アトピー性皮膚炎の病因病態の解明及び新治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200200826A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎の病因病態の解明及び新治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 清(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科環境皮膚免疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 玉置邦彦(東京大学)
  • 烏山一(東京医科歯科大学)
  • 眞弓光文(福井医科大学)
  • 瀧川雅浩(浜松医科大学)
  • 片山一朗(長崎大学)
  • 相馬良直(聖マリアンナ医科大学)
  • 古賀哲也(九州大学)
  • 塩原哲夫(杏林大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー性皮膚炎の病態として、皮膚バリア機能異常による皮膚の易刺激性にもとづく非特異的炎症と、IgEの過剰産生にもとづくアレルギー炎症の2側面が指摘されている。皮膚バリア機能異常に対して、種々のスキンケア製剤が臨床の場に導入され、アトピー性皮膚炎発症の予防、治療に供されている。一方、IgEによるアレルギー炎症は、本症患者の難治化に重要な役割を果たしていることから、IgEが関与する炎症反応に対する新しい治療法の開発が急務となっている。本研究班では、患者数の増加を示し、難治化傾向を示すアトピー性皮膚炎の新しい治療法を開発するために活動し、すでに、アトピー性皮膚炎の病因・病態の解析において多くの知見を得ており、また、それらの知見をもとにした新しい治療法開発の標的を明らかにしてきた。本年度は、それら知見のさらなる集積と治療法開発を行った。
研究方法
1) アトピー性皮膚炎の炎症機構の解析
アトピー性皮膚炎の炎症局所では、急性期はTh2細胞が、また、慢性期にはTh1細胞が浸潤するが、そのメカニズムは明らかとなっていない。T細胞が皮膚に浸潤するためには、CLA分子を発現し、内皮細胞表面のEセレクチンと反応し、ケモカインの作用によって選択的に皮膚に遊走し、皮膚に症状を生じると考えられている。そのうちEセレクチンがCLA陽性T細胞と結合する分子について、塩原班員は、CLAはEセレクチンリガンド(ESL)とは異なる分子であるが、ともにFucosyl transferaseⅦ(FucTVII)によって付加される糖鎖構造を持つ分子であることを明らかにし、その糖鎖構造の検出法を開発している。ヒト末梢血からのナイーブT細胞はIL2とCD3抗体で刺激し、さらに、IL2あるいはIL4を添加して培養することによって、Th1、Th2が誘導される。そこで、誘導されたT細胞に発現されるESL、ケモカイン受容体CCR4の動態を観察し、アトピー性皮膚炎での浸潤細胞の動きと比較検討した。その結果、浸潤するT細胞は局所のサイトカイン環境により発現されるT細胞上のESLとCCR4の組み合わせによって最も必要とされる時期に皮膚に浸潤することが明らかになった。アトピー性皮膚炎では、末梢血中にESL+CCR4+のTh2細胞が増加しているが、これは皮膚にTh2細胞が十分に浸潤しているためであり、これら末梢血Th2細胞は皮膚にTh1細胞が浸潤しているときにはじめて浸潤できるというバランスが存在するが、アトピー性皮膚炎でそのバランスに障害が起こっていることを明らかにした。この成果は、アトピー性皮膚炎の炎症局所での浸潤細胞のスイッチングの説明を可能とするものであり、アトピー性皮膚炎での細胞浸潤の制御機構を検討することによって新しい治療法開発の可能性を示唆するものである。
相馬班員は、アトピー性皮膚炎の炎症局所にオリゴクローナルなT細胞が浸潤することを明らかにしており、この現象をさらに明らかにするため、アトピー性皮膚炎モデル動物であるNC/Ngaマウスをダニ抗原で経皮感作し、皮膚ならびに脾臓でのT細胞クローンの解析を行っている。その結果、皮膚と脾臓に同一のT細胞受容体を持つクローンが検出されることを示し、アトピー性皮膚炎での抗原ペプチド療法のモデルとなる可能性を明らかにし、抗原ペプチド療法の動物実験の準備を整えている。
烏山班員は、IgE抗体遺伝子導入マウスを作成して、IgE抗体が関与する炎症反応の検討を行い、すでに、IgE抗体を介する炎症反応に、IgEの高親和性受容体のα鎖が重要な役割を果たしていることを示し、α鎖発現調節が治療薬開発の標的になることを示唆している。さらに、遺伝子導入マウスに抗原投与によって惹起される皮膚反応が、これまでに見つかっていた皮膚反応に加えて、長期にわたって炎症反応が持続する第3相反応が出現することを発見した。この反応は、正常マウスにIgE抗体を投与し、抗原で惹起しても出現する皮膚反応であり、肥満細胞欠損マウス、T・B細胞欠損マウスでも出現することから、肥満細胞以外のIgEの結合能力をもつ細胞が重要な役割を果たしていることを明らかにした。この反応は、抗ヒスタミン薬では抑制されないが、ステロイドとシクロスポリンによって抑制された。今後、第3相反応の責任細胞を明らかにすることによって新しい治療法を開発する可能性を示唆する知見であり、アトピー性皮膚炎の難治化との関係で興味あるものである。
片山班員は、神経ペプチドのアトピー性皮膚炎の炎症反応への関与を解析し、新しい治療法を開発することを目的として研究を行っている。アトピー性皮膚炎の痒みの主役を担うヒスタミン、サブスタンスPと好酸球浸潤との関連を検討した結果、好酸球浸潤に重要な役割を果たすエオタキシンが皮膚線維芽細胞により産出されていることを明らかにした。アトピー性皮膚炎の皮膚線維芽細胞は、IL4とヒスタミンあるいはサブスタンスPの刺激によって、培養条件下で強いエオタキシン産生を示し、長期の継代後もその形質を持続することを明らかにした。そこで、エオタキシン産生刺激となるIL4のシグナル伝達系を検討したところ、STAT6のリン酸化はみられたものの、ヒスタミン、サブスタンスP添加によってSTAT6、NFκBの活性化の増強が見られなかったことから、これらのシグナル伝達分子とは別のシグナル伝達系が関与していることを明らかにしている。今後、シグナル伝達分子の解析を行い、そのシグナル伝達分子を標的とした治療薬開発が期待される。
真弓班員は、アトピー性皮膚炎への酸化ストレスの関与を検討し、アトピー性皮膚炎の急性増悪において酸化ストレスが関与していることを明らかにしている。本年度は、急性増悪因子として伝染性膿痂疹を選び、膿痂疹合併時での酸化ストレスの関与を検討した。小児アトピー性皮膚炎患者では膿痂疹合併後に尿中8-HdGとacroleinが増加し、症状の改善とともに減少し、抗酸化酵素であるhemeoxydase活性が上昇することを示した。また、培養人皮膚微小循環血管内皮細胞の接着分子発現はTNFαにより増強するが、NO放出薬剤(spermine NONO)、抗酸化剤(PDTC)によって抑制されることを明らかにした。この知見はレドックス制御薬剤によるアトピー性皮膚炎治療の可能性を示唆するものである。また、真弓班員は既発表論文から本症の発症危険因子についてメタ解析を行い、本症発症の危険因子としてアトピー性疾患の家族歴が重要であることを明らかにしている。
2)アトピー性皮膚炎の免疫反応調節による治療法の開発
アトピー性皮膚炎がTh2細胞による炎症反応であることから、Th2からTh1への偏移が治療法開発の標的となる。この偏移に樹状細胞の役割が注目されている。滝川班員は、本症患者末梢血の樹状細胞(DC)のDC1/DC2比と患者の病状を比較し、本症患者ではDC1/DC2比の低下を認め、この値は患者の血清総IgE値、SCORAD値と負の相関を示し、血中Th1/Th2比と正の相関を示すことを明らかにしている。
玉置班員は、皮膚樹状細胞であるランゲルハンス細胞(LC)の機能調節により、アトピー性皮膚炎の免疫反応をTh2からTh1に偏移して治療を行うことを目的として検討している。GMCSFは、Th1反応に偏移させるサイトカインであるIL12のLCからの産生を低下させ、TGF-βがそれを増強することをすでに見出しており、サイトカインによるアトピー性皮膚炎の免疫反応の操作が可能であることを示唆している。この機序をさらに検討するため、TGF-βで処理したLCに抗原ペプチドをパルスしてT細胞と培養し、この培養環境に種々のサイトカインを添加したところ、TGF-β処理したLCによってTh1細胞が誘導できることが可能となった。そこで、マウスの足底にLCを投与してin vivoでのTh1細胞の誘導を試みたが、十分な誘導は見られなかった。LC注射部位からリンパ組織への遊走が不十分であった可能性が示唆されており、今後、LCの遊走促進方法の開発が必要であるが、サイトカインを用いてLC機能を調節する治療法の開発が期待される。
3)アトピー性皮膚炎治療薬の開発
当研究班ではこれまで難治性アトピー性皮膚炎の治療薬の開発を行っている。古賀班員は、当研究班で開発を進めている抗酸化薬CX-659Sがアレルギー性接触皮膚炎を抑制することから、CX-659Sの薬理作用を検討している。CX-659Sは、表皮細胞からのGMCSF産生を抑制して炎症反応を抑制していることを明らかにし、CX-659Sが表皮細胞のMEK1/1-Erk1/2経路を阻害してGMCSFの産生を抑制していることを示した。この薬剤は臨床応用可能なものとなりつつある。
西岡班員は、アトピー性皮膚炎難治化にIgEを介するアレルギー炎症が大きく関与していることに着目し、本症でのTh2型反応の主役を担うIL4-IL4Rシグナル伝達系を標的として治療薬の開発を行っている。IL4のシグナル伝達因子であるSTAT6のおとり核酸(decoy)製剤を調整し、アトピー性皮膚炎モデルであるIgE受動転嫁による遅発型反応を抑制することを明らかにし、さらに、ハプテン繰り返し塗布によるTh2型皮膚反応に対してSTAT6おとり核酸製剤の効果を検討したところ、STAT6おとり核酸製剤がTh2型皮膚反応も抑制することが明らかとなった。この核酸製剤は、皮膚反応発症において、肥満細胞の脱顆粒現象の抑制と局所のIL4陽性細胞の減少に作用していることが明らかになり、今後も引き続いて、新しい治療薬としての開発を行う必要がある。
結果と考察
本研究班では、難治化するアトピー性皮膚炎の病因・病態の解析とその解析結果に基づく新しい治療薬の開発を目的として検討を行い、本症の皮膚反応において、①皮膚にホーミングするための分子がFucosyl transferseVIIによって発現されて糖鎖構造を付加された新たな分子であること、Th1、Th2細胞が皮膚に浸潤するためには皮膚でのサイトカイン環境が大きく影響してバランスを保っているが、アトピー性皮膚炎ではそのバランスの障害がおこっていること、②炎症皮膚に抗原特異的オリゴクローナルなT細胞が浸潤することから抗原ペプチド療法の可能性があり、そのためのモデル系を作成したこと、③アトピー性皮膚炎の難治化に関与すると考えられるIgEを介する新しい皮膚反応、第3相反応を発見し、この反応を担う細胞の同定により治療薬開発の標的となること、④神経ペプチドによるエオアキシン産生亢進の責任シグナル伝達分子を標的とする治療薬開発の可能性を明らかにしたこと、⑤アトピー性皮膚炎で酸化ストレスが作用し、抗酸化薬の開発が必要であることを明らかにした。これらの成果は本症での病態を理解する上で重要であるだけでなく、将来の治療薬開発の標的を明らかにしたものとして価値ある知見である。
本症のTh2型反応をTh1型反応に偏移させるため、樹状細胞の機能調節を行い治療法の開発を試みた。⑥本症患者で、血中樹状細胞がTh2反応を促進するDC2優位となっていること、⑦ランゲルハンス細胞がGMCSFによりLC2に、TGF-βによりLC1に機能偏移してT細胞を刺激することを明らかにし、サイトカインによる免疫反応調節による治療法の可能性が示したことは価値ある成果と考えられる。さらに、本研究班では2つの新しい治療薬の開発をおこなっている。すなわち、⑧抗酸化薬のCX-659Sと、⑨STAT6おとり核酸製剤である。前者はアレルギー性接触皮膚炎とハプテン繰り返し塗布によるアトピー性皮膚炎モデル炎症を抑制すること、後者はIgE受動転嫁によるアレルギー炎症とハプテン繰り返し塗布による炎症反応を抑制することが明らかとなっており、また、その薬理作用が明らかにされてきている。どちらの製剤も近未来の治療薬としての可能性をもつものであり、当研究班の価値ある成果といえる。今後も引き続き開発を進め、アトピー性皮膚炎の新しい治療薬となるための検討を続ける予定である。
結論
本研究班では、難治化するアトピー性皮膚炎の病因・病態の解析とその解析結果に基づく新しい治療薬の開発を目的として検討を行い、本症の皮膚反応において、①皮膚にホーミングするための分子がFucosyl transferseVIIによって発現されて糖鎖構造を付加された新たな分子であること、Th1、Th2細胞が皮膚に浸潤するためには皮膚でのサイトカイン環境が大きく影響してバランスを保っているが、アトピー性皮膚炎ではそのバランスの障害がおこっていること、②炎症皮膚に抗原特異的オリゴクローナルなT細胞が浸潤することから抗原ペプチド療法の可能性があり、そのためのモデル系を作成したこと、③アトピー性皮膚炎の難治化に関与すると考えられるIgEを介する新しい皮膚反応、第3相反応を発見し、この反応を担う細胞の同定により治療薬開発の標的となること、④神経ペプチドによるエオアキシン産生亢進の責任シグナル伝達分子を標的とする治療薬開発の可能性を明らかにしたこと、⑤アトピー性皮膚炎で酸化ストレスが作用し、抗酸化薬の開発が必要であることを明らかにした。これらの成果は本症での病態を理解する上で重要であるだけでなく、将来の治療薬開発の標的を明らかにしたものとして価値ある知見である。
本症のTh2型反応をTh1型反応に偏移させるため、樹状細胞の機能調節を行い治療法の開発を試みた。⑥本症患者で、血中樹状細胞がTh2反応を促進するDC2優位となっていること、⑦ランゲルハンス細胞がGMCSFによりLC2に、TGF-βによりLC1に機能偏移してT細胞を刺激することを明らかにし、サイトカインによる免疫反応調節による治療法の可能性が示したことは価値ある成果と考えられる。さらに、本研究班では2つの新しい治療薬の開発をおこなっている。すなわち、⑧抗酸化薬のCX-659Sと、⑨STAT6おとり核酸製剤である。前者はアレルギー性接触皮膚炎とハプテン繰り返し塗布によるアトピー性皮膚炎モデル炎症を抑制すること、後者はIgE受動転嫁によるアレルギー炎症とハプテン繰り返し塗布による炎症反応を抑制することが明らかとなっており、また、その薬理作用が明らかにされてきている。どちらの製剤も近未来の治療薬としての可能性をもつものであり、当研究班の価値ある成果といえる。今後も引き続き開発を進め、アトピー性皮膚炎の新しい治療薬となるための検討を続ける予定である。

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