皮膚・気道・鼻粘膜局所におけるresidential cell による生体防御機構のアレルギー疾患における役割の解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200794A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚・気道・鼻粘膜局所におけるresidential cell による生体防御機構のアレルギー疾患における役割の解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小川 秀興(順天堂大学)
研究分担者(所属機関)
  • 奥田峰広(花王株式会社)
  • 坪井良治(東京医科大学)
  • 中尾篤人(順天堂大学)
  • 花沢豊行(千葉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などでは、皮膚・気道・鼻粘膜における臓器・組織特異的な病態の形成が観察される。このような病態の形成には、白血球等の免疫系細胞による全身的な生体防御機構のほかに、それぞれの組織に固有なresidential cellによる局所的な生体防御機構/生理機構の関与が重要であると推測されるが、その実態はあまり明らかにされていない。我々は本研究で、皮膚、気道、鼻粘膜局所のresidential cellによる生体防御機構(あるいはその生理的機能)がアレルギー疾患の病態において果たす役割について明らかにする。本研究によってアレルギー疾患における臓器/組織特異的な病態に対する理解が深まりアレルギー疾患に対する新規治療法の開発につながることが期待される。
研究方法
1)非侵襲的に皮膚粘膜バリア機能(皮膚角化細胞の水分保持機能)を測定するために、ビタミンB2であるリボフラビンの経皮吸収率を測定する手法を開発した。この手法の妥当性、臨床における有用性について、ラット皮膚炎モデル、ヒト皮膚検体を用いて検討した。2)Toll-like receptor2欠損マウスを用いて、グラム陽性、陰性球菌の代表的抗原であるLipopolysaccaride (LPS), peptideglycan (PGN)に対する皮膚局所肥満細胞の反応性を検討した。3)ヒト皮膚微小血管内皮細胞を用いて、神経系の神経伝達物質ノルアドレナリンによる、炎症性サイトカインの作用に対する影響を検討した。4)ヒト皮膚角化細胞における炎症性サイトカイン作用へのtransforming growth factor-? (TGF-??の効果について検討した。5)気管支喘息患者肺組織サンプルを用いて、気管支上皮細胞におけるTGF-?シグナル分子?Smad)の活性化と気道リモデリングについての相関を検討した。6)アレルギー性鼻炎患者由来の鼻粘膜上皮細胞を用いて、炎症性サイトカインが鼻粘膜上皮細胞に与える影響を検討した。
結果と考察
1)皮膚バリア機能を簡便に測定するための手法は、従来法である経皮水分蒸散量(TEWL)と比較しても相関性が高い評価法であることをラット皮膚炎モデルにおいて明らかにした。本法は従来のTEWL測定装置の適用が不可能であった屈曲部位や指背等の微小部や腔内における測定を可能にした。また本法を用いてヒト顔面においては皮膚バリア機能の個体差が大きいことが明らかになり、アトピー性皮膚炎の重症部位の個体差を皮膚バリア機能の差に拠って説明できる可能性が示唆された。今後よりこの測定法の臨床的有用性とりわけアトピー性皮膚炎の臨床における有用性について検討する予定である。2)黄色ブドウ球菌の主要毒素であるペプチドグリカン(PGN)が肥満細胞上のToll-like receptor2を介して肥満細胞における脱顆粒やTh2タイプの炎症性サイトカイン産生を惹起させることをインビトロならびに動物実験によって明らかにした。この知見はアトピー性皮膚炎患者にしばしばみられる黄色ブドウ球菌感染の合併がアトピー性皮膚炎の病態を悪化させることについての分子的な基礎をはじめて明らかにするものである。3)ヒト皮膚微小?管内皮細胞をIL-1?, IL-1?, IL-4で刺激するとケモカインMCP-1や接着分子ICAM-1、VCAM-1の発現が亢進するがノルアドレナリンはそれらの作用を増強した。この結果は神経伝達分子と炎症との密接な関係を明らかにするものである。今後これらの知見が、実際にアトピー性皮膚炎患者病変部において修飾されているか否かについて検討を進めていく。4)皮膚角化細胞を炎症性サイトカインであるIFN-?, TNF-?で刺激したときに分泌されるケモカイ
ンTARCの発現がTGF-?によって抑制されることをRT-PCR 法やELISA法を用いて示した。さらにこの抑制効果はSmad pathwayを介するものであった。角化細胞によるTARC発現はアトピー性皮膚炎の病態に深く関与していることが知られていることから、TGF-?によるTARCの抑制が、患者病変部において機能しているか否かについて今後検討する。5)免疫染色法による気道におけるリン酸化Smad2の発現と気道リモデリングの臨床的パラメーターである上皮細胞下基底膜の肥厚度は正の相関を示した。さらに上皮細胞におけるTGF-?シグナルの強さはTGF-?シグナル抑制分子であるSmad7の発現と負の相関を示すことを見出し、Smad7の気管支上皮細胞における発現調節異常が、気道リモデリングの形成に関与する可能性を報告した。今後さらに気管支上皮細胞におけるSmad7の発現調節機構と喘息気道リモデリングの関係について詳細な解析を進めていく。
6)Cytokine mix(IL-1?, TNF-?, IFN-?)による刺激あるいは過酸化水素による刺激は非アレルギー性鼻炎患者由来の鼻粘膜上皮細胞からのiNOS, nitrotyroshine生成を増強した。さらにグルタチオンはそれらstressに対し抑制的にはたらいていることを示した。今後アレルギー性鼻炎患者由来の鼻粘膜を用いて同様な検討を進める。
結論
皮膚・気道・鼻粘膜それぞれの局所における生体防御機構/生理的機構が、アレルギー疾患諸相の病態形成において重要な役割を果たしていること、それら組織固有なresidential cellの働きを修飾する手法がアレルギー疾患の新規治療法の開発に有用であることが本研究によって示された。
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