アレルギー疾患の発症及び悪化に影響する因子の解析

文献情報

文献番号
200200801A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の発症及び悪化に影響する因子の解析
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大田 健(帝京大学医学部内科)
研究分担者(所属機関)
  • 平井浩一(東京大学大学院医学系研究科生体防御機能学客員助教授)
  • 西村正治(北海道大学大学院医学研究科分子病態制御学教授)
  • 棟方 充(福島県立医科大学呼吸器科教授)
  • 塩原哲夫(杏林大学医学部皮膚科学教授)
  • 庄司俊輔(国立療養所南福岡病院副院長)
  • 小林信之(国立国際医療センター呼吸器科部長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喘息およびアトピー性皮膚炎は今なお増加する高い有病率を示すアレルギー性疾患である。本研究は喘息・アトピー性皮膚炎の発症および悪化に影響を及ぼす因子を明らかにすることにより、これらの発症、増悪を予測し、最終的に有効な治療戦略の開発につなげることを目的とする。喘息・アトピー性皮膚炎の病態には慢性の炎症とリモデリングが重要な役割を演じている。炎症やリモデリングに関連する細胞や液性因子についての機能的な研究が進められており、関与する細胞群や液性因子が明らかにされてきている。例えば、炎症には好酸球、マスト細胞、Th2細胞、樹状細胞などの細胞群とIL-4、IL-5、IL-13などのTh2タイプやGM-CSFのサイトカインなどが重要であり、リモデリングには線維芽細胞、上皮/ケラチノ細胞、マクロファージ、樹状細胞などの細胞群とPDGF、TGF-?、IGF-Iなどの成長因子などが機能的に関与している。さらに細胞遊走活性をもつ各種ケモカインについてもその関与が示唆されている。そこでアレルギー病態形成の重要な過程であるIgE依存性反応、炎症機転、修復(リモデリング関連分子)を遺伝子レベル、蛋白レベルで解析し、発症および悪化に影響を及ぼす因子を明らかにする。さらに最近注目されている自然免疫と獲得免疫の相互作用という観点から、自然免疫に関連する因子についても解析を進める。
アトピー型と非アトピー型の喘息、および喘息合併・非合併群のアトピー性皮膚炎に焦点を絞り検討する。臨床的、基礎的知見の少ない喘息とアトピー性皮膚炎の合併例も含め検討するのが本研究の特徴の一つである。
研究方法
三省合同「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に沿い、各施設で共通のフォーマットで倫理委員会に提出し、承認を得る。検体は各施設と帝京大学でニ重に匿名化する。
対象は1.アトピー型喘息症例 2.非アトピー型喘息症例 3.アトピー性皮膚炎症例 4.喘息アトピー性皮膚炎合併例 5.健常人の五群であり、各群100例収集する。検体はEDTA採血し、血漿および、単核球分画よりDNAを採取する。同時に各群の患者について病歴、治療歴、検査所見を統一したフォーマットに入力する。背景として、総IgE、IgE RAST(吸入系:ハウスダスト、ダニ、ブタクサ、ネコ毛)、好酸球数を検討する。喘息については呼吸機能検査、気道過敏性のデータを採取する。
解析因子としては、IgE受容体?鎖、CTLA4(西村)、サイトカイン(IL-4、IL-13、IL-18)ケモカイン(Eotaxin, TARC, MDC, I-309)(平井)、クララ細胞分泌関連蛋白UGRP-1、?2-アドレナリン受容体(棟方)、TGF-β、PDGF、IGF-I(大田)、MUC1, 2, 4, 5AC, 5B, 7(小林)、TLR4(太田)を遺伝子レベル、蛋白レベルで検討する。
治療による介入とその効果との関連を解析する目的で、早期治療介入症例についても解析を進める。
結果と考察
倫理委員会の承認:各共同研究施設で、倫理委員会に提出し、14年末までに承認を得た。平成15年2月より検体の収集を開始する。サンプルは各施設で匿名化し、血漿およびDNAを採取した後、全てのサンプルを一度帝京大学に集め、再度匿名化する。個人情報は匿名化した形で帝京大学で集積する。各施設では各施設の症例についての情報を連結可能匿名化の状態で保存する。全ての匿名化は個人情報管理者が行なう。
各施設でそれぞれ平成15年度解析予定の遺伝子多型について、既存のサンプルを用いて、基礎的検討をおこなった。
1)Fc?RI?の????C/T およびCTLA4-318C/Tの遺伝子変異が血清IgE値に遺伝的影響を与えていることが示された。この影響は気管支喘息患者では認められるが、アトピー性皮膚炎患者や健常人では認められなかった。
2)Eotaxin およびTARCのプロモター領域にSNPを同定した。TARC遺伝子のプロモター領域の-431C/TのSNPはTTのホモタイプおよびCTのヘテロタイプがCCのホモタイプと比較して血漿TARCの濃度が高かった。喘息重症例では血漿中のTARCの濃度が上昇していた。
3)喘息患者ではUGRP1の陽性細胞が対照群と比較して有意に増加していた。さらに遺伝子解析では-112bpにG/Aの多型が存在した。?2-アドレナリン受容体遺伝子の3'側に14個に新規のSNPを同定した。
4)MUC遺伝子のプロモター領域にSNPを同定した。
5)TGF-?1遺伝子のプロモター領域-509C/TのSNPの頻度を検討した。この変異は成人喘息患者で、正常人や喘息寛解者と比較して有意に高かった。この変異は米国デンバーで検討した条件では血漿TGF-?1値と関連を示し、TTのホモタイプが有意に高いTGF-?1値を示した。
6)アトピー性皮膚炎患者ではフローサイトメトリーによる検討で??細胞およびNK細胞の数が低下していた。さらに機能としてIFN-?およびTNF-?の産生能の低下を認めた。
NSAIDsは??細胞およびNK細胞の機能を抑制した。
7)発症2年以内の成人喘息患者に経口ステロイド薬(プレドニソロン0.5mg/kg)を2週間投与後フルチカゾンによる吸入療法を行なった。治療早期介入による有効群を規定する因子は喘息有病期間と治療前の気流制限の度合いであった。
結論
アレルギー病態形成の重要な過程であるIgE依存性反応、炎症機転、修復(リモデリング関連分子)についてSNPを同定でき、機能と結びついていることが示唆された。解析SNPについてはさらに自然免疫に関連してTLR、気道炎症に関連して気道上皮特異的な転写因子、リモデリングに関連してIGF-IRのプロモーター領域についても解析を進めている。平成15年度から同一のサンプルで各因子について多型および蛋白レベルでの発現の検討を展開していく。これら基礎研究で得られた知見を、EBMの確立に充分な数の症例で検証することは極めて重要であり、共通の診断基準に基づいたサンプルの多数例の収集に集中する。この検討により①アトピーという共通の基盤に関連する因子、②喘息においてアトピーにより規定される因子、③疾患の重症度に関連する因子が解明されることが期待される。
また、治療早期介入症例についても個別に検討を進め、有効性と気道リモデリングに関連する因子との解析も考慮する。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-