気管支喘息の難治化の病態・機序の解明と難治化の予防・治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200825A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息の難治化の病態・機序の解明と難治化の予防・治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
森 晶夫(国立相模原病院臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 清(国立療養所南岡山病院)
  • 庄司俊輔(国立療養所南福岡病院)
  • 相沢久道(久留米大学医学部第一内科)
  • 柳原行義(国立相模原病院)
  • 赤坂 徹(国立療養所八戸病院)
  • 藤沢隆夫(国立療養所三重病院)
  • 大田 健(帝京大学医学部内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
56,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中等症ないし重症の喘息患者に対する治療効果は、未だ満足な水準に達していない。喘息難治化の病態・発症機序の解明、有効な治療法・予防法の開発は、喘息分野に残された最大の課題である。喘息の重症・難治化プロセスには、1)喘息自体の重症化、2)合併症、増悪因子の関与が指摘されている。1)の要因としては、a)より高度な炎症の持続、b)炎症に引き続く組織学的・機能的改変(リモデリング)があり、その結果として臨床的なステロイド低応答性がもたらされるものと考えられる。1、2年目の研究成果として、a)の観点からは、T・B細胞の細胞性免疫異常機転に関する研究を森、柳原が行い、IL-5、IL-13産生異常、IL-13遺伝子多型と重症喘息との関連が指摘されたので、本年度はこれらの免疫応答のターゲットとなる抗原の診断法を検討した。また、気道におけるIL-13の生理作用につき解析した。相沢らはIL-13の気道炎症、過敏性におけるin vivoの役割について解析した。高橋らは、起因抗原と免疫応答の解析から、ダニおよびカンジダアレルゲンの関与を明らかにし、難治性喘息がリンパ球活性化のレベルで2型に分けられることを見出したので、本年度はアポトーシス関連分子と難治化につき解析した。藤沢らは、in vivoのオリエンテーションを再現した好酸球動態解析システムを確立し、重症喘息のホールマークである好酸球浸潤機構を新たな観点から解析した。b)の観点からは、庄司らは気道リモデリングに関与する線維芽細胞、平滑筋細胞に対するcollagenサブタイプの役割の差異を見いだしたが、さらに血管新生、内皮細胞につき解析した。大田らは、約10種の喘息候補遺伝子について寛解との関連を明らかにしたので、さらに過敏性、難治化につき解析した。赤坂、藤沢らは、小児喘息における難治性を規定する要因を解明するため、頻回、長期、反復入院児に関する調査を行った。
研究方法
1)森(主任研究者)らは今日の難治性喘息臨床像を把握する目的で、研究班員の施設を中心に症例調査を実施した。また、2)気道炎症に必須のサイトカインIL-5の産生を指標とする遅発型喘息反応誘導抗原診断法を樹立し、Tリンパ球機能異常と喘息の関連につき解析した。
3)柳原(国立相模原病院)らは、血清中の可溶性IL-4受容体α鎖(sIL-4Rα)、T細胞のIL-4、IL-13産生能およびIL-13遺伝子プロモーター領域の-1112C/T多型が、難治化に関連する因子であることを明らかにしたので、特にIL-13の気管支平滑筋に対する作用を解析した。加えて、T細胞のgalectin-9産生を解析した。
4)相沢(久留米大学)らは、リコンビナントIL-13をマウスに気管内投与し、気道過敏性、炎症細胞浸潤、病理組織を解析した。また、難治化の観点から、デキサメサゾンの抑制効果につき検討した。
5)藤沢(国療三重病院)らは、好酸球組織浸潤をin vivoを反映した状態で再現しうる三次元培養気道上皮を用いたモデルシステムを構築し、古典的メディエータのヒスタミンの好酸球活性化における役割を解析した。
6)庄司(国療南福岡病院)らは、組織リモデリングに関して、肺血管内皮細胞、平滑筋細胞の培養上清中に存在する気管支平滑筋細胞遊走活性につき解析した。
7)高橋(国療南岡山病院)らは、末梢血単核球をダニ、カンジダ、アスペルギルス抗原と培養し、propidium iodide取り込みによりFACSCaliburにて細胞周期を解析した。同時に、培養上清のサイトカイン、ケモカインを測定した。
8)大田(帝京大学内科)らは、成人喘息症例、成人の小児喘息寛解症例、小児喘息症例、成人難治性喘息症例、健常人を対象に、単核球分画よリDNAを採取し、アレルギー反応の面からFc_RI遺伝子の多型、気道炎症の側面からトロンボキサン合成酵素遺伝子(TXAS)の多型、ケモカイン受容体としてCCR3およぴCCR4各遺伝子の多型、気道過敏性の面からムスカリンおよぴヒスタミン受容体遺伝子の多型を検討した。
9)赤坂(国療盛岡病院)らは、国立医療機関を対象に、最近3年間に3回以上反復入院した反復群、1年以上の長期入院した長期群を対象に、小児気管支喘息の難治化の病態・要因を解析した。
結果と考察
1)難治性喘息の症例調査から、発症から難治化にいたる期間が1~2年以内と短期間のグループと10年以上の長期間のグループとの2群に大別されることが明らかになった。長期間持続した炎症の結果としてのリモデリングによる難治化以外に、そもそも発症した時点で異なる要因が存在する可能性がある。
2)また、難治性喘息の大部分は非アトピー型に分類されることがわかったが、T細胞IL-5産生を指標にすることで、非IgE依存性喘息反応の原因抗原がin vitroで診断しうることを明らかにした。非アトピー型喘息症例においても、アトピー型喘息と同様に、末梢血CD4+ T細胞のIL-5産生が健常者に比べて高値であった。アトピー型喘息では、ダニアレルゲンに反応してIL-5産生がみられるが、非アトピー型喘息症例においても、ダニ、カンジダアレルゲンに反応して、末梢血リンパ球のIL-5産生がみられる症例が存在した。これらの症例では、アレルゲンの吸入負荷に反応して、即時型反応を欠く遅発型喘息反応が観察された。IgE抗体の関与は、RAST、ヒスタミン遊離反応、皮内反応が陰性であることから、否定された。
3)気道平滑筋細胞をIL-13で刺激すると、IL-4刺激と同様、LT1R 発現が増強され、LTD4による細胞内Ca2+の上昇が促進された。また、喘息の病型を問わず、galectin-9 mRNA発現が健常者に比べて強く誘導され、galectin-9が喘息の病態形成に関与していると考えられた。
4)IL-13を単独でマウス気道に投与すると、用量依存性に気道過敏性を亢進させ、気道上皮の杯細胞化生、気道の好酸球の増多、エオタキシンの増加、MUC5ACの過剰発現を引き起こした。デキサメサゾンはエオタキシンの発現と好酸球増加を完全に抑制したが、気道過敏性とMUC5ACの過剰発現には影響しなかった。TNF-αの同時投与はIL-13による気道への好酸球浸潤を著明に増強したが、気道過敏性へは影響を与えなかった。
5)好酸球がH4受容体を発現すること、ヒスタミンがH4受容体を介してGi依存性に好酸球の遊走を引き起こすことを明らかにした。マスト細胞を中心とする即時型アレルギー反応系と好酸球とのクロストークを示唆する。
6)血管内皮細胞が気管支平滑筋に対する遊走因子を放出することが明らかになった。気管支平滑筋細胞が、傷害あるいは炎症により活性化された血管内皮細胞により、また、自分自身からの遊走因子によって、結合織中に遊走(移動)する可能性を示唆する。
7)難治性喘息は、リンパ球の活性化を認める症例と活性化が低い2群に大別されると考えられた。気管支喘息群では、健常群に比しダニ、カンジダに対するリンパ球の活性化亢進を認め、難治性喘息で一層の亢進を認めた。抗原刺激された単核球上清中のTARC及びMDC濃度は、軽症例で高値を示し重症例とくに難治性症例では低値であった。γδT細胞の多いmice喘息モデルではAHR、好酸球数、IL-5、IL-10は有意に低下し、anti-TCR-δの投与でAHRが有意に上昇した。
8)成人難治性喘息ではエオタキシンおよびTARCの血漿中濃度が他の群と比較して有意に高く気道炎症の状態を反映していると考えられた。SNIPの頻度には各群で差異がなかった。Fc_RI鎖遺伝子、トロンボキサン合成酵素の遺伝子多型については、寛解を予測する因子となりえる可能性が考えられた。
9)入院反復群と、長期入院群の2群間の比較において、反復群は年少児に多かったが、発症年齢と増悪年齢が低く、感染症が悪化要因とされた。長期群は学童期に多く、心理的ストレスや家族関係に問題が多く、血清IgE値が高かった。小児期に発症した喘息の難治化には、年少児で感染症により悪化するものと、年長児で心因が関与するものがあり、それぞれの対応策が必要となる。心理的ストレスの頻度はそれぞれ19.2%、48.1%、家族関係の問題は23.1%、51.9%であり、長期群に有意に多かった。血清総IgE値は初診時に長期群に高く、増悪時には長期群に高い傾向が見られた。
結論
本研究班によって抗原レベル、免疫細胞レベル、好酸球レベル、リモデリング、合併症の諸要因が解析された結果、1)アトピー型喘息、非アトピー型喘息の両病型が、外因性抗原に対する免疫異常を基盤とすること、T細胞レベルの免疫応答異常と気流制限とのリンクが示された。また、2)IL-13がアトピー型、非アトピー型両病型の喘息で重症化に関与していること、3)IL-13はステロイド抵抗性の難治化要因である可能性があること、4)マスト細胞由来の即時型メディエータのヒスタミンと好酸球性遅発型反応との関連があること、5)新生血管内皮細胞により気管支平滑筋細胞遊走因子が産生されること、6)IgE抗体を介さないリンパ球の活性化が難治性喘息の原因となること、7)γδT細胞の低下が気道炎症やAHRを悪化させること、8)難治性の対極に位置する寛解には、TXAS、Fc_RI、TGF-_1など少なくとも複数の遺伝子多型が関与すること、が示された。加えて、9)小児喘息の難治化要因が確認された。難治性喘息には複数の要因が関与することが本研究班のこれまでの成果からも明らかになっているが、さらに、免疫応答、炎症、組織の改築をターゲットとすることで、難治化予防策につながる多くのシードが得られた。

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