全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200200809A
報告書区分
総括
研究課題名
全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
三森 経世(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 市川健司(国立療養所西札幌病院)
  • 遠藤平仁(北里大学)
  • 桑名正隆(慶應義塾大学)
  • 高崎芳成(順天堂大学)
  • 田中真生(京都大学)
  • 津坂憲政(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 堤明人(筑波大学)
  • 寺井千尋(東京女子医科大学)
  • 土肥眞(東京大学)
  • 南木敏宏(東京医科歯科大学)
  • 平形道人(慶應義塾大学内科)
  • 広畑俊成(帝京大学)
  • 山田秀裕(聖マリアンナ医科大学)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膠原病を中心とする全身性自己免疫疾患は「難病」を代表する疾患群であるが、治療の進歩、診断技術の向上により近年その生存率は年代とともに向上している。しかし、総体的な生命予後の向上を見る一方で、依然として治療法が確立していないために死亡率が高く、または重い障害を残すような病態が残されている。このために、膠原病の長期予後は必ずしも満足すべきものではなく、むしろ長期生存例が増えるにつれてかかる難治性病態が一層クローズアップされるようになった。膠原病の生命予後をさらに改善し、QOLを改善してより良いライフスタイルを確立するためには、このような難治性病態を解明して有効な診断と治療法を開発することが急務と考える。そこで、本計画は膠原病難治性病態について疾患横断的に病態解明、診断法の確立、新たな治療法の開発を通じて、わが国における治療ガイドラインの構築をめざす。本年度は、全身性自己免疫疾患における難治性・治療抵抗性の筋炎、心肺病変、腎炎、消化管病変、中枢神経症状、二次性アミロイドーシス、血栓形成病態、線維化病態について、実態調査、病態解明、新たな診断マーカーの開発による早期診断法の確立、従来の治療法の整備と新たな治療法の開発を行うことを目的とした。
研究方法
1)動物モデルおよびin vitro系を用いた病態解明と治療法の開発、2)難治性病態における疾患感受性遺伝子の同定と予後の予測、3)自己抗体による難治性病態の診断と予後予測、4)アンケート調査による難治性病態の全国調査、5)プロスペクティブ研究による難治性病態の治療によった。患者からの検体採取および新たな治療法の臨床応用に際しては、各施設の倫理委員会の承認を受けるとともに、患者より文書同意を取得することを前提とした。
結果と考察
1)自己抗体による難治性病態の診断と予後予測(三森、田中):抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体陽性筋炎は間質性肺炎を高頻度に合併するのみならず、筋炎が再燃しやすく、間質性肺炎がステロイドに反応することを明らかにした。さらに全国の分担研究施設より血清を集め、難治性病態と相関性の高い自己抗体の早期診断、予後判定、治療指針のためのプロスペクティブ共同研究を立ち上げた。2)難治性自己免疫疾患の予後予測因子と遺伝子多型性(堤):病態と関連しうる遺伝子多型として注目されるMannose Binding Lectin (MBL)遺伝子のコドン54多型は、SLEにおける異常型ホモBBの頻度が健常人よりも高く、BB型SLEでは血中MBL濃度の低値を認め、入院を要する感染症を併発する頻度も高いことを報告した。今後IGCR法による発現遺伝子解析の確立を目指す。3)膠原病における線維化病態の機序解明(桑名):膠原病類似の臨床症状を呈する慢性GVHD患者の涙腺組織の超微構造を解析し、初期病変としてT細胞と線維芽細胞との密接な接着、涙腺導管周囲のCD34+線維芽細胞の増加、その周囲のCD40リガンド陽性のCD4+およびCD8+ T細胞の浸潤を認め、線維芽細胞の増殖と細胞外マトリックス産生にはT細胞由来の表面分子間シグナルやサイトカインが関与する可能性が示唆され、線維化機序への新たな治療ターゲットとして注目された。4)膠原病の上皮障害における接着分子の役割(津坂):膠原病の上皮障害のメカニズムとして接着分子を介したT細胞によ
る標的細胞へのアポトーシス誘導が注目されており、特に間質性肺炎に伴う上皮障害では?E?7/E-カドヘリン接着が重要と考えられる。E-カドヘリン全長cDNAからdeletion mutantを作製し、?E?7分子と結合するカドヘリンドメインを決定した。上皮障害に関与する接着分子の役割とエピトープの解明により、膠原病の上皮障害機序とその治療応用が期待される。5)難治性筋炎における自己抗体の臨床免疫学的意義(平形):これまで日本人で報告がなかった抗Mi-2抗体は、日本人のDM13%に見出されることを示し、間質性肺炎合併の少ない治療反応性良好なDMとの関連が示された。6)難治性筋炎の炎症細胞浸潤におけるケモカインの関与(南木):ミオシンで免疫を繰り返した筋炎マウスの骨格筋にはヒトPM/DMと類似の炎症細胞浸潤が見られ、MIP-1a/b、MCP-1/2、fractalkineなどのケモカインmRNA発現が炎症部位で上昇していた。ケモカイン・ケモカインレセプターは難治性筋炎の病態形成に関与し、このモデルは筋炎に対するケモカイン阻害薬の新規治療開発に有用と考えられる。7)中枢神経ループスの病態形成における抗リボゾームP抗体(抗P抗体)の役割の解析(広畑):抗P抗体がCNSループスの病態形成に果たす役割について検討し、単球性白血病細胞THP-1およびIFN-g存在下で培養した末梢血単球表面にリボゾームP抗原の発現が認められ、精製抗P抗体はかかる細胞よりVEGF産生を亢進させたことから、SLEの中枢神経内へのリンパ球侵入や免疫異常の発生に関与する可能性が示唆された。8)実験的肺線維症モデルにおけるTh1/Th2型免疫応答の意義(土肥):ブレオマイシン惹起肺線維症モデルマウスにTh1サイトカイン産生プラスミドベクターを投与し、生体内にTh1優位の環境を誘導したところ、肺線維症を進展増悪させることが明らかになった。このモデルはヒト間質性肺炎の発症機序の解明と新規薬剤の開発に有用と考えられる。9)PM/DMに合併する間質性肺炎(IP)の長期予後に関する研究(山田):難治性IPに対するEBMを確立するため、全国的診療ネットワークの形成と共通データベースを作製し、多施設共同長期前向き臨床試験をめざす。この試験デザインに必要な臨床的根拠をレトロスペクティブに検討し、その解析結果と文献的根拠をもとに、PM/DMのIP合併例に対するシクロホスファミドパルス療法の無作為割付比較対照試験のプロトコールをデザインした。10)膠原病性肺高血圧症(PH)の実態調査(吉田):各分担研究者の施設に通院する膠原病患者の数人に一人の割合で心臓超音波検査と胸部X線撮影、心電図検査を行うプロトコールを作成した。PHの認められる患者にはさらに肺血流シンチグラフィを行う。これらの解析により膠原病性PHの実態と治療成績の向上が期待される。11)流血中PCNA蛋白複合体と腎病変(高崎):重症ループス腎炎における抗PCNA抗体の病態形成上の意義を明らかにするためSLE患者末梢血中の抗原を定量した。SLEの65%に流血中PCNA複合体が検出され、その全例でPCNA陽性活性化単核球が検出された。PCNA陽性単核球が検出されかつ抗PCNA抗体陽性のSLEは高率に腎症を有し、ステロイドパルス療法後には流血中の抗原濃度が上昇することも確認された。12)重症腸管病変により在宅中心静脈栄養法(HPN)を導入した全身性強皮症の臨床的解析(遠藤):経口摂取では十分な栄養補給が困難でHPN導入を要した強皮症患者の臨床的特徴と治療法を解析し、重症腸管病変の治療ガイドラインを検討した。HPNにより栄養状態の改善を認めるものの、長期導入に伴う感染症や静脈閉塞のリスクは高く、看護も含めたグループによる指導管理が必要と考えられた。13)AA-アミロイドーシスの遺伝的要因、病態、治療に関する研究(寺井):続発性アミロイドーシスの危険因子として血清アミロイドA蛋白(SAA1)遺伝子のSAA1?アリルとSAA1遺伝子プロモーター領域の-13Tが判明し、SAA1?遺伝子と連鎖不平衡にあるプロモーターハプロタイプC-T-Gで転写活性亢進が見られ、発現の増加によりアミロイド沈着を招く可能性が示唆された。14)劇症型抗リン脂質抗体症候群(APS)の実態とその病態解明(市川):難治性で予後不良の劇症型APS患者の診断法と治療
法、治療成績の調査により、早期診断・早期治療による予後の改善を目指した。現在まで日本人の劇症型APSの報告は6例で今後症例を蓄積して詳細に検討するため全国調査を予定している。
結論
全身性自己免疫疾患の難治性病態において、実態調査、病態解明、新たな診断マーカーによる早期診断法の確立、従来の治療法の整備とプロスペクティブスタディによる新たな治療法の確立を目指した。特に自己抗体には難治性病態を予測し治療計画に有用と考えられるものが多いため、全国の分担研究施設より血清を集め、自己抗体の早期診断、予後判定、治療指針確立における意義を検討するプロスペクティブ多施設共同研究を立ち上げた。これらの成果は、エビデンスを重視した難治性病態の診療ガイドラインの作成に生かしたい。

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