自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200832A
報告書区分
総括
研究課題名
自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
沖田 極(山口大学医学部附属病院病院長、山口大学医学部消化器病態内科学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 坂井田 功(山口大学医学部消化器病態内科学講師)
  • 山崎 隆弘(山口大学医学部附属病院第一内科)
  • 寺井 崇二(山口大学医学部消化器病態内科学助手)
  • 仁科 博史(東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室助教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
54,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎の蔓延とともに近年肝疾患が増加している。それとともに肝不全(肝硬変、肝癌、劇症肝炎)患者が増加している。現在肝不全患者に対しては日本においては生体肝移植が行われているが、手術侵襲の問題、ドナーの問題などまだまだ障害が多い。また今後高齢者を対象とした医療を行うには、より侵襲の少ない移植にかわる次世代の再生医療技術の開発が急務である。最近になり、人剖検例の解析により、骨髄中に存在する細胞が肝細胞へ分化転換していることが報告された。また肝臓は胎児期において2次造血の場であるなど、その骨髄細胞から肝細胞への分化の可塑性は存在すると考える。我々はその機序を解明し、さらに実際に人の治療に応用するために、新たに骨髄細胞から肝細胞への分化転換についてin vivo modelを用い評価した。また分化転換が起こるならば、どのような患者の状態にて起こるかについて解析した。また骨髄細胞の肝細胞への分化に伴う、肝臓再生について評価するとともに骨髄細胞移植に伴う生存率について検討した。さらに効率のよい再生療法を開発するため、骨髄細胞から肝細胞への分化に影響を与える遺伝子群について評価した。一方、再生医療の基盤研究としては肝臓の分化発生機構の理解が非常に重要である。そのために、胎児期に存在する増殖能と分化能を有する肝幹細胞である肝芽細胞を特異的に認識する抗体を得ることと肝芽細胞の増殖に関わる細胞内シグナル伝達系を明らかにすることを目的とし研究を行った。新たに作成した胎児肝特異モノクローナル抗体を用いて骨髄中に存在する肝幹細胞分画について評価した。これらの研究は、今後我々が開発を目指す『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法』の臨床開発、治験において重要な情報になると考える。
研究方法
GFPトランスジェニックマウスより全骨髄細胞を採取する。次に同種同系のC57BL/6のマウスに対して、尾静脈より骨髄細胞を、1×105個ずつ投与する。投与するマウスは、肝障害モデル群(CCl4 0.5 ml/kg、週2回4週間投与し肝硬変状態にしたマウス)と正常モデル群とし、1週間ごとにGFP陽性細胞の存在の有無を肝臓を摘出し検討した。同時にマウス胎児肝を抗原として、胎児肝を含むパラフィン切片の染色を指標にモノクローナル抗体のスクリーニングを行った。スクリーニングについては代表的なシグナル分子を欠損するノックアウトマウスを遺伝子の相同組換えを利用して作出した。その結果作成した肝芽細胞を特異的に認識するLiv2抗体、胎児期の血球細胞を認識するLiv8抗体を用いて骨髄細胞から肝細胞への分化転換の制御機構、また骨髄中に存在する肝幹細胞についてMACSを用いて解析した。さらに骨髄細胞から肝細胞への分化転換の制御機構を明らかにするためDNA-Chipおよび各種増殖因子について解析した。さらに骨髄細胞移植に伴う、肝臓再生能、肝臓の線維化の改善度、生存率について解析した。
結果と考察
1.骨髄細胞からの肝細胞への分化・増殖の評価モデルの開発(骨髄細胞の投与による肝臓再生、また肝臓線維化改善)
Green Fluorescent Protein (GFP)トランスジェニックマウスより骨髄細胞を分離し、四塩化炭素の投与により持続肝障害を誘導した同種同系のマウスに尾静脈より投与し、骨髄細胞の肝細胞への分化を評価するモデルある。この持続肝障害時に、骨髄細胞の肝細胞への肝臓の4分の1を占めるまで投与した骨髄細胞は分化が確認できた。また骨髄細胞投与群では非投与群に比べ、肝臓の再生能の指標として血清アルブミン値の改善、肝線維化の改善を確認した。また生存率も骨髄細胞の投与により有意に改善した。この肝硬変モデルに対して骨髄細胞移植により、投与した骨髄細胞は高率に肝細胞に分化し、分化に伴い肝線維化改善を認め、また肝臓の再生の指標である血清アルブミン値も骨髄細胞群においては有意に改善し、生存率も骨髄細胞投与群において有意に改善していた。これらの結果は、将来骨髄細胞を用いた肝臓再生療法は十分に臨床応用可能な治療法になると考えられた。一方、障害のない正常群に対する骨髄細胞の投与では骨髄細胞の肝臓への定着、肝細胞への分化は認めなかった。この結果は、骨髄細胞を用いた肝臓再生療法を実際の治療に応用していくにはrecipientの状態が極めて重要と考えられた。
2.新規胎児肝特異的モノクローナル抗体
胎児肝領域を特異的に認識する抗体が複数単離された。このうち抗Liv2抗体は肝芽細胞を特異的に認識し、抗Liv8抗体は血球起源の細胞を認識することが明らかとなった。更にこれら抗体をツールにして、肝形成不全ノックアウトマウスの解析を行い、肝芽細胞は二次造血とは独立して発生すること、肝芽細胞の増殖にはSEK1やMKK7などのMAPキナーゼ系の分子が必須の役割を果たしていることが明らかとなった。肝芽細胞特異的抗体や血球起源の細胞を認識するモノクローナル抗体を用いて、発生期の肝幹細胞である肝芽細胞の同定とその分離が可能となり、肝芽細胞の増殖の分子機構が明らかとなった。同様に、再生医療への期待が高まっている骨髄中の肝細胞へ分化誘導可能な細胞の同定や分離、増殖の分子機構の解明に利用できると考えられる。
3.骨髄細胞から肝細胞への分化を制御する遺伝子群の解析
DNA-Chipを用いた解析にて、骨髄細胞投与1日後では、膵発生に関与するHelix-Loop-Helix型転写因子であるParaxisや形態形成に関与するHOX遺伝子の発現増加と眼の形成に関与するEYA群の発現低下などが認められ、免疫染色による検討でもHOX遺伝子やParaxisの発現が認められた。骨髄細胞投与1週間後では、c-kit、FGF6、HNF3Aなどの肝発生に関与する遺伝子群が2倍から7倍程度に増加しており、また転写因子群としてMyoD、MYF6などのHelix-Loop-Helix型転写因子群の発現が変動していた。また細胞の遊走に関与する分子としてmatrix metalloprotease(MMP)の変動が認められた。これらの結果は骨髄細胞の肝細胞への分化過程は、最初は基本的な発生に関与する遺伝子群が変動し次に肝細胞の分化に関与する遺伝子群が変動すると考えられた。また我々が同定し以前より解析していたHHMも変動していた。
4.骨髄中の肝幹細胞の解析
Liv8抗体は骨髄中の血球幹細胞を認識する。Liv8陽性、陰性細胞の移植では、陰性群において高率に肝細胞への分化転換が確認でき、この結果より骨髄中のLiv8陰性細胞群が再生療法に有用な細胞群と考えられた。
結論
今回我々の作成したモデル、また抗体を使った解析により、骨髄細胞投与により肝不全状態の機能が代償され、また有意差を持って肝機能が改善された。また生存率も有意差を持って改善した。一方で正常群においては骨髄細胞の肝臓への定着、肝細胞への分化は認めず、骨髄細胞を用いた肝臓再生には、持続炎症などの刺激が極めて重要と考えられた。この結果は肝芽細胞の増殖にSEK1やMKK7をなどの炎症性のシグナル伝達系が必須であることに一致する。これらの結果より、自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法においては、肝障害が持続的に続く非代償性肝硬変症の状態が適応症になると考えられた。またその分化転換の評価には、今回我々が開発したLiv2抗体などが極めて有用と考えられた。また骨髄中に肝幹細胞群を認識する抗体であるが、Liv8抗体などは、肝細胞に分化しない細胞群を分離する上においては極めて有用な抗体と考えられた。次年度は、臨床応用を念頭にすでに準備を進め、臨床応用を行っていくとともに、さらに今年度の研究を進めるとともに肝臓発生、再生のシステムの比較検討を行い、さらに効率のよい治療法の開発をめざす。

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