免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200200810A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 博史(順天堂大学膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 猪熊茂子(都立駒込病院アレルギー膠原病科)
  • 岡田洋右(産業医大第一内科)
  • 鏑木淳一(東京電力病院内科)
  • 亀田秀人(埼玉医大総合医療センター第二内科)
  • 熊谷俊一(神戸大学大学院医学系研究科臨床病態免疫学)
  • 近藤啓文(北里大学内科学V)
  • 諏訪 昭(慶應大学内科)
  • 戸叶嘉明(順天堂大学膠原病内科)
  • 長坂憲治(東京医科歯科大学膠原病リウマチ内科)
  • 針谷正祥(東京女子医大膠原病リウマチ痛風センター)
  • 広畑俊成(帝京大学内科)
  • 槇野博史(岡山大学大学院医歯学総合研究科腎免疫内分泌代謝内科)
  • 吉田雅治(東京医大八王子医療センター腎臓科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、免疫疾患、特に膠原病の生命予後のは著しい改善を認め、長期生存者の増加が見られるが、反面、重篤な臓器病変や長期治療・加齢などによる合併症を有する症例の増加も見られる。本研究では、膠原病の合併症を横断的に捉え、予後やQOLに影響を及ぼす合併症を重点課題に掲げ、病態の解析と治療法・予防法の確立を目標として、本研究を始めた。初年度は臨床上現在問題になっている最重点課題を選択し、分担研究者の中で小委員会を構成して、課題別に研究を始めた。
研究方法
以下の如く、重点課題について小委員会を設置し、共同研究を開始した。
1. 肺病変小委員会(近藤啓文委員長)
膠原病の肺病変でも予後が不良と言われる間質性肺炎(IP)、肺高血圧症(PH)及び肺出血、縦隔気腫に絞り、分担研究者施設での過去5年間の実態調査を調査表により行った。このうち、IPとPHに関しては、プロスペクティスタディが可能な症例数も調査した。
2. 腎病変小委員会(槇野博史委員長)
アンケートを分担研究者に配布し、治療抵抗性ネフローゼの実数について調査及び急速進行性腎炎のシクロフォスファミドの適応・投与方法に関しての一次調査を開始した。
3. 血液病変小委員会(鏑木淳一委員長)
リン脂質抗体症候群(APS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、血球貪食症候群(HPS)の4つを重要な病変として取り上げ、分担研究者に調査用紙を配布して調査を行った。
4. 精神神経病変小委員会(広畑俊成委員長)
疾患をCNSループスに絞り、過去10年間の分担研究者施設での症例について調査票による実態調査が行われた。
5. 感染症小委員会(猪熊茂子委員長)
調査票により、分担研究者の施設における過去5年間の一般細菌感染症、抗酸菌症、真菌症についての疾患別症例数・死亡数が調査された。また、カリニ肺炎・サイトメガロ(CMV)感染症についての実態調査も同時に行われた。 
6. ステロイド誘発骨粗鬆症(熊谷俊一委員長)
調査票によりステロイド長期服用者における骨粗鬆症の実態調査が始まった。また、ビスフォスフォネートの有用性を解析する比較試験が一部の施設で始まった。
結果と考察
1.肺病変小委員会
調査進行中であるが、IPとPHのプロスペクティブスタディが可能な症例数は2年間、12施設でIP287例、PH57例であることが判明した。今後はこの症例を解析して、どの治療法が有効であるかを明らかにしていく。なお、委員長の近藤班員の施設ではPHに対する経口のPGI2の効果を検討し、肺血管抵抗あるいは機能評価の改善が得られ、今後は静注PGI2も含めた治療法の開発が期待できる。
2.腎病変小委員会
一次調査の結果は集計中で次年度を待たねばならないが、委員長の槇野班員及び亀田班員から、ループス腎炎に関する報告があった。
槇野班員はループス腎炎の症例で腎生検所見と高血圧との関連を検討し、高血圧が活動性・重症度と関連することを見出し、この指標の有用性が示唆された。一方、亀田班員は腎機能が保持されたネフローゼ症候群を呈するループス腎炎の症例にシクロスポリンAを投与して有効なことを報告し、ステロイド抵抗性の症例の治療の選択肢としての期待が持たれた。
3.血液病変小委員会
DIC・TTP・HPSに関しては実態調査が完了し、分担研究者から合計でそれぞれ、53例、42例、42例が集積され、今後は二次調査でさらに実態を明らかにしていく。一方、委員長の鏑木班員はリポ蛋白(a)(Lp(a))の動脈血栓の危険因子としての重要性を、渥美班員は血管内皮活性化の指標としてのvon Willebrad因子(vWF)の重要性を指摘され、血液病変のモニターとして期待が持たれた。
4.精神神経病変小委員会
分担研究者に施設における実態調査の結果、
177例が集積され、今後は小委員会でレビューを行って分類予備基準を目指していく。また、委員長の広畑班員及び戸叶班員からはCNSループス症例の髄液中に増加するIFNαがT細胞のCD154を介した活性化に関与する可能性及び、モノアミンの産生に関与する可能性がそれぞれ報告され、今後の病態解明に役立つと思われる。さらに、戸叶班員からはCNSループスの種々の検査を多角的に解析し、病態・経過により有用な項目が異なることが指摘され、これは前述の分類予備基準の作成にも参考になると思われた。
5.感染症小委員会
実態調査は5月末をめどに各分担研究者の施設で進められている。なお、委員長の猪熊班員は自験例をまとめて皮膚の帯状疱疹と肺炎が多いことを示すと同時に、カリニ肺炎、サイトメガロ感染症、劇症型溶連菌感染症が重症であることを指摘した。この中で、カリニ肺炎に関しては猪熊班員から画像所見・LDH・β-D-グルカンの診断における有用性が、長坂班員からは危険因子としての高用量ステロイド・免疫抑制剤・間質性肺炎の合併・治療後の血清IgG低下が指摘された。また、吉田班員からは真菌・カリニ肺炎の診断・治療の指標としての抗β―グルカン抗体の意義が報告された。これらの報告は実態調査の解析と治療方針の作成の参考になると思われる。
6.ステロイド誘発骨粗鬆症小委員会
ステロイド長期服用症例の実態調査は4月中をめどに各施設で行われている。また、ビスフォスフォネートの比較試験は一部の施設で倫理委員会を通り、開始された。この、ビスフォスフォネートの効果に関しては一部の小委員の施設ではすでに行われ、委員長の熊谷班員はエチドロネート400mgの有用性を、岡田班員と諏訪班員は200mgの有用性を報告しており、比較試験の結果が期待できると思われる。
結論
1.肺病変小委員会
分担研究者の施設におけるIP・PHの症例数の把握ができ、後者に対して、経口PGI2の有用性が認められた。
2.腎病変小委員会
ループス腎炎において、高血圧の活動性の指標としての重要性とシクロスポリンの有用性が判明した。
3.血液病変小委員会
DIC・TTP・HPSの調査可能な実数が判明した。また、vWF及びLp(a)は新たな血液病変の指標となりうる可能性が示唆された。
4.精神神経病変小委員会
CNSループスの分担研究者における実態調査が把握できた。また、CNSループスにおける各種検査の有用性、IFNαの病態への関与が判明した。
5.感染症小委員会
膠原病の感染症におけるカリニ肺炎の重要性が指摘され、早期診断法・危険因子が報告された。
6.ステロイド誘発骨粗鬆症小委員会
各個研究でエチドロネートの有用性が示された。

公開日・更新日

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