アレルギーにおける粘膜免疫を基点とした全身・皮膚免疫クロスネットワークシステムの解明と予防への応用に向けた基礎研究

文献情報

文献番号
200200795A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギーにおける粘膜免疫を基点とした全身・皮膚免疫クロスネットワークシステムの解明と予防への応用に向けた基礎研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
清野 宏(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高津 聖志(東京大学医科学研究所)
  • 高橋 一郎(広島大学大学院)
  • 黒野 祐一(鹿児島大学)
  • 権 美那(大阪大学微生物病研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究計画では粘膜免疫系を基点とした全身免疫と皮膚免疫トライアングル免疫統御系の解明を進め、アレルギーにおける呼吸器・消化器など粘膜で被われた臓器特異性免疫応答の異常のみならず、それによる全身免疫と皮膚免疫システム破綻の過程について実証的な理論構築をおこなう。これを基盤としてアレルギーの予防・治療につながる粘膜免疫機構から全身免疫と皮膚免疫を制御する「粘膜免疫基点免疫療法」開発へ向けての基礎的情報を提供する。
研究方法
粘膜免疫システムを基点とした全身免疫と皮膚免疫間トライアングル免疫クロストークシステムの誘導・制御機構の解明を進め、アレルギー発症における関与を追及していく目的で基礎系4名と臨床系1名による共同研究体制のもとで研究を展開している。本研究計画では、粘膜免疫学領域で先導的研究を展開している東大・清野は主任研究者として研究全般の総括と呼吸器粘膜免疫(NALT)を中心としたアレルギーとの関連の解明に従事している。東大・高津はIL-5シグナル伝達による好酸球制御とIgA+B細胞誘導機構についての世界的第一人者であり、トライアングル免疫クロストークシステムに関連するサイトカイン制御機構の解明を細胞・分子レベルから多面的に研究を進めている。広島大・高橋は環境ストレス応答性分子であるMICA/NKG2D の腸管T細胞発達への関与を中心として研究を展開し、アレルゲンを環境ストレスと考え、臓器特異性を代表する腸管T細胞のアレルギー制御への関与という新しい観点から研究を展開している。阪大・権はカンジダアレルギーモデルの開発とそれを駆使した粘膜・皮膚・全身免疫間クロストークシステムの存在についての解析を担当している。鹿児島大・黒野は臨床的観点からヒトNALTの発達過程に及ぼす吸入アレルゲン抗原の影響を検討し、特にホーミングレセプターの観点からヒト検体を駆使して研究を展開している。
結果と考察
清野班はNALTやパイエル板組織形成が遺伝的に欠損している新生児Id2-/-マウスをレシピエントとして正常マウスから分離した胎生肝細胞やCD3-CD4+CD45+細胞をFACSで精製分離しId2-/-マウスへの移入実験をおこない、移入してから約1週間後にはNALT組織形成が将来起きる鼻腔底の両角にCD3-CD4+CD45+細胞集団の存在を認めた。さらに、数週間後にはベル状の形態を有したNALT組織形成を認め、胎生肝細胞集団の中のCD3-CD4+CD45+細胞によってNALT組織形成が開始されることを個体レベルで直接的に初めて見出した。
高津班は結核菌Ag85B蛋白質のC-末端側の15アミノ酸残基ペプチド (Peptide-25) が選択的にTh1応答を惹起するアジュバント活性を示しTh1応答や細胞傷害性T細胞の生成を促進することを初めて見出した。また、Lnkファミリーアダプター分子であるLnk の過剰発現がマスト細胞の増殖を抑制することやAPSが増すと細胞の脱顆粒の制御に関与することを初めて発見した。そして、IgA 産生や好酸球の増殖・分化を制御するIL-5 が実験アレルギー性鼻炎の病態に関与することを初めて示した。 
高橋班は環境ストレス応答分子であるNKG2DやRae-1 βの局在についてマウス小腸遠位部および大腸近位部粘膜の陰窩部上皮に発現が高いことを同定した。 さらに環境ストレス応答分子であるMICA-Tgマウスを作成し、小腸IELsにおいてCD44, CD45RB, CD69などの活性化マーカーが陽性なCD4+CD8+T細胞の発達が亢進していることを見出した。このMICA誘導型T細胞のTCR発現様式とクロノタイプを解析により、クローナルな増殖分化をうかがわせるTCRレパトアVβ8.2-Jβ2.7を示すことを明らかにした。 
権班はカンジダとアレルギーの関連を探求する動物モデルの開発を試み成功している。カンジダ抗原をAlumと共に腹腔内投与することにより、血清中総IgE抗体と抗原特異的IgE抗体の産生が認められ、全身感作が成立した。次にこのマウスにカンジダアレルゲンと共にCTを経鼻投与したところ既存IgE抗体に影響することなく血清中、分泌液中にカンジダ特異的IgA抗体誘導が確認された。
黒野班は臨床的観点から血管内皮細胞と線維芽細胞による可溶性と膜型VCAM-1上昇と転写活性因子であるNF-?B発現相関性を証明し、これらの反応は抗アレルギー薬であるセチリジンそしてステロイドによって有意に抑制された。次に臨床検体中のVEGFの濃度をELISAによって測定したところ、アレルギー性鼻炎鼻汁、慢性副鼻腔炎鼻汁中の濃度が血清中と比較して有意に高値であった。そこで、線維芽細胞を低酸素下に培養すると、VEGF産生が上昇した。また、NF-κBに加えて、低酸素関連因子のひとつであるHIFの発現も認められた。これら因子の産生、発現はステロイドそして14員環系マクロライド薬によって有意に抑制された。
(考察)清野班の研究結果は胎生肝細胞とCD3-CD4+CD45+細胞によってNALT組織形成が開始されることを個体レベルで直接的に初めて証明した。両細胞群移入マウスにおけるNALT組織形成の成熟度を比較した場合、胎生肝細胞移入群のほうが高いことからCCD3-CD4+CD45+細胞以外にもその過程に関与する細胞集団が存在している可能性が示唆され、現在その検討を進めている。
高津班では本年度の結果をもとにPeptide-25がどのようなメカニズムでTh1の生成を促進するのか、さらにTh1アジュバントによるアレルギー制御の方法を探索していく。Lnkによるマスト細胞増殖抑制のメカニズムについてはc-Kitとの相互作用の観点とシグナル伝達系の解析により今後明らかにしていく。 IL-5の粘膜内B細胞活性化の機構の解明、ヒト好酸球株化細胞を用いてIL-5レセプターの細胞内ドメインに会合する分子を同定し、その拮抗剤を検索していく予定である。
高橋班の結果はNKG2DテトラマーとRae-1 ? anti-sense RNAを用いてIn situ hybridization法を駆使した実験の所見よりIELの発達を促すリガンドのひとつとしてRae-1?などのNKG2D リガンドの関与が示唆された.また、MICA-Tgマウスの解析からIELsの一部はMICA特異的に誘導される環境ストレス適応性の胸腺外分化T細胞である可能性が示唆された.今後は環境ストレス反応性腸管T細胞の食物アレルギー発症への関与を検討する。
権班の結果により、経鼻カンジダ粘膜ワクチンは、カンジダ抗原に全身感作されている宿主に対しても血清中総IgE抗体や抗原特異的IgE抗体の増加やアレルギー症状を増悪することなく、腸管内粘膜免疫機構を活性化し、腸管内常在性C. albicans生体内バランスを調節し、安全かつ有効にアトピー重症化改善効果に寄与する可能性が示唆された。
黒野班の結果からⅠ型アレルギーそして炎症に関わるサイトカインや因子はVCAM-1、VEGFの産生を促進し、粘膜組織内への好酸球浸潤そして浮腫に関わっていると推測される。さらにそのシグナル伝達には転写活性因子であるNF-?Bが重要な役割を演じていることが示唆された。また、アレルギー性炎症の遷延化や難治化には起炎物質の存在のみでなく、病変臓器の環境たとえば低酸素状態などが関与し、複雑な病態を呈すると考えられる。
結論
粘膜免疫システムを基点とした全身免疫と皮膚免疫間トライアングル免疫クロストークシステムの誘導・制御機構の解明を進め、アレルギー発症における関与を追及していく目的で基礎系4名と臨床系1名による共同研究体制を推進して、呼吸器粘膜免疫の観点からはその誘導に関して中心的役割を果たしているNALT組織形成細胞集団の同定とその直接的関与の個体レベルでの証明から始まりIL-5 の実験アレルギー性鼻炎の病態形成関与が明らかになった。さらに臨床検体等を駆使して呼吸器粘膜炎症における転写活性因子NF-κBを介した VCAM-1、VEGFの産生促進機構とその抑制効果薬剤についての知見を提供した。腸管免疫においては環境ストレス応答分子であるNKG2D、Rae-1の腸管組織発現パターンからMICA反応性CD4+CD8+T細胞の発達亢進メカニズムについて新知見を提供した。アレルギーとの関連ではアトピー性皮膚炎との関連が疑われている腸管内常在性C. albicansを制御できる抗原特異的粘膜免疫誘導法を検討できるマウルモデルを確立した。基礎・治療的観点からは結核菌Ag85B蛋白質由来Peptide-25 が選択的にTh1応答を惹起するアジュバント活性を示しアレルギー治療への可能性が示唆された。また、Lnkファミリーアダプター分子であるLnk の過剰発現がマスト細胞の増殖を抑制することやAPSが増すと細胞の脱顆粒の制御に関与することが分かり、それをターゲットにした薬剤の開発研究へ向けての応用研究が期待される。

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