関節リウマチの頚椎・上肢機能再建に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200807A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチの頚椎・上肢機能再建に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
米延 策雄(国立大阪南病院)
研究分担者(所属機関)
  • 三浪明男(北海道大学大学院医学研究科)
  • 藤村祥一(国立相模原病院)
  • 石井祐信(国立療養所西多賀病院)
  • 中原進之介(国立病院岡山医療センター)
  • 水関隆也(広島県身障者リハビリテーションセンター)
  • 正富隆(大阪厚生年金病院)
  • 行岡正雄(行岡病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチによる関節破壊は炎症が消褪した後も進行し、患者に様々な運動機能障害をもたらす。これに対しては外科治療が主たる選択すべき治療となる。下肢関節病変に対しては人工関節を用いた関節形成術の発達により一定の機能再建が可能となってきている。一方、頚椎と上肢病変については、個々の再建手術は進歩してきているものの、頚椎-肩-肘-手-手指関節が複合して、複雑な機能を果たしているために、有効な機能再建の総合的計画を立てることが困難な状況にある。従って、本研究では①頚椎および上肢の機能評価法の開発、②総合的治療計画の立案指針の設定、③本邦における 頚椎・上肢病変に対する治療の現状把握、④外科治療法の開発、⑤外科治療が患者に与えるストレスの評価を行う。
研究方法
1.本邦における関節リウマチ頚椎手術の現況を把握するために全国で脊椎脊髄手術を行っている施設に対して、日本脊椎脊髄病学会の協力を得て、アンケート調査を行う(米延策雄ら)。2.頚椎病変に対する外科治療の現在の水準を明らかにし、また外科治療上解決すべき問題点を明らかにするために、治療成績を多施設で後ろ向きに調査する(藤村祥一ら)。3.頚椎重度病変に対する手術の侵襲を減らすことを目的とした術式開発を行い、その臨床成績を調査する(石井祐信、中原進之介ら)。4.現在行われている環軸椎固定術の中でも、椎弓根スクリューを用いる方法(Magerl法)は初期固定の強度が高く、患者の術後の外固定や臥床期間の短縮がはかれるよい方法であるが、脊髄あるいは椎骨動脈近傍にスクリューを刺入するという危険性を孕んだ術式であり、実際の重篤な合併症の報告がある。それを避けるためにコンピュータ工学技術を用いて手術支援システムを開発する(米延策雄ら)。5.上肢病変の機能障害の程度を総合的に評価する手段に乏しいので、これを開発する目的で、従来法(日本整形外科学会評価基準、日本手の外科学会評価基準、DASH(Disabilities of the arm, shoulder and hand))による評価をそれぞれ行い、それを比較検討する(三浪明男、水関隆也、正富隆)。6.日常生活動作を遂行する上で、頚椎-上肢は複合運動を行っており、頚椎の外科治療が上肢機能に影響するなど相互関係を分析的に捉える必要があり、これを動作解析の手法で分析できないか、検討する。7.外科治療という侵襲が患者に与える精神的負担をストレスホルモンの測定により分析する(行岡正雄)。
結果と考察
(結果)1.日本脊椎脊髄病学会の協力を得て、アンケート調査表を全国施設に発送した。回答を得て、これを分析中である。2.成績の客観性や臨床研究の統計学的信頼性を高めるために、臨床治験支援業務を行う機関に研究プロトコールの作成を委託し、これを作成した。また、データが得られる症例の登録を行った結果、統計学的に有意な結果が得られる症例数を確保した。データの解析を実施中である。3.手術の低侵襲化を目的とした術式開発を行った。その実行を開始した。4.CTによる画像を3次元化し、これを用いて刺入するスクリューのサイズ、方向などを計画する支援ソフトを開発し、その制度検証を行った。その結果、臨床使用して有用であることが明らかとなった。5.日本整形外科学会評価基準、日本手の外科学会評価基準およびDASHによる上肢機能評価を行い、それを比較検討した。その結果、さらなる改良が必要であることが示
された。6.ビデオカメラを用いた動作解析の手法で頚椎-上肢の日常生活動作(タスク)遂行の成分分析が可能であることが明らかとなった。7.血中ACTH基準値以上の症例の、67%に客観的なストレスを認め、血中ACTHがRA患者のストレスを評価する指標となりえることが明らかとなった。
(考察)下肢関節が共同して果たす機能は歩行が主たるものであり、治療の結果は歩行能力の変化で評価することができる。一方、上肢は様々なタスクを果たしており、その機能障害の内容・程度を分析することは極めて困難である。また、そのタスクのいくつか、例えば、食事動作などは頚椎の運動機能もそれに関わっており、障害評価とともに、治療計画を立てる上でも、それを予測困難なものとしている。また、最近では事実(エビデンス)に基づいた治療が求められているが、その基となるデータが少ない。データを作るためには評価基準の設定が不可欠であり、この設定が基礎となる。
また、治療が集約的に行われていない現状では、単独施設では早急に統計学的に有意な結論を得るに足りる症例を集めることは困難である。これを解決するためには、多施設による臨床研究が必要であるが、本邦ではその基盤となるものがない。その基盤ネットワーク作りに本研究は資する。
リウマチ病変は、全身的にも局所的にも外科治療を行う上で問題となる状況がある。ここの侵襲性の大きな手術を行わざるを得ないとき、従来の手法だけでは解決しがたい点があるが、これをコンピュータ工学技術を用いて、解決する手段を開発し、術式の安全性、確実性を高めることの可能性が本研究で示されたと考える。
結論
頚椎-上肢は共同してさまざまな日常生活動作を遂行しており、多関節罹患を特徴とする関節リウマチでは、治療計画を立てるためには、統合的かつ分析的機能評価が欠かせない。これを完成させることで、有効な治療計画を立てることが可能となり、患者にとっては有効な、医療経済にとっては効率的な治療が可能となる。

公開日・更新日

公開日
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