高機能人工心臓システムの臨床応用推進に関する研究

文献情報

文献番号
200200834A
報告書区分
総括
研究課題名
高機能人工心臓システムの臨床応用推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
北村 惣一郎(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 友池仁暢(国立循環器病センター)
  • 高野久輝(国立循環器病センター)
  • 八木原俊克(国立循環器病センター)
  • 妙中義之(国立循環器病センター)
  • 中谷武嗣(国立循環器病センター)
  • 巽英介(国立循環器病センター)
  • 佐瀬一洋(国立循環器病センター)
  • 本間章彦(国立循環器病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
120,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
体外設置型または体内設置型の補助人工心臓および空気駆動方式全人工心臓は、心臓移植までの一時的使用 (ブリッジ) を中心に現在まで5,000例を超える症例に対して臨床応用が行なわれ、欧米では心臓病治療上の重要な手段としてその立場が確立されつつある。しかしながら、感染・血栓症の発生や大型の体外装置に繋がれていることによる活動性の制限により、患者の "Quality of Life" は充分ではない。安全に長期間の使用が保証され、しかも自由な活動が可能で、社会復帰を含めた高い質の生活を提供し得る次世代の高機能人工心臓システムの開発と臨床応用が切望されている。かかるシステムは循環器病治療に究極のオプションを提供し、心臓置換が必要な多くの患者を救命することにより、医学的見地のみならず社会的・経済的にも大きな効果をもたらし得る。次世代の人工心臓システムとして最も有力と考えられているのが電気駆動方式のシステムで、このようなシステムでは電気エネルギーが血液ポンプの駆動力に変換されるが、その最大の特色は全システムの体内埋込みが可能となり得ることである。すなわち、経皮的に電気エネルギーを伝送することにより体内外の直接の連絡を完全に絶つことが可能で、埋込み型人工臓器の最大の合併症である感染症の危険性を大幅に減ずることが期待され、また体外バッテリの装着により患者の自由な身体活動をも実現し得る。本研究は、実用化の目途が立っているシステムを臨床応用に向けた統合的システムとしてさらに開発・改良を行なうことにより、探索的臨床研究を行ない得る段階にまで開発レベルを発展させるとともに、厚生労働省による先駆的治療法としての承認、国立循環器病センター内の倫理委員会の承認を得て、患者および患者家族とのインフォームドコンセントに基づいてPhase Iの臨床応用を行なうことを目的とするものである。また、研究成果の恩恵を患者にできるだけ早期に還元する観点から、本研究による基礎技術から確実に実現が可能と考えられる、現状の国立循環器病センター型補助人工心臓の抗血栓性や操作性を向上させた補助人工心臓システム、補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置、埋め込み型補助人工心臓システムなどの試験的な臨床応用および製品化も目標とする。
研究方法
臨床応用の開始のための方針の検討と決定:3年間の研究により探索的臨床研究の成果を挙げるべく、人工心臓システムの仕様の決定と統合、慢性動物実験とin vitro試験による評価、臨床応用のための体制作りと承認申請、Phase I試験の実施、派生技術の臨床応用、などの基本方針の決定を図った。システム仕様の決定:人工心臓システムの最終的な仕様を決定する。特に、左右の心拍出量および心房圧のバランス制御法に関して、現在使用している左右の心房間シャント法のみでシステム開発を進めて行くのか、検討中の新たな方法を採用して行くのかを決定する。さらに、体内埋め込み用のモータドライブユニット、経皮電力伝送用回路、制御駆動ユニット、経皮光情報伝送用回路、体内バッテリ、などの電子回路の集積化と体内での配置、防水ケース封入法などを決定について検討した。システムの統合:総てのシステムを統合化し体内完全埋め込み用システムの臨床用機器の概要を決定した。慢性動物実験による評価:研究期間中に最低8頭について延べ生存月数24ヵ月 (平均3ヵ
月) を達成すべく慢性動物実験を行った。In vitro耐久性試験:In vitro耐久性試験用の装置を完成させ、試験を開始する。8つのシステムが全く機能不全を呈することなく2年間駆動することが、80% 以上の確実性で 80% 以上の信頼性をもって示すことができるような試験を行う。なお、全ての埋め込み部分は生理食塩液中に浸漬して37±1℃の温度で実験を行った。派生技術の臨床応用の検討:基礎技術から派生する国立循環器病センター型補助人工心臓の抗血栓性や操作性を向上させた補助人工心臓システム、補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置、埋め込み型補助人工心臓システムなどの開発を行い、動物実験やin vitro試験を実施し、充分な成果が得られれば、必要に応じて国立循環器病センター内の倫理委員会などの承認を得て試験的な臨床応用を図り、可能なものから企業との協力により製品化を図った。
結果と考察
体内埋め込み型システムに関しては、アクチュエータの小型化、2つのタイプのアクチュエータ一体型補助人工心臓の作製、体内埋め込み用のモータドライブユニット、経皮電力伝送用回路、制御駆動ユニット、経皮光情報伝送用回路、体内バッテリ、などの電子回路の集積化と体内での配置、防水ケース封入法の決定などを行った。これらのシステムを慢性動物実験での評価を開始し、慢性実験動物の生存例を得ることができた。また、全置換型システムのアクチュエータ血液ポンプユニットの耐久性試験は2年を超えて継続中である。また、研究初年度には派生技術の臨床応用に向けて大きな進歩が見られた。補助心臓装着患者のQOLを向上させる空気圧式小型駆動装置を慢性動物実験などで評価・改良を行うとともに、臨床医を始めとする医療スタッフのニーズや意見を取り入れて臨床応用可能なレベルにまで進歩させ、協力企業から厚生労働省に製造承認申請を提出した。その一方、病院、研究所、運営部が一体となって早期の臨床応用のための準備を進めた。空気圧式小型駆動装置を他大学で心臓移植へのつなぎとして補助人工心臓を装着した患者を空輸するという医療行為についての高度先駆的医療・研究専門委員会、倫理委員会での検討については、一部条件付ではあったが承認を受けることができ、患者の輸送が実現した。山口大学医学部付属病院から国立循環器病センターまで搬送の全所要時間は3時間25分であった。この間にヘリコプター内で2回のバッテリ交換を行い、新型小型駆動装置の駆動の電源供給および駆動に関して問題は認められなかった。乗り換えに関しても救急車およびヘリコプターのいずれの場合にも容易に行えた。また、補助人工心臓用血液ポンプに関しても研究所を中心に開発されたヘパリン化処理法の応用などによる抗血栓性の向上を動物実験で確認しつつあり、この成果も15年度を目処に製造承認の取得、臨床応用に向けて準備を開始している。
研究初年度の平成14年度には、薬事法の改正、医療機器のGCPの検討、医師主導による治験の導入の検討、各省庁などからの早期に製造販売できる医療機器への取り組みの強化など、本研究を取り巻く環境は大きく変わった。また、初年度の成果としての補助人工心臓用小型駆動装置の臨床応用に向けた取り組みの中で高度先駆的医療の試験的臨床応用に伴う賠償・補償責任、企業に作製を依頼せざるを得ない人工臓器の医師主導型の臨床応用に関する薬事関連の課題、などに直面した。これらの問題は、本研究課題ばかりではなく、企業と一体となって進めるトランスレーショナルリサーチ全体にかかわる問題であり、それらを考慮して、円滑、有効、早期に基礎研究の成果を患者治療に反映させるように研究計画を変更した。具体的には、当初の計画通り体内埋め込み型の臨床応用に向けての研究は継続しつつ、予想以上に早く成果が挙がってきている技術の臨床応用に向けての取り組みを強化する。このことにより、トランスレーショナルリサーチの本来の目的である基礎研究が患者治療に恩恵を与えることを早期に実現させる。
結論
電気油圧式体内完全埋め込み型人工心臓システムの改良、動物実験による評価を行い、小型化や集積化などの進歩が見られた。また人工心臓の臨床応用のための体制作りを開始した。派生技術の一つである空気圧式小型駆動装置は慢性動物実験などでの評価・改良を経て、国立循環器病センター内の倫理委員会などの承認の後、患者に応用された。

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