重症アトピー性皮膚炎に対する核酸医薬を用いた新規治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200798A
報告書区分
総括
研究課題名
重症アトピー性皮膚炎に対する核酸医薬を用いた新規治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 克人(弘前大学医学部皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本公二(愛媛大学医学部皮膚科)
  • 金田安史(大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学)
  • 森下竜一(大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学・加齢医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班はNFkB decoy oligodeoxynucleotides (NDON)およびその他の核酸医薬の開発とアトピー性皮膚炎に対する臨床応用を研究目的とし、以下の4項目を主な研究内容とする。1)自然発症皮膚炎モデルマウスを用いたNDONおよびその他の核酸医薬の治療効果および副作用の検討:コンベンショナルな条件で飼育すると皮膚炎を自然発症するNC/Ngaマウスを用い、NDON、その他の核酸医薬の治療効果および副作用を検討する。今年度は主にNDON外用剤の治療効果を検討する。2)表皮角化細胞およびランゲルハンス細胞におけるNDON薬理作用の検討:ランゲルハンス細胞や表皮角化細胞は、抗原提示、サイトカイン、ケモカイン産生など、アトピー性皮膚炎発症に重要な役割を果たしていると考えられる。これらの細胞においてNDONの標的分子であるNFkBが皮膚炎発症にどのように関与するかを検討し、NDONの薬理作用を明らかにする。今年度は主に表皮角化細胞におけるNFkB関連分子の発現動態を検討する。3)生体皮膚への低侵襲・非観血的高分子DNA導入法の開発:皮膚は角層のバリアー機能が極めて良く発達しており、分子量1.000を超える分子の通過は困難である。そのため、分子量12.000のNDONは掻爬によるびらん局面や顔面などバリアー機能の低い部位以外では十分な治療効果が得られない可能性が高い。皮膚炎に対してより有効な核酸医薬を開発するためには、皮膚に高分子DNAを導入する新たな方法論の開発が必要である。本研究班では、細胞融合能を持つセンダイウイルス(Hemagglutinating Virus of Japan、HVJ)の外被蛋白を利用した新たな遺伝子導入ベクター(HVJ-envelope、HVJ-E)、および皮膚の化学処理と超音波を組み合わせた新たな遺伝子導入法(gene bath)の開発とアトピー性皮膚炎への臨床応用を目指す。今年度はHVJ-Eの開発と臨床応用に向けた基礎研究を行う。4)核酸医薬の臨床研究展開:NDONおよびその他の核酸医薬について、EBMに基づく臨床研究を行い、その効果と安全性について正確に評価することが本研究班の最終目的である。平成13年11月より弘前大学附属病院皮膚科において、重症アトピー性皮膚炎に対するNDON軟膏治療の第1回臨床試験(オープン試験)を開始し、重症顔面病変に対する有効性を明らかにした。今年度は第1回試験結果を詳細に解析し、このデータを基に、本研究班員の所属する複数施設における第2回臨床試験(二重盲検試験)のプロトコール作成を行う。
研究方法
1)自然発症皮膚炎モデルマウスを用いたNDON治療効果の検討:自然発症皮膚炎モデルマウスであるNC/Ngaマウスを用いてNDON治療効果を検討した。NC/Ngaマウス(♂、4週令)をコンベンショナル条件下で飼育し、皮膚炎の発生を確認した後、ワセリンを基剤とした1.6%NDON軟膏塗布群、1.6%スクランブルデコイ(ランダムな配列からなる20塩基対DNA)軟膏塗布群、基剤(ワセリン)塗布群、無投与群の4群に分けて2週に1回、計4回(8週間)塗布し、肉眼的および組織学的皮膚炎状態の改善程度を比較検討した。また、炎症細胞のNDON治療前後における浸潤動態変化、アポトーシスの有無、ICAM1の発現パターンの変化についても比較検討した。2)表皮角化細胞におけるNFkB関連分子発現動態の検討:NDONの標的であるNFkBの表皮角化細胞における発現を検討した。角化細胞を無血清培養法にて培養した後、炎症性サイトカインの代表で、NFkBを活性化するTNF-α、IL-1を添加し、NFkB-IkB関連分子の発現および細胞内局在について、蛍光抗体法およびwestern blot法に
て検討した。3)生体皮膚への高分子DNA導入法の開発:紫外線で賦活化したHVJとDNA溶液を混合した後にTritonX100で処理し、10.000gで遠心してDNAをHVJ-E内に封入した。、これを種々の培養細胞や生体組織に投与し、遺伝子導入効果を検討した。4)NDONの臨床研究展開:弘前大学倫理委員会に承認を得た上で、10名の重症成人型アトピー性皮膚炎患者に同意を得てNDON軟膏の世界初の臨床研究を行った。NDON 投与前後で臨床症状の改善度および副作用の有無について検討した。
結果と考察
1)自然発症皮膚炎モデルマウスを用いたNDON治療効果の検討:コントロール群(基剤のみ、およびランダムDON含有軟膏塗布群)と比較して、NDON軟膏塗布群では、臨床的・組織学的に炎症症状の著明改善を認め、さらに真皮内の浸潤肥満細胞におけるアポトーシスと、それに伴う浸潤肥満細胞数の著しい減少が観察された。2)表皮角化細胞におけるNFkB関連分子発現動態の検討:表皮角化細胞において、 RelA、p50、p52、 RelB、IkB-αの発現が認められた。TNF-α、IL-1刺激によりIkB-αのリン酸化が生じるとともに、RelAとp50がNFkB配列に結合することが確認された。また、TNF-α刺激によりRelA、p50ともに細胞質内から核内へ移行した。3)生体皮膚への高分子DNA導入法の開発:HVJ-Eベクターは多くの培養細胞への遺伝子導入に優れ、特に従来法では効率の低かった浮遊細胞や初代培養細胞への遺伝子導入に効果的であることが確認された。蛍光ラベルした二重鎖のデコイ核酸を培養表皮角化培養細胞に導入するとほぼ100%に近い効率で核内導入された。さらに、皮膚へのHVJ-Eベクター局注により遺伝子導入が可能であることが明らかとなった。4)NDONの臨床研究展開: ステロイド外用剤やFK506軟膏の適応外である重症顔面病変に対し、NDONは極めて有効かつ安全という結果を得た。しかし20bpのオリゴDNAからなるNDONは分子量約12.000で顔面以外の皮膚では吸収が悪いため、その他部位への治療は必ずしも著効せず、より良い効果を得る為には皮膚に対する高効率核酸導入法の開発が必要である事が明らかとなった。また、顔面は左右比較試験などに不向きなため、治療効果を確認するために二重盲検試験は必須である。第2回臨床試験は重症顔面病変に対するNDONの多施設二重盲検試験とし、そのプロトコールを作成した。
NFkBは、IL-1、IL-8、IL-12、IFN-γ、TNF-α等の炎症性サイトカイン、RANTES、Eotaxin等のケモカイン、GM-CSF、M-CSF等の成長因子、ICAM-1、VCAM-1、ELAM-1等の接着分子、Bcl-2等のアポトーシス抑制遺伝子など、炎症病変形成に関わる多くの遺伝子発現を誘導する転写因子であり、NFkBをおとりDNAであるNDONに結合させてこれら遺伝子群の発現を抑制することにより、アトピー性皮膚炎症状を改善しうることが期待される。皮膚炎自然発症モデル動物であるNC/Ngaマウス皮膚への1.5%NDON軟膏塗布により著しい皮膚炎症状の改善が得られ、その作用機序として肥満細胞のアポトーシスが関与することが強く示唆された。上述したようにNFkBはBcl2の発現を誘導するため、NDON によるBcl2発現抑制がアポトーシス感受性を高めたものと考えられる。また病変皮膚でのICAM-1発現低下も確認されており、ランゲルハンス細胞や浸潤リンパ球を介した遅延型反応も抑制されると予想される。
今回施行した重症アトピー性皮膚炎に対する第1回NDON 臨床研究では、特に顔面の重症病変に対してNDONが極めて有効であることが明らかとなった。NDON塗布が特に著効を示した症例では、塗布開始後約2週間で略治状態となり、NDON塗布終了後も極めて良い状態が維持された。少なくともNDON終了後約3ヶ月間は保湿剤を中心としたよる維持療法が可能で、strongクラス以上のステロイド外用を必要としなかった。ステロイドを中心としたこれまでの治療薬がサイトカイン産生抑制など即効的炎症反応抑制をその主作用としていたため、投与中止後のリバウンドによる皮膚炎増悪は常に問題となっていた。一方NDON は肥満細胞のアポトーシス誘導、すなわち浸潤炎症細胞そのものを病変部から除去するという極めて新しい作用点を有する治療薬で、この特異的作用により、やや緩やかな治療効果発現と極めて長い治療効果維持が得られたと考えられる。治療期間中およびその後の観察期間において、全身、局所共に副作用は認められなかった。この症例が、NDON治療開始前には数年間ステロイドを離脱し得なかったことを考えると、NDONは極めて有用かつ安全なアトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢といえる。
結論
NFkBを標的としたNDONがアトピー性皮膚炎に有効な新薬となりうる可能性が示された。平成15年度は、第2回臨床試験(二重盲検試験)により、より正確な有効性と安全性を確認すると共に、アトピー性皮膚炎に対するより効果的な核酸医薬の開発を進めていく予定である。

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