虚血性疾患に関する血管内皮前駆細胞移植の基礎・臨床研究

文献情報

文献番号
200200828A
報告書区分
総括
研究課題名
虚血性疾患に関する血管内皮前駆細胞移植の基礎・臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
浅原 孝之(財団法人 先端医療振興財団)
研究分担者(所属機関)
  • 永井謙一(神戸市立中央市民病院)
  • 増田治史(東海大学再生医学センター)
  • 村澤聡(財団法人 先端医療振興財団)
  • 西村浩美(財団法人 先端医療振興財団)
  • 西川光郎(キリンビール株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 基礎研究成果の臨床応用推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
67,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性虚血性心疾患患者および下肢閉塞性動脈硬化症患者に対する血管再生療法として、自己血液から採取した血管内皮前駆細胞(EPC)移植治療法の開発を進め,臨床的優位性を確立する。本年度の目的としては特殊診断治療カテーテルを用いた細胞移植法に関する基礎研究、各種増殖因子を投与した場合のEPCの生体内増幅・採取技術の開発、各種増殖因子を用いてEPCの生体外増幅研究、化学製剤であるスタチン製剤で生体内増幅をはかり、臨床的にEPCを活用する方法の検討、細胞移植方法の改善とその評価方法の確立を目指し、臨床研究の体制を確立し、前臨床研究を実際の臨床研究に結びつけることとした。
研究方法
まず西川らは、G-CSF動員末梢血中に循環血管内皮前駆細胞と考えられるCD34+AC133+KDR+細胞が存在することを確認するためのG-CSFの動員により、血管再生能力のある血管内皮前駆細胞を得られることを検証する実験を行った。G-CSFにより動員した後に得られた末梢血CD34+細胞を用い、表面抗原をFACSにより解析した。
西村らは、特殊診断治療カテーテルを用いた細胞移植法に関する基礎研究として、カテーテルの位置、接触組織の生体反応と壁運動をセンサーで同定し、実際の虚血部位を診断する装置(NOGA system)を豚の心筋梗塞モデルに用いた。血管内皮前駆細胞は、心筋梗塞病巣が確立後4週目に、自己血液から採取され、病巣に移植され、4週間後に機能検査・組織検査など施行された。
村澤らは、スタチン製剤によるEPCの生体内増殖についてはG-CSFがEPCを動員することが明らかになっているが、スタチン製剤が同様に有効かどうかについて検討した。スタチン製剤を投与したマウスを用いてEPCによる血管新生を角膜モデルで検討する。体外培養されたヒトEPCをスタチン製剤で刺激し、EPCの増殖、移動を確認する。
増田らは、自己血由来EPCの採取における患者負担の軽減と高齢患者での効果を期待して、VEGF遺伝子を導入した強化EPC移植による血管再生療法の有効性も実験した。ex vivo にてEPCを培養し、7日目にアデノウイルスベクターによりVEGF遺伝子を培養EPCに導入した。in vivo において重症下肢虚血モデルをマウスにおいて作製し、同日、VEGF遺伝子導入EPCを尾静脈より移植(1.5x 104/mouse)した。経日的にLaser Dopplerによる血流測定(LD)、肉眼的下肢機能評価、組織学的評価を行った。
結果と考察
G-CSFにより動員した後に得られた末梢血CD34+細胞のFACS解析により、血管内皮前駆細胞と考えられているCD34+AC133+KDR+細胞の存在を認め、その存在比率は総CD34+細胞のうち、0.6%であった。この結果より、G-CSFで動員される末梢血CD34+細胞に血管内皮前駆細胞の存在が示唆された。G-CSFの動員により、血管再構築能を有する細胞が大量に得られる可能性を示したと考えられ、実際の血管再生医療を目指す上で、その足がかりになると思われる
カテーテル動物実験の結果では、安全に細胞は心筋に移植され、虚血心筋内の血管形成は著明に促進された。虚血心臓の機能回復も細胞治療を受けた群だけが著明に改善を遂げた。心筋虚血改善に必要なEPC投与数に関する検討課題については200mlの末梢血から得られるCD31陽性単核球成分100万個を心内膜から投与することで、梗塞範囲縮小、毛細血管密度増加、左室壁運動改善が得られた。この結果、G-CSFでEPCの動員をはかり、上記診断治療カテーテルによる細胞移植と組み合わせ、精密で効果的な治療効果を得る技術の確立出来るめどがたったと考えられる。
スタチン製剤を使用した場合、投与したマウスにおいてコントロール群に比べ角膜のEPCによる血管新生が明らかに亢進していた。またin vitroの実験の結果、スタチン製剤はEPCの増殖、および移動を亢進させた。この結果、スタチン製剤がEPCの動員に関与することが明らかになった。虚血性疾患患者は背景に高コレステロール血症を合併していることが多くすでに同薬剤が投与されている場合が多いが、EPCによる細胞治療の際により良い効果を発揮する可能性が示唆される。
VEGF遺伝子を導入した強化EPC移植による血管再生療法の有効性を検証する実験では、細胞移植後、4週間後のLDによる評価において、非遺伝子導入EPC、コントロール遺伝子導入EPC移植群に比較し、VEGF遺伝子導入EPC移植群は、有意に約2倍の血流改善が認められた。肉眼的下肢salvage評価において、VEGF遺伝子導入EPC移植群では、約60%認められたのに対し、非遺伝子導入EPC、コントロール遺伝子導入EPC移植群では、全く認められなかった。以上によりVEGF遺伝子をEPCに導入することにより、治療に用いる移植EPC数を非遺伝子導入EPCの約3%において有効性が示された。これは、機能強化EPC移植療法により患者の自己血由来EPCの採取において、患者負担を軽減させる意義があるものと考えられる。
結論
G-CSFの動員により、血管再生能力のある血管内皮前駆細胞を得られることを検証する実験においてはG-CSFによる動員末梢血CD34+細胞中に血管内皮前駆細胞の存在が示唆された。特殊診断治療カテーテルを用いた細胞移植法に関する基礎研究ではカテーテルによる心筋虚血部位への細胞移植方法は、安全かつ効果的に治療出来ることが判明した。豚狭心症モデルにおいて自己末梢血より得られたEPCを心内膜から経カテーテル的に虚血部に局所投与することで、血管新生・血管発生が促進され、心機能は有意に改善する。この結果は今日までマウスやラット等の小動物で確認されて来たEPCの虚血性心疾患治療への有効性を、大動物でも実証するものであり、臨床応用への橋渡し的役割を果たした。臨床治療に必要なEPCの数を効率良く採取することが必須となってくるが、G-CSF以外にも、スタチン製剤がEPCの動員に関与することが明らかになった。機能強化EPC移植療法については虚血性疾患に対する遺伝子導入/機能強化EPCによる血管新生療法の有効性、患者負担軽減における意義が示された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-