変形性膝関節症の生活機能維持・再建に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200806A
報告書区分
総括
研究課題名
変形性膝関節症の生活機能維持・再建に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
守屋 秀繁(千葉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村耕三(東京大学)
  • 井上一(岡山大学)
  • 牛田多加志(東京大学)
  • 池平博夫(放射線医学総合研究所)
  • 松本秀男(慶應大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
変形性膝関節症の病因としては遺伝的素因を含めて多くの因子が考えられているが、いずれにしても軟骨基質の変性が一次的な原因と考えられる。これには加齢に伴うコラーゲンなど軟骨基質の組成変化に加えて機械的ストレスの蓄積などが素因となるものと考えられる。初期には、主として軟骨の色調の変化やfibrillationなどの微弱な変性像を呈するにとどまり、正確な早期診断のなされぬまま最終的には軟骨基質の消失と骨の変形へと進行していく。従って本研究の目的は、1)変形性膝関節症の遺伝子学的背景を究明し、2)関節軟骨のアポトーシスの研究をふくめ、変形性膝関節症の発症メカニズム(メカニカルストレスとの関連等)を解明し、3)変形性膝関節症発症のバイオメカニクス的要因を解明することにより、我が国における変形性膝関節症発症の原因を明確にし、4)変形性膝関節症の非侵襲的、かつ質的な早期診断法を開発することにより的確な病期診断と初期治療を可能とすることであり、さらに5)軟骨損傷に対する再生医学の基礎検討より応用を図り、6)重症変形性膝関節症による重度破壊関節に対する機能再建術の研究により医療経済上の損失を最小限にくい止め、高齢化社会における国民福祉の向上を目指すものである。
研究方法
1) 変形性膝関節症の原因究明1.遺伝子学的素因の解明…微小外科手術手技を応用し膝関節の靱帯と半月板の切除の組み合わせによって関節不安定性を加えることで3つのタイプのマウス膝OA誘発モデル(C57BL/6、8週令)の作製に成功した。それに基づき変形性関節症における遺伝学的背景の検討を行った。2.メカニカルストレスとの関連の解明…培養軟骨細胞に対するメカニカルストレス負荷後の遺伝子発現について、マイクロアレイ法による解析を行い、一酸化窒素(NO)の発現に関与するとされる遺伝子群の検討を行なった。IL-4との関連も検討した。又ラットOAモデルをもちいた検討もおこなった。3.バイオメカニクス的要因の解明…正常人、高齢者、人工膝関節置換術後の患者を対象に正座等の日本人特有の生活動作を、三次元動作解析装置、表面筋電図を用いて解析・究明した。2) 変形性膝関節症の早期診断法の確立 1.MRIを用いた組織内成分分析法の臨床実用化に関する研究…MRIを用いて、組織内成分分析法による関節軟骨を中心とした病期診断の臨床実用化をめざす。2. 多核種NMRによる人体内代謝機能診断法の開発に関する研究…水素以外の多くの原子核の情報を捉えることのできる核磁気共鳴法を用いて、変形性膝関節症における、さまざまな原子核を含む生体活性分子の代謝情報を得ることによる診断法の確立をめざす。3) 変形性膝関節症の治療の確立 1. 損傷軟骨に対する再生医学…静水圧刺激に対する関節軟骨細胞の応答のメカニズムにどのようなシグナル伝達経路が関与するかを探ることで再生軟骨の分化・誘導の確立を目指し、さらに臨床への応用を図る。2. 変形性膝関節症による重度破壊関節に対する機能再建術の確立…従来行なわれてきた治療法の再検証を行なうと共に、関節鏡視下手術、骨切り術、人工関節置換術に関してのさらなる研究、新たなる手術法の確立も試みる。3. 遺伝子導入法の検討…ラットおよびラットの線維芽細胞に対し、OAに対する遺伝子治療の確立の為の、遺伝子導入法の検討をおこなった。尚、本研究において提供された生体試料及び実験動物を研究に使用する部分の倫理面には十分に配慮する。すなわち、採血等、生体試料を用いた実験及び実験動物を用いた実験は、すべてそれぞれの研究班の所属する機関の倫理委員
会等で承認され、患者の同意を得ることを前提としている。また、ヒトゲノム・遺伝子解析研究にあたっては、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守し、被験者の人権を保護する目的から説明文と同意書を文書の形で残し、説明文の中にDNA研究もしくは遺伝子研究という文書を含むものとする。
結果と考察
1) 変形性膝関節症 (OA)の原因究明…1. 3つのモデルは病期の進行速度は異なるものの、いずれも同様のOA所見を示した。初期像においては後方の関節腔が狭小化し、ストレスが集中しており、局所の軟骨細胞は不規則に増殖していた。関節軟骨細胞は肥大化すると同時にMMP-13を強力に発現していた。この変化は、成長板における発現パターンと異なっていた。OA変化の背景にメカニカルストレスに対する関節軟骨細胞の特異的な肥大分化反応が存在し、その変化にMMP-13が関与している可能性が示された。2. ラット関節軟骨細胞に対する過剰なメカニカルストレス負荷により、Cathepsin B、iNOSmRNAの発現亢進を認めた。軟骨保護的に作用するIL-4は用量依存性にそれらの発現を抑制した。ラット膝関節OAモデルを確立し、組織学的に軟骨細胞でのCathepsin B及びNOの発現を確認した。低酸素でも軟骨細胞にiNOS mRNAの発現をみとめた。3. 健常者、OA患者の日常生活動作における膝負荷の計測により、大腿四頭筋機能の低下、内反ストレスの増加が特徴的な膝負荷パターンとして認められた。今後さらに深屈曲の獲得に必要な因子を検討する予定である。2) 変形性関節症の早期診断法の確立…関節軟骨の質的評価を非侵襲的におこなうため、軟骨基質を構成する分子の一つであるグリコサミノグリカン濃度の測定をMRIを用いておこなう方法を検討し、Gd-DTPA2-を経静脈投与2時間後にInversion Recovery法にてT1強調像を撮像する方法はひとつの方法と考えられた。3) 変形性膝関節症の治療法の確立…1. 生理的に軟骨組織に負荷されている物理的刺激である静水圧を培養軟骨細胞へ負荷し、細胞内シグナル伝達の有無をMAPK系に絞って検証したところ、間欠的静水圧を軟骨細胞に負荷することにより、ERKシグナルが一過性に活性化することが示された。静水圧がbFGFと同様の効果をもっていることが示唆された。2.屈曲拘縮を伴う重度の変形性膝関節症に対する鏡視下後内側切離術の2年以上に渡る長期的効果の検討をおこない、70%近くの患者で長期に渡る症状の改善を得た。OA に対する鏡視下手術の有用性を示唆させるものであった。今後さらにその適応、長期予後を検討する予定である。3.ウィルスベクターを用いずに電気的に遺伝子導入をおこなうelectroporation法、さらに線維芽細胞を介しアデノウィルスベクターをもちいた遺伝子導入法に関して検討し、高率に外来遺伝子導入が可能であることが確認された。OAに対する一治療手段になりうると考えられた。                                        
結論
変形性膝関節症の発症、病態のメカニズムの一端が見えてきつつある。これらの検討をさらに継続・発展させ、変形性膝関節症の早期診断、進行予防、また効果的な治療の開発につとめていく。

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