癌治療ペプチドワクチン及びペプチド抗体開発:遺伝子同定から臨床試験まで (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200829A
報告書区分
総括
研究課題名
癌治療ペプチドワクチン及びペプチド抗体開発:遺伝子同定から臨床試験まで (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
伊東 恭悟(久留米大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 正朗(山口大学)
  • 嘉村敏治(久留米大学)
  • 七條茂樹(久留米大学)
  • 藤堂 省(北海道大学)
  • 野口正典(久留米大学)
  • 山名秀明(久留米大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
86,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子同定から臨床試験実施までの一連の探索的臨床研究を通じて、上皮性癌に対する治療用ペプチドワクチン及びペプチド抗体を開発する。基礎研究ではHLA-クラスⅠA及びBアレールに拘束される拒絶抗原遺伝子を新規に50以上、ペプチドでは100以上同定し、さらに抗ペプチド抗体の抗腫瘍性の分子機構解明や単クローン抗体による癌治療動物モデルなどを通して上皮性癌拒絶の分子基盤の全体像を明らかにする。抗ペプチド抗体の前臨床試験を開始する。一方、臨床研究では本研究期間内にHLA-A24及び‐A2癌ペプチドワクチン第Ⅰ相及び早期第Ⅱ相臨床試験を終了させ、企業主導型の医薬品化を目指した臨床試験へ移行させる。この場合、再燃前立腺癌、スキルス胃癌、子宮頸癌を優先させる。
研究方法
基礎研究(伊東、七條研究者):①HLA-クラスI Aアレール (A24, A2, A26, A31) 拘束性CD8+CTL株及びHLA-Bアレール(B46,B52)拘束性CD8+CTL株を癌局所リンパ球より樹立し、それらにより認識される抗原遺伝子とペプチドを同定し癌ペプチドワクチン分子を決定する。これによりペプチドワクチン候補の拡大と充実をはかる。②抗ペプチド抗体(IgG)産生機序や抗腫瘍性での基礎研究、さらにはSART3、Lck、PSMペプチドに対する単クローン抗体をまずマウスにて作製する。また、それらを用いてペプチド抗体の抗腫瘍作用誘導の分子レベル及び動物実験での解析を実施する。臨床研究:①再燃前立腺癌(伊東、野口研究者):新規開発ペプチドを追加した早期第Ⅱ相臨床試験を開始する。②スキルス胃癌および子宮頸癌(藤堂、嘉村研究者):1)現在進行中の早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。③肺癌(山名研究者):第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。④大腸癌(山名研究者):第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。⑤肝臓癌(山名研究者):1)第Ⅰ相臨床試験を実施する。⑥膵癌(岡研究者):第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を実施する。
結果と考察
(結果)平成14年度基礎研究結果:①新規遺伝子を9種類(HLA-A2,-A24,-A26及び-B46が各々2,4,2,1種類)を同定した。それらの遺伝子のコードする新規ペプチド同定は16種類であった。②ペプチドワクチン選択幅を拡大する目的にて主な腫瘍マーカーや癌の標的分子由来ペプチドを同定した(HER2/neuより3ペプチド,CEAより2ペプチド,EGF-Rより3ペプチド,EZH-2より5ペプチド,PSCAより1種類)。更にC型肝炎ウィルス由来CTLエピトープペプチドペプチドを6種類同定した。これらは全て知的所有権申請予定であり、かつそれらの多くは平成15年度開始の新規の早期第Ⅱ相臨床試験(テーラーメイド型)にて臨床使用予定(再燃前立腺癌,スキルス胃癌,子宮頸癌,大腸癌,乳癌,膵癌および肝癌に対して)。③ペプチドに対する単クローン抗体(SART3109,SART3315)産生クローンを樹立した。④SART3分子に対する単クローン抗体の解析により、その診断においては有用であることを示した。
平成14年度臨床試験結果:①テーラーメイド型第Ⅰ相臨床試験を全て終了した(108症例)。②早期第Ⅱ相臨床試験を7種類の癌種にて開始した(52症例)。その結果テーラーメイド型レジメを採用した再燃前立腺癌にて良好な成績が得られつつある(3ヶ月評価でPR2, SD0, PD8例)。更にPDの8例についてもエストラムスチン併用でPR4例が得られた。また免疫モニタリングにはCTLアッセイよりもペプチド抗体測定が優れていることを明らかにした。これらより再燃前立腺癌では医薬品申請を主目的とする後期第Ⅱ相臨床試験可能なレベルに達したと判断される。③一方、有効ペプチドを非テーラーメイド型レジメで投与したスキルス胃癌と子宮頸癌症例では臨床効果の得られなかった(PD0,SD1,PD12例)。
(考察)基礎研究:本年度に同定したペプチド分子の多くは、腫瘍マーカー(CEA,EZH-2,PSCA)や癌の分子標的分子((HER2/neu,EGF-R)由来である。癌患者さらには健康人の末梢T細胞中にこれらのペプチドに反応するキラーT細胞前駆細胞が高頻度に存在することや、血中にIgG抗体が証明できることは全くの新知見であった。上記いずれの5分子も細胞増殖に関与する分子である。また、これまでに我々が同定してきた癌拒絶抗原をコードする新規遺伝子の多くも細胞増殖に関与する分子であった。これらの成績は、発癌防止に免疫系は常に監視機構を保有しており、その研究が発癌に至るというバーネットの免疫監視機構説(immunosurvelance therapy)をペプチドレベルで立証できるものと考えられる。この場合、自己癌に対する免疫応答を上記のペプチドワクチンにより強化することが癌細胞増殖抑制に直結すると推測される。平成15年度開始の第Ⅰ相/第Ⅱ相臨床試験では上記ペプチドをワクチンとして使用するため高い臨床効果が期待される。
臨床研究:平成13年度までの成績を参考にして、平成14年度には5つの癌種に対して2つの異なるレジメをもって第Ⅰ相/第Ⅱ相臨床試験を開始した。即ち、有効ペプチドを4種類1週間毎に2mg投与するレジメ(非テーラーメイド型レジメ)を増殖の比較的早い癌種、かつ比較的若年層の症例が多い3つの癌種(大腸癌,スキルス胃癌,子宮頸癌)に対して採用した。その結果、中間解析ではあるが15症例中PR(0例)という、平成13年度の臨床成績(PRが30例中5例)に比して極めて不良の成績が得られた。有害事象は局所反応が主体であり、またペプチド反応性も細胞性免疫、液性免疫とも大部分の症例(70~80%)において少なくとも1つのペプチドには確認されている。臨床効果が全く得られなかった理由については、まず投与した4つのペプチドのうち1~2ペプチドに対してのみ細胞性免疫が投与前末梢T細胞中に存在するため、抗腫瘍作用誘導が不十分であったことがあげられる。第2の理由として、今回2mg毎投与のレジメが従来の3mgを2週間毎に投与するレジメに比して癌局所への抗腫瘍作用誘導が不十分であったことが想定される。いずれにしても大腸癌とスキルス胃癌では、この非テーラーメイド型レジメによる臨床試験は中断となり、また子宮頸癌においても中断の方向で検討中である。平成15年4月より新規のペプチドを採用してのテーラーメイド型レジメを開始する予定である。一方、増殖の遅い癌種のうち比較的高齢者に多い再燃前立腺癌と肺癌に対して、投与前の末梢血リンパ球や血中でのIgG反応性スクリーニングにて選定された4つのペプチドを3mg隔週投与というレジメ(テーラーメイド型レジメ)を採用した。その結果、中間解析である再燃前立腺癌でPR(2例)、SD(0例)、PD(8例:この8例も低容量エストラムスチン併用にて4例がPR)という目標にほぼ近い臨床効果が得られた。また有害事象は局所反応主体であり、ペプチドの免疫反応も大部分(80~50%)の症例にて投与ペプチドの殆どに対して誘導された。以上の成績から、平成15年度からは新規のペプチドを増加し(17種類→24種類)、更に高い臨床効果かつ長い持続期間の成績を目標として第Ⅰ相/早期第Ⅱ相臨床試験を開始する予定である。高度進行肺癌に対する臨床試験では、その途中にてイレッサという新規の薬剤が承認されたためペプチド投与を中断しそちらへ移行する症例が増加した為、臨床試験を中断せざるをえない状況になりつつある。従って、平成14年度中に中断し、平成15年度からはイレッサを含む全ての治療法に抵抗性の症例を対象として臨床試験を開始予定である。
結論
基礎研究:①ワクチン候補ペプチドをコードする新規遺伝子9種類をクローニングし、新規ペプチド同定は32種類に及んだ。これらのうち15種類は平成15年度開始の早期第Ⅱ相臨床試験にて臨床使用の予定である。②C型肝炎ウィルス(HCV)由来のワクチン候補ペプチドを6種類同定し、平成15年度の臨床試験開始に備えた。③ペプチドに対する単クローン抗体産生株を樹立した。
臨床研究:①テーラーメイドペプチドワクチン第Ⅰ相臨床試験を終了した(108症例)。②臨床効果(PR, partial response)の得られた再燃前立腺癌、スキルス胃癌および子宮頸癌にて早期第Ⅱ相臨床試験を開始した。これまでに52症例が登録された。③“②"の中間解析にて再燃前立腺癌において良好な臨床成果が得られつつあり、平成15年度では症例数増加やペプチド追加により更なる確認を得る予定である。

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