数種の食用油に含まれる微量有害因子に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200925A
報告書区分
総括
研究課題名
数種の食用油に含まれる微量有害因子に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
奥山 治美(名古屋市立大学大学院・薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大原 直樹(財団法人・食品薬品安全センター)
  • 今泉 勝己(九州大学大学院・農学部)
  • 加治 和彦(静岡県立大学・食品栄養科学)
  • 小野嵜 菊夫(名古屋市立大学大学院・薬学研究科)
  • 藤井 陽一(名古屋市立大学大学院・薬学研究科)
  • 永津 明人(名古屋市立大学大学院・薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
17,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
数種の食用油に存在が想定されている微量有害因子(SHRSPラットの寿命短縮因子)を探索・同定し、それを含まない油糧種子を創出・供給することを目的とした。具体的には、有害作用を示す菜種油と硬化大豆油を、超臨界法、分子蒸留法で分画し、有害因子が分離できる可能性を探ること、植物ステロールが微量有害因子のひとつであるとする報告を検証すること、簡易アッセイ系の確立を図ること、遺伝子発現に及ぼす影響を評価すること、生殖生理への影響を評価すること、プリオン病発症の因子となっている可能性を評価すること、などを目標とした。
研究方法
① 菜種および硬化大豆油の分画と評価 CO2超臨界法、分子蒸留法により菜種油35kgを分画する。分画物及び再結晶菜種油ステロール標品(Ratnayake博士、Health Canada、送付)の化学的分析を行う。これらを普通食に混ぜ(10%)、SHRSPラットに与えて0.5%食塩水負荷条件で寿命を評価する。② 有害因子としての植物ステロールの評価 植物ステロールを餌に添加し、その影響を評価する。③ 簡易アッセイ系の確立 血管新生を三次元的に評価する培養細胞系に分画物を添加し影響を評価する。④ 肝臓遺伝子発現に及ぼす影響を評価するDNAチップを使い、菜種群と大豆油群の遺伝子発現の差を評価する。⑤ 有害因子の生化学的、生理学的検索 赤血球の浸透圧耐性や物理刺激に対する耐性、血小板の赤血球への粘着、Na,K-ATPaseに及ぼす影響を評価する。一方、生殖生理や第二世代の成長に及ぼす影響を評価する⑥ プリオン病に菜種(油、粕)が関与している可能性を探る わが国で発症した牛海綿状脳症(BSE)、英国におけるスクレイピーやBSE、米国における野生鹿のプリオン様症状の発生、などに関連する飼料(餌)の調査・検索を行い、菜種が関与している可能性を調べる。
結果と考察
① 菜種油および硬化大豆油の分画と評価 CO2超臨界法、分子蒸留法による分画物はトリアシルグリセロール(TG)が主成分であるが、未分画の油では隠れていた微量成分が検出された。それら化学構造を決定する研究を開始した。一方、超臨界法による分画物間で寿命に少しの差が見られた。② 有害因子としての植物ステロールの評価 SHRSPラットは植物ステロール血症になりやすい。内在性コレステロールを含まない精製飼料を基礎とした場合、オリーブ油の例外を除いて、植物ステロール含量の高い菜種油などで寿命が短縮し、大豆油に植物ステロール分画を添加すると寿命が短縮する。しかし、内在性コレステロールと植物ステロールを含む普通飼料(CE2)を基礎とした場合は、植物油のステロール含量と寿命とは相関しなかった。すなわち、「植物ステロールも寿命短縮因子の一つでありうるが、植物ステロール以外に寿命短縮因子が存在する」ことが明らかとなった。③ 簡易アッセイ系の確立 マトリゲルを使った血管内皮細胞の三次元培養系に菜種油、大豆油を添加したが、有意な差は認められなかった。後述の、赤血球の浸透圧耐性、あるいは赤血球―血小板粘着作用の変化や、マイクロアレイ法も簡易アッセイ系として使える可能性がある。④ 肝臓遺伝子発現に及ぼす影響の評価 菜種油群と大豆油群の肝臓で、マイクロアレイ法による遺伝子発現評価を行った結果、多くの遺伝子の発現低下(菜種油群対大豆油群の比が0.3以下)が認められた(二価金属イオン関連、アミ
ロイドやプリオン関連、ステロイドホルモン合成関連、血液凝固関連、免疫関連、細胞増殖関連、プロテアーゼ類、エネルギー代謝、タンパク合成等)。発現上昇もいくつかの遺伝子で見られた。⑤ 有害因子の生化学的、生理学的検索 SHRSPラットのF1(雄)の離乳時より餌を交換し寿命を評価した結果、大豆油(F0)-大豆油(F1)群に比べて菜種油(F0)-大豆油(F1)群の寿命が有意に短く、親(F0)の餌が仔(F1)の寿命に影響を及ぼしている可能性が示された。⑥ プリオン病に菜種(油、粕)が関与している可能性 わが国で発症した7頭の狂牛病牛について、菜種が共通因子となっている可能性があることを明らかにした。菜種はMoなどを多く含み、Cu代謝を障害する可能性がある。これと関連して、ヤギにおける菜種粕、大豆粕の安全性を評価する系を立ち上げた。“数種の食用油の示す有害作用は植物ステロールによる"、という解釈が一部でなされてきたが、「植物ステロールがSHRSPラットの寿命を短縮する可能性はあるが、植物ステロール以外の重要な有害因子が存在する」という点が確かとなった。遺伝子発現解析結果は、菜種油の作用が多様であることを明らかにし、いくつかの作業仮説を生み、有害因子を同定する手がかりを与えた。一方、超臨界法などの分画条件を変えることにより、有害因子を含まない画分が得られる可能性がでてきた。菜種油は多くの国で主要食用油であるが、その異常作用は種を越えて報告されており、その量がヒトの食環境に匹敵することから、健康情報発信の面では従来の施策を踏襲することは不適切であると考える。
結論
これまでに得られた結果は次のように要約される。①有害因子が軽減された菜種油分画がえられる可能性がある、②植物ステロール以外の微量有害因子が存在すると考えられる、③菜種油群と大豆油群の肝臓で多くの遺伝子発現に差が観察され、有害因子の作用について多くの示唆が得られた、④二世代目の仔の成長、寿命が親の餌(菜種油か大豆油)の影響を受けることが示唆された、⑤狂牛病・プリオン病・スクレイピーなどに菜種が関与している可能性が十分に考えられる。
これらの結果に基づき、植物ステロール以外の微量有害因子の探索、植物エストロゲン様の内分泌かく乱作用物質の探索を開始した。

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