免疫疾患に対する免疫抑制療法等先端的新規治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200200811A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫疾患に対する免疫抑制療法等先端的新規治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学大学院医学研究科)
  • 住田孝之(筑波大学臨床医学系内科)
  • 山村隆(国立精神神経センター神経研究所)
  • 上阪等(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 坂口志文(京都大学再生医科学研究所)
  • 田中良哉(産業医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全身性自己免疫疾患を中心とした免疫難病についての現在の治療法は、副腎ステロイドや免疫抑制薬が中心であり、一定の効果はあるものの、免疫系全体に対する抑制作用などの副作用が患者にとって不利に働くことが少なくない。したがって、より選択的、特異的で副作用の少ない治療法を開発することは緊急の課題となっている。しかし、我が国ではベンチャー企業の立ち後れ、基礎免疫と臨床免疫の相互交流の少なさなどから、この方面の研究が進んでいないのが現状である。そこで、本研究は、我が国で確立されつつあるオリジナルな概念を中心に、近未来的に実際の患者に応用可能な先端的新規治療法について、ヒト及びモデル動物での治療法を確立する事を目的とした。
研究方法
山本は、全身性エリテマトーデスなどの動物モデルについて、病変臓器に浸潤しているT細胞クローンの動きを、独自に開発したクローン解析法で解析し、種々のパラメーターから病変特異的であると判定出来るクローンについて、その一つの細胞に発現しているT細胞レセプターの2つの鎖の全長cDNAをクローニングする技術の完成を目指した。さらに複数の遺伝子を効率よくリンパ球に導入出来るベクターの開発を進め、自己のリンパ球に2つのT細胞レセプター遺伝子に加えて3つ目の機能遺伝子を導入することで、人工改変による抗原特異的機能的T細胞を作成する技術の完成を目指した。これにより全身性自己免疫疾患をはじめとする種々の免疫疾患に対する免疫細胞療法の技術が可能であることを示すことを目指した。
坂口はマウスの系で、自身が発見したCD25陽性CD4陽性の制御性T細胞自体を制御する分子の検索と同定を行った。モノクローナル抗体の作成などと同時に、Foxp3遺伝子に注目して、レトロウイルスベクターにて正常マウスのナイーブT細胞に遺伝子導入してその機能を調べた。山村は、すでに発表しているOCHと同様にNKT細胞を刺激する新規糖脂質を合成し、種々の免疫疾患を抑制できるものをスクリーニングした。これによりNKT細胞が産生するサイトカインのバランスを調節することで、免疫疾患を制御する方法の確立を目指した。
住田はヒトや動物モデルで既に同定してきた病因T細胞が認識するエピトープについて、その配列を一部改変することで病因T細胞の機能を修飾する方法を検討した。具体的にはコラーゲンタイプIIのエピトープの検索とそれを改変したアナログペプチドを作成し、T細胞株の反応を検討した。またα-アミラーゼなどのT細胞エピトープをリコンビナント蛋白や合成ペプチドで決定した。
上阪は病態形成に関わるCD8陽性T細胞に注目し、その増殖の速さの原因を追及した。DNAアレイ法、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリ法などを用いてCD4陽性T細胞との差異を検討した。
田中は、B細胞に注目し、フローサイトメトリ法にて細胞表面抗原、細胞内分子の同定を行うとともに、既に欧米では癌や一部の自己免疫疾患の治療に用いられている抗CD20抗体の全身性自己免疫疾患治療への適応を検討した。小池は、既に自らが確立している自家末梢血純化CD34陽性細胞移植による免疫疾患の治療法のさらなる改良を目指し、治療前後の免疫学的変化を自己抗体価、末梢血リンパ球表面マーカー、細胞内サイトカインの発現、DNAマイクロアレイによる種々の遺伝子変化などで解析した。
結果と考察
山本は難治性ループスモデルのNZBW F1マウスの脾細胞に、ヌクレオソームに対するT細胞レセプター遺伝子と抑制性のCTLA4Ig分子をコードする遺伝子の3つを導入することで、抗原特異的抑制性T細胞を作成し、それを1回少数NZBW F1マウスに細胞導入することで腎炎の発症を抑制できることを始めて示した。このような制御性T細胞による治療法が可能であることが判明した。坂口はFoxp3遺伝子を導入することにより、自らが発見し世界的に注目されているCD25陽性CD4陽性制御性T細胞の発生、分化を司るマスター遺伝子の可能性を見いだした。山村は自己免疫疾患の制御で注目されているNKT細胞を刺激する変異ペプチドについて、Natureに昨年発表したスフィンゴシン鎖の異なるOCHが、 IL-4を誘導するとともに、ヒトNKT細胞にも効果があることを見いだした。
住田はコラーゲンタイプIIのT細胞エピトープを決定し、アナログペプチドを作成しT細胞株の反応を検討している。またGlucose-6-phosphate isomerase、α-アミラーゼ、ムスカリン作動性アセチルコリン受容体のアピトープの決定を進めた。上阪は増殖の速いCD8陽性T細胞を細胞増殖を制御するサイクリン依存性キナーゼ阻害因子のp27Kip1の発現低下が認められることを明らかにし、さらにIL-10受容体の発現低下がその原因の一部であることが推定された。
田中はSLE患者B細胞がTh2サイトカインとCD40-CD40Lを解する経路で活性化され細胞死を免れていることを示した。またCD20抗体を用いて重症SLE患者を治療した例を報告し、その有用性を示した。小池は強皮症3例の自己末梢血CD34陽性細胞移植について、特に皮膚硬化所見の明らかな改善が見られたが、自己抗体などは消失せず、むしろ高値になったり新たに出現したりするものもあり、移植後新たに自己免疫が発生する可能性を示した。
欧米では、免疫担当の細胞や分子に対するモノクローナル抗体療法、小分子の阻害薬、遺伝子療法、細胞療法など、多くの分野の技術・資源を動員して、免疫疾患に対する種々の治療法の開発が進められている。本研究にも含まれる骨髄幹細胞移植も数年前から実際の患者で治療研究が進められている。しかし、実際には少数の抗体療法を除いて未だに世界的に認められたものは多くないことから、さらに研究を進める必要性が提言されている。
一方、我が国では基礎免疫学は世界的なレベルにあるが、基礎免疫学と臨床免疫学を結ぶいわゆる応用免疫学の領域の発展が種々の理由で十分ではない。従来個々の研究室レベルからは、それぞれ新しい治療法の可能性についての検討の報告は散見されているが、研究者の組織または領域として新規治療法開発を推進するような土壌がほとんどなかったのが現状である。 そこで、本研究は我が国で独自の新規治療法の開発に積極的な一流の基礎免疫学者と一定のレベル以上の基礎的な研究を行いつつ疾患研究を進めている臨床免疫学者を比較的少数集め、近未来的に応用可能であることに焦点を絞り、お互いに情報・技術を交換しながら、それぞれが独自の治療法を目指した。一年目の成果としては、かなりの達成度であると思える。
結論
これまで我が国から発したオリジナルな概念である、CD25陽性CD4陽性制御性T細胞、NKT細胞の制御法、T細胞レセプター遺伝子導入、細胞周期遺伝子導入をはじめとして、欧米でホットに研究開発が展開されている末梢血幹細胞移植、抗体療法、変異ペプチドなどについて、それぞれの第一人者を集め、世界的に高いレベル研究を推進できた。また臨床への応用に関してはすでにヒトでの治療を始めているものから、マウスでの治療法の開発の段階までの種々の段階のものがあり、近未来的に応用可能なことを目指して、各段階での実際的な問題点を明らかにして、各プロジェクトがスムーズに開発に向けられるようにする必要がある。 

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