バイオフラボノイドの遺伝子再構成作用に関する研究

文献情報

文献番号
200200921A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオフラボノイドの遺伝子再構成作用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
清河 信敬(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山田健人(慶應義塾大学)
  • 穂積信道(東京理科大学生命科学研究所)
  • 安江博(農林水産省・独立行政法人・農業生物資源研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
年齢1歳未満の乳児に特徴的な乳児白血病の発症機構については、母体のトポイソメラーゼ(Topo)II抑制物質摂取により誘導される胎児造血細胞のMLL遺伝子再構成の関与が示唆されている。これに関連して、最近米国のR. Strickらが、健康食品などに含まれるバイオフラボノイド(BFN)が培養ヒト血液系細胞株に対してTopoII抑制作用を示し、MLL遺伝子の再構成を引き起こすことを報告している。BFNは日本茶やハーブ等にも豊富に含まれること、乳児白血病の発生頻度は東洋人に高いことなどを考慮すると、同物質がMLL遺伝子の構造変化に影響を及ぼす可能性について早急に解明することが求められる。そこで本研究では、上記報告を追試するとともに、生体にBFNを投与した場合に、実際に血液系細胞にMLL遺伝子再構成が起こるのか否かについて、NOD/SCIDマウスを用いたヒト造血組織再構築モデルや、妊娠した免疫不全ブタの胎児に外科的にヒト造血細胞を移植、再構築する妊娠モデル、等を用いた検討によって明らかにすることを目標とする。初年度は、上記報告の追試確認実験を行うとともに、BFNの正常血液系細胞に対する効果、ならびに生体への投与にともなう血液系細胞への効果の検討を行うための準備実験を行った。
研究方法
1)BFNの培養細胞株に対する MLL遺伝子再構成誘導効果検討のため、B前駆細胞性白血病株BV173について、Flavone等のBFNを16時間添加培養した後ゲノムDNAを抽出し、MLL遺伝子のBreak point cruster 領域(BCR)約8kbを挟む5'領域、3'領域のそれぞれの断片をプローブとして用いてサザンブロット解析を行った。
2)ヒト正常血液系細胞に対するBFNのMLL遺伝子再構成誘導効果の検討への応用を目的とし、骨髄幹細胞について種々のサイトカイン添加液体培養、メチルセルロース中でのコロニー形成培養、ST-2、PA-6、MS-5等のマウス骨髄間質細胞株との共培養を行い、一定期間後に細胞を回収し、各系統のヒト血球系細胞に対する特異抗体を用いたフローサイトメトリー(FCM)解析により、分化誘導される細胞の種類と頻度について検討した。
3)生体がBFNを摂取することによって造血細胞の遺伝子構造変化にもたらされる影響に関して検討するための動物モデルとして使用する目的で、NOD/SCIDマウスに3Gyの放射線照射を行った後ヒト臍帯血幹細胞を移植し、一定期間後に採取した末梢血および骨髄血に対してヒト白血球 に対する抗体を用いたFCM解析によりそれぞれに占めるヒト造血細胞の比率をモニターした。
4)母体がBFNを摂取した場合の胎児造血細胞への作用について検討するためのモデルとして使用する予定の免疫不全ブタの免疫状態の解析に用いるため、ブタ末梢血白血球を免疫源としてブタ血球に対する抗体を作成し、免疫沈降法により認識抗原の分子量を同定した。最終的な認識抗原の確認は、既存のブタ白血球抗原のcDNAを強制発現させたCos7細胞との反応性により行った。
5)新規染色体転座t(11;X)(q23;q24)をもつ小児急性骨髄性白血病(AML)症例から樹立した細胞株KOPM88に対し、MLL遺伝子のN末およびC末にそれぞれをFITC、PEでラベルしたコスミドプローブを作製し、FISHを行った。MLLのExon3-6を増幅するようにプライマーを設定しnested-RT-PCRを行なった。同株をNOD/SCIDマウスに移植し、50~70日後に末梢血と骨髄血中の白血病細胞の検出をFCM解析により試みた。
結果と考察
1. 培養細胞株へのBFN投与によるMLL遺伝子再構成誘導の検討
R. Strickらにより報告されたBFNの培養細胞株に対するMLL遺伝子再構成誘導作用について追試、確認するため、サザン解析でMLL遺伝子BCR近傍のBamHI断片のサイズの変化を検討することによってFlavone等、一部のBFNによるBV173に対するMLL遺伝子再構成誘導を確認をした。
現時点では、BFNによるMLL遺伝子再構成誘導効果は、細胞株の培養系に直接添加した場合にサザン解析によって確認されているのみである。今後この遺伝子再構成誘導効果がサザン解析におけるartifactではないことをFish法やRT-PCR法によって確認するとともに、実際に生体にBFNを投与した場合に血液系細胞に対して同様にMLL遺伝子再構成誘導効果を示すのか否かについて明らかにする必要がある。
2. ヒト正常造血細胞の試験管内培養系、コロニー形成培養系の確立
MS-5との共培養により、造血幹細胞から約70%の純度でB前駆細胞が誘導された。骨髄単球系細胞の分化誘導は、SCFおよびG-CSF添加の液体培養でより効率的であった。巨核球はTPO添加液体培養の方がより効率的であった。
骨髄単球系細胞、B前駆細胞、巨核球等を骨髄幹細胞から効率的に分化誘導、維持するための培養条件を決定した。今後これらの培養条件を用いてヒト各種正常血液系細胞に対するBFNのMLL遺伝子再構成誘導効果の検討を行ってゆく。
3. NOD/SCIDマウスを用いたヒト造血系再構築モデルの作成
生体がBFNを摂取することによって造血細胞の遺伝子構造変化にもたらされる影響に関して検討するための動物モデルとして使用する目的で、NOD/SCIDマウスにヒト造血系を再構築させる実験条件の検討を行った。放射線照射NOD/SCIDマウスにヒト臍帯血幹細胞を移植し、4ヶ月後の時点で、マウス末梢血および骨髄細胞中に5-16%のヒト白血球の存在を認めた。
NOD/SCIDマウスのヒト造血系再構築モデルにBFNを投与する実験系は生体内でのBFN代謝を含めた評価が出来る点で優れていると考えられる。今回の検討で移植後のマウス末梢血および骨髄にヒト白血球を5-16%認めたことは、BFN投与によるMLL遺伝子の再構成を解析しうる可能性を示しており、今後の研究への応用が期待される。
4. 免疫不全ブタ解析を目的としたブタ血球に対する抗体の作成と性状解析
本研究では母体がBFNを摂取した場合の胎児造血細胞への作用について検討する目的で、妊娠した免疫不全ブタの胎児にヒト造血幹細胞を移植してヒト造血系を再構築するブタ妊娠モデルの確立を目指している。初年度は、現在他の研究事業で作成中であって次年度より本研究事業で使用可能見込の免疫不全ブタの免疫状態を解析するための、ブタ血球に対する抗体の作成を行い、34のクローンを得た。このうち、特にリンパ球の一部と反応する7G3および6F10について、それぞれの認識抗原がT細胞抗原受容体(TCR)δ鎖、CD8α鎖であることを同定した。
現在、他のクローンについてもその性状解析と認識抗原の同定を行っている。これらの抗体は今後免疫不全ブタの免疫系解析に有用であると考えられる。
5. 白血病症例のMLL遺伝子再構成の解析とNOD/SCIDマウスへの移植による細胞増殖能の評価法の確立
新規染色体転座t(11;X)(q23;q24)をもつAML細胞株KOPM88を用いてMLL遺伝子再構成について検討した。FISH解析、RT-PCRおよびシークエンスの結果、MLL遺伝子のExon 8とExon 2およびExon 6とExon 2 に2ケ所の切断点が明らかになり、MLL遺伝子のtandem duplicationが判明した。また同株をNOD/SCID マウスに移植したところ白血病細胞の生着、増殖を認めた。
今回明らかにしたMLL遺伝子のtandem duplicationは、新たに発見された異常であり、今後MLL遺伝子の異常にともなう白血病化のメカニズムを研究するうえで貴重な材料と考えられる。今回、NOD/SCIDマウスを用いることで、従来確立が困難であったAMLモデルが作成できたことは、通常の免疫不全マウスへの生着が困難な白血病細胞でも、NOD/SCIDマウスを用いることにより生着可能となり、その増殖能の評価、判定を行うことができることを示しており、今後、BFNによって誘導されたMLL遺伝子再構成が細胞増殖能におよぼす影響の評価に応用可能と考えられる。
結論
BFN摂取の安全性については早急に結論をださねばならないが、BFNのMLL遺伝子再構成誘導効果は、現時点では非常にartificialな実験系で確認されているのみであり、BFNが多くの日常的食品に含まれること、MLL遺伝子関連の乳児白血病の発症頻度は低いことから、この問題については、今後、BFNの作用が実際にヒト生体内で血球系細胞に対しても発揮されるか否かについて詳細に検討を行った上で、適正摂取量の決定という視点に立って、慎重に判断されなければならないと考えられる。これに関して、今年度の研究成果の多くはBFNの生体内での作用について検討するための実験系確立に直接的に結びつくものであり、次年度これらの成果を応用することによって、BFNの生体内でのMLL遺伝子再構成誘導作用の有無の確認や、MLLの適正摂取量の決定等の面で、本研究が大いに進展することが期待される。

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