医薬品等の毒性試験に用いるストレス遺伝子チップの開発

文献情報

文献番号
200200792A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等の毒性試験に用いるストレス遺伝子チップの開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(岡山大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞は様々なストレスに対し、適切な遺伝子(ストレス遺伝子)を発現し自らの生存を保っている。従って、細胞がある物質(医薬品の候補化合物など)に対して誘導するストレス遺伝子を解析することにより、その物質がどのような種類のストレスとして細胞に作用しているか、即ちその物質の細胞毒性の分子機構を解明することができる。このような目的のためには、DNAチップ技術を活かして、ストレス遺伝子の網羅的な解析を可能にするストレス遺伝子チップ(全てのストレス遺伝子を乗せたDNAチップ)の開発が必要である。本研究提案は、様々なストレス遺伝子を様々な生物種において同定してきたという我々の実績の基に(ヒトに関しては既にストレス遺伝子チップの試作品を開発している)、様々な生物種において様々な方法でストレス遺伝子を同定し、ストレス遺伝子チップを各生物種において作成することを目標にしている。本研究の特徴は、ヒトだけでなく、様々な生物種でストレス遺伝子を同定することである。これは、ストレス遺伝子が種を越えてよく保存されていること、及び最近多くの生物種でゲノム情報が明らかになっていることを利用した独自の研究戦略である。即ち、ある生物種で新しいストレス遺伝子を同定した場合には、ゲノム情報を使って他の生物種でそのホモログを取るという研究戦略が本研究提案の特徴である。このような方法で得た全てのストレス遺伝子をチップ化し、それを指定研究(種々の毒性物質による遺伝子発現変化のデータベースを作成する)において使って頂くのが、本研究提案の最終目標である。また大腸菌、及び酵母などを使うことによって、単にストレスによって誘導される遺伝子だけでなく、細胞をストレス耐性化する遺伝子を遺伝学的手法を用いて網羅的に検索するのも本研究の特徴の一つである。それら遺伝子(及びそのホモログ)をストレス遺伝子チップに使用するだけでなく、このシステムを用いた全く新しい毒性試験の確立も本研究で目指したい。即ち、ある物質(医薬品の候補化合物など)に対して細胞を耐性化する遺伝子を同定することにより、その物質の細胞毒性の分子機構を解明するという方法を本研究において確立したいと考えている。
研究方法
各生物種(ヒト、マウス、イネ、酵母、大腸菌)でなるべく多くのストレス遺伝子を同定し、各生物種のストレス遺伝子チップを作成するために以下の研究を行った。ストレスとしては、アルコール、及びDNA 合成阻害剤を使用した。各生物種の細胞に各ストレスを与えた時に誘導される遺伝子を、既存のDNAチップ(ゲノム情報からランダムに遺伝子をチップ化したもの)を使って検索した。尚ヒトに関しては、我々が既に作成しているストレス遺伝子チップも用いた。更に大腸菌、酵母に関しては、発現ライブラリーを用いて、細胞内で発現させた時、各ストレスに細胞を耐性化することを指標にした検索も行った。また、耐性遺伝子を利用した、毒性試験法の確立のために以下の研究を行った。我々は、ある物質に対して細胞を耐性化する遺伝子を解析することによって、その物質の細胞毒性の分子機構を予想することが可能であると考えているので、そのような毒性試験法の評価を行った。使用する毒性物質は、インドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)である。
結果と考察
各生物種(ヒト、マウス、イネ、酵母、大腸菌)でなるべく多くのストレス遺伝子を同定し、各生物種のストレス遺伝子チップを作成する研究に関し、以下のような成果を得た。本年度、アルコールによって誘導される遺伝子(大腸菌で7、酵母で11、ヒトで7)、及びDNA合成阻害によって誘導される遺伝子(大腸菌で5、酵母で4、ヒトで16)を同定した
。これらの新しいストレス遺伝子を、ストレス遺伝子チップに搭載する予定である。また、耐性遺伝子を利用した、毒性試験法の確立のための研究に関し、以下の研究を行った。本年度我々は、酵母をNSAIDsに耐性化する遺伝子とし新しい遺伝子、TPO1を発見した。さらにこのヒトホモログを同定し、それをヒト胃粘膜細胞で発現すると細胞をNSAIDsに耐性化することを発見した。この成果は、この新しい毒性試験の有用性を示唆するものである。
結論
上述のように、研究は順調に進んでおり、3年後には、研究目的(医薬品等の毒性試験に用いるストレス遺伝子チップの開発)を達成できる見通しである。

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研究報告書(紙媒体)

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