気管支喘息の発症や喘息症状の増悪に及ぼすウイルス感染の影響と治療の効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200817A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息の発症や喘息症状の増悪に及ぼすウイルス感染の影響と治療の効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小田島 安平(昭和大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 足立満(昭和大学医学部第一内科)
  • 勝沼俊雄(東京慈恵会医科大学小児科)
  • 海老澤元宏(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所感染情報センター)
  • 田島剛(博慈会記念総合病院)
  • 永井博弌(岐阜薬科大学薬理学教室)
  • 工藤宏一郎(国立国際医療センター呼吸器科)
  • 佐野靖之(同愛記念病院アレルギー・呼吸器科)
  • 小田島安平(昭和大学医学部小児科)
  • 椿俊和(千葉県こども病院アレルギー科)
  • 一戸貞人(千葉県衛生研究所疫学調査研究室)
  • 多屋馨子(国立感染症研究所感染症情報センター第三室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患の分野では近年、感染がアレルギー疾患を予防する、ないし、発生頻度を減少させるとされている。一方アレルギー反応としてはアレルゲンの暴露が症状を誘発する最も多い原因と考えられてきたが、近年、気管支喘息ではウィルス感染が発作の原因として最多であるとの報告も見られるようなってきた。このため、気管支喘息とウイルス感染の問題がさらに要になってきた。結核に感するとTh1タイプの細胞免疫が誘導され、アレルギーになりにくいという考えは広く知られたことである。また、hygiene・hypothesisの考えのように、乳幼児期の生活環境が近年変わり、兄弟内のウイルス感染が少いと、ウイルス感染によりアレルギーが起こってくる率も高くなるという考えがでてきた。また、ウイルス感染による気管支喘息の悪化も極めて重要である。アレルギー疾患のコントロールの上で実際にウイルス感染がどのようにしてアレルギー疾患に関与するのかを基礎面と臨床面の両面から研究することとした。
研究方法
①小児に関して:小児の研究は今回6施設で行った。研究方法もそれぞれ異なり、各施設での特徴を出して研究を進めた。勝沼は1ヶ月間に入院した喘息発作患者の鼻汁中のRSウイルス抗原測定を行い、発作との関係を比較した。海老澤らは喘息発作シーズン中のRSウイルスの迅速診断、ライノウイルスをPCRにより検討を行い、発作との関係を調査した。田島らは喘息患者170人と肺炎、気管支肺炎患者263人を対象に、アデノウイルス、パラインフルエンザ1、2、3、RSウイルス、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジアに対する抗体検査を行い、一部PCRによる検索を行った。小田島らは喘鳴を主訴に入院したカタル症状のある児を対象とし、対象を絞った4歳以上の入院患児のRSV抗原を検索し解析を行った。椿らは初回の喘鳴、呼吸困難を主訴に入院した入院時に乳児にアンケートを送付し、71名を対象とし、今までに気管支喘息と診断を受けたか否かにより2群にわけ、調査を行った。一戸らはRSウイルス、ライノウイルス、また抗体値の検討から示唆される肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマのPCRプライマーを作成し、鼻腔拭い液をマイナス80度で冷凍保存しRT-PCR法で検出した。また。三つ子の喘息児を一月ごとに定期受診時に、及び発作で来院時に鼻腔拭い液を一年間通してRSウイルス、ライノウイルスの検出を行なった。②成人に関して:秋山らは、成人喘息366人を対象とし、アトピー、非アトピーと区別し、外来初診のウイルス抗体価を測定し、ウイルスとの関係を調査した。工藤らは、過去3年間の喘息患者を対象に発作の誘因及ぴ患者の病型、喘息罹患期間、吸入ステロイド使用、喫煙、呼吸器合併症、血清学的検査等を行った。佐野らは、入院を要する気管支喘息発作の成人のうちウイルス感染の関与する患者への率を検討した。③基礎的研究に関して:足立らは培養上皮細胞を用いてC-Cchemokineであるeotaxin、RANTESが如何に誘導されてくるのかの研究を行い、インフルエンザで喘息が悪化す
るメカニズムの研究を行った。永井らはマウスの喘息モデルを作成し、インフルエンザウイルスを暴露し、気道の過敏性、気道内好酸球の変化を検討した。多屋らはヒト脳炎ウイルス、インフルエンザウイルスについての流行予測と疫学についての調査を行った。
結果と考察
勝沼らの結果では、喘息で入院した患者19人中からライノウイルス陽性であった喘息児は4人で、RSVを検出した者はいなかった。ライノウイルス感染者は4人中3人が中等症持続型の喘息児で軽症児ではなかった。海老沢らの発作時調べたウイルスペアー血清で、6例が陽性であり、RT-PCR法によるライノウイルスの検討では71人中57人(80%)が陽性であった。喘息治療に関しても、かなり重症な治療を要し、イソプロテレノール持続吸入療法(18.3%)、静脈からのステロイド投与(39.4%)で、ウイルス感染後の喘息発作がひどいことがはっきりした。田島らは71名のペアー血清をRSウイルスに関して検索し、21.1%にパラインフルエンザ8.5%、インフルエンザ1.4%に認めている。小田島らはRSVを検索した335例、そのうち4歳以上の症例42人、さらにRSV抗原陽性14例の臨床特長を検討した結果、RSVの初回感染が14例中5例、RSV感染者はあらかじめアレルギー素因を持っている者が多く、ダニ特異1gE抗体陽性者が12人中11人であった。椿らは初回喘鳴・呼吸困難を主訴としたうちの71人を喘息進展群(43人)、喘息非進展群(28人)に分け臨床的検討を行ったが両群では有意な違いがなかった。一戸らは気道症状で来院した児の鼻腔拭い液からのウイルス検出を試みると、いろいろなウイルスが検出されたという結果、または、三つ子の喘息患者の一年間の頻回検査で、ライノウイルスは有症状時の検出頻度が非常に高いことがはっきりしたという興味ある結果であった。成人の結果でも興味あるデーターは秋山らの報告で、366人の成人喘息のうちウイルス感染を契機に喘息が発症したと考えられる例は、非アトピー喘息が有意に(p<0.01)多かった。そして、この非アトピータイプの喘息患者がウイルス感染が契機になった時期は1月と4月、その次は9月から12月であったのに対して、アトピータイプは季節に関係なかった。工藤らは117人の気道感染により喘息発作が誘発され率は87%であり、そのうち喀痰培養を行った81名中3割に細菌感染ありと判断。その群に抗生剤を投与するが、投与期間が長いことから、細菌感染が気道の過敏性に影響を与えることも検討する必要がある結果であった。佐野らは入院を要する気管支喘息発作とウイルス感染と関連を検討し、喘息患者の急性上気道炎が関与するものが20%、下気道炎を含めると42%に関与が認められた。基礎面からの結果では、足立らは気道上皮細胞へ種々の刺激を加えることによりサイトカイン、ケモカインなどの生理活性物質の産生放出やICAM-1などの接着分子の発現が観察されることを見いだした。このためin vitroにおける気道上皮細胞培養系を確立し、これに対し炎症性サイトカイン刺激やウイルス感染モデルであるdsRNA刺激を行い、新たな生理活性物質の産生などにつき検討を加えた。特にEotaxinの発現、調節を正常人上皮細胞に刺激を与え、中でもIL-4に影響を与える作用まで検討した。気道上皮細胞を培養しdsRNA刺激で、上清中のサイトカインのIL-8,RANTES濃度はdsRNA刺激後24、48、時間と増加が見られ有意(P<0.05)にその産生増加が認められた。IL-8,RANTESのmRNAレベルでの発現が確認された。RANTESのpromoter領域を用いた発現実験においてNF-kb、IRFの関与が確認された。永井らはマウスの喘息モデルにインフルエンザウイルスを点鼻投与し、アセチールコリンで気道の過敏性を測定した結果、BAL中のサイトカインに影響は無かった。しかし、この結論にはいくつかの条件が必要なので決定的ではない。多屋らの研究は、インフルエンザウイルスの抗体保有状況については、毎年ワクチン株とそれ以外の流行株について、全国21の道府県で調べ、また、岡部らは気管支喘息発症におけるウイルス感染症の影響に関して、国内で得られた複数の疫学データを解析し、研究班員に提供した。
考案=小児喘息にRSVの感染は発作を重症化する報告が多いが、特に国立相模原病院の喘息入院患者の内、86%がウイルス感染が関与していたことが示され、小児の気管支喘息の背景に、RSウイルスと、ライノウイルスの感染が大きな役割を演じていることが明らかになった。同様の研究を勝沼らも行い、同様の傾向を示し、他の施設からも報告された。一年を通してのウイルス検索では、色々なウイルスが喘息発作に関与していることもはっきりした。更に、小田島らはRSウイルスは年長児の喘息発作の誘因としても重要であり、喘息発症にも関与することが判った。しかし、椿らの研究で1歳未満で細気管支炎で入院した低年齢児ではRSウイルスが喘息発症に有意に関係するか疑問が残った。成人気管支喘息に関しても、秋山らの報告では喘息発作ですぐ受診しウイルス検索が十分されている例が小児より少なく、非アトピータイプの喘息患者とウイルス感染の関連が示唆された。また、工藤らの報告で、ウイルス感染後発作が遷延する例もあり、ウイルス感染後の細菌感染が関与してくることが示唆された。佐野らは入院を要する気管支喘息発作の誘因として、急性上気道炎 が20%以上を占め、さらに、下気道症状合併例も含めると42%に達していた。 類似した気道感染徴候を呈した気管支喘息患者のうち、インフルエンザ・ウイルス抗原陽性例と陰性例で喘息発作の増悪頻度に有意な差はなかった。基礎面からの検討では、気道上皮細胞にインフルエンザウイルスを曝露した際に、細胞内変化や、eotaxin、RANTES等の遊離ケモカインがアレルギー炎症の病態形成に非常に重要な物質であることが見いだされた。喘息モデルマウスをインフルエンザで感作して特に変化がない結果であったが、この点については感染時期に問題であった可能性がある。インフルエンザ曝露で局所のIgE値の上昇が見られれる報告があることからしても、感染時期を変え今後検討の必要がある。日本脳炎ワクチン未接種群に日本脳炎ウイルス中和抗体が検出されたことは重大な事実で、インフルエンザウイルスも中枢神経症状を呈するウイルスであり、今後の対策が重要と考える。
結論
小児の喘息発作の誘因の中ではRSウイルスが比較的重症発作を惹起し、年齢が高い喘息児にも発作誘因の原因となることが判った。更に興味あることは小児でもRSウイルス感染よりもライノウイルス感染が高頻度で気管支喘息発作を誘発することが判明し、ウイルス感染後の細菌感染も気道の過敏性を遷延化させていることが考えられた。基礎面での問題点はインフルエンザの喘息悪化にRANTESなどのサイトカイン、ケモカインの産生が関与していることが判明した。すなわち感冒罹患により生体内でサイトカイン、ケモカインの産生増加が誘導され気道におけるアレルギー性炎症の増悪へと結びつくことが想定された。

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