食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200200822A
報告書区分
総括
研究課題名
食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立相模原病院臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤直実(岐阜大学)
  • 池澤善郎(横浜市立大学)
  • 飯倉洋治(昭和大学)
  • 小倉英郎(国立高知病院)
  • 柴田瑠美子(国立療養所南福岡病院)
  • 赤澤晃(国立成育医療センター)
  • 宇理須厚雄(藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院)
  • 玉置淳子(北海道大学)
  • 穐山浩(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 眞弓光文(福井医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
次の5項目を目的に各分担研究者が#1~#12の研究を行った。
1)食物アレルギーの実態の把握(飯倉・玉置・海老澤)
2)アレルギー物質含有食品の表示の検討(臨床系研究者)
3)食物アレルギーの発症・寛解機序の解明(柴田・小倉・池澤・宇理須・近藤・眞弓・宇理須)
4)食物アレルギーの診断方法の確立(海老澤・柴田)
5)食物抗原の解析(穐山・赤澤)
研究方法
#1アレルギー物質を含む食品に関する表示に関する検討:臨床系研究者
表示に関する問題点に関して研究班会議で討議した。
#2食物アレルギーの診断に関する研究:海老澤
全国23施設のネットワークを確立し、共通抗原・方法で食物負荷試験を施行した。乳児期食物アレルギーの有病率を求める疫学調査で相模原市の協力により4ヶ月乳児のアンケート調査を実施した。
#3食物アレルギーの免疫学的発症機序の解明に関する研究:近藤
食物抗原の認識機構の解析の為に牛乳アレルギー患者からベータラクトグロブリン特異的TCCを樹立し、それぞれの抗原提示分子と認識するペプチド断片を解析した。
#4食物アレルギーの成人発症機序の解明に関する研究:池澤
唾液中の総sIgA値、卵白・牛乳・小麦・カンジダ特異的特異的sIgA・蛋白量をELISAにて測定し病態との関連を検討した。札幌と横浜においてOAS患者の頻度・原因抗原の検討を行った。
#5重篤な食物アレルギーの全国実態調査に関する研究:飯倉
モニタリング医師の協力のもと食物摂取から1時間以内に発症し医療機関を受診した即時型食物アレルギーの全国調査を行い、第5回~第8回(H14.1~12)までに1546症例を集積し解析した。
#6食物アレルギーの小児期発症機序(非即時型)の解明に関する研究:小倉
重症アトピー性皮膚炎6例に対して経口誘発試験を行い、負荷前後のCD4陽性細胞中のIFN-γ、IL-2、IL-4陽性細胞の比率を比較検討した。
#7食物アレルギーの小児期発症機序(即時型)の解明に関する研究:柴田
卵・牛乳・小麦のアナフィラキシーおよびIgECAPRAST4以上の症例を中心に、低抗原・変性抗原を用いた負荷試験を行った。
#8食物アレルゲン的見地からの発症機序の解明に関する研究:赤澤
ピーナッツとナッツ類の交差抗原性に関して検討した。
#9食品中アレルギー誘発物質とアレルギー疾患に関する文献調査研究:玉置
諸外国における食物でのアナフィラキシーによる死亡例の文献学的調査を行った。
#10原因食品中アレルギー誘発物質の解明に関する研究:穐山
患者血清を用いた免疫学的・分子生物学的手法を用いて原因食品中のアレルギー誘発物質の解析を行った。
#11食品低アレルゲン化法の開発による食物アレルギーの治療に関する研究:眞弓
食物アレルギー実験モデルにおいて経口寛容誘導に関する検討を行った。
#12食物アレルギーのアウトグローの機序の解明と寛容誘導:宇理須
鶏卵アレルギー患者に対して加熱脱オボムコイド卵白連日摂取を2週から4週間行い前後で負荷試験を行い寛解誘導の可能性を検討した。
(倫理面への配慮)
患者を対象とした研究においては文書同意を原則とし、患者由来検体も患者の同意のもと研究に用いた。
結果と考察
#1アレルギー物質を含む食品に関する表示に関する検討(臨床系研究者)
研究班の提言を基礎として平成14年4月よりアレルギー物質を含む食品の表示が開始された。
#2食物アレルギーの診断に関する研究(海老澤)
全国23施設で鶏卵・牛乳・小麦・大豆の食物負荷試験が施行され症例は544例に達した。陽性率は全体では44%とIgECAPRASTの陽性率79%に比べ低く負荷試験の重要性が確認され、陽性率は鶏卵>牛乳>小麦>大豆の順であった。4ヶ月の時点で湿疹を28.5%(1497/5247)の児が有し、湿疹の継続期間が1ヶ月以上の児が69%に上った。出生月により湿疹の有症率に2倍以上の差が認められた。
#3食物アレルギーの免疫学的発症機序の解明に関する研究(近藤)
牛乳アレルギー患者より樹立したBLG特異的TCC(YA4, HA5.7)が認識するペプチド(BLGp97-117: TDYKKYLLFCMENSAEPEQSL)コア配列はp102-112(YLLFCMENSAE)であり、アラニンスキャニングによりE108Aの変更でTCCの増殖反応が消失しC106Aの変更でTCCの増殖反応が減少し、p105(F)からp108(E)までの残基の変更で増殖反応が消失した。BLG特異的TCCはHLA-DRB1*0405で提示されたペプチドを認識し、同定されたコア配列(YLLFCMENSAE)はHLA分子に結合する最小単位のペプチドと考えられた。
#4食物アレルギーの成人発症機序の解明に関する研究(池澤)
カンジダ特異的sIgA抗体価は、カンジダIgERASTのクラス0群では低く、健常人とほぼ同じレベルであったが、クラス1群と2/3群は4以上群に比べて有意に高く、クラスの上昇と共に段階的に低下していた。札幌におけるOAS罹患率が高いことと札幌ではシラカバ花粉の主要抗原の交差反応による果物が原因として多く認められOASの地域差が認められた。
#5重篤な食物アレルギーの全国実態調査に関する研究(飯倉)
平成14年に総計1,546例が集積し2才未満で全体の53.5%を占め加齢とともに漸減し、6歳までに79.0%が集積し20歳以上の成人は8.3%を数えた。抗原別頻度では鶏卵38.6%、乳製品16.2%、小麦7.2%、フルーツ6.1%、ソバ4.7%、エビ4.1%、魚類4.1%、ピーナツ3.6%、魚卵2.8%、大豆2.1%であった。入院症例は182名(12.2%)でソバ、ピーナツ、木の実、小麦の入院率が高く重篤な症例が多いと類推された。
#6食物アレルギーの小児期発症機序(非即時型)の解明に関する研究(小倉)
重症アトピー性皮膚炎患者で経口誘発試験を10回行い、7回が陽性であった。Th2細胞は、経口誘発試験陽性の場合に負荷2~4時間後から著明に活性化されること示された。
#7食物アレルギーの小児期発症機序(即時型)の解明に関する研究(柴田)
負荷誘発率は、卵黄82例中7%、ペプティクッキー45例中16%、低アレルゲン小麦43例中33%であった。魚介類のアレルギーでは3歳までの解除率は魚で6%程度であり甲殻類は0%であった。
#8食物アレルゲン的見地からの発症機序の解明に関する研究(赤澤)
対象17名中ピーナッツに対しては10名がAra h 2(17kDa)を含む15~18kDaの複数の蛋白に反応を示し、Ara h 2(63.5kDa)には7名が反応を示した。アーモンドに対しては13名が反応を示し、35kDa以上の蛋白に反応を示すものが多かった。カシューナッツに対しては10名が反応を示した。
#9食品中アレルギー誘発物質とアレルギー疾患に関する文献調査研究(玉置)
わが国でアナフィラキシーショックによる死亡例が1995年~2000年の6年間で計16例報告されているが、該当期間の文献収集では死亡例報告は2例しかなかった。我が国の食物アレルギーによる死亡例の把握に症例報告の文献収集では不可能であり、諸外国のように食物アレルギーの登録制度もしくは臨床医への調査を活用すべきである。
#10原因食品中アレルギー誘発物質の解明に関する研究(穐山)
豚肉抽出物中の74kDa成分が主要抗原と示され、小麦グルテン中グリアジン・グルテニンの全ての画分において抗原性が確認された。相関係数0.9以上である魚種同士の組み合わせをまとめた。穀物の33kDa蛋白は免疫交差反応性を示し、穀物アレルギーにおける共通の抗原と考えられる。In vivoにおいて、ベータプライムコンポーネントがサケ魚卵の主要抗原である可能性が示された。
#11食品低アレルゲン化法の開発による食物アレルギーの治療に関する研究(眞弓)
OVA特異的IgEとOVA特異的TCRの両者のトランスジェニックマウスとOVA特異的TCRのトランスジェニックマウスの両群で、OVAの高濃度の経口投与群はPBS投与群と比較して、脾細胞のOVA特異的T細胞の割合には変化がないが細胞増殖やIL-4, IFN-γの産生が低下していた。腸管の局所の免疫では抗原特異IgEの存在がより強力なトレランスを誘導することが示され、既に特異IgE抗体の存在する食物アレルギー患者においても経口免疫寛容誘導の可能性が示された。
#12食物アレルギーアウトグローの機序の解明と寛容誘導(宇理須)
加熱脱オボムコイド卵白連日摂取後の負荷試験で凍結乾燥卵白陽性群は13例中8例(61.5%)加熱卵白陽性群は9例中5例(55.6%)で陰性化した。加熱脱オボムコイド卵白は、2週間から4週間の連日摂取でも安全で約60%の患児に対して寛解誘導可能であった。
結論
食物アレルギーに関する研究班活動を通してアレルギー物質を含む食品表示が始まり、全国食物アレルギーのモニタリング調査、食物負荷試験ネットワークの確立、食物アレルギーの疫学調査など新しい取り組みの結果が得られた。食物アレルギーの発症のメカニズム・寛解のメカニズムの解析、抗原的、免疫学的解析も進み、ガイドラインの基礎となるエビデンスの集積がなされた。

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