GM-CSF遺伝子導入自己複製能喪失腫瘍細胞接種による遺伝子治療法の開発と臨床研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200200840A
報告書区分
総括
研究課題名
GM-CSF遺伝子導入自己複製能喪失腫瘍細胞接種による遺伝子治療法の開発と臨床研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
谷 憲三朗(九州大学生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野 茂隆(東京大学医科学研究所)
  • 奥村 康(順天堂大学)
  • 赤座 英之(筑波大学)
  • 森 正樹(九州大学生体防御医学研究所)
  • 東 みゆき(東京医科歯科大学)
  • 佐藤 典治(東京大学医科学研究所)
  • 小柳津 直樹(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
他臓器への転移のある第IV期腎癌は予後不良であり新たな治療法の開発が強く望まれている。一方、最近の臨床研究結果から、腎癌に対する免疫療法の有用性が示唆されている。しかし、現行のインターロイキンー2、インターフェロンαならびに非骨髄破壊的同種細胞療法などの免疫療法においてもそれらの限界が明らかになってきている。我々はこれまでに第IV期腎癌を対象とした放射線照射・GM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞ワクチン(GVAX)投与実施の可能性と安全性の評価を主目的とした遺伝子治療臨床研究を行ってきた。現在まで接種を完了した 4患者での臨床経過ならびに各種検査結果から、GVAX接種の安全性が確認され、各症例で腫瘍免疫誘導を示唆する結果が得られ本臨床研究は今後も検討していく価値があるものと判断した。本研究では、GVAX遺伝子治療臨床研究から得られた貴重な結果を新たな治療法開発に発展させることを目的に、基礎研究並びに新たな臨床研究実施への足掛かりを作る。すなわち、本療法の経済性・汎用性を考慮し、次世代のGVAX作製法を検討する。さらに現在のGVAXの臨床的効果をさらに増強させる目的で、GVAXとの相乗効果が期待できる新規免疫遺伝子治療法を開発する。本療法の実用化により、低廉に多数の悪性腫瘍患者に対する治療法が確立される可能性が高く、国民福祉の観点からもその臨床的安全性・有効性の検討は重要と考えられる。
研究方法
1) 遺伝子治療臨床研究参加患者の臨床経過観察:GVAXの作成ならびにその接種を東京大学医科学研究所附属病院で受け生存中の患者3名の臨床経過と免疫学的経過を慎重に追跡するとともに、患者組織標本を免疫学的側面からより詳細かつ体系的に検討した。
2) GM-CSF遺伝子治療との併用が期待される新規免疫遺伝子治療法の検討:
(a) SAGE法で同定されたGM-CSF遺伝子治療との併用が期待される遺伝子の解析:GM-CSF 遺伝子導入抗腫瘍 動物モデルの10日目の腫瘍について、SAGE法による遺伝子解析を行った。
(b) 腫瘍由来熱ショック蛋白質gp96とGM-CSF遺伝子導入細胞併用による治療的抗腫瘍効果の基礎的検討:マウス・マウス肺癌細細胞系を用いて免疫学的検討を行った。
3) GVAX接種を受けた患者血清が認識する腎癌特異的抗原の同定:GVAXを接種後に患者血清中には自己腎癌細胞に対する抗体が出現することを明らかにし、SEREX法を用いて本抗原の同定を行った。
4) 泌尿器癌に対するBCG免疫療法の作用機序解析:膀胱癌に対して臨床的有用性が確立しているBCGにより惹起される抗腫瘍ワクチン効果の機序を解明し他の泌尿器癌に対する免疫療法に応用する目的で、不死化ヒト正常尿路上皮細胞株HU35を用いた分子生物学的各種検査を実施した。
5) 新規分子TWEAKと同レセプターFn14の抗腫瘍免疫誘導機序の検討:新規にヒトTWEAKレセプターとして新たに見いだされたFn14に対するアゴニスティック抗体を作製し、血管内皮細胞や腫瘍細胞におけるFn14の発現と、TWEAK/Fn14の機能についてin vitroで解析した。
6) 抗腫瘍免疫誘導における免疫抑制シグナル分子の関与についての検討:新規抑制補助シグナル分子PD-1リガン(PD-L1)の抗腫瘍免疫誘導への関与を明らかにする目的でin vitroならびにin vivo検討を行った。
7) 悪性腫瘍細胞への新規遺伝子導入法の開発: HIV-1由来の第三世代HIV(VSV)ベクターを改良し、既存のMLV(VSV)ベクターとの比較検討を、現在最も遺伝子導入が困難であるヒト白血病細胞ならびにヒトCD34陽性細胞を対象に実施した。
8) 日本人におけるサイトカイン・サイトカインレセプター遺伝子のSNPs解析:遺伝子治療臨床研究がphaseIIあるいはphaseIIIに進行した場合、治療に最適な患者の選別に役立つ事を期待して正常日本人のSNPs頻度を検索した。
9) 微小転移腎癌の早期診断法の開発:既知癌遺伝子を含む約4,000クローンのcDNAアレイを用いて腎癌細胞株の遺伝子発現と細胞株の生物学的特徴の関連性を検討した。
10) 樹状細胞療法の臨床研究:手術不能の消化器癌(HLA-A2かつMAGE-3を発現、あるいはHLA-A24かつMAGE-1,2 または3を発現)患者に対して、MAGEペプチドパルス樹状細胞療法を実施し、その免疫学的解析を行った。
結果と考察
結果=1) 遺伝子治療臨床研究参加患者の臨床経過観察: 3患者(第2~4症例)には接種中問題となる副作用は出現せず、接種開始よりそれぞれ3年11ヶ月、3年5ヶ月、2年5ヶ月間安定した状態で生存中である。これら患者の末梢血中には自家腎癌細胞に対するCTLが検出され、各症例においてはオリゴクローン性のTリンパ球の増生がGVAX接種後に検出された。なお各患者の末梢血中にはRCRは認められなかった。各患者検体の病理学的解析結果から、本療法による腫瘍特異的免疫誘導がなされたことが証明された。さらに第1例目の剖検腎組織においては自己免疫性腎炎を示唆する所見は認められなかった。
2) GM-CSF遺伝子治療との併用が期待される新規免疫遺伝子治療法の検討:
(a) SAGE法で同定されたGM-CSF遺伝子治療との併用が期待される遺伝子の解析: 特にTARC 産生WEHI-3B細胞はGM-CSF産生 WEHI-3B 細胞とほぼ同様に腫瘍増殖が抑制された。TARC とGM-CSFを共に産生する WEHI-3B細胞はさらに強く増殖が抑制され、腫瘍が消失した。
(b) 蛋白質gp96とGM-CSF遺伝子導入細胞併用による治療的抗腫瘍効果の基礎的検討:LLC由来gp96の母細胞に対する治療的抗腫瘍効果はLLC/GMとの併用によって有意に増強された。ワクチンをうけたマウスの所属リンパ節の総細胞数及びCD11c陽性細胞比率は併用群では著明な増加を認めた。
3) GVAX接種を受けた患者血清が認識する腎癌特異的抗原の同定:患者じん癌SEREXライブラリーより7種類の既知遺伝子が抗原としてクローン化され、少なくとも1抗原において4例中3例で抗体が産生されていた。
4) 泌尿器癌に対するBCG免疫療法の作用機序解析: BCG添加12時間後にTLR-24mRNA発現の増強傾向を認めた。またBCG添加後の培養上清中ではIL-6が添加前の約10倍の濃度で検出された。
5) 新規分子TWEAKと同レセプターFn14の抗腫瘍免疫誘導機序の検討: Fn14を介してTWEAKが血管内皮細胞に炎症性サイトカインの分泌や接着分子の発現を誘導すること、さらに、Fn14は細胞内領域にdeath domainを持たないのにも関わらず、ある種の腫瘍細胞にはアポトーシスやネクローシスシグナルを伝達することを明らかにした。
6) 抗腫瘍免疫誘導における免疫抑制シグナル分子の関与についての検討:IFN-?存在下の培養によりPD-L1発現が誘導され、また、NRS1移植後の腫瘍塊の組織においてPD-L1陽性である癌細胞が多く認められた。また、抗原感作リンパ節DC刺激によるナイーブT細胞の増殖反応およびIFN-γ産生は、抗PD-L1抗体あるいは抗PD-1抗体投与により非常に強く増強された。
7) 悪性腫瘍細胞への新規遺伝子導入法の開発:10種の白血病細胞株ならびに臍帯血由来CD34陽性細胞に対してHIV(VSV)ベクターはMLV(VSV)ベクターに比較して優位に遺伝子導入効率に優れていた。
8) 日本人におけるサイトカイン・サイトカインレセプター遺伝子のSNPs解析: SNPs検索は60個所を検索できるようになった事に加え、未登録SNPsを10個所明らかにした。
9) 微小転移腎癌の早期診断法の開発:62遺伝子によるクラスター化が可能であった。また、転移巣由来株で発現が亢進している遺伝子セットが抽出された。
10) 樹状細胞療法の臨床研究:ワクチン投与に起因するグレード3以上の副作用は全例に認められなかった。画像評価による腫瘍効果判定では3例に腫瘍縮小が認められた。治療開始後、腫瘍マーカーの減少を8例に認め、治療終了後のペプチドに対する特異的CTLの誘導を8例中4例に認めた。
結論
結論と考察=GM-CSF免疫遺伝子治療は実施可能であり、短期的ならびに長期的な安全性も高く、抗腫瘍免疫を患者体内に誘導できた。臨床的効果も低量IL-2の全身療法との併用により得られる可能性が示唆された。今後の臨床展開を考慮した場合に多数患者での実施を必要とするため、GM-CSF遺伝子導入ワクチン細胞の作製効率をほぼ100%にする必要があり、今後はex vivo遺伝子導入において安全性が高いアデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法、GM-CSF高発現同種細胞と自家腫瘍細胞の混合接種法の導入が妥当と考えられた。GM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞ワクチン接種のみでは抗腫瘍効果を十分には期待しにくいことが示唆されたが、本法により腫瘍特異的免疫誘導効果は明らかに認められた。今後本ワクチンの抗腫瘍免疫効果をより増強する方法との併用療法の導入が強く望まれる。その候補として、ケモカイン遺伝子(特にTARC遺伝子)、gp96分子、TWEAK/ Fn14遺伝子が期待される。一方で、腫瘍細胞の免疫寛容化の問題を今後どのように解決していくかが極めて重要であり、PD-L1分子の応用を考えていくことは重要である。さらに今後のトランスレーショナルリサーチ実施上、腫瘍細胞のマイクロアレイ解析ならびに患者SNPs解析情報を駆使した有害事象の予測システムの構築は重要であると考えられた。本研究により得られた以上の重要な研究成果を今後臨床にトランスレーションして、新たな抗腫瘍免疫療法の確立をめざす予定である。

公開日・更新日

公開日
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