副作用発現回避を目的とした代謝物発現プロファイル及び薬剤反応性遺伝子の解析

文献情報

文献番号
200200791A
報告書区分
総括
研究課題名
副作用発現回避を目的とした代謝物発現プロファイル及び薬剤反応性遺伝子の解析
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
平塚 真弘(東北薬科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ある種の薬物を服用すると、副作用が発現しやすい人たちが存在する。この要因として、肝や小腸の薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)やCYP以外の代謝酵素が遺伝的に機能低下していることが最近報告されている。また、副作用発現の感受性に関しても、幾つかの遺伝的背景が原因となることがある。したがって、ファルマコゲノミクスやトキシコゲノミクス研究は、厚生労働省が推進する医薬品の適正使用という点で、重篤な副作用発現回避やQOLの低下防止に貢献することが期待されている。しかし、これまでに薬剤反応性遺伝子のSNPがトキシコメタボロミクス的側面で、どのような影響を及ぼしているかを詳細に解析した例はほとんど存在しない。特に広範な薬物の代謝酵素として知られるCYP3A4の機能や発現量に影響するSNPに関しては、統一した見解が得られていないのが現状である。もし、遺伝子診断や代謝物発現プロファイルの情報が副作用発現予測に応用できるなら、より安全かつ効果的な薬物療法が行われ、国民医療に貢献できると考えられる。本研究では当該年度にCYP3A4の基質薬物である抗血小板薬シロスタゾールをモデル薬物として、その代謝物プロファイルや副作用発現に影響を及ぼす薬剤反応性遺伝子のSNP解析を行う。このことにより、CYP3A4で代謝される薬物の体内動態がどのような因子により影響を受けるかが明らかとなり、薬剤効果や副作用発現の予測を支援できると考えられる。
研究方法
研究開始年となる平成14年度は薬剤反応性遺伝子SNPと代謝物発現プロファイル、副作用発現の相関解析を行った。はじめにCYP3A4の基質薬物である抗血小板薬シロスタゾールの血中代謝物プロファイルを解析するために、HPLCを用いた定量システムを構築した。分析対象物質は親化合物であるシロスタゾールの他に、主要代謝物産物OPC-13015及びOPC-13213とした。解析対象人数はシロスタゾール既投与患者32人とした。シロスタゾール100mgを1日2回、1週間以上服用し、薬物血中濃度が定常状態となっている患者の末梢血を採取した。採血ポイントは早朝薬物投与前のトラフレベルとした。薬物血中濃度測定用に使用する採血管は抗血液凝固剤を含まないものを用い、採血後直ちに血清を遠心分離した。得られた血清に内標準物質(OPC-3930)を加え攪拌し、さらにH2Oを加え攪拌後、固相抽出カラムCHEM ELUT CE1003に試料をアプライし、数分間静置した。その後クロロホルムで試料を溶出し、その試料を固相抽出かラムSep-Pak Plusに吸着し、酢酸エチルで洗浄後、クロロホルム:メタノール(70:30)で溶出した。得られた試料を乾固後、25%アセトニトリルで溶解し、定量分析用試料とした。HPLCはWatersアライアンス2695を用いた。溶出条件はポンプ1側に25%アセトニトリル、ポンプ2側に60%アセトニトリルを置き、20分でポンプ2の溶媒が68%となるようなリニアグラジエント溶出を行った。流速は1 mL/minとし、カラムはWaters Symmetry 5μm C18カラム(3.9x150mm)を用いた。カラム温度は40℃、サンプル温度は10℃とし、254nmで測定を行った。また、薬物血中濃度測定用の血液とは別に抗血液凝固剤入りの採血管を用いDNA及びRNA抽出用の血液試料を採取し、常法によりそれぞれを抽出し、薬剤反応性遺伝子のSNP解析及びmRNA発現解析の試料とした。
結果と考察
シロスタゾールとその主要代謝物であるOPC-13015及びOPC-13213、また内標準物質(OPC-3930)の溶出時間は、それぞれ14.0分、12.3分、3.9分、10.0分であり、鋭利で良好なピーク分離が確認された。シロスタゾール既投与患者32人の薬物血中濃度は、シロスタゾールが平均値831.4 ng/mL(最大値2379.8 ng/mL、最小値95.
9 ng/mL)、OPC-13015が330.8 ng/mL(最大値878.3 ng/mL、最小値26.7 ng/mL)、OPC-13213が284.4 ng/mL(最大値854.4 ng/mL、最小値51.4 ng/mL)であり、もっとも高値を示した人と最も低値を示した人の差はシロスタゾールで24.8倍、OPC-13015で32.9倍、OPC-13213で16.6倍であり、顕著な個人差が確認された。副作用(頭痛)を示した患者は1名であり、各薬物血中濃度はいずれも中央値付近であった。副作用を呈した症例が少なかったため親化合物や代謝物の血中濃度と副作用の相関性の解析することはできなかった。次に、各主要代謝物の薬物血中濃度を親化合物シロスタゾールで除した代謝比を算出し、それらの値をプロビット解析すると、特にOPC-13213/シロスタゾール比0.5付近で強い二相性の分離点が観察された。また、OPC-13015/シロスタゾール比0.5付近でも弱い二相性の分離点が観察された。つまり、シロスタゾールからOPC-13213やOPC-13015に代謝される際に、Extensive MetabolizerとPoor Metabolizerが存在することが示唆された。この原因としては、シロスタゾールの代謝に関与するCYP3A4を代表とする種々の薬物代謝酵素や薬物トランスポーター遺伝子のSNPの存在、あるいはmRNAレベルでの発現量の差が示唆された。現在までにOPC-13015代謝にはCYP3A4、CYP2D6、CYP1A2が、OPC-13213代謝にはCYP2B6の関与が明らかにされている。これ以外のCYPが代謝に関与している可能性もあるが、少なくともこれらのCYP分子腫のSNP解析を行うことは、シロスタゾール代謝の個人差を解明し、副作用発現回避のシステムを構築するためにも有益であると考えられる。現在は、CYP3A4、CYP2D6、CYP1A2、CYP2B6、CYP3A5、MDR1、PXR、RXR等のシロスタゾール代謝に関与すると考えられる薬剤反応性遺伝子の既知SNP解析を進行中である。また、これらの白血球中mRNA量を定量することにより、シロスタゾールの薬物体内動態が予測可能か否かを検討しており、平成15年度に報告予定である。
結論
薬物代謝酵素CYP3A4の基質薬物である抗血小板薬シロスタゾールとその主要代謝物であるOPC-13015及びOPC-13213の血中濃度を連続投与におけるトラフレベルで測定した。32人の薬物投与患者において、顕著な薬物濃度の個人差が認められた。この原因としてはシロスタゾール代謝に関与する薬物代謝酵素(CYP3A4、CYP2D6、CYP1A2、CYP2B6)や薬物トランスポーター(MDR1)またはそれらの発現を調節している核内レセプター(PXR、RXR)遺伝子のSNPの存在や発現量の差が影響していることが示唆された。それらの遺伝子解析に関しては現在進行中である。本研究をさらに推進し、シロスタゾールのようなCYP3A4で代謝される薬物の体内動態がどのような因子により影響を受けるかが明らかとなれば、多くの薬剤の効果や副作用発現の予測を支援できると期待される。

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