アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200799A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
古江 増隆(九州大学大学院医学研究院皮膚科学分野教授)
研究分担者(所属機関)
  • 溝口昌子(聖マリアンナ医科大学皮膚科教授)
  • 佐伯秀久(東京大学大学院皮膚科学講師)
  • 柴田瑠美子(国立療養所南福岡病院小児科医長)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター長)
  • 金子史男(福島県立医科大学皮膚科教授)
  • 高森建二(順天堂大学浦安病院皮膚科教授)
  • 秀 道広(広島大学医歯薬学総合研究科教授)
  • 大矢幸弘(国立成育医療センター第一専門診療部アレルギー科医長)
  • 諸橋正昭(富山医科薬科大学皮膚科教授)
  • 竹原和彦(金沢大学大学院皮膚科教授)
  • 野瀬善明(九州大学大学院医療情報学教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は平成11?13年度の厚生科学研究において、アトピー性皮膚炎の既存治療の有効性と適応の再評価を行い、治療ガイドラインの作成に関わってきた。初版である治療ガイドライン1999は2001年版に改訂された。このガイドラインが作成されたことで、当時ともすれば混乱していた本疾患の治療に一定の目安が確立されたことは高く評価されている。この間、日本皮膚科学会の治療ガイドラインも大筋において共通する主旨の上に作成され、ステロイド外用薬のランクについても統一が図られた。しかしこれらのガイドラインはいずれもその治療の骨子をまとめたもので、個々の治療を詳述したものではない。このガイドラインを今後も改良していくことが重要であることはいうまでもないが、それと並行して個々の治療の有用性をevidence-based medicineに基づいて評価しまとめた解説書(データブック)が必要と思われる。一方、我が国では世界に先駆けてタクロリムス外用薬が市販され、その高い有用性が認められるにつれ、タクロリムス外用薬とステロイド外用薬との使い分けについても世界に注目されるようになった。
本研究では、アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2001をさらに改訂・充実していくとともに、アレルゲンとアレルゲン除去療法、抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬、バリア機能・スキンケア、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、シクロスポリン内服、紫外線療法、漢方療法、環境汚染、細菌・ウイルス感染、眼病変、痒みの評価とコントロール、民間療法などについてEBMに基づいた解説書あるいはデータブックを作成したい。さらに、基礎的な研究では、皮膚を炎症の場とするアトピー性皮膚炎の病態をさらに解明するために、リンパ球や皮膚の構成成分である表皮細胞などの両面から検討を進めたい。
研究方法
(1) 治療ガイドラインの改訂・充実とEBMによる評価
以下の各項目について文献的調査を行う。
1) 治療ガイドラインの改訂・充実(古江)
アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2001を改訂・充実させるとともに、詳細な解説書を
作成する。
2) アレルゲンとアレルゲン除去療法のEBMによる評価(柴田・秋山)
3) 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬・痒みのEBMによる評価(溝口・秀)
4) バリア機能・スキンケアのEBMによる評価(秀・佐伯)
5) ステロイド外用薬のEBMによる評価(溝口・大矢)
6) タクロリムス外用薬のEBMによる評価(佐伯・高森)
7) シクロスポリン内服のEBMによる評価(竹原・大矢)
8) 紫外線療法のEBMによる評価(高森・金子)
9) 漢方療法のEBMによる評価(諸橋・大矢)
10) 環境汚染のEBMによる評価(秋山、諸橋)
11) 合併症(細菌・ウイルス感染、眼病変)のEBMによる評価(柴田・古江)
12) 民間療法のEBMによる評価(金子・竹原)
13) 研究全体の統計学的な評価(野瀬) 
14)さらにEBM評価法(幸野、大矢)、心理面の評価(羽白)、QOLの評価(片岡)
(2) 治療ガイドラインとEBM解説書の公表と普及(古江)
治療ガイドラインとEBM解説書(データブック)は出版するだけでなく、ホームページに掲載し、広く国民に公表する。できれば3年度には英訳書も作成し出版する。
(3)基礎的研究
(a)リンパ球・サイトカインと表皮細胞の相互作用に関する研究(古江)
皮膚バリア障害に伴う乾皮症はアトピー性皮膚炎の特徴の一つであるが、表皮細胞のバリア機能と局所浸潤リンパ球およびサイトカイン関連については未解明である。そこで最初のアプローチとして、電気抵抗(transepithelial electric resistance,TER)、FITC-dextran通過能を指標として、表皮細胞シートの基底膜側から表層への(basal to apical)バリア機能に対するIL-4、IFN-gammaの影響をin vitroで観察した。
(b)環境中ダニアレルゲン定量法及び皮膚表面暴露量測定法の確立(秋山)
ダニアレルゲンについてその定量的な検索方法の開発とその感度を上げることにより環境中のアレルゲン量と皮膚表面暴露量を測定しその関連を検討する。
結果と考察
1) 治療ガイドラインの改訂・充実
アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2002を改訂しホームページに掲載した。また以下の各項目である程度まとまったものをまとめ、解説書(データブック)の第1報を作成した。
2) アレルゲンとアレルゲン除去療法のEBMによる評価
小児ADにおける牛乳、卵などの除去食療法の皮疹への効果について、十分なエビデンスではないが欧文5件で有用性が評価され、3件で有用性なしとされた。除去食とコントロール食またはDSCGとのクロスオーバー試験であるが、皮疹スコアの改善がみられている。いずれもランダマイズ法が不明瞭な点、脱落率が高い点が問題であった。成人例では効果のエビデンスはなかった。アトピーリスク児の妊娠中除去食によるAD発症予防効果については、7件のRCT論文がみられた。2つの論文で効果の可能性が指摘されているが、エビデンスは明らかでなく、4つは全く予防効果なし。最も質の高い論文で効果なく、妊娠中の除去食の効果はほとんどみられないと考えられた。またダニアレルゲン除去により非除去群に比べてアトピー性皮膚炎症状の有意な改善が認められたのが3件あったが、他の1件は自宅の屋内環境におけるダニアレルゲン除去だけでは、症状改善には不十分であり、職場、学校、屋外等, 他の環境におけるアレルゲン除去も重要であることを示している。食物アレルゲン除去に関する報告では、母体及び乳児期の食物アレルゲン除去は、2才までの食物アレルギー、ミルクに対する感作率は減少させるが、7歳時では、アトピー性皮膚炎発症等、非除去群と差はなかった。
3) 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬・痒みのEBMによる評価
ランダム化比較試験を行った17報告のうち、抗アレルギー薬が有益だったとする報告は10報告あった。最も大規模で質の高い報告は、817例の小児で18ヶ月観察していたが、抗アレルギー薬(セチリジン)の有用性は証明できなかった。プラセボ対照試験で次に大規模だったのは、3つの濃度のセチリジンの効果を見た報告だったが、保湿剤やステロイド剤外用を併用しているためかプラセボを含む全ての群で治療前に比して掻痒、臨床症状とも軽快が見られ、20mgと40mgでは掻痒に対してプラセボと比較して有意に有効であったと証明された。
4) バリア機能・スキンケアのEBMによる評価
Cochrane groupのSystematic reviewではアトピー性皮膚炎の治療の局所治療一つとして保湿剤emollientsが検討され、5件のrandomized controlled trial (RCT)が見いだされた。これらの報告の多くは特定の保湿外用薬について、他剤との比較により有効性を検討したものにすぎないものであった。結局アトピー性皮膚炎の治療におけるスキンケアの重要性について検討した報告は見られなかった。
5) ステロイド外用薬のEBMによる評価
ステロイド外用剤とプラセボとの比較が見つかった薬剤は10種類で、介入研究の期間は4日から43日までと短く、多くは2?3週間であった。どの研究も塗布部位での皮疹の改善を認めている。アトピー性皮膚炎の治療効果に関するステロイド外用剤の有用性は明らかで、エビデンスの水準の高い研究では深刻な副作用は報告されていない。
6) タクロリムス外用薬のEBMによる評価
Hanifinらは631名の中等症から重症の成人AD患者を対象に解析を行ない、0.1%のタクロリムス軟膏は、基剤や0.03%のタクロリムス軟膏に比べて有意に高い有効性を示したと報告している(J Am Acad Dermatol 44: S28, 2001)。本邦におけるタクロリムス軟膏とステロイド外用薬との群間比較試験では、顔面や頚部においては、プロピオン酸アルクロメタゾン軟膏より有意に高い効果が示され(皮紀要92:277, 1997)、躯幹や四肢においては、吉草酸ベタメタゾン軟膏とほぼ同等の有効性が示されている(西日皮膚59: 870, 1997)。
7) シクロスポリン内服のEBMによる評価
プラセボを対象とした二重盲検試験5論文が収集され、それらすべての論文において,重症アトピー性皮膚炎治療に有用であることが示された。容量は2.5mg/kgの1オープントライアルを除いては5mg/kgで,オープントライアルでは,48週間の安全性が示されている。一部の症例では,腎障害がみられたが中止により可逆的であった。
8) 紫外線療法のEBMによる評価
high dose UVA1療法は、急性増悪皮疹に対しステロイド外用薬と同等の効果を発揮し、UVA-UVB併用療法より有意に有効であることが多施設間の無作為試験により示されている。
9) 漢方療法のEBMによる評価
二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験:英国から4例、中国から1例の報告があり、いずれも10種の構成生薬からなる同一の漢方製剤(PSE101)の治験結果の報告である。小児および成人に対する有効性の評価およびそれらの症例の1年間の追跡調査による有効性の評価である。小児・成人患者ともに同漢方生薬がプラセボ群に比し有意に臨床症状を改善させ、プラセボ投与時の悪化傾向が示された。
10) 環境汚染のEBMによる評価
今年度は未研究である。
11) 合併症(細菌・ウイルス感染、眼病変)のEBMによる評価
今年度は未研究である。
12) 民間療法のEBMによる評価
以下の基準をすべて満たす民間療法の原著論文は,探し得た限りでは皆無であった。
それどころか2項目以上満足する論文も見出せなかった。
・ 母集団数が明記されている。
・ 効果判定期間,効果判定基準,併用薬などが明記されている。
・ 評価が専門医によって行われている。
・ 脱落例とその理由が明記されている。
・ 安全性の評価がされている。
むしろアトピービジネス(主として民間療法)に伴う健康被害の方が大きな問題であった。
13) 研究全体の統計学的な評価
EBM評価のための統計学的手法を検討したが、今後は層別化無作為抽出のために生じる不均衡の程度によって、層別ログランク検定のサイズがどのくらい偏るかをシミュレーションを行なって確かめる。 
14)さらにEBM評価法には内外の評価法を集約し、本研究班にて用いる評価法を作成した。心理面の評価については、すでに作成されている厚生労働省研究班の評価法を確認した。QOLの評価についても厚生労働省研究班にてすでに検討されているものをブラッシュアップした。
(2) 治療ガイドラインとEBM解説書の公表と普及
ホームページを作成し、アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2001を見やすく掲載した。その後、改訂版であるアトピー性皮膚炎治療ガイドライン2002も掲載した
(http://www.kyudai-derm.org/atopy/atopy.html、http://www.kyudai-derm.org/atopy/)。
また、今年度の本研究の成果を「アトピー性皮膚炎の治療 ーEBMのための文献データ集ー」の第1版の作成した。
(3) (a)リンパ球・サイトカインと表皮細胞の相互作用に関する研究
2層培養法を用い、内層に表皮細胞をコンフルエントに培養し、外層との電気抵抗(TER)を計測するとともに、外層にFITC-dextranを加え表皮細胞シートを通過して内層内に入り込んだFITC-dextran量(total flux)を計測し、IL-4、IFN-gammaの存在下、非存在下で比較した。その結果、IL-4はFITC-dextranの通過を有意に促進し、IFN-gammaは逆に有意に抑制することが明らかになった。IFN-gammaはTERも有意に増加させた。このことは、basal to apical の表皮細胞の透過性は、IL-4、IFN-gammaによって相反するように調節され、臨床的にはIL-4は浸出液を増すような急性湿疹反
応を特徴づけ、IFN-gammaは浸出液を抑えるように働きより慢性の湿疹反応を特徴づけると想定された。 
(b)環境中ダニアレルゲン定量法及び皮膚表面暴露量測定法の確立
患者皮膚表面にTegaderm(3M:6x7cm)を貼り、寝具表面、皮膚表面から試料を採集。試料中のダニアレルゲン(Der 1)を高感度蛍光ELISAで測定することに成功した。その結果、寝具表面のDer 1 量と皮膚表面のDer 1 量との間には有意な相関を認めた。
結論
結論と次年度への抱負
アトピー性皮膚炎の治療のEBMに基づいた評価を本邦ではじめて開始した。質の高い臨床研究は比較的少ない。そのような文献だけでなく、症例数は少なくても貴重な論文と思われるものを本研究班における評価法を取りいれてまとめ、一目でスクリーニングできるような文献データブックの作成が必要である。また次年度は本疾患に関して各分担研究者が行っているいろいろな基礎的実験も大いに進めまとめていきたい。
倫理面への配慮
本研究の過程で取り扱った個人情報については、漏洩することのないように主任研究者が責任を持って保護致します。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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