Ex.vivo増幅臍帯血幹細胞を用いたトランスレーショナルリサーチ

文献情報

文献番号
200200837A
報告書区分
総括
研究課題名
Ex.vivo増幅臍帯血幹細胞を用いたトランスレーショナルリサーチ
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中畑 龍俊(先端医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 金倉譲(大阪大学大学院医学系研究科分子病態内科)
  • 平家俊男(京都大学大学院医学研究科発達小児科)
  • 前川平(京都大学医学部付属病院輸血部)
  • 伊藤仁也(先端医療センター)
  • 田中宏和(先端医療センター)
  • 村上雅義(先端医療センター)
  • 永井謙一(先端医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
108,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は臍帯血中にある造血幹細胞を造血幹細胞に発現するサイトカインのリセプターからSCF,FL,TPO,IL-6/SIL-6Rを用いて効率よく増幅する方法を開発してきた。
この方法により、増幅される造血幹細胞はこれまでの報告と比較して、より未分化性を保ち、NOD/SCIDマウスへの移植実験から一週間の培養
によりSCIDマウス中で長期にヒト造血細胞を支持できる幹細胞を4.3倍も増幅させることを示してきた。
また臍帯血移植は現在有効な移植方法として確立されてきたが、採取できる細胞数に限りがあるために生着不全が多い、対象患者が制限されるなどの問題点も明らかになってきた。これらの問題点を解決するために体外増幅させた臍帯血幹細胞を移植に用いることが期待されている。
基礎研究で得られた造血幹細胞の増幅技術を臨床に応用するために本研究を開始し、まだ始まったばかりの細胞治療・再生医療の基盤を整備しながら総合的に臨床研究を進めることを目的とし、本研究を進める予定である。
研究方法
I. GTPに準拠した培養法の確立
平成14年7月に薬事法が改正され、細胞治療製剤が定義されるとともにGTPに準拠した製造を義務づけられた。この研究ではより安全な培養を行うため、無血清培養法の開発、培養原材料の検討、効果的な細胞融解法、分離法の検討、閉鎖系培養システムの構築などを開発する。
II. 安全な細胞治療製剤のprocessingのための基盤整備
医薬品GMPにおいては、「薬局等構造設備規則」により製造を行う設備の規定などが詳細に規格化されている。これに対し、生物製剤においては、安全に細胞を加工するためのセルプロセッシングセンターの規格化はまだ行なわれていないのが現状である。本研究においては、科学的な観点からセルプロセッシングセンターでの培養操作に関する研究を行ない、安全な細胞製剤を作成する基準をつくることを目的にハード、ソフトの規格、検証を行なう。
III. 品質管理法・細胞評価系の確立
体外増幅された臍帯血幹細胞の安全性のための品質管理基準を作成するとともに、増幅された臍帯血幹細胞の造血能力を評価することは重要な課題である。我々は、細胞の表面抗原、コロニー形成能、SCIDマウスでの長期造血支持能などを総合的に評価する系を確立し、細菌などの混入を調べる安全性試験とともに効果の評価系システムを構築する。
IV. 新GCPに準拠した臨床プロトコルの作成
細胞治療はオーダーメイド治療が中心となるため、効果および副作用の個体差が大きく、未だその評価を正確に行なう、臨床プロトコルの構築は研究途上であるといえる。これまでの海外での造血幹細胞の臨床研究を効果と安全性の観点から検証することに加え、分担研究で得られた品質管理のデータから安全でEBMを証明しうる臨床プロトコルを作成する。
V. 臍帯血造血幹細胞の自己複製能、分化能の機序の解明
造血幹細胞の性質は自己複性能と分化能の両方を兼ね備えるという特徴を持つ。これらの決定は造血幹細胞を増幅させることにおいては重要な要素である。我々はこれら内的因子である造血幹細胞の分化遺伝子やシグナル伝達機構を解析することにより、造血幹細胞の自己複性能、分化能の機序を解明するとともにこれらを効率よく制御する方法を開発する。
結果と考察
平成14年度の成果としてはI. GTPに準拠した培養法の確立では、各種無血清培地による培養法の検討を行ない、無血清培地でも十分に臍帯血CD34陽性細胞を増幅できることを確認した。また、IL-6とsIL-6Rを融合させたFP-6はそれぞれ単独のサイトカインに比べ、より増幅効率を上げることを証明した。II.安全な細胞治療製剤のprocessingのための基盤整備においては、先端医療センター、京都大学内にセルプロセッシングセンターを完成させたことに加え、安全な細胞を製造するための環境衛生基準書を作成した。
III品質管理法、細胞評価系の確立においては、従来、ヒト造血幹細胞の測定は、NOD/SCIDマウスを用いて行われてきた。このマウスは多くの免疫不全マウスの中でも、ヒト細胞の生着を効率よく許容できるマウスとして広く用いられてきた。一方で、残存するNK細胞活性を中和抗体で阻害する必要性があること、ヒト造血幹細胞よりヒトT細胞の分化が恒常的には確認できないこと等により、ヒト造血幹細胞活性測定の系として改善の余地を残している。このため、NOD/SCIDの残存するNK細胞活性を遺伝的に除去する目的で、NOD/SCIDマウスにcommon g hainの変異を導入し、NOD/SCID/ g nullマウスを作成した。このマウスを使用し、ヒト造血幹細胞の活性測定の系を確立した。このマウスでは従来評価できなかったT cell系のヒト細胞の生着が認められ、移植後の免疫能の評価が可能になった。また、より少量の細胞での生着が確認され、増幅CD34陽性細胞の機能評価が可能になることが示唆された。IVの臨床プロトコルの作成においては、primary endpointを移植後40日での生着の有無と副作用の発現率で評価すること、輸注CD34陽性細胞の目標値を設定することを行なった。V. 臍帯血造血幹細胞の自己複製能、分化能の機序の解明においては、HoxB4やNotchなど既知の内的因子による造血幹細胞の自己複製は、主としてc-Myc、E2F1などの細胞周期制御因子により制御されていることが明らかとなった。一方で、これら内的因子の操作により増幅させた細胞内にはROSの過剰な蓄積が認められた。
結論
本プロジェクト遂行のためには本分担研究で示したような様々な基盤整備が必要であるが、わが国において、不明瞭である細胞治療の整備すべき、具体的内容について、本研究を通じて見えてきた。今年度の成果を活かし、来年度は培養の標準作業手順書の完成、品質管理基準書の完成、臨床プロトコルの完成を目標に臨床研究の準備を完成させる予定である。

公開日・更新日

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