アレルギー疾患の遺伝要因と環境要因の相互作用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200800A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の遺伝要因と環境要因の相互作用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
出原 賢治(佐賀医科大学医学部分子生命科学)
研究分担者(所属機関)
  • 白川太郎(京都大学大学院健康要因学)
  • 柳原行義(国立相模原病院臨床研究センター)
  • 近藤直実(岐阜大学医学部小児科)
  • 田中敏郎(大阪大学医学部分子病態内科)
  • 中尾篤人(順天堂大医学部アトピー疾患研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に組み合わさって生じると考えられている。アレルギー疾患の遺伝要因は多因子であり、一塩基多型(SNP)の中に遺伝要因が含まれていると考えられるようになった。ゲノムプロジェクト等に基づく豊富なゲノム情報により多くの遺伝要因候補が同定され、機能的に遺伝要因であることが証明された例も出てきた。しかし、近年のアレルギー疾患罹患率の飛躍的な増大は環境要因の変化によると考えられ、遺伝要因単独でアレルギー疾患発症の予知を行うことに限界があることも明らかになってきた。一方で、感染症の減少、食生活の変化、大気汚染などがアレルギー疾患の環境要因としてあげられている。しかし、これらの要因がアレルギー反応関連遺伝子とどのような相互作用を持っているか不明な点が多く、個人間におけるこれらの環境要因の感受性の違いについては全く解明されていない。このため、本研究の目的は、従来独立してなされていた遺伝要因と環境要因の解析を組み合わせて、両方の要因の相互作用について解明を進めることである。このことにより、従来の遺伝要因単独の組み合わせに比べて、より的確にアレルギー疾患発症の危険性を予知できるようになり、アレルギー疾患に対するより効果的な創薬開発の標的が明らかになることが期待される。
研究方法
(1)遺伝要因の同定とそれらの機能解析。アレルギー疾患の遺伝要因は多因子であり、SNPの中に存在すると考えられている。アレルギー疾患に関連するSNPを同定する方法として候補遺伝子解析法と連鎖解析法があげられるが、本研究ではこれら両方の方法により遺伝因子の同定を進めている。前者の候補遺伝子解析法として本年度はIL-18、_2アドレナリン受容体、SOCS3の各遺伝子について解析を行った。後者の連鎖解析法としては理研SRCで開発されたhigh through-put assayを用いて遺伝子解析を進めている。具体的には理研がリストアップした15万SNPに対して正常対象287例、小児喘息331例、成人喘息409例のサンプルを用いてinvader assay 法により遺伝子型の決定を進めている。また、アレルギー疾患の患者の中で、IL-12、IL-18による末梢血単核球におけるIFN-_の産生が低下する症例についてIL-12レセプター_2鎖とIL-18レセプター_鎖の遺伝子配列に関して検討を加えた。同定されたSNPあるいは遺伝子変異については、現在機能解析を行っている。遺伝学的解析に関しては全て患者からの同意を得た上で所轄の研究機関における倫理委員会で承認を受け施行している。(2)環境要因の細胞あるいは個体への影響に関する解析。環境要因としては、本年度は大気汚染物質としてダイオキシン、デイーゼル排気粒子(DEP)を、アレルゲンとしてコナヒョウダニ由来プロテアーゼ(Der f1)を、微生物成分としてグラム陽性菌由来のペプチドグリカン(PGN)、CpG DNA、インフルエンザウイルス、RSウイルスを、食物成分としてフラボノイドを取り上げ、これらのB細胞、好塩基球、形質細胞様樹状細胞、末梢血単核球等の免疫・炎症系細胞、あるいは気管支上皮細胞、線維芽細胞等の非免疫・炎症系細胞に対する作用についてin vitroで、あるいは患者からのサンプルを用いて解析を行った。
結果と考察
(1)遺伝要因の同定とそれらの機能解析。1)理研がリストアップした15万SNPのうち、9万SNPに対して一次スクリーニングを行い、約2300個のSNPにおいて強い相
関(p<0.01)を認めた。これらのSNPに対してさらに二次スクリーニングを行った結果、37個のSNPにおいて非常に強い相関(p<0.0001)を認めた。2)IL-18遺伝子上のSNPである105A/Cが気管支喘息の発症と、_2アドレナリン受容体遺伝子上の16Arg/Glyが気管支喘息とアトピー性皮膚炎合併例におけるIgE高値と相関が認められた。さらに、SOCS3遺伝子上に新規のSNPを同定した。3)IL-12、IL-18、PHAに対する末梢血単核球におけるIFN-_産生低下例の症例を解析した結果、IL-12レセプター_2鎖とIL-18レセプター_鎖に新規の遺伝子変異を持つ症例が存在することを明らかにした。この遺伝子変異は遺伝子の転写あるいはその後の段階で異常が生じていると考えられた。(2)環境要因の細胞あるいは個体への影響に関する解析。1)IL-4/IL-13によりB細胞においてダイオキシン(四塩化ジベンゾパラジオキシン;2,3,7,8-TCDD)の受容体であるアリルハイドロカーボン受容体(AhR)の発現が増加し、ダイオキシンの生物活性が非常に増強されることが明らかとなった。また、気管支上皮細胞でもAhRの発現が軽度増強されることが明らかとなった。このことはIL-4/IL-13産生が増加しているアレルギー疾患患者ではダイオキシンに対する感受性が増強していることを示している。2)TGF-_は気道上皮細胞において気道リモデリングに関与するプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の発現を誘導するが、可溶化DEPはこのTGB-_によるPAI-1誘導を増強した。またDer f1は線維芽細胞からTGF-_の産生を誘導した。3)B 細胞上におけるToll-like受容体発現を解析したところ、アトピー患者ではToll-like受容体1, 4の発現が亢進していた。またToll-like 受容体9のリガンドと考えられているCpG-BはIL-4/抗CD40抗体によるB細胞からのIgE産生を抑制した。4)アレルギー患者の末梢血単核球ではインフルエンザウイルスとRSウイルスの感染により喘鳴時にIFN-_産生の低下が見られ、症状の回復とともにIFN-_産生も回復した。さらに、ウイルス感染症によりIL-12レセプター_2鎖の変異型の産生が増強された。5)フィセチン等のフラボノイドの正常好塩基球に対する活性化抑制の作用機序について解析を行った結果、これらのフラボノイドはカルモジュリンと結合してNFAT1の活性化を抑制し、その結果、IL-4/IL-13産生を抑制していると考えられた。
気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に組み合わさって生じると考えられている。アレルギー疾患の遺伝要因は多因子であり、一塩基多型(SNP)の中に遺伝要因が含まれていると考えられるようになった。本年度の研究成果により、新規のIL-18、_2アドレナリン受容体遺伝子上におけるSNP、あるいはIL-12レセプター_2鎖、IL-18レセプター_鎖遺伝子の異常転写産物が同定され、アレルギー疾患の診断あるいは創薬開発に役立つものと期待される。また、網羅的遺伝子解析も進んでおり、これが完了すれば15万SNPの中で気管支喘息に関連するSNPを40-50個程度に絞り込め遺伝要因の約90%を予測することが可能になり、日本人の気管支喘息における遺伝要因の評価の基準になると考えられる。
一方、環境要因に関する研究成果よりデイーゼル排気粒子、Der f1、インフルエンザ、RSウイルス感染症などの気管支喘息増悪因子としての作用、フラボノイド類のアレルギー疾患に対する治療効果などが明らかになり、アレルギー疾患の改善あるいは治療対策を講ずる上での重要な知見となった。また、IL-4/IL-13によるダイオキシン類に対する感受性の増強が見出されたことは、今後アレルギー疾患患者におけるダイオキシン類の影響を観察していく必要があることを示唆する重要な知見だと考えられる。さらに、ウイルス感染症がIL-12レセプター_2鎖遺伝子変異型の発現に影響を与えるという結果は、本研究の最終的な目的である環境要因と遺伝要因との相互作用を示す具体的な例であり、同遺伝子変異型の解析がウイルス感染症を契機とする気管支喘息の診断に有用であるとともに、治療戦略を立てる上でのヒントを与えてくれるものと期待される。
今後、これらの遺伝要因あるいは環境要因の機能的解析を進めていくことと同時に、これらの要因同士の相互作用についても解析を進めていくことが重要であると考えている。
結論
候補遺伝子解析法によリ新規の遺伝要因となるSNPあるいは異常転写産物を同定するとともに、網羅的遺伝子解析法により有力な遺伝要因の候補遺伝子を絞り込むことができた。また、ダイオキシン、デイーゼル排気粒子、Der f1、Toll-like受容体シグナル、インフルエンザ、RSウイルス感染症、フラボノイド類などの環境要因とアレルギー疾患との関連性について解析を進めることができた。今後さらにそれぞれの要因、あるいは両者の間の相互作用について解析を進めていくことにより、より的確なアレルギー疾患発症の危険性の予知とアレルギー疾患に対するより効果的な創薬開発の標的の解明が可能になると期待される。

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