ヒト硫酸転移酵素遺伝子ファミリーの網羅的機能解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200789A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト硫酸転移酵素遺伝子ファミリーの網羅的機能解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
榊原 陽一(宮崎大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体内において非常に多様な機能に関与するヒト硫酸転移酵素に関して網羅的機能解析を行い、トキシコゲノミクス分野における硫酸転移酵素の機能解明と研究成果のテーラーメイド医療への応用の可能性を検討する。現在までに硫酸転移酵素は非常に多様な分子種からなり、シトクロムP-450酵素群と同様に大きな遺伝子ファミリーを形成していることが明らかとなっている。しかしながら、現時点ではゲノム上にいくつの異なる機能を持った硫酸転移酵素が存在しているのかといったことも正確には把握されていない。そこで、本研究計画において、全ての硫酸転移酵素遺伝子(SULT)ファミリーのクローニングとリコンビナント酵素の調製を行い、ヒト硫酸転移酵素の網羅的機能解析を行う。
生体内における硫酸化は、生体外異物や薬物の解毒代謝機構、ステロイドホルモンや神経伝達物質の生体内濃度調節機構、食品機能性成分の作用機構への関与などが知られている。このような観点から、硫酸転移酵素はテーラーメイド医療やテーラーメイド栄養指導のための指標として注目を集めつつある。今後、トキシコゲノミクス分野においてヒト硫酸転移酵素を網羅的に機能解析し、生体外異物(食品添加物、環境ホルモン、環境変異原物質など)や薬物にたいする解毒代謝機構としての硫酸化に関して生化学的に諸性質を検討する必要がある。そこで、平成14年度は新規ヒト硫酸転移酵素のクローニングとその大腸菌における発現系を確立し、リコンビナント硫酸転移酵素を使った生化学的な諸性質を網羅的に解析することを目的に研究を行った。さらに、テーラーメイド医療やテーラーメイド栄養指導を導入するための基盤を確立するためにヒト硫酸転移酵素の遺伝子多型(SNPs)に関する研究を開始した。
研究方法
新規ヒト硫酸転移酵素のクローニングとして、ヒトSULT1C1のクローニングはすでに報告されているラットおよびマウスのSULT1C1配列と相同性の高い部分配列をヒトゲノムデータベースから検索した。得られた情報は断片的なエクソン配列のため、コンピューター上で既知の硫酸転移酵素のスプライスジャンクションと比較しながらcDNA配列を予想した。得られた予想cDNA配列をもとにオープンリーディングフレームをヒトトータルRNAからRT-PCRにより増幅した。PCR断片は塩基配列の決定を行い、ゲノムから予想された配列との比較を行い、最終的に大腸菌用発現ベクターpGEX-2TKにサブクローニングしGSTとの融合タンパク質としてリコンビナント酵素を発現した。
ヒト硫酸転移酵素の遺伝子多型(SNPs)に関する研究として、ヒトヒドロキシステロイド硫酸転移酵素(SULT2A1)に関してPCRによる部位特異的変異の導入によりアミノ酸配列の異なるリコンビナント酵素5種類を調製した。これらの酵素は酵素活性の確認および変異原試験法への応用に関してAmes試験による9-ヒドロキシメチルアントラセンの変異原物質への代謝活性化を試験した。
結果と考察
ヒトSULT1C1に相当する遺伝子が、第2染色体上の約30kbp長の範囲内で8つのエクソンに別れて存在していることがゲノムデータベースより明かとなった。またゲノム上のエクソン7とエクソン8は、2つの異なる構造の組み合わせが、ゲノム上にタンデムに並んで存在していることが明らかとなり、スプライシングの過程でどちらの構造が選択されるかによって、C末端97残基にバリアントのある2種類の酵素として発現していると推測された。このようなスプライスバリアントはヒトSULT2B1のN端で報告されており、機能が異なることが知られている。そこで、その2種のスプライスバリアントSULT1C1-A およびSULT1C1-Bのオープンリーディングフレームの配列データをもとに、5'末端と3'末端のプライマーをそれぞれ設計し、ヒトの各種臓器のtotalRNA混合サンプルを用いたRT-PCRにより、SULT1C1 のcDNAの増幅を試みた。その結果、SULT1C1-Aについては、完全長のcDNAが得られたが、一方で、SULT1C1-Bはスプライシングの不完全な断片しか得られなかった。そこで、SULT1C1-Aを鋳型にしてPCR増幅したエクソン2~6の断片(約600bp)と、SULT1C1-B不完全断片を鋳型にしてPCR増幅したエクソン7~8の断片(約300bp)を用いて、SULT1C1-BのcDNAを合成した。2種類のcDNAはpGEX-4T-3ベクターのBamHIサイトにそれぞれサブクローニングし、酵素とグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として大腸菌で発現し、それぞれのリコンビナント酵素を調製した。酵素活性の確認は、硫酸供与体として[35S]放射活性硫酸ラベルした3'-Phoshoadenosine 5'-Phosphosulfate(活性硫酸PAPS)を用いて、基質p-nitrophenolの硫酸化反応を行った。反応後はTLCにより酵素反応によって[35S]放射活性硫酸ラベルされた基質の硫酸体を分離し、イメージアナライザーFLA3000により放射活性を酵素活性として測定した。現在引き続きSULT1C1-AとSULT1C1-Bの2種の酵素活性の諸性質について、比較検討を行っている。
ヒトヒドロキシステロイド硫酸転移酵素(SULT2A1)は大腸菌発現用ベクターpGEX-2TKにサブクローニングされたものを鋳型に部位特異的変異の導入により5種のアミノ酸配列の異なる遺伝子多型(SNPs)の調製をした。変異の確認は塩基配列の決定により行い、それぞれの硫酸転移酵素の多型を発現するクローンを選別した。リコンビナント硫酸転移酵素グルタチオンセファロースで精製し、酵素活性の測定及び9-ヒドロキシメチルアントラセンを変異源物質としてAmes試験による変異原試験に使用した。その結果、これら5種はすべて硫酸転移酵素活性を示し、そのうち1種は酵素活性も低く変異原代謝活性化能も低いことが判明した。これらの研究から、発ガンリスク診断や新規の抗変異原物質に関する研究に使用できる可能性が示唆された。
結論
平成14年度は、新規硫酸転移酵素のクローニングとしてヒトSULT1C1のクローニングと大腸菌におけるリコンビナント酵素の発現を行った。クローニングの結果、ヒトSULT1C1はスプライシングによりC端のエクソンを使い分け酵素機能を多様化している可能性が示された。またヒト硫酸転移酵素の遺伝子多型(SNPs)に関する研究として、ヒトヒドロキシステロイド硫酸転移酵素(SULT2A1)に関する研究を開始した。現在、遺伝子多型に関しては共同研究先であるテキサス大学ヘルスセンターと分担して研究を行っている。テキサス大学においては、ヒトSULT1A1およびヒトSULT1A3に関して現在研究が行われている。今後は、引き続き新規硫酸転移酵素のクローニングを行う予定であり、現在SULT6A1という新規ファミリーに属す硫酸転移酵素のクローニングを開始している。また硫酸転移酵素の遺伝子多型に関しては、データベースを詳細に検討し、すべての硫酸転移酵素の多型(SNPs)に関して酵素学的な諸性質を網羅的
に解析する計画である。

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