関節リウマチの発症及び重篤な合併症の早期診断に関する研究

文献情報

文献番号
200200819A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの発症及び重篤な合併症の早期診断に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
江口 勝美(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 上谷雅孝(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科放射線生命科学講座)
  • 三森経世(京都大学大学院医学研究科臨床免疫学)
  • 土屋尚之(東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学)
  • 塩澤俊一(神戸大学医学部保健学科)
  • 中野正明(新潟大学医学部保健学科)
  • 住田孝之(筑波大学臨床医学系内科)
  • 岡本 尚(名古屋市立大学大学院医学研究科生体機能分子医学講座細胞分子生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アメリカリウマチ学会(ACR)は、「RA管理のガイドライン」を2002年に改訂した。RA管理の第一歩は早期に診断し、疾患活動性と機能障害を把握し、臨床経過を予測することである。多発性関節炎で発症したRAは2年以内に70%が関節破壊へ移行するが、残り30%は移行しない。早期リウマチに抗リウマチ薬や抗サイトカイン療法の有用性は明らかにされているが、これらの薬剤は有害事象を来たす頻度が高く、しかも高価である。早期診断と臨床経過の予測はcost-benefit、テーラーメイド治療を考える上で重要である。また、RAは腎臓、肺臓などの臓器障害やアミロイドーシスを合併する。この合併症を早期に予知あるいは診断・治療し、進行を阻止することも患者のQOLと予後を改善するのに重要である。RAの発症及び重篤な合併症の早期診断や臨床経過の予測についての指針を作成することを目的として、以下の項目について研究した。
Ⅰ-A)RAのMRIによる早期診断、活動性及び予後判定に関する研究
Ⅰ-B)RAの早期診断及び臨床経過の予測に関する研究
Ⅱ)RAの自己抗体による早期診断ー抗Filaggrin/CCP抗体の意義ー
Ⅲ)ゲノム解析に基づくRA病因・病態解析
Ⅳ)RAの多因子遺伝に関わる疾患感受性遺伝子の同定に関する研究
Ⅴ)RAアミロイドーシスの発症要因に関する研究ーアポリポ蛋白Eの検討ー
Ⅵ)NKT細胞によるRAの早期診断・制御に関する研究
Ⅶ)間葉系幹細胞としての滑膜線維芽細胞についての研究ーRA早期診断と早期治療への応用ー
Ⅷ)RA滑膜細胞のTNF刺激下遺伝子発現プロフィールに関する研究
研究方法
Ⅰ-A)対象は早期RA患者の手で、MRIを撮像した。dynamic studyのデータから最大立ち上がり速度(e-rate)を測定した。
Ⅰ-B)早期診断及び臨床経過の予測因子を明らかにするために、定期的にMRI撮像、血清学的検査を追跡し、さらに遺伝子検査を施行した。
Ⅱ)対象はRA60例、RA以外のリウマチ性疾患39例、及び初診時に診断未確定の関節炎患者37例である。抗Filaggrin抗体と抗CCP抗体を測定した。
Ⅲ)培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)にID3遺伝子を導入し、増殖、ICAM-1、E-selectin発現量を測定した。ILT2/LIR1とBAFF-RのゲノムDNA多型を決定した。
Ⅳ)RAの多発家系のゲノムワイド解析により同定された疾患遺伝子について、(1)遺伝子保有の有無による臨床的特徴を調べた。(2)疾患遺伝子の分子作用機構を検討した。
Ⅴ)アミロイドーシス合併RA76例について臨床的解析を行った。合併要因の解明に関しては、アポリポ蛋白E(Apo E)の表現型、遺伝子型を分析した。
Ⅵ)末梢血中NKT細胞数を算定した。コラーゲンタイプⅡ誘導関節炎モデルマウス(CIA)を用いて、免疫時にα-GalCerを投与することにより、関節炎への影響を検討した。
Ⅶ)線維芽滑膜細胞にPPARγリガンドを添加し、脂肪細胞へ分化させた。C/EBPやNF-κBの核内移行はゲルシフトアッセイ(EMSA)で検出した。
Ⅷ)RA(RSF)及び正常培養滑膜細胞(NSF)にTNF刺激の有無でmRNAを摂取し、real-time RT-PCR法を用いて解析した。遺伝子発現に差が見られたものについては、ウェスタンブロット、細胞増殖試験と免疫染色を行い、確認した。
結果と考察
Ⅰ-A)滑膜炎は89%の症例に、関節周囲の骨髄浮腫は全て滑膜炎のある関節にみられた。骨浸蝕は骨髄浮腫と滑膜炎を伴うものが55%、滑膜炎のみ伴うものが39%であった。dynamic studyにおけるe-rateは、骨髄浮腫を伴う滑膜炎で16.6±9.6、骨髄浮腫のない滑膜炎で7.4±5.6、滑膜炎のない関節で4.5±2.4であり、各群に有意差(p<0.0001)を認めた。
Ⅰ-B)早期関節リウマチ46症例で抗CCP抗体は70%、抗Filaggrin抗体は50%に検出された。骨髄浮腫及び骨浸蝕が検出される群は検出されない群に比較してCRP値は有意に高く、MMP-3値も高い傾向を示した。
Ⅱ)①抗CCP抗体はRA 82%、非RA5%で陽性、抗Filaggrin抗体はRA68%、非RA3%で陽性であり、抗CCP抗体の高い感度と特異度が確認された。②初診時未診断関節炎患者のうち、抗CCP抗体陽性13例中9例は、後にRAと診断され、同抗体陰性24例中RAと診断されたのは2例に過ぎなかった。③発症2年以内の早期RA23例においても抗CCP抗体の陽性率は78%と高く、非RAを対照とした診断確度は82%と高く、最も優れていた。
Ⅲ)①ID3遺伝子導入HUVECは、増殖が亢進し、ICAM-1やE-selectinの発現増強がみられた。②LIR1遺伝子に17個所のSNPが検出され、うち5個所は非同義置換であった。LIR1.01/01遺伝子型のホモ接合体が、HLA-DRB1 shared epitope陰性群において増加した。③BLyS-871C>TとBAFF-R多型との組み合わせを検討すると、BLyS-871T非保有者において、BAFF-Rの3'非翻訳領域(UTR) c*120T>Cの保有者がRAに有意に少なかった。④Shared epitope陽性RA群においてFCGR3A176F/F遺伝子型の有意に増加していた。⑤TNFR2 196R/R遺伝子型とRAとの有意な関連が検出された。
Ⅳ)RA1遺伝子はDR3遺伝子上のSNP4箇所及び核酸欠損1箇所の変異体であった。変異型DR3は正常DR3分子とヘテロ三量体を形成し、変異DR3分子は正常型DR3分子によるアポトーシス誘導をドミナントネガティブに抑制した。変異は多発家系のRA例で10%、孤発RAで1.8%、健常対照者で0.55%に検出された。DR3変異保有者は手術頻度が高く、2回以上の手術例が多く、発症ではなく増悪に関わる疾患遺伝子と考えられた。RA2遺伝子であるアンギオポエチン1(Ang-1)遺伝子変異は269Glyを伴う3塩基GGT挿入変異体で、RAの24.7%、健常対照者の7.8%に見られた。RAでは末梢血Ang-1mRNAは有意に低下しており、変異型遺伝子導入ヒト血管内皮細胞は遊走促進がみられた。RA3遺伝子はDbl遺伝子3'端近くのエキソンスキッピング変異で、DNAレベルでは、nt2522+394(C→T)、nt2632+106(T→G)、nt2632+211(A→C)の変異がRA家系に有意に見出された。Dbl支配下の低分子量G蛋白cdc42に対するGEF機能及び活性酸素生成能が有意に低下していた。
Ⅴ)①アミロイドーシス合併判明後の5年及び10年生存率は55%、22%であった。合併診断年を1992年前と後で比較すると、生存率の改善がみられた。②合併群は非合併群に比較してApoE接合体を多く持っていた。ε4の出現頻度を比較した結果、合併群(28.9%)で非合併群(14.3%)より有意に高かった。
Ⅵ)①RA患者でNKT細胞が減少しているが、活動性の低下した1例のRA患者において回復した。②RA患者で血清中の可溶性CD1d分子は減少していた。③CIAにおいてα-GalCerを投与すると、関節炎の発症率は減少した。in vitroの解析では、α-GalCerの投与により、IL-4産生が上昇し、IFNγ産生は低下した。
Ⅶ)①線維芽滑膜細胞はPPARγリガンドで脂肪細胞様細胞へ分化誘導された。②TNFα、IL-1β、INFγは脂肪細胞への分化誘導を抑制した。これはC/EBP転写活性の抑制を介していた。③分化誘導された脂肪細胞のNF-κBの転写活性は低下し、サイトカイン(IL-6、IL-8)とMMP-3の産生が低下していた。
Ⅷ)TNF刺激時にはRSFとNSFとの間にMMP-11、cyclin B1、Notch-1、Notch-4及びJagged-2遺伝子mRNA発現量に差異を認めた。RSFはTNF刺激によりJagged-2の発現誘導が特徴的に起こり、Notch細胞内ドメインの核移行が起こっていた。RA滑膜組織ではNotch-1、Notch-4とJagged-2が発現していた。Notch-1、Notch-4とJagged-2の発現は、マウスの胎生15日目では関節軟骨と滑膜に発現し、生後1日目では関節軟骨は発現しておらず、滑膜のみが発現していた。
結論
RAの発症及び重篤な合併症の早期診断や臨床経過の予測について、指針を作成することを目標に研究を進めている。まず、抗Filaggrin抗体と抗CCP抗体はRAにおける特異性が高く、特に、抗CCP抗体は早期RAでも高い感度を示し、早期診断に有用である。手のMRI撮像では、骨髄浮腫は滑膜炎の活動性がより高い関節部位にみられた。骨浸蝕を来した症例の大部分は滑膜炎と骨髄浮腫がみられ、MMP-3とCRP値が高値を示した。この結果から、骨髄浮腫、MMP-3、CRP高値は関節破壊の予測因子になることが示唆された。疾患感受性での検討は、ILT2/LIR1の細胞外領域の多型がHLA-DRB1 shared epitope陰性群において、FCGR3A多型がshared epitope陽性群において、RAと関連することを見いだした。BLyS(BAFF)とBAFF-R多型の組み合わせ、TNFR2 196R/R遺伝子型とRAとの関連も検出された。さらに、RA1遺伝子はDR3遺伝子のSNP4箇所及び核酸欠損1箇所の変異体であること、RA2遺伝子はAng-1遺伝子の269Glyを伴う3塩基GGT挿入変異体であること、RA3遺伝子はDbl遺伝子3'端近くの223bpのエキソンスキッピング変異であることを明らかにした。また、RA1遺伝子は臨床経過の予測因子であることも明らかになった。二次性アミロイドーシスの予後は最近改善されているが、未だ不良であり、ApoE4の存在が発症の予測因子になる。NKT細胞は一部のRAにおいて活動性と関連し、減少の一原因はCD1d分子の低下であると考えられた。マウスモデルでは、α-GalCer投与による関節炎の制御が可能であった。滑膜組織には、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞などの間葉系細胞へ分化する能力を有する未分化な細胞が存在し、炎症性サイトカインが分化を阻止した。RAと正常の滑膜細胞の間に発現誘導される遺伝子群(Notch、Jagged-2)に明らかに差が認められた。この結果は、RA滑膜細胞が未分化であることを積極的に支持し、RAの病態の一端を説明しうる。本研究成果は、RAを早期に診断し、臨床経過を予測して治療する、いわゆるテーラーメイド治療に結び付くものである。本治療戦略は医療費削減という社会の要請に適うものである。

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