アレルギー疾患を抑制する新規天然薬物の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200200813A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患を抑制する新規天然薬物の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 五男(東邦大学医学部第二小児科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木政雄(東京理科大学薬学部)
  • 北中進(日本大学薬学部)
  • 羅智靖(日本大学医学部先進医学総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)抗アレルギー、抗炎症作用が報告されている天然薬物の植物中の生物活性成分のデータベース化を進め、薬物活性と構造との相関モデルを作成する。また植物由来の民間薬等の評価を解析する。2)天然薬物のシジュウム、ホップ、アカメガシワ、クスノハガシワ、ホソバキシンソウの5種の生薬につい活性成分の解明と作用機序について検討した。3)生薬抽出物質などのアレルギー抑制物質の作用機構を検討する目的で,マスト細胞のIgEの系と非IgE系の活性化の分子的メカニズムを先ず解明する。4)臨床的な検討として天然植物(シジュウム、ヨモギ)の掻痒性疾患に対する有効性をみる。
研究方法
1)活性成分のデータベース化にはSciFinder Scholar 及びChem. Abstr、Medlineを併用し、原著論文から登録した。さらに「牧野和漢薬草大図鑑」に「漢方と民間薬百科」等を含めた書籍などからデータを蓄積し、検索した成分の構造と活性相関のための構造モデルの作成を試みる。さらに民間薬の疫学的調査を行い、具体的な植物の利用、疾病への民間療法適用について薬局に対してアンケート調査を行う。2)(1) ホップ、ホソバキシンソウ、アカメガシワ果実、クスノハガシワ、及びシジュウムの抽出成分及び活性成分の単離及び構造決定する。(2) NO産生能はマクロファージ様株化細胞RAW 264.7細胞を用い、IFN-?/LPSを添加、培養後上清のNO2-量をGriess法で定量した。iNOSの蛋白量の変動はSDS-PAGEに供し求めた。(3) RAW 264.7細胞を用い、IFN-?/LPSを添加し、培養後、各種mRNAを抽出してRT-PCRにより評価した。(4) ヒスタミン遊離能はラット腹腔マスト細胞を用い、Compound 48/80により刺激し、ポストカラムHPLC法で定量した。3)(1)高親和性IgEレセプターを介したマスト細胞活性化におけるFcεRIβ鎖の役割を知る目的でヒトマスト細胞株KU812を宿主細胞として,β鎖遺伝子断片にルシフェラーゼ遺伝子を連結したレポーターアッセイにより,FcεRI鎖の全遺伝子領域からβ鎖遺伝子発現を調節するシスエレメントの探索を行う。(2)マスト細胞に発現するTLR4を介したシグナル伝達ラットマスト細胞株,RBL2H3細胞のTLR4発現をRT-PCR法で解析した.LPSによるTLR4を介したNF-kBの活性化を,NF-kBのレポーター遺伝子を用いルシフェラーゼ法で解析した.4)アトピー性皮膚炎38例、老人性皮膚掻痒症12例を2群に分け、シジュウムローションとシジュウムを含まないローション、及びヨモギローションを1週間の観察期間の後、それぞれ2週間使用し、その後1週間の観察後逆の内容のローションを使用し、その掻痒、日常生活への効果を比較、検討した。
結果と考察
1)①蓄積されたデータベースを解析した結果、植物活性成分は成分数255、科名は40を認め、上位の科はキク科、ショウガ科、マメ科、ウリ科、シソ科などであった。その作用機序は多岐にわたり、選択可能な登録項目が30種以上になり、データベースの構造改良の必要性を生じた。主な機序はシクロオキシゲナーゼ阻害、リポオキシゲナーゼ阻害、ケミカルメディエーター遊離阻害であった。民間療法に起因する基原植物数は60種類に上った。なお、市販民間薬、治療実績データに関しては、試験データとして入力した。市販医薬品の3次元構造と植物成分の構造との間に相関が見られ、その模式図を作成した。②薬剤師による調査で民間薬の販売は、約30%の薬局で行っていたが、その植物種は少数であった。更に、取扱商品数、販売量とも都市部に多く、メディアの影響と考えられた。民間療法の薬剤師の評価では、甜茶については一定の評価を得ており、又、明
確に疾病との関連を述べているものは少数であった。以上の結果、データファイルの作成により同じ科には構造の類似した有効成分の一群があることが多く、それらの薬効を比較することで新たな天然医薬品の開発に必要な知見が見つかることが期待でき、一方、民間薬を販売する薬剤師が必要な情報を患者へ提供するための情報源としても期待できる。2)①シジュウムのin vitro Tr1細胞誘導抑制効果は葉(EtOH抽出)>皮(同)>根(同)の順で強く、葉(熱水抽出)は効果を認めなかった。②経口投与後のマウス脾細胞のTr1細胞活性は葉(熱水抽出)で保持されていたが、シジュウムの葉(EtOH抽出)>皮(同)>根(同)の順で抑制されていた。③B16細胞増殖はシジュウムの葉、皮、根(全てEtOH抽出)で抑制されるが、葉(熱水抽出)では抑制されなかった。④全てのシジュウム抽出物(葉、樹皮、根)の熱水ならびにEtOH抽出エキスに1 ?g/mlより増殖抑制作用が見られた。特に葉および根の熱水抽出エキスには0.1 ?g/mlより増殖抑制作用が認められた。⑤ホップの酢酸エチル抽出物より3種の新規フロログルシン誘導体を単離した。NO産生抑制活性は化合物1(IC50: 14 μM)、化合物2(20μM)、化合物3(237μM)であった。⑥アカメガシワエキス及びphloroglucinol誘導体はPGE2産生を顕著に抑制した.これらはPGHS-2 mRNA発現を阻害し,PGHS-2蛋白量を特異的に減少させる機序により抑制作用を示した.⑦クスノハガシワ (1)果実エキス及び2種の新規フロログルシノール誘導体(I・II)及び3種の新規カルコン誘導体(III・IV・V)をNO産生抑制活性とヒスタミンの遊離を抑制した。⑧ホソバキシンソウより抽出した5成分全てがTr1細胞誘導の抑制活性を持つが、bidensyneoside Cが最も強かった。3)①イントロンを含む遺伝子断片に転写抑制活性が検出され、その結果,転写因子MZF-1の結合モチーフの相同配列が抑制活性に寄与していることが判明した。EMSAにより,この配列に特異的に結合する因子の存在が明らかになった。大腸菌による組み換えヒトMZF-1がこの配列に結合し,またKU812細胞にMZF-1のアンチセンスオリゴを導入するとβ鎖mRNA量が増加することから,MZF-1が結合してβ鎖発現抑制に機能していることが判明した。今後はβ鎖発現強度により,マスト細胞のIgE・抗原に対する反応(過敏性)が大きく規定されている可能性が強く,β鎖遺伝子全長に亘って発現制御領域の解析が必要である。②TLR4の情報伝達に係わることが知られているIRAK及びTRAF6のdominant negative(D/N)体の過剰発現は,LPS刺激によるNF-kB活性化を抑制した。しかし,その上流に位置するMyD88-D/N体の過剰発現は顕著な抑制効果を示さなかった。一方,MyD88非依存的なNF-kBの活性化経路として知られるPKRのD/N体はNF-kBを有意に抑制し,PKRの阻害剤である2-aminoprorineはLPSによるNF-kBの活性化を抑制した。今後Fc?RIを介するシグナル伝達経路との相違,クロストークを明らかにし,脱顆粒反応との分岐点を検討することで,アレルギー反応へと向かうマスト細胞の分子的基盤を解明したい。4)シジュウムとヨモギの皮膚掻痒症に対する検討では①シジュウムがヨモギおよびコントロールに比べ有意(p<0.05)に痒みを抑制していた.②日常生活に対する効果も同様であった。以上より、シジュウムが掻痒を有する疾患へ応用が可能であると考えられた。
結論
結語.アレルギー疾患に有効と言われる天然薬物のデータベースの基盤がほぼ作成でき、同時の新規に確認された天然薬物の活性物質に関するデータを取り入れることにより、有用な天然薬物の情報が確立でき、より有効な使用法などが可能になるものと考える。また、新規薬物の臨床的な検討に加え、解明されたマスト細胞を中心としたアレルギー発症機構においてその活性物質を検討することで、新規な薬物の開発につながるものと考える。             

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