アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化因子に及ぼす環境因子の調査に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200824A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化因子に及ぼす環境因子の調査に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 昇壯(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 笠置文善(放射能影響研究所)
  • 玉置邦彦(東京大学大学院医学系研究科)
  • 河野陽一(千葉大学大学院医学研究院)
  • 常俊義三(宮崎産業保健推進センター)
  • 占部和敬(九州大学大学院医学研究科)
  • 小田嶋博(国立療養所南福岡病院)
  • 秀道広(広島大学大学院医歯薬総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「アトピー性皮膚炎患者数の実態を全国規模で正確に把握し、同時に発症・悪化に関わる各因子の重要性を検証し、患者、医療従事者および医療行政機関にこれらに関する正確な情報を提供することによって、本症をもつ患者および家族の不安の解消、疾患概念・治療概念の確立および行政的対策の確立を支援し、患者のQOLの向上と保健医療に資する」ことを主な目的とした。
研究方法
1.アトピー性皮膚炎患者数の実態(有症率)調査:(1)有症率調査は全国規模(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の保健所および小学校)で専門医の健診による調査を基本とした。本年度は健診予定総人数(1歳半児および3歳児各5,600人、小学1年生および6年生各11,200人、総計33,600人)の健診をすべて終了し、一部の地区では4ヶ月児(乳児)および大学生(成人)の健診も行った。(2)健診に替わる有症率調査法として、「アトピー性皮膚炎の診断のための質問票」の感度と特異度を算出し、この有症率調査法の有用性を検討した。(3)医療施設における本症患者の受診状況を調査した。
2.アトピー性皮膚炎の発症・悪化におよぼす環境因子の調査:(1)宮崎・千葉および福岡の学童を対象に、主としてISAACの質問票を用いて発症・悪化に関与する個体および生活環境要因に関するアンケート調査を行い、その結果を解析した。(2)本年度は、ダニを発症・悪化因子のモデルとして防ダニ布団カバーを用いて実施した二重盲検群間比較試験のキーオープンと結果の解析を行なった。(3)発汗の本症の炎症機構への関与の機序を検討した。(4)小学校において本症患児へのシャワー浴の効果を検討した。
3.「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」の診療現場における有用性の評価を、1,000名のアレルギー疾患の診療を専門とする医師を対象としたアンケートによって調査した。
結果と考察
1.アトピー性皮膚炎患者数の実態(有症率)調査:(1)有症率算出に必要なすべての予定人数の健診を終了し、加えて本年度は乳児(4ヶ月児)2,744人、成人(大学1年生)8,317人の健診も行なった。(2)平成12~14年の専門医の健診に基づく全国平均有症率は、4ヶ月児で12.8%、1歳半児で9.8%、3歳児で13.2%、小学1年生で11.8%、小学6年生で10.5%、大学1年生で8.2%であった。大学生においてやや低下の傾向がみられるものの年齢の推移に伴う有症率の明らかな低下はみられなかった。年齢別の重症度の割合からみるとおよそ70%から85%は軽症であったが、幼児期よりも学童期において症状が悪化する傾向がみられた。1保健所での追跡調査で、乳児期と幼児期以降のアトピー性皮膚炎では発症因子あるいは病態に違いがある可能性が示唆されたが、このことは、本症の疾患概念・治療概念を確立するうえできわめて重要な課題と思われ、今後複数の施設で検証する必要があると思われる。(3)常時専門医の健診による有症率の調査を行うことは困難であるので、健診に替わる有症率の調査法を検討した。作成した「アトピー性皮膚炎の診断のための質問票」の感度は全国平均で幼児で68.9%、学童で73.2%であり、やや低く地区によってバラツキがみられた。特異度はきわめて高く幼児で94.8%、学童で89.4%でありバラツキも少なかった。感度のバラツキは質問項目の1つを改良することによって改善されることがわかり、この調査法は簡便で信頼性の高い調査法になりうることが示唆された。(4)医療施設への受診患者数は1-2歳をピークに漸減し15歳では1-2歳の1/6~1/9であった。健診による調査では各年齢層の有症率に明らかな漸減傾向がみられないことからすると、年齢が増すにつれて必要・適切な治療を受けていない可能性も推測された。
2.アトピー性皮膚炎の発症・悪化におよぼす環境因子の調査:(1)本症の有症率は生後呼吸器疾患の既往がある群(12.8%)がない群(1.5%)より高く(p<0.01)、両親にアレルギーがある群(11.1%)がない群(5.6%)より高かった(p<0.01)。特に、家族歴と子供の発症との関連については、両親のどちらかにアトピー性皮膚炎の既往がある場合は平均して55%、両親とも既往がある場合は75%、同胞に既往がある場合は49%、家族歴がない場合は21%の確率で子供が本症を発症する可能性があることが予測された。(2)ダニの悪化因子としての検証を日常無理なくできる防ダニ布団カバーおよび外見上識別不能な通常の布団カバーを用いた二重盲検群間比較試験によって行なった(6医療施設、解析対象38症例、観察期間6ヶ月)。その結果、使用6ヶ月後のダニ数は防ダニ布団カバーで8.74±7.28匹、通常布団カバーで30.3±46.4匹で、防ダニ布団カバーで著明に減少したが、TARC値、皮膚症状、痒み、睡眠障害の程度などにおいて両群間に有意の差はみられなかった。(3)臨床上発汗は悪化因子として認識されているが、本症患者の皮膚はIgEを介して自己の汗に対して特異的に反応することが明らかになった(アトピー性皮膚炎群84.8%、健常群11.1%)、(4)本年度は、小学校においてシャワー浴を試み(10人)、シャワー浴を行なわない群(6人)と症状の推移を比較したところ、シャワー浴を行なわない群の皮膚症状には有意の変化はみられなかったが、シャワー浴を行なった群では大部分の患児においてその期間中は明らかな症状の改善がみられ、中止すると悪化する傾向がみられた。得られた結果を総合的にみると、現段階では発症・悪化因子と考えられている多くの因子について普遍的に共通した因子と認識する客観的な証拠は得にくく、したがって日常診療では個々の患者において詳細な経過の観察のなかから発症・悪化因子を把握確認して、それぞれの患者に適した方法により対処することが必要と思われる。
3.診療現場の医師1,000名を対象に厚生労働科学研究によって作成した「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」の有用性に関するアンケート調査を行なった結果、概ね有用であり本症においてみられた種々の混乱の鎮静化に寄与したと認識されていた。今後は本研究において得られた情報も加えて予防・管理も含めたガイドラインの作成が必要と思われる。
結論
(1)専門医の健診によるアトピー性皮膚炎の有症率調査が終了し、わが国の平成12~14年の乳児から成人までの有症率(上述)が明らかになった。(2)幼児期よりも学童期以降において症状が悪化する傾向がみられた。(3)乳児期と幼児期以降のアトピー性皮膚炎では発症因子あるいは病態に違いがある可能性が示唆された。(4)「診断のための質問票」による有症率調査法の確立の可能性が示唆された。(5)医療施設の受診患者数は1-2歳をピークに漸減し15歳では著明に減少していた。(6)複数地区の調査で発症のリスクファクターとしてアトピー性皮膚炎の家族歴、生後の呼吸器疾患の既往が共通していた。(7)防ダニ布団カバーは寝具のダニ数を著明に減少させたが、明らかな皮膚症状の改善はみられなかった(二重盲検群間比較試験)。(8)汗は本症患者の皮膚とIgEを介して比較的特異的に反応した。(9)小学校におけるシャワー浴によって明らかな症状の改善がみられた。(10)厚生労働科学研究による本症の治療ガイドラインは、診療現場において概ね有用と認識されていた。

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