CD34陽性細胞を標的とするADA欠損症における遺伝子治療臨床研究

文献情報

文献番号
200200844A
報告書区分
総括
研究課題名
CD34陽性細胞を標的とするADA欠損症における遺伝子治療臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
崎山 幸雄(北海道大学大学院医学研究科・遺伝子治療)
研究分担者(所属機関)
  • 小林邦彦(北海道大学大学院医学研究科・小児発達医学分野)
  • 小林正伸(北海道大学遺伝子病制御研究所)
  • 有賀 正(北海道大学大学院医学研究科・遺伝子治療)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症における酵素補充(PEG-ADA)療法併用下の末梢血T細胞を標的にした遺伝子治療臨床研究の有効性、安全性について開始後8年間の経緯を解析して評価する。新たなADA欠損症患児におけるPEG-ADAの臨床効果を評価する。さらに、骨髄血CD34陽性(+)細胞を標的にした遺伝子治療臨床研究に向けて新規レトロウイルスベクターを用いた基礎研究を行い、プロトコールを作成する。
研究方法
1. PEG-ADA療法(週1回、1バイアル筋肉内注射)継続下に遺伝子導入T細胞投与中断後の症例A.K.について臨床経過、一般血液生化学検査、リンパ球T細胞亜分画、TCRレパトア、導入遺伝子のリアルタイム定量的PCR法、導入遺伝子の発現、野生型レトロウイルス、有害事象などを経時的に解析する。
2. 新たなADA欠損症患児(症例T.A.)におけるPEG-ADA療法の臨床効果を評価する。
3. 臍帯血、正常人・患児骨髄血CD34+細胞を標的に新規レトロウイルスベクターPG13/GCsapM-ADA(MPSV,NIH供与)、リコンビナントフィブロネクチン(レトロネクチン、宝酒造供与)、stem cell factor(SCF,Amgen),thrombopoietin(TPO,KIRIN), Flt3リガンド(Flt3L,Pepro Tech)などを使用してADA遺伝子導入効率を解析する。さらに、ADA遺伝子導入CD34+細胞を放射線照射NOD/SCIDマウスの尾静脈内に投与し、6~8週後の脾臓、骨髄におけるCD45+CD19+細胞、CD45+CD34+細胞の解析、ADA遺伝子の検索を行う。
4. 症例A.K.,T.A.における骨髄血CD34+細胞を標的とする遺伝子治療臨床研究を実施する。
結果と考察
1. PEG-ADA療法下に末梢血T細胞を標的にした遺伝子治療臨床研究について遺伝子導入細胞の投与開始後8年を経て以下の結果を得た。
1)症例A.K.のPEG-ADAは遺伝子治療前25単位/kg体重/週から14単位/kg体重/週に減量されている。2)末梢血リンパ球数は、500~ 1,000 /μL と低値である。3) 末梢単核球に0.04~0.09copy/cellの導入ADA遺伝子が検出される。4)末梢血単核球ADA活性は~5単位で、抗CD3抗体による試験管内刺激によって~20単位に増加する。5)血清免疫グロブリン値IgG,IgA,IgMは正常下限域に維持され、遺伝子治療前に持続されていた静注用グロブリン製剤の置換療法は中止されている。6)野生型レトロウイルス発現を含め、副作用は認められていない。7)患児の身体発育は正常域で、通常の日常生活を送っている。
2. HLA一致の血縁骨髄ドナーを得られなかった症例T.A.は生後4ヶ月時にPEG-ADA療法を開始された。開始後3年7ヶ月を経て末梢血リンパ球数は僅かに増加するも依然、200-300/μLと低値で、低γグロブリン血症を認め、静注用グロブリンの6週毎の置換療法を受けている。
3. Flt3リガンド、TPO,SCF、レトロネクチンでコーティングしたプレート、PG13/GCsapM-ADAを用いて臍帯血・骨髄血由来CD34+細胞、ADA欠損症骨髄血由来CD34+細胞に遺伝子導入された。遺伝子導入効率は臍帯血由来CD34+細胞(N=14):0.44±0.19copy/cell、正常人骨髄血由来CD34+細胞(N=6):0.45±0.14 copy/cell、患児骨髄血由来CD34+細胞(N=2);0.46±0.14 copy/cellであった。前遺伝子治療に使用されたLASNベクターによる臍帯血CD34+細胞(n=5)に対する遺伝子導入効率は0.10±0.03copy/cellでGCsapM-ADAによる導入効率は有意に高値であった。これらの遺伝子導入細胞を注入後6-8週のNOD/SCIDマウス脾臓、骨髄細胞中にはCD45+CD19+細胞の出現とベクター由来ADAcDNAが検出された。
4. 新たな遺伝子治療臨床研究では骨髄血CD34+細胞を標的に遺伝子導入細胞の生体内における生存優位性を期待してPEG-ADA療法の中断後に遺伝子導入細胞を投与する計画が作成された。しかし、症例A.K.でPEG-ADA中断後間もなくフランスでの遺伝子治療の有害事象報告からその実施は延期され、PEG-ADAは最終投与の24日後に再開された。3週間の中断によって血漿ADA濃度は減少し、赤血球毒性代謝産物の蓄積が観察されたが、そのレベルは1歳時の補充療法前の約20%であった。末梢血リンパ球数は中断後、漸減し、PEG-ADA再開によって増加したが、CD4+,CD8+T細胞、B細胞、NK細胞の全てでカイネティクスに差を認めた。また、LASN遺伝子陽性細胞の比率は0.12から0.28copy/cellと増加し、ADA活性も5単位から10単位まで上昇した。
PEG-ADA療法下に末梢血T細胞を標的とした遺伝子治療臨床研究は8年余にわたる遺伝子導入細胞の存在、導入遺伝子によるADA酵素活性の発現を末梢血単核細胞に見いだして、児の特異抗体産生能の再建に関わっていると考えられた。しかし、末梢血リンパ球数は低値で、常用量の1/4量のPEG-ADAは維持された。
レトロネクチン,Flt3リガンド,SCF, TPOの使用下に新規レトロウイルスベクターGCsapM-ADAによるヒト臍帯血、骨髄血CD34+細胞への遺伝子導入効率は0.44~0.42 copy/cellと高効率であった。また、NOD/SCIDマウスへの遺伝子導入ヒトCD34陽性細胞の静脈内投与によって導入遺伝子を発現するヒトB細胞を検出することが可能であった。
末梢血T細胞を標的とした遺伝子治療後の患児においてほぼ3週間のPEG-ADA療法の中断が経験された。末梢血リンパ球の維持は各分画ともにPEG-ADA補充療法に依存していること示され、遺伝子導入細胞の生体内生存優位性が存在することが示唆されたが、その顕性化にはより長期の中断が必要であると考えられた。
結論
ADA欠損症に於ける末梢血T細胞を標的にしたPEG-ADA療法併用下の遺伝子治療臨床研究は開始後8年を経て、導入遺伝子の持続と酵素活性の発現を認め、低用量PEG-ADA下に免疫機能の再建が得られた。骨髄血CD34+細胞を標的に新規レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入実験によりPEG-ADA中断下の患児骨髄CD34+細胞を標的とする遺伝子治療臨床研究の実施が可能と考えられた。

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