アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200823A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患に係わる胎内・胎外因子の同定に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
森川 昭廣(群馬大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮地良樹(京都大学医学研究科)
  • 近藤直実(岐阜大学医学部)
  • 大田健(帝京大学医学部)
  • 古川漸(山口大学医学部)
  • 池澤善郎(横浜市立大学医学部)
  • 柴崎正修(筑波大学医学部)
  • 小田嶋 博(国療南福岡病院)
  • 徳山研一(群馬大学医学部)
  • 荒川浩一(群馬大学医学部)
  • 吉原重美(獨協医科大学)
  • 佐々木聖(ささきアレルギー科クリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年度において、当研究班では、アレルギー疾患患者増加に鑑み、遺伝的要因を含む胎内における因子と出生後の発症に及ぼす環境因子を解明することを目的として検討し、一定の成果を上げてきた。本年はさらにそれをおしすすめ、アレルギー的または免疫的側面と、非アレルギー的側面である臓器過敏性について検討した。
研究方法
遺伝学的検討:アレルギー疾患患者を発端者とする家系を対象として、連鎖陽性領域にある多型をTDT解析にて疾患との関連を検索した。IFN-γやIL-4、IL-4受容体、STAT6に注目しアレルギー疾患と遺伝子多型との関連を明らかにした。さらにメディエーター遊離の段階までを系統的に分析した。胎内・胎外因子と追跡、疫学調査:羊水、母体血、臍帯血中のサイトカイン、増殖因子を測定し、その後のアレルギー疾患発症につき追跡調査をした。また、臨床的に敗血症を呈した児と正常出 生児の追跡調査によりアレルギー疾患発症との関連を検討した。福岡市内3地区5小学校での疫学調査によるアレルギー疾患発症や予後の検討をした。気道過敏性:RSウイルスによる急性細気管支炎後の乳児喘息発症機序を解明する目的で気道局所の痰中の成分を検討した。新生仔マウス喘息モデルにおける気道炎症と免疫学的反応を成熟マウスと比較した。気管 支喘息の病態形成にかかわるPDGFの気道上皮細胞からの産生を検討した。また、抗原特異的マウス喘息モデルにおいて、気道炎症およびリモデリングにおけるGM-CSFの役割を検討した。皮膚バリア障害:皮膚バリア機能の構成に重要なタイトジャンクションの表皮発生過程における分子構築の変化を検討した。出生日から日令7までの新生児と1ヶ月健診で来院した乳児に対して角質水分量と水分喪失係数を測定した。また、皮膚バリア障害によるケラチノサイトからのNGF産生を介してアトピー 性皮膚炎のかゆみが増強しているかを検討した。
結果と考察
1)アレルギー疾患患者家系で連鎖解析を行った結果、喘息では4q22のHPGDS、12q13のAID、6p21のTNF、17q13のPAFAHが、アトピー性皮膚炎では5q32のSPINK5多型が疾患発症と関連していた。2)アレルギー患者において、IFN-γreceptor1内に新たな点変異を認め、アレルギー発症に関与している可能性が示唆された。また、アラキドン酸カスケードのLTC4の遺伝子変異を明らかにした。3)STAT6 exon1のGT繰り返し配列と転写調節領域、exon23非翻訳領域の多型は連鎖不平衡であった。IL-4受容体Ile50Val多型とSTAT6の組み合わせはアレルギー疾患の予知に有用と考えられた。4)母親の血清、羊水、臍帯血のIL-13やIL-4高値例よりアレルギー疾患を発症する例が認められ、臍帯血中のIL-4、IL-13がアレルギー疾患発症予知の指標になると考えられた。5)母のアレルギー歴陽性例で、胎内感染児は5才までのアレルギー疾患発症 率は有意に低値で、胎内感染によるTh1活性化が、アレルギー疾患発症を抑制した可能性が示唆された。6)乳児アレルギー 患者を対象に調査した結果、気管支喘息の発症に、妊娠中の母親のアレルギー症状や感染も関連することが示唆された。7)乳児RSV急性細気管支炎で痰中クレオラ体が陽性児は乳児喘息に移行しやすく、痰中の好中球エラスターゼやECPが高値を示したことから、気道上皮傷害に好中球や好酸球性炎症の関与が示唆された。8)マウス喘息モデルにおいて、血中IgE抗体価やBALF中好酸球数の増加の程度、気道過敏性発現、粘液分泌細胞の程度は、感作法ばかりでなく幼若および成熟マウスで異なっていた。9)気道上皮細胞はDEPやLPS刺激により濃度依存性にPDGF-ABの産生を示した。さらにこの産生はGM-CSFにより誘導され、オートクラインな活性化の関与が考えられた。10)タイトジャンクション(TJ)の膜分子であるクローディン-6は、表皮発生過程のバリア機能の担い手で、胎生期表皮を覆うperidermのTJに特異的に局在することを示した。11)新生児期の角質水分量の推移は、日令0?7まで比較的安定しており、生後1ヶ月で上昇した。一方、水分喪失係数は、日令0?1に急激に減少し、その後は安定していた。12)角層NGF量は、患者皮疹部では著しく増加し、患者無疹部でも健常人より有意に高値であった。また、皮疹の重症度、掻破痕スコア、被験部位の痒疹スコア、痒みのスコアと正の相関を示した。
結論
アレルギー疾患におけるアレルギー的側面と非アレルギー的側面である臓器過敏性の獲得に分け、最新の知見をもとに、胎内・胎外因子の検討を行った。アレルギー疾患において、アトピー候補遺伝子が見出され、アレルギー疾患の病態解明、予知予防に向けて臨床応用が目指せる可能性を示唆した。一方、胎内感染はアレルギー疾患発症を抑制しうる環境因子のひとつとなりうる可能性が示唆された。疫学的調査では気管支喘息の発症において、誕生月の関与は単に、生後の感染の影 響だけではなく、妊娠中の母親のアレルギー症状や感染とも関連することが示唆された。 乳児RSV急性細気管支炎より気道炎症?乳児喘息という乳児喘息発症メカニズムが想定された。乳児喘息発症を予防する上で、RSVによる気道炎症に対す る早期介入が重要であると考えられた。気管支喘息においては乳児期より気道炎症が存在し、気道過敏性亢進に関与し、また、その進展に増殖因子が関与していることが示唆された。PDGF、IGF-1、GM-CSFは喘息の病態形成に特有の機能を担っており、治療のターゲットとなり得ることが示唆された。表皮発生過程におけるタイトジャンクション分子構築の変化は、胎児期でのアレルゲンの経皮的侵入経路についての基礎的研究となった。アトピー性皮膚炎ではケラチノサイトによるNGF産生が亢進し、それによる神経線維の表皮への伸長と痒みの増強、およびそれに伴う掻破がADを悪化させる可能性を示唆するものと考えられた。本研究は、アレルギー疾患である気管支喘息およびアトピー性皮膚炎の発症要因を多方面より検討し、アレルギー疾患の原因解明および治療につながる意義深いものに発展することが期待された。

公開日・更新日

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