免疫難病のシグナル異常と病態解明・治療応用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200808A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫難病のシグナル異常と病態解明・治療応用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田中 良哉(産業医科大学医学部第一内科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 梅原久範(京都大学大学院医学研究科臨床生体統御医学講座臨床免疫学)
  • 小池竜司(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生体応答調節学)
  • 小林茂人(順天堂大学医学部膠原病内科)
  • 駒形嘉紀(東京大学医学部附属病院アレルギーリウマチ内科)
  • 坂口志文(京都大学再生医科学研究所・生体機能調節学分野)
  • 高柳広(東京大学大学院医学系研究科免疫学講座)
  • 竹内勤(埼玉医科大学総合医療センター第2内科)
  • 塚田順一(産業医科大学医学部第一内科学講座)
  • 西本憲弘(大阪大学健康体育部健康医学第1部門)
  • 野島美久(群馬大学医学部第3内科)
  • 針谷正祥(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 南康博(神戸大学大学院医学系研究科ゲノム科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
SLEをはじめとする膠原病は、若年発症と多臓器病変を特徴とする全身性自己免疫疾患であるが、病因の解明と治療の確立に関しては発展途上で、ステロイド薬中心の副作用の多い非特異的免疫療法を脱却できず、病態解明と疾患特異的な新規治療開発は急務である。膠原病の病態形成に於ける免疫シグナル異常の重要性が認識されるが、斯様な観点からの組織的研究は既存がない。病因・病態形成に本質的に関与する賦活化・抑制性免疫シグナルの分子・遺伝子レベルでの特定、並びに、制御・修復すべき標的の解明は治療に多大な進歩を齎すはずである。斯様な背景を踏まえ、本研究では、①膠原病を齎す免疫シグナル異常に関する系統的、組織的研究の実践、②基礎研究の臨床開発への応用研究に主眼を置く。主目的は、膠原病の病因や病態形成に本質的に関与する免疫シグナルの異常な賦活化、及び、免疫抑制性シグナルの機能異常を究明し、免疫シグナル異常の是正という視点から疾患制御を追求する事である。本研究組織の特徴は、細胞・動物モデルでの基礎的エビデンス確立とトランスレーショナルリサーチの両立、disease-orientedな臨床と基礎研究の組織的実践、マテリアルやコンセプトの班員相互間での組織的かつ効率的な連携研究の実践である。
研究方法
膠原病の病因や病態形成に直接関与する免疫活性化シグナルの過剰賦活化、免疫抑制性シグナルの機能異常を同定する。その際、①リンパ球の細胞間相互作用を担う細胞間シグナル伝達分子の質的、量的異常、②リンパ球の活性化、細胞死、サイトカイン産生などを担う細胞内シグナル伝達分子の質的、量的異常、③これらの異常に関与する細胞内外のシグナル伝達分子の蛋白質レベル、或は遺伝子レベルでの特定を行う。膠原病患者検体のみならず、正常リンパ球、リンパ系細胞株、動物モデルを用いた研究を駆使し、基礎的エビデンスを確立する。
結果と考察
自己免疫疾患の発症には、免疫担当細胞のシグナル伝達異常による免疫自己寛容の破綻が関与する。SLEに於ける免疫活性化シグナルの異常賦活化を、T細胞の抗原刺激に於いて中心的役割を担うcostimulation(共刺激)分子を中心に検討した。SLE患者IL-4産生性 BRO2細胞は、共刺激分子CD40-CD40Lを介するシグナルを介して活性化され、細胞死から免れて残存した。このCD40Lの発現過剰は、p38MAPKによるmRNAの安定化に起因していた。また、SLE患者単核球由来ゲノムDNAを用いてエピジェネティック機序を解析し、CD40L遺伝子上流域8ケ所のCpG配列が全て非メチル化であるクローンがSLE患者において少なく、発現過剰シグナルとの関連性が示唆された。同様に、CD28ファミリーに属する分子ICOSがT細胞で高発現し、ICOSを介するシグナルはIFN-γとdsDNA抗体の産生を誘導した。さらに、T細胞のシグナル分子であるCD2の架橋刺激により、細胞内シグナル物質が集積するraft の局在蛋白質LATのチロシンリン酸化によりPI-
3キナーゼとPLCγの活性化を齎した。斯様なリンパ球活性化は、核内転写調節レベルで賦活化されるが、リンパ球の細胞外ストレスに対するシグナル伝達では、癌遺伝子産物であるWip1ホスファターゼ及び癌抑制遺伝子産物であるChk2キナーゼ及びPMLが核内において拮抗的シグナルを伝達し、アポトーシスと細胞増殖を制御した。また、Chk2、Wip1、PMLは核内PML小体に局在し、自己免疫疾患で見出される抗核抗体の標的である可能性を示した。また、転写調節の一例としてIL-1β遺伝子転写には炎症性核内転写因子であるNF-IL6とSpi-1 が必須であり、Spi-1と転写基本因子TBPとの蛋白質間結合、細胞内キナーゼなどによる両者のリン酸化が転写に必須なシグナルである事を示した。以上より、SLEに於ける免疫活性化シグナルの異常賦活化は、共刺激分子CD40LやICOSの過剰発現により齎され、mRNA安定化や遺伝子メチル化がその背景に関与し、斯様なリンパ球活性化シグナルを齎す遺伝子は、癌遺伝子産物Wip1、炎症性核内因子C/EBPβやPU.1により転写調節される事が解明された。一方、自己免疫疾患の発症には、活性化細胞の制御・抑制、或は、除去過程の障害も重要な役割を果たす。免疫抑制性のシグナル伝達分子CD47は、マウスの赤脾髄、白脾髄を含め広範囲に、SHPS-1分子は2次濾胞内と濾胞周辺に存在し、T、B細胞の活性化制御シグナルを伝達する可能性を示し、実際、SHPS-1分子の細胞内シグナルを遮断したマウスでは、自己免疫モデルに類似した。また、TCRζ鎖は、T細胞活性化に伴う負のシグナル制御や収束シグナルに関与するが、SLE患者の約60%でTCRζ鎖の蛋白質発現が著明に低下し、TCRζ鎖のshort 3'-UTR変異が発現低下の要因である事を解明した。また、T細胞においてTGF-βを介するシグナルを阻害するとTCRの負のシグナル制御を齎し、各種の自己免疫疾患類似の病態を示した。さらに、自己免疫自然発症動物モデルSKGマウスに於いて、疾患原因遺伝子はTCR近位のシグナル伝達分子の一塩基突然変異であり、SKGマウスに正常遺伝子を発現させた結果、関節炎の発症は阻止された。一方、IFN系は、自然免疫系および獲得免疫系の双方に於いて、重要な免疫調節作用を発揮するが、IRF-2遺伝子欠損マウスでは、膠原病様の症状を発症し、CD8+T細胞のCXCR3の過剰発現と活性化による自己免疫性皮膚炎の発症を呈し、CD25陽性制御性T細胞が抑制された可能性が示された。以上より、免疫抑制性シグナルに関与するTCRζ鎖の発現低下、CD47/SHPS-1刺激経路の遮断、TGF-βシグナルの遮断は、SLEなどの自己免疫疾患を齎す事が、患者、及び、モデル動物で示され、斯様な免疫抑制性シグナルは、TCR近位のシグナル伝達分子の一塩基突然変異やIRF-2遺伝子欠損で齎される事が示唆された。最後に、免疫シグナル異常の是正について検討した。
炎症性サイトカインIL-6の細胞内シグナルのネガティブフィードバック因子であるSSI-1/SOCS-1分子の発現は、IL-6依存性細胞株S6B45、KPMM2ヒトミエローマ細胞、KT-3ヒトTリンパ腫、MH60ならびにB9マウスハイブリドーマプラズマサイトーマのin vitroでの増殖を阻害した。また、ウェスタンブロット法による解析において、IL-6刺激によるSTAT1とSTAT3リン酸化はSOCS-1の発現により抑制され、SOCS-1の遺伝子導入によるIL-6シグナル阻害の可能性が示唆された。
結論
SLEなどの膠原病に於ける免疫活性化シグナルの異常賦活化は、共刺激分子CD40LやICOSの過剰発現により齎され、mRNA安定化や遺伝子メチル化がその背景に関与した。斯様なリンパ球活性化シグナルを齎す遺伝子は、癌遺伝子産物Wip1、炎症性核内因子C/EBPβやPU.1により転写調節された。一方、免疫抑制性シグナルに関与するTCRζ鎖の発現低下、CD47/SHPS-1刺激経路の遮断、TGF-βシグナルの遮断は、SLEなどの自己免疫疾患に関与する事が、患者、及び、モデル動物で示された。また、斯様な免疫抑制性シグナルは、TCR近位のシグナル伝達分子の一塩基突然変異やIRF-2遺伝子欠損で齎される事が示された。さらに、膠原病の病態に関与するIL-6の細胞内シグナルのネガティブフィードバック因子SOCS-1の遺伝子導入によりIL-6シグナルが阻害され、治療応用の可能性が期待された。以上より、SLEの病態形成過程に於いて、免疫活性化シグナル伝達にはCD40LやICOS等の特定の共刺激分子の転写誘導と異常賦活化が関与し、逆に、免疫制御性シグナルはTCRζ鎖やSHPS-1等の低下により抑制され、TCR突然変異やIRF-2遺伝子欠損で齎される事、即ち、活性化シグナル過剰と制御性シグナル低下がSLEの発症に関与する事が解明された。さらに、SOCS-1等のネガティブフィードバック因子の遺伝子導入による治療応用の可能性が期待された。

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