冠動脈形成術後再狭窄に対する新規遺伝子治療法[抗MCP-1療法、抗転写因子療法]の基礎研究ならびに臨床研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200831A
報告書区分
総括
研究課題名
冠動脈形成術後再狭窄に対する新規遺伝子治療法[抗MCP-1療法、抗転写因子療法]の基礎研究ならびに臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
江頭 健輔(九州大学医学部附属病院 循環器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 竹下 彰(九州大学医学部附属病院 循環器内科)
  • 居石 克夫(九州大学大学院医学研究院病理病理学)
  • 米満 吉和(九州大学大学院医学研究院病理病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、冠インターベンション後「再狭窄」の新しい遺伝子治療法(抗MCP-1療法、抗転写因子療法)を開発し、臨床研究を目指すことにある。実験動物モデルとして、1)高コレステロール食負荷ウサギならびにサルの頚動脈内膜傷害モデル、2)ステント植え込み後再狭窄ウサギならびにサルモデル、を用いる。さらに、厚生労働省・文部科学省審査委員会の承認を得て、探索的臨床研究を行うことを最終目標とする。
研究方法
研究方法ならびに結果=A. 研究の必要性と目的
動脈硬化を基盤として発生する虚血性心疾患や脳卒中などの虚血性臓器障害の頻度は増加しており(我が国の死因の約4割を占める)、その治療法の確立は高齢化社会を迎えている我が国の医学の最も重要な課題の一つである。動脈硬化による血管内腔狭窄を拡張する経皮的冠動脈形成術の有用性は確立し、世界的に普及している。しかし、拡張した血管内腔が再び狭くなる「再狭窄」が高率(冠動脈では40%)に発生することが医療上だけでなく社会的にも問題となっている。再狭窄率ならびに合併症の発生が高齢者に多いことも深刻な問題である。しかし、現在のところ再狭窄に対する有効な治療法はない。したがって、新規治療法の開発が強く望まれている。
最近、我々は1)変異型monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)がMCP-1受容体のdominant-negative inhibitorとして作用すること、2)その遺伝子導入によって動脈硬化性病変が抑制されること、を明らかにした。また、転写因子NF-kBを阻害するデコイ導入によりNO産生抑制モデルの動脈硬化が抑制されることも明らかにした。これらの結果から、抗MCP-1遺伝子治療あるいは抗転写因子療法が再狭窄の画期的新規治療法となる可能性が示唆された。
本研究の目的は、上記の我々の成果をふまえて再狭窄の新しい遺伝子治療法(抗MCP-1療法、抗転写因子療法)を開発し、臨床研究を目指すことにある。実験動物モデルとして、1)高コレステロール食負荷ウサギならびにサルの頚動脈内膜傷害モデル、2)ステント植え込み後再狭窄ウサギならびにサルモデル、を用いる。さらに、厚生労働省・文部科学省合同審査委員会の承認を得て、臨床研究を行う。
結果と考察
B. 研究方法・計画ならびに研究結果
今年度は3項目のサブテーマについて研究を進めた。平成14年度の目標であったステント拡張術後の実験的再狭窄に対する抗MCP-1療法の研究計画は達成できた。また、抗MCP-1治療の毒性試験にも着手し成果が上がっている。さらに、NF-kBデコイ導入による再狭窄抑制を目指した探索的臨床研究を開始した。
1.再狭窄に対する抗MCP-1遺伝子治療法の開発と臨床応用:
1)前臨床試験:高コレステロール食負荷ウサギならびにサルを用いてステント拡張後再狭窄モデルを作製した。変異型MCP-1(7ND)遺伝子導入による抗MCP-1療法によって、(1)ステント拡張後早期の炎症が抑制される、(2)1ヶ月後の新生内膜形成が抑制される(60-70%抑制)、ことが明かとなった(Hypertension 2003)。
2)探索的臨床研究の申請:上記研究成果に基づいて「再狭窄に対する抗MCP-1遺伝子治療探索的臨床研究」を厚生労働省へ申請した(修正・見直し請求に対する再申請を平成15年4月に提出予定)。
2.抗MCP-1遺伝子治療の毒性試験:
毒性試験は厚生労働省霊長類研究施設あるいは田辺R&Dセンターで実施した(委託)。そこで霊長類(カニクイザル)を用いて急性毒性試験ならびに抗体産生試験を実施した。その結果、急性毒性や抗体産生は認めなかった。
3.NF-kBデコイ導入による再狭窄の抑制に関する基礎研究と探索的臨床研究:
1)基礎研究:NF-kBデコイ導入によるNF-kB活性抑制によって高コレステロール血症ウサギにおけるステント内新生内膜形成が減少することを明らかにしつつある(予備成績)。
2)探索的臨床研究:学内倫理委員会の承諾を得て、平成14年11月、臨床研究「ステント後再狭窄に対するNF-kBデコイを用いた探索的臨床研究」を開始した。
結論
C. 考察ならびに結論
1.今年度の成績から、ウサギならびにサルにおいて再狭窄反応(血管傷害後内膜肥厚)の原因にMCP-1を介する炎症が必須の役割を果たすことが明かとなった。申請者は、従来、ラットやウサギモデルにおいて有効性が示された治療法であっても、ヒトでは再狭窄に対する作用が全く認められないということが殆どであったことから、ヒトに近い霊長類での検討が必要と考え霊長類(サルモデル)での実験を行った。霊長類でMCP-1をターゲットとする治療が再狭窄に対する有用な新規治療になる可能性が初めて示された。
2.変異型MCP-1は生体内には殆ど存在しないので臨床研究を実施する場合には、その急性毒性に加えて抗原性や免疫異常の誘導などが懸念される。この毒性試験の結果、毒性は認められなかったので臨床研究に向けての準備を進めることが出来る。
3.実験的ステント内再狭窄に対するNF-kBデコイ導入の効果を引き続き検討する。探索的臨床研究引き続き継続して実施する。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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