関節リウマチ・骨粗鬆症患者の疫学、病態解明と治療法開発に関する研究 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200802A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチ・骨粗鬆症患者の疫学、病態解明と治療法開発に関する研究 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
越智 隆弘(国立相模原病院)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋直之(松本歯科大学・総合歯科医学研究所)
  • 野島博(大阪大学微生物病研究所)
  • 吉川秀樹(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 下村伊一郎(大阪大学大学院生命機能研究科)
  • 田中栄(東京大学大学院医学系研究科)
  • 広畑俊成(帝京大学医学部)
  • 武井正美(日本大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
82,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ患者は、非リウマチ高齢者に比べて明らかに高頻度かつ高度の骨粗鬆症と易骨折性が認められている。更に、成人発症関節リウマチ患者の中では約40% を占める重症関節リウマチ患者においては、若年成人でも高度な骨粗鬆症を引き起こしている。このような例では椎体骨折発症のみでなく、膝や股関節などの大関節破壊進行の原因になっている。このような臨床的実態解明を進めるとともに、昨年までの厚生労働科学研究としての関節リウマチ病態研究成果の進展として、関節リウマチ患者の骨髄に的を絞って病態解明研究、原因解明研究を進めて、予防方法、治療方法確立を進めることが主目的である。
研究方法
疫学研究から分子生物学的研究までの研究を前提に、各施設で倫理委員会の承認を得て、調査研究に必要なインフォームドコンセントを患者あるいは試料提供者から得て、以下の方法で研究を進めている。
1)関節リウマチ患者に発症する骨粗鬆症の疫学的実態調査、診断方法解明の研究
国立相模原病院、大阪大学付属病院整形外科を受診している関節リウマチ患者(約1000例)を対象とした。日本骨代謝学会の診断基準に基づき骨粗鬆症を評価した。併せ、大腿骨、中手骨、前腕骨等々の腰椎以外の部位の検討、諸方法による骨量の測定、諸種の骨代謝マーカーなどの検討を進めた。
2)病態解明の研究
既に終了した厚生科学研究および医薬品機構基礎研究で解明された病態の一つとして、重症関節リウマチの関節病巣に破骨細胞分化因子(ODF)に依存せずに分化してくる、特異な破骨細胞があることが示されてきた。この分化を支持した線維芽細胞様細胞と、分化してくる破骨細胞の特性解明を主要課題とした。
i) 線維芽細胞様細胞の研究
関節リウマチ病巣形成に必要なナース細胞が血球細胞を抱込んだときの活性化誘発機序解明も進めている。ナース細胞に抱込まれて活性化したB細胞はナース細胞の細胞質に対する抗体を作っている。この抗原(自己抗原)の解明も進めてきた。またナース細胞に抱込まれたCD14陽性単球はTRAP陽性単核球に分化し、更に巨細胞が形成されてゆくが、この機序解明の研究を活性化因子の面から進めている。
ii) 破骨細胞関連の研究
重症関節リウマチに認められるRANKL(receptor activater of NFκB ligand)非依存性破骨細胞の前駆細胞であるTRAP陽性単核球樹立および特性解明を進めた。また高橋直之分担研究者はヒト破骨細胞培養系を確立して病態解明を進めた。更に吉川秀樹分担研究者は巨細胞腫に見られる骨吸収性巨細胞の分化機序を調べた。
3)病因解明の研究
骨髄中のウイルス特有の増殖因子存在の有無、腸骨骨髄ナース細胞のウイルス関連反応で調べられている。更に骨髄血中のウイルス由来の遺伝要素の有無が段階的サブトラクション法で進められている。
結果と考察
1)関節リウマチ患者に発症する骨粗鬆症の疫学的実態調査、診断方法解明の研究 関節リウマチ患者に認められる骨粗鬆症患者比率は原発生骨粗鬆症患者の発症比率(山本逸雄、1999)に比べて明らかに高比率で、かつ高度であった。腰椎骨塩量のZスコアでは非関節リウマチ対照に比べて有意差がないが、大腿骨、中手骨、前腕骨などでの骨量計測Z scoreではP値<0,001で高度の有意差が示された。関節リウマチの重症度との関連は2003年度以後の検討課題であるが,骨量計測と併せて骨代謝マーカーや軟骨代謝マーカーも含めての関節リウマチ特有の評価基準確立が急務であり、2003年度の重点課題にする。
2)病態解明の研究
i) 線維芽細胞様細胞の研究
関節リウマチ腸骨骨髄から得たCD34陽性未分化細胞にGMCSFやTNF-αを加えて培養すると、骨髄や滑膜細胞から分離できるナース細胞機能をもった線維芽細胞様細胞が分化増殖してくる。さらにCD34陽性未分化細胞にSCSFおよびGMCSFを加えて培養すると血管新生を誘導するVon Willebrand因子が発現し、血管新生を引き起こし得ることが広畑分担研究者によって示された。2003年度にはこのようなナース細胞を分化させる各段階の表面抗原の変化と機能との関連を引き続き解明して、それらの病態的変化を誘導する機序として病因ウイルス関与の有無も併せ検討するとともに、治療ターゲットに用いることを目指す。
ii) TRAP陽性細胞の病態機能解明の研究
関節リウマチ腸骨骨髄から得た線維芽細胞様細胞と健常人CD14陽性単球を共培養することによりTRAP陽性単核細胞樹立に成功した。TRAP陽性単核細胞からはMMP-2, -9はじめ多種のMMPが産生され明瞭な組織破壊活性が認められた。更にこの細胞にIL-3,-5,-7,GM-CSFのいずれかを加えることにより多核巨細胞が形成され、顕著な骨吸収活性が証明された。重症関節リウマチ特有と考えられるこの細胞の誘導にはRANKL添加を必要としないので、関節リウマチ患者では正常骨代謝とは異なった骨吸収性巨細胞が増殖・機能していることも考えられる。
高橋直之分担研究者は健常人末梢血から採取したCD14陽性細胞培養系にM-CSFを加え、RANKL添加あるいは非添加で7日間培養し、比較的少数ではあるが、RANKL非添加培養系でも破骨細胞への分化を認めた。 吉川秀樹分担研究者は巨細胞腫(GCT)の実験系で骨吸収性多核巨細胞分化の多様性を示した。重症病型関節リウマチに認められる破骨細胞様巨細胞の詳細な病態解明と治療への手がかりを2003年度に進める。
3)病因解明の研究
ナース細胞に抱込まれて活性化されたB細胞はナース細胞の細胞質に対する抗体を産生する。この抗原物質は25あるいは50KDの蛋白であり、EF1-αと同定された。EF1-αはウイルスの増殖因子として作用することが知られている。抱き込まれる細胞が培養前にEBV陰性でも、培養後にEBV陽性になっている例があることを、以前に島岡ら、広畑らが報告しているが、武井正美分担研究者も改めて示し、ウイルス研究に拍車をかけている。2002年度には野島班員によって関節リウマチ骨髄血中の遺伝要素に関するライブラリー作成が進められたので、2003年度には病因ウイルスあるいは遺伝要素解明の研究が進められる。
結論
1)関節リウマチ患者のX線所見および骨量測定より、加齢による骨粗鬆症に比べて高頻度かつ高度な骨粗鬆発症していることが判明した。2)加齢による骨粗鬆症では椎体の骨量に明確な減少症を認めるが、関節リウマチではむしろ大腿骨、中手骨に顕著な骨量減少を認め、関節リウマチ特異的な評価法確立が必要と考えられた。3)関節リウマチ患者の骨稜には特異な破骨細胞と骨髄球形細胞の集積を認め、それぞれの細胞系の骨髄における特異な分化・増殖病態が認められた。4)関節リウマチの特異な病態は骨髄あるいは滑膜にある線維芽細胞様細胞に認められたが、この分化異常の原因としてウイルス再検討の必要がある。

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