFITで数理解析し、Rmax(%)値の50%に対応する化学物質濃度を抗体応答有効濃度(EC50)として算出した。Rmax(%)は試験化学物質が受容体を活性型コンホメーションに転化できる割合の最大値を示し、したがって、抗体応答(縦軸)はホルモン活性の強さの指標となり、EC50値は化学物質と受容体との結合の強さの指標となる。
(抗体アッセイ)センシングアッセイ:エストロゲン受容体 (40 nM) に対して化学物質 (10-11~10-5 M) を室温で1時間反応させ、リガンド-受容体複合体を調製した。この溶液を予めウシ・サイログロブリンに結合した抗原ペプチドをコートした96穴イムノプレートに移した。これにセンシング抗体溶液を加えて4℃で終夜反応させた。溶液は一括除去により捨て、プレートを洗浄した後、酵素HRP標識2次抗体溶液を加えて1時間反応させた。その後、過酸化水素/ABTSを基質とした酵素反応により溶液を発色させ、405 nmの吸光度よりプレート上のペプチドに結合した抗体量を定量した。
センシングアッセイの解析:受容体のコンホメーション変化量(抗体応答)は、基準の17_-エストラジオールに対する相対値として、プレートに残存する2次抗体の酵素活性値の測定値から、次式により算出した。
D(%) = (A - B) x 100 / (C - B)
D: コンホメーションン変化量(抗体応答)
A: 受容体および試験化学物質を添加したときの測定値
B: 受容体のみ添加したときの測定値
C: 受容体および過剰量の女性ホルモンを添加したときの測定値
さらに、各化学物質の濃度に対して抗体応答をプロットし、抗体応答が平衡に達した最大抗体応答性Rmax(%)として、これをグラフより算出した。また、得られたシグモイド様曲線を解析プログラムALLFITで数理解析し、Rmax(%)値の50%に対応する化学物質濃度を抗体応答有効濃度(EC50)として算出した。Rmax(%)は試験化学物質が受容体を活性型コンホメーションに転化できる割合の最大値を示し、したがって、抗体応答(縦軸)はホルモン活性の強さの指標となり、EC50値は化学物質と受容体との結合の強さの指標となる。
結果と考察
受容体に17_-エストラジオール(E2)(アゴニスト)が結合すると、受容体が構造変化し、抗体の受容体への結合量が減少する。この減少の程度をE2の濃度を変えて測定すると、用量依存的な相関曲線が描かれた。これは、E2の受容体結合能とそれが引き起こす受容体構造変化の程度を定量的に相関させた受容体結合活性試験の構築が可能であることを示す。また、同じ天然の女性ホルモンのエストリオール(E3)や合成女性ホルモンについても同様の結果が得られた。しかし、エストロン(E1)はE2に比較して格段に応答性が低く、E1の実際の受容体結合性および転写活性の結果とよく符合することが判明した。さらに、アンタゴニスト・ヒドロキシタモキシフェンについて検討したところ、E1、E2、E3、そして合成女性ホルモンいずれの場合とも異なる抗体応答を示した。ジエチルスチルベストロールおよび4-ヒドロキシタモキシフェンの濃度に対して抗体応答をプロットした結果を17_-エストラジオールと併せて図示すると差異が非常に明解となった。
これらの結果より本法は、化学物質が結合して引き起こした構造変化が活性型か、不活性型かの判別により「ホルモン活性の有無」を、また、その抗体応答の強さで「受容体結合の強さ」を同時に判定できるアッセイ系であることが判明した。しかしながら、不活性型であるアンタゴニストをアゴニストから峻別するには基本的には、アンタゴニストの結合に伴うコンホメーション変化のみを感知する抗体、あるいはアゴニストの結合に伴うコンホメーション変化のみを感知する抗体が必要となる。これらはモノクローナル抗体で実現すると思われる。
平成14年度には、エストロゲン受容体について内分泌かく乱作用が懸念されるとされた化学物質503種類のうち、受容体結合性が確認された約300種から約150種についてセンシング抗体を用いて解析した。現在までに分析したこれら約150種のうち有効な解析を与えた57種の化学物質について、得られたプロットデータから各々の受容体へ結合能を表す抗体応答有効濃度EC50(M)とホルモン活性の程度を表す最大抗体応答性(Rmax(%))を求める二次解析を実施した。測定可能な濃度領域において、抗体応答性の最大値Rmax(%)が算定できたのは57種の化学物質のうち33種のみであった。
センシング抗体アッセイにより得られた解析結果に基づいて、抗体応答有効濃度を横軸に、最大抗体応答性を縦軸にして、ホルモン受容体の抗体応答性を各化学物質について解析した。その結果、抗体応答有効濃度(横軸)を指標として見たとき、活性の強弱についてグループ(第1~第3グループ)に分けられることが判明した。受容体への結合能がきわめて弱く、したがって、抗体応答有効濃度がきわめて小さく、最大濃度での最大抗体応答性が非常に小さい化学物質群(第4グループ)、また、エストロゲン受容体に全く結合しない化学物質群(第5グループ)はプロットされない。こうして、応答有効濃度による5種類のグループへの分別化、次いで最大抗体応答性の序列化という手順・スキームによって、女性ホルモン・エストロゲン受容体を介した内分泌かく乱作用性の順位予測について受容体結合能とホルモン活性を同時に測定評価する基本的解析法の概要が確立できた。
ところで、例えば、最大活性の化学物質群・第1グループについては、最大抗体応答性が40~120%の領域に分布する。これらの抗体応答性を識別・解析するためには、モノクローナル抗体の作製が必須と考えられる。このように、アゴニスト/アンタゴニストの識別、抗体応答性の高効率認識にモノクローナル抗体作製が必須の要件となった。このため、平成15年度より取組む予定であったが、今年度から開始し、クローン選別の段階まで進んだ。今後、アゴニスト、あるいはアンタゴニスト特異的な高選択性抗体の選別をはじめ、高感度モノクローナル抗体の選別のため、抗体作製の効率の向上や受容体アッセイ法の工夫が必要である。また、エピトープ解析に基づく効率的な抗原部位ペプチドの設計法の確立も重要である。特に、エストロゲン受容体コンホメーション変化のセンシングに両親媒性ヘリックス12を抗原とすること、疎水面がエピトープであることが解析されたが、これらが核内受容体に一般的に適合する可能性があり、今後、グルココルチコイド受容体等での検証が必要である。
これらの結果より本法は、化学物質が結合して引き起こした構造変化が活性型か、不活性型かの判別により「ホルモン活性の有無」を、また、その抗体応答の強さで「受容体結合の強さ」を同時に判定できるアッセイ系であることが判明した。しかしながら、不活性型であるアンタゴニストをアゴニストから峻別するには基本的には、アンタゴニストの結合に伴うコンホメーション変化のみを感知する抗体、あるいはアゴニストの結合に伴うコンホメーション変化のみを感知する抗体が必要となる。これらはモノクローナル抗体で実現すると思われる。
平成14年度には、エストロゲン受容体について内分泌かく乱作用が懸念されるとされた化学物質503種類のうち、受容体結合性が確認された約300種から約150種についてセンシング抗体を用いて解析した。現在までに分析したこれら約150種のうち有効な解析を与えた57種の化学物質について、得られたプロットデータから各々の受容体へ結合能を表す抗体応答有効濃度EC50(M)とホルモン活性の程度を表す最大抗体応答性(Rmax(%))を求める二次解析を実施した。測定可能な濃度領域において、抗体応答性の最大値Rmax(%)が算定できたのは57種の化学物質のうち33種のみであった。
センシング抗体アッセイにより得られた解析結果に基づいて、抗体応答有効濃度を横軸に、最大抗体応答性を縦軸にして、ホルモン受容体の抗体応答性を各化学物質について解析した。その結果、抗体応答有効濃度(横軸)を指標として見たとき、活性の強弱についてグループ(第1~第3グループ)に分けられることが判明した。受容体への結合能がきわめて弱く、したがって、抗体応答有効濃度がきわめて小さく、最大濃度での最大抗体応答性が非常に小さい化学物質群(第4グループ)、また、エストロゲン受容体に全く結合しない化学物質群(第5グループ)はプロットされない。こうして、応答有効濃度による5種類のグループへの分別化、次いで最大抗体応答性の序列化という手順・スキームによって、女性ホルモン・エストロゲン受容体を介した内分泌かく乱作用性の順位予測について受容体結合能とホルモン活性を同時に測定評価する基本的解析法の概要が確立できた。
ところで、例えば、最大活性の化学物質群・第1グループについては、最大抗体応答性が40~120%の領域に分布する。これらの抗体応答性を識別・解析するためには、モノクローナル抗体の作製が必須と考えられる。このように、アゴニスト/アンタゴニストの識別、抗体応答性の高効率認識にモノクローナル抗体作製が必須の要件となった。このため、平成15年度より取組む予定であったが、今年度から開始し、クローン選別の段階まで進んだ。今後、アゴニスト、あるいはアンタゴニスト特異的な高選択性抗体の選別をはじめ、高感度モノクローナル抗体の選別のため、抗体作製の効率の向上や受容体アッセイ法の工夫が必要である。また、エピトープ解析に基づく効率的な抗原部位ペプチドの設計法の確立も重要である。特に、エストロゲン受容体コンホメーション変化のセンシングに両親媒性ヘリックス12を抗原とすること、疎水面がエピトープであることが解析されたが、これらが核内受容体に一般的に適合する可能性があり、今後、グルココルチコイド受容体等での検証が必要である。
結論
本研究によるエストロゲン受容体コンホメーション変化センシング抗体を用いた内分泌かく乱作用性の解析法の概要が確立された。この解析法は、化学物質のホルモン受容体への結合親和性とホルモン活性を同時に評価できる高効率的な方法である。今後、各種核内受容体について、立体構造のホモロジーモデリング、エピトープ解析、抗体作製、センシングアッセイ、アッセイ解析のフローチャートに従って、受容体を介した内分泌かく乱作用性の順位予測が可能となれば、化学物質の内分泌かく乱作用性について統合的な詳細が明らかになることが非常に強く期待される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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