関節リウマチの難治性病態に対する新規治療法の開発研究

文献情報

文献番号
200200814A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの難治性病態に対する新規治療法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 信之(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本博史(順天堂大学医学部)
  • 渥美達也(北海道大学医学部)
  • 山本一彦(東京大学医学部)
  • 原 まさ子(東京女子医科大学)
  • 右田清志(国立病院長崎医療センター)
  • 亀田秀人(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 田中良哉(産業医科大学医学部)
  • 上阪 等(東京医科歯科大学医学部)
  • 津谷喜一郎(東京大学薬学部)
  • 宮坂信之(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)の長期予後は改善しつつあるで、患者の生存率の延長に伴って新たに出現した難治性病態や治療薬剤による有害事象によって誘発される難治性病態などは、日常臨床上、大いなる問題となっている。さらに、現在の治療法に全く反応せずに日常労作の著しい障害を来る進行性の症例も少なからず存在している。本研究においては、難治性RA患者に対して有害事象が少なくかつ関節破壊を防止し、しかも患者のQOLを高める治療法の開発と実用化を試み、RAに対する新たな治療方針の確立に努めることを目標としている。
研究方法
本年度は、血漿交換療法、白血球除去療法、T細胞レセプター標的療法、多剤耐性遺伝子標的療法、細胞シグナル伝達阻害療法、末梢血幹細胞移植療法、アポトーシス誘導療法、細胞周期調節療法、抗サイトカイン療法などについて、その作用機序、有用性、臨床応用の可能性などを解析するとともに、抗サイトカイン療法のcost-effectiveness analysis(CEA)についても検討を行った。このため、一部の実験はin vitroを用いて行うとともに、動物モデルを用いたin vivoの実験と比較対照した。
結果と考察
橋本は白血球除去療法について検討を行った。アメリカリウマチ学会診断基準を満たす5名のRA患者に対して白血球除去療法を週1回の間隔で5回行い、ACRコアセット20%以上の改善を認めたものを効果ありと判定した。その結果、5例中メトトレキサート(MTX)抵抗性の3例において治療効果を認め、その効果は治療終了4週以降も継続した。今後、さらに治療プロトコルの検討、responderの臨床的特徴、本治療法の作用機序についての検索が進められる予定である。また同時に、cost performanceの面からの検討も行われる必要がある。渥美は自家末梢血幹細胞移植療法(APBST)について強皮症患者3例での治験経験を報告し、CD34陽性細胞を選択的に移入することによって速やかな造血能の回復とともに皮膚硬化の改善がみられ、それとともにサイトカイン関連遺伝子のダイナミックな変化が起こることをcDNAアレイを用いて明らかにした。今後、薬剤抵抗性RAに対してAPBST治療を行うことを検討しているが、cost performanceの問題に加えて移植後の強い免疫抑制の問題に対してどのように対処するかが課題として残されている。右田は新規抗リウマチ薬レフルノミドの薬理作用について検討を行った。その結果、レフルノミドはIL-1β刺激で誘導されるRA滑膜細胞からのMMP-13の産生を阻害した。また、本剤はIL-1β刺激で誘導されるRA滑膜細胞のERK1/2,p38の活性化には影響しなかったが、JNK1/2の活性化を阻害した。以上より、レフルノミドは細胞内シグナルに影響を及ぼし、MAPキナーゼの一つであるJNKの阻害によるMMP-13産生低下を介して抗リウマチ作用を発揮している可能性が示唆された。田中は治療抵抗性となる一つのメカニズムとして多剤耐性遺伝子が関与している可能性を推測し、25例のRA患者について多剤耐性遺伝子MDR-1がコードする細胞膜上P糖蛋白質の発現、及びMDR-1の特異的転写因子であるYB-1の細胞内発現を検討したところ、両分子の発現がともに亢進しており、しかも罹患年数及び投与された抗リウマチ薬数と正の相関を示すことが明らかとなった。さらに、P糖蛋白質発現亢進がみられる患者での細胞内ステロイド濃度は低下しているが、in vit
roにおけるシクロスポリンとの共存下で回復した。これまでRAにおける薬剤抵抗性及びエスケープ現象の分子機構は不明であったが、本研究によって、RAにおける難治性となる機序に多剤耐性遺伝子MDR-1が関与していること、そしてP糖蛋白質阻害薬は治療抵抗性を回復させる可能があることが初めて明らかとなった。山本は以前より抗原特異的免疫療法の可能性について提唱しているが、これは、生体内の情報を利用したT細胞レセプター遺伝子のクローニングから、遺伝子導入による抗原特異性の再構築、さらに機能遺伝子の導入を含めた抗原特異的T細胞の試験管内再構築とその疾患への応用からなっている。本年度は昨年に引き続き、ループス腎炎モデルを用いて解析を行った。彼らは高効率レトロウイルスベクターを用いて、NZB/WF1マウスのCD4陽性T細胞にヌクレオソーム特異的T細胞レセプターα/β鎖遺伝子を導入することによって抗原特異性を再構築し、さらに共刺激分子を阻害するCTLA4Ig遺伝子を導入することにより抑制性細胞を作製し、若年NZB/WF1マウスに移入した。その結果、自己抗体産生および腎炎発症抑制を認めたことから、現在、コラーゲン誘発関節炎モデルにおいて病変局所に浸潤しているT細胞からのT細胞レセプタークローニングを行っており、この抗原特異的療法がRA治療に応用可能か否かを検証する予定である。宮坂はT細胞活性化に関与する新規細胞表面分子B7hを標的とする新規治療法の開発研究を行った。B7hは活性化T細胞に発現されているICOSのレセプターであり、T細胞活性化の共刺激分子として知られている。今回の研究では、マウスコラーゲン関節炎(CIA)の発症、病態の進展における抗B7h抗体の効果を解析したが、抗B7h抗体の関節炎発症前投与は関節炎の程度を軽減させたのみならず、発症後の投与においても十分な治療効果を有していた。さらに本抗体投与により、関節内におけるTNFα、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインの発現は抑制され、しかも血清抗Ⅱ型コラーゲン抗体価、IgG2a及びIgG2b抗体価も減少したことから、B7h標的療法は難治性RAに対する新規治療法の一つとなりうる可能性が推測された。原は、RA滑膜においてTNFファミリーに属するLIGHTがRA滑膜浸潤T細胞上に発現され、さらにその受容体であるherpes virus entry mediator(HVM)が滑膜細胞上に発現していることを自ら発見し、その意義について検討を行った。リコンビナント可溶性LIGHTとIFNγを用いてCD14陽性滑膜細胞を刺激すると、TNFα及びIL-12の産生が用量依存的に増強され、さらにERK1/2及びp38のリン酸化が認め得られた。以上の結果は、滑膜浸潤T細胞とマクロファージ様滑膜細胞との相互作用にLIGHTおよびその受容体が重要な役割を果たしていることを示唆しており、両分子の相互作用を阻害することが難治性RAの新規治療法となりうる可能性を示すものと考えられる。上阪は、細胞周期調節分子群として知られるサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)p16INK4、p21Clip1の遺伝子導入によってCIAなどの動物モデルにおける関節炎発症を抑制できることをすでに明らかにしており、その作用機序についてDNAマイクロアレイなどを用いてさらに詳細に検討を行った。その結果、培養滑膜細胞にp21Clip1アデノウイルスを感染させると、細胞殖が阻害されるのみならず、IL-1依存的及び一部の系ではIL-1非依存的にIL-8、MCP-1、MMP-1、-3、cathepsin Kなどの炎症性メディエーターの発現が低下した。さらにp21Clip1遺伝子導入によって細胞内のAP-1やNFκB活性の阻害もみられたことから、細胞周期抑制療法は細胞殖のみならず、滑膜細胞からの炎症性メディエーターの発現を抑制することによってその治療効果がもたらされていることが示唆された。今後、この細胞周期調節療法が難治性RAに対して応用可能か否かについての検討が継続される予定である。亀田は、RAにおける滑膜増殖において滑膜細胞内のアダプター蛋白の関与を推測し、新たな分子標的療法の可能性を追究している。今回の研究では線維芽細胞のin vitro transformationモデルを用いた系においてアダプター蛋白Gab1の発現と機能
を検討し、次いで正常及び変異Gab1遺伝子導入によるtransformationを解析した。その結果、Gab1の発現異常が線維芽細胞のtransformationを引き起こすことが明らかにされたことから、現在、RA滑膜細胞においてもこのようなGab1の発現異常が起こっているのかについて検討を行っている。津谷は、本年度内に承認が予定されているetanerceptが、海外では自己注射で承認されているのに対して日本では通院治療の承認となる可能性が高いことに注目し、etanerceptの自己注射・通院治療のcost-effective analysis (CEA)を行うプロトコルを作成した。治療費は、direct cost(初診料・再診料、処方費、注射費、検査費、通院費、自己注射の教育コスト)とindirect cost(介護者を含めた労働損失)とに大別されるが、本分析は諸外国でもなされておらず、来年度に出る結果が期待される。将来的には、生物製剤と既存の抗リウマチ薬との長期アウトカムを用いたCEAを行い、生物製剤の有用性と問題点を経済性の面から明らかにする予定である。
結論
今回の検討により、RAの難治性病態に対して有効性が期待される新規治療法の開発が可能であることを示唆する結果が得られつつある。これらの中にはすぐに臨床応用が可能なものと、今後の検討が必要なものとに大別されるが、来年度もこれらの検討をさらに継続することによって、各種の新規治療法の分子機序を解明するとともに、有害事象が少なくかつ臨床的に有効な新規治療法の開発を目指したい。

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