関節リウマチの治療反応性規定因子の同定と、それを用いた新治療方針確立に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200818A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの治療反応性規定因子の同定と、それを用いた新治療方針確立に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 勤(埼玉医科大学総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 油谷浩幸(東京大学国際・産学共同研究センター)
  • 山中 寿(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 小林茂人(順天堂大学医学部)
  • 沢田哲治(東京大学医学部)
  • 南木敏宏(東京医科歯科大学生体応答調節学)
  • 川上 純(長崎大学医学部内科学第一講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)は、全身に及ぶ多関節炎のため罹患関節の破壊・変形を来し、Quality of Life (QOL)は著しく低下する。このため多関節に及ぶ人工関節置換術を余儀無くされる患者が後を絶たない。RAの治療目標は、薬物療法によってかかる状況を回避することにある。そのような薬剤として、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)が使用され、寛解率の向上など一定の効果が得られている。しかし、9剤あるDMARDの有効性、副作用発現の予測は困難で、薬剤選択にあっての指針は示されていない。一方、既存のDMARDによっても活動性のコントロールが困難な症例に対して、TNFなどの炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤に期待が寄せられている。その優れた臨床的効果、骨破壊抑制効果が明らかにされている。しかし、数種類にのぼる製剤の選択、高価な薬剤費、約50%の有効率、結核の再活性化などの問題点が指摘されており、個々の症例に則したオーダーメイド医療の構築、薬剤費軽減からなる総合的な戦略が必要である。本研究班では、DMARDおよび生物学的薬剤の適応、薬剤選択、投与法に関する研究を通して、科学的根拠に基づいたRAの薬物療法確立を目的とする。
研究方法
網羅的遺伝子発現解析
1)識別遺伝子抽出アルゴリズム:識別遺伝子の抽出法に関する検討は、Neighborhood解析(Golub T, 1999)あるいはMann-Whitney検定により実施。識別のために選択されたクローンの有意性の検定にはpermutationテスト。クラスタ解析はGenespring(SiliconGenetics社)、主成分分析は既存の統計パッケージにより行った。
2)マイクロアレイ:Affimetrixなどの市販アレイに加え、本研究班独自のカスタムアレイ(720遺伝子のcDNAをスポットしたガラスアレイ)を用いる。
3) データベースの構築:発現プロファイル解析データを遺伝子アノテーション情報などと共にリレーショナルデータベースに格納。研究班で得られた解析データは、パスワードによるアクセス制限を設けてGenetサーバーに格納。
4) パイロット解析:同意がえられた4例のRAに対して、キメラ型抗TNF_モノクロナール抗体infliximab投与前および、投与2週間後の末梢血単核球を採取。Affimetrix Hu6800チップを用いて遺伝子発現プロファイルを解析。
候補遺伝子発現解析
1) アポトーシス関連:培養RA滑膜細胞(滑膜線維芽細胞)は手術時の滑膜組織から分離。培養滑膜細胞の膜型TRAILレセプター、DR4、DR5、decoy receptor 1(DcR1)およびDcR2は免疫ブロットで評価。増殖能は3H-thymidineの取り込み、TRAIL誘導性アポトーシスはsoluble TRAIL(sTRAIL)添加により誘導、51Cr release assayとHoechst 33258 dye stainingを用いて評価。TRAIL誘導性アポトーシスにおけるPDGFおよびキナーゼカスケードに関与する分子の役割は、各種インヒビターを用いて解析。
2) 炎症シグナル関連:患者滑膜細胞、関節炎モデル動物を用い、NF-kBシグナル伝達に関与する分子を、コンピューター支援薬剤デザインによって作製されたインヒビターを用いて解析。
3) ケモカイン関連:患者末梢血CD4, CD8 T細胞上のCX3CR1の発現頻度、末梢血CX3CR1陽性 T細胞のサイトカイン産生能、細胞障害性分子 (granzyme A, perforin)発現はフローサイトメーターで解析。RA滑膜組織のT細胞におけるCX3CR1の発現、RA滑膜組織でのCX3CL1の発現は免疫組織染色で解析。RA滑膜線維芽細胞様滑膜細胞のCX3CL1発現はELISAにて解析。細胞遊走能は、ECV304をコートしたtranswellを用いてmigration assay を施行。関節炎モデル動物を用いCXC3CL1/CX3CR1の役割を抗体による抑制実験によって解析。
DMARD代謝酵素関連:MTXの主要代謝酵素MTHFRおよび、スルファサラジン代謝酵素NAT2を指標として、治療反応性、副作用と関連する遺伝子型をPCR-RFLP法で決定。EMアルゴリズムに基づくmaximum likelihood estimationを応用して独自に開発した解析プログラムでハプロタイプ、ディプロタイプ形を決定。
結果と考察
候補遺伝子アプローチによってRAの病態に密接に関連し、薬剤によってその発現・機能が修飾される分子群としてアポトーシス関連、炎症シグナル関連、ケモカイン・サイトカイン/レセプター関連および薬物代謝酵素の重要性が明らかにされた。一方、網羅的発現解析アプローチの方法論の検討から、統計解析手法、データベース構築法、市販の遺伝子チップの性能検討を行い、これらシステムが効率良く稼動することを確認した。実際に、キメラ型抗TNF_モノクローナル抗体infliximabの投与前後で末梢血単核球を採取できた4例のRAについて検討した結果、治療有効性と関連して変動した遺伝子群を同定した。しかし、アレイ解析を臨床診断に活用するためには、現在のコストは余りにも高価であり、大量安価なチップが望まれる。一方で迅速、高感度であることも要求される。この問題点を克服するためには、カスタム遺伝子チップの作製が不可欠である。チップに配する遺伝子数は500~900が適切と考えられ、肝炎のインターフェロン療法の効果予測に有用なチップ開発を行った経験を生かし、カスタムチップの開発を行った。先のRA 4症例の結果を踏まえTNF阻害療法によって発現が変動すると予測される遺伝子群を含む720遺伝子のcDNA断片をスポットしたカスタムアレイを作製し、それが実用段階にあることを確認した。キメラ型抗TNF_モノクローナル抗体infliximabの導入に向けて、薬剤有効性と関連して変動する遺伝子を同定することを目的とした多施設共同の前向き研究のデザインを完了し、最終段階へと検討を進める予定である。
その際、採取した検体のプロファイルデ-タについては、症例それぞれからの生物学的ばらつきと実験そのものからのばらつきの双方を含むことを考慮することが必要である。特に検体が炎症組織の場合には検体の均一性が問題となる。滑膜組織は、RAの病態を直接反映し、病態解析には最も適したサンプルであるが、検体採取の時期、容易さ、部位などさまざまな問題点がある。同様のことは、骨髄サンプルについても考えられ、病態・病因解析には適しているが、治療反応性予測という観点からは、技術的な困難さを伴う。この点、末梢血サンプルは、非侵襲的に収集でき、検体の扱いが容易である。反面、病態との関連が必ずしも明確でないという弱点がある。しかし、薬剤投与前後の比較によって発現プロファイル解析を行うためには、容易に、しかもくり返し採取できる必要があり、その点で末梢血が最も適切なサンプルと考えられる。RAの治療に画期的効果をもたらしたキメラ型抗TNF_モノクローナル抗体infliximabは、他の抗リウマチ薬に比べ、より臨床的効果がシャープで標的が明確である。海外での成績および本邦での検討から、その有効性はほぼ50%であることが判明している。一方、現状の投与法では、継続投与が必要とされ、それによる高コスト、長期安全性の点からも問題点が指摘されている。本研究によって、継続投与なしの3回パルス投与でも、54週後に継続投与とほぼ同等の50%前後の有効性が明らかにされた。一方、直接効果も遠隔効果も有効性は約半数であることから、投与後早い段階で治療反応例を予測することは極めて重要な課題である。しかしながら、世界的にもTNF阻害療法の有効性予測因子を報告した例はない。そこで、遺伝子チップを用いて網羅的に遺伝子発現を解析し、TNFと関連しRAの病態に深く関わる可能性のある分子を加えた遺伝子群の中から、本治療法の反応性を規定している因子の同定に向けた基盤づくりを進めた。
結論

公開日・更新日

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