組換え胎盤培養細胞を用いた新規作用を有する化合物のスクリーニングシステムの構築および核内受容体の同定

文献情報

文献番号
200200788A
報告書区分
総括
研究課題名
組換え胎盤培養細胞を用いた新規作用を有する化合物のスクリーニングシステムの構築および核内受容体の同定
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石村 隆太(独立行政法人 国立環境研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、医薬品候補化合物などは膨大な数にのぼり、これらのほとんどはエストロジェン受容体(ER)等のいわゆる核内受容体との相互作用が考えられている。特にエストロジェン(E2)様あるいは抗E2様の作用を有すると考えられている化合物は、避妊や乳癌治療等を含め多岐にわたり応用性が考えられていることから、その数は多くのぼる。従来ERとのみ相互作用すると考えられていたDiethylstilbestrol (DES)は、リガンドが不明な核内受容体(オーファン受容体)であるEstrogen receptor related (ERR)に結合し、胎盤の幹細胞であるTrophoblast stem (TS)細胞の分化を変調させることが明らかにされた。これを皮切りに、従来ERと相互作用すると考えられている化合物も、あらたな核内受容体との相互作用を想定する必要性が示された。本研究は、Rcho-1細胞を用いて、新たな化合物の同定および新規核内受容体を介した作用メカニズムを明らかにしていく。Rcho-1細胞はラット胎盤の迷路部から樹立された細胞株であり、未分化細胞から巨核を有する巨細胞に分化を誘導することができる。ラットの胎盤から分泌されるプロラクチンファミリーはTS細胞同様にRcho-1細胞においても分化依存的に発現が誘導されることが知られており、TS細胞とほぼ同じ遺伝子サブセットを有していると考えられる。胎盤細胞が生理活性物質の宝庫ともいえる一面を有していること、またTS細胞を用いてERRの存在が発見された実績を有すること、またTS細胞よりも取り扱いが簡便である利点から、Rcho-1細胞は、新規核内受容体を探索するには最良の細胞株であると考えられる。本研究では先ず分化マーカーであるP450sccのプロモーターを用い、様々な化合物を曝露して分化に及ぼす影響について調べる。第二年次では、選定された化合物においてマイクロアレイ法を用いて特異的に誘導される遺伝子を明らかにする。この遺伝子のプロモーターを利用し、第二次スクリーニングを行う。細分類された各化合物群は、それぞれ個別の核内受容体に結合していると考えられる。第三年次では、各化合物群から代表的な化合物を選定し、アフィニティークロマトグラフィー法や共鳴プラズモン相互作用解析を用いて新規核内受容体の同定を行う。
研究方法
Rcho-1細胞は20%の牛胎仔血清を含むNCTC-135培地で培養した。細胞は104/100mmの細胞密度で維持し、分化を誘導する際には1 から 3.5 x 104/10mmの細胞密度になるようにまき、この日を分化後0日目(d0)と定めた。本研究で用いた化合物は、E2、RA(Retinoic acid)、DES(Diethylstilbestrol)、Tam(Tamoxifen)、ICI(ICI182,780)、DEPやDBP等のフタル酸類、4-Phenyl phenol等のフェニルフェノール類、BPA(Bisphenol A)、2,4-D等の農薬、CarbarylやBenomyl、Permethrin等の殺虫剤等である。それぞれの化合物は10 mMで、E2については10 nMとして曝露をおこなった。Rcho-1細胞からRNAを抽出し、cDNAを合成して、リアルタイムRT-PCRを行った。また米国カンザスメディカルセンターのDr. Soaresとの共同研究のもと、プロラクチンファミリー遺伝子のミニアレイを行なった。Rcho-1にDMSO(コントロール)、E2、DES、ICI、BPA、NPを4日間曝露し、RNAを回収し、32P dCTPの存在下で逆転写反応させてプローブを作製し、ハイブリダイゼーションに供した。次にリポータージーンアッセイのためのベクターの構築を行なった。ラットのチトクロームP450側鎖切断(P450scc)酵素のプロモーター領域約850bpをPCR法により増幅し、pGL-BasicベクターのXhoI、HindIIIサイトに導入した(pGL3-P450scc)。pGL3-P450sccを用いたリポータ
ージーンアッセイには、Dual-Luciferase Reporter Assay Systemを用いた。未分化Rcho-1細胞を、24ウェルプレートの1ウェルあたり、0.5 mgのpGL3-P450sccと0.5 mgのpRL-SV40を1hトランスフェクトした。その後、各種化合物が入ったメディウムで6日間培養した。6日目に、細胞を回収しルシフェラーゼとレニラの値を計測した。Rcho-1細胞の核の蛍光観察では、10 mmol/LのHoechst33342を用いて行なった。
結果と考察
Rcho-1細胞は、培養日数が進むに従って細胞のサイズが拡張し、巨核を有する巨細胞が形成される。リアルタイムPCRで胎盤性ラクトジェン-I(PL-I)およびP450sccの発現量の増加倍率を測定したところ、PL-Iはd0に比べd12では約160倍に、P450sccは約2500倍に発現量が増加した。従って、PL-I、P450sccともに分化マーカーとして利用可能であるが、P450sccの方がより高度に誘導されるプロモーターを有していると考えられた。次にラットの卵巣をポジティブコントロールとしてERのmRNAの発現解析を行ったところ、Rcho-1細胞では未分化から分化までのどのステージにおいてもERaおよびERbのmRNAが発現していないことが明らかとなった。またRcho-1細胞に0.1 nMから10 mMのE2を曝露し、分化に対する影響をPL-I mRNAの発現を指標に調べたところ、影響がなかった。すなわち以降のRcho-1細胞に対する化合物の影響はERを介していないことになる。E2および抗E2様の活性を有するといわれるDES、ICI、BPA、NPのRcho-1細胞に対する影響をプロラクチンファミリーのミニアレイを用いて検討した。Rcho-1細胞のd4では、PL-I、PL-Iv、PL-II、PLP-F、PLP-Mが発現していた。これらの発現はE2およびNPでは変化がなかった。DESでは全体的にこれらの遺伝子の発現量が低下し、ICIでは更に低下し、Rcho-1細胞の分化を抑制さていることが示された。また、BPAの曝露では、他の発現量には変化がなかったがPLP-Mの発現量のみが低下していた。このことは、BPAはPLP-Mのプロモーターに特異的に作用したと考えられる。次に、多くの化合物の影響を検討する理由で、発現誘導率が高いP450sccのプロモーターを用いてリポーターアッセイシステムを構築することを試みた。約850bpのP450sccのプロモーターをクローニングしルシフェラーゼを有するpGL3ベクターに組み込んだ。このpGL3-P450sccを補正用のベクターであるpRLとともにRcho-1細胞にトランスフェクトしてアッセイを行った。Rcho-1細胞におけるルシフェラーゼ活性は、培養日数の進行とともに上昇し、d6ではd0に比べ約30倍に活性値が上昇し有効であることを示した。このリポータージーンアッセイを用い、様々な化合物のRcho-1細胞の分化に与える影響について検討した。RAは、TS細胞の分化を誘導することが報告されているが、コントロール(DMSO)に比べ約2倍にルシフェラーゼ値が上昇しており、RAの分化誘導能が示された。またDESではルシフェラーゼ値が低下し、さらにICIではさらなる低下を示し、ミニアレイの結果と一致した。フタル酸類およびPermethrinではルシフェラーゼ値の低下が観察された。一方フェニルフェノール類では、3-PPおよび4-PPがルシフェラーゼ値を上昇させた。またCarbarylではRAとほぼ同レベルに上昇させた。次に、化合物の影響を形態レベルで評価することは簡便な手段となるため、Rcho-1細胞の核の蛍光観察を検討した。Rcho-1細胞のd6において対照群(DMSO)に比べRA処理群では、核のサイズが大きくなり分化が進行している像が得られた。ICI及びDESを曝露したRcho-1細胞では、核の形が凹型を示すことが観察された。このことはE2作用あるいは抗E2作用を有し応用性が考えられている化合物の非特異的な作用を解析する上で、有用な指標になりうると考えられた。
結論
本研究では、Rcho-1細胞を用いて化合物の分化に与える影響を解析した。先ずRcho-1細胞はERが存在せずE2に対して不応性であることを明らかにした。プロラクチンファミリーミニアレイや、P450sccプロモーターを用いたリポータージーンアッセイを利用して、約30種の化合物について分化に及ぼす影響を検討した。DES、ICI、フタル酸類やPermethrinはRcho-1細胞の分化を抑
制し、Carbarylは分化促進作用を有する等、様々な影響を捉えることができた。この他BPAのER非依存的な作用を検討する上でプロラクチンファミリーのプロモーター解析が有効であること、またICIやDESのER非依存的な作用として核の形態を指標とした解析方法が重要など、今後の研究展開の礎となる現象を得ることができた。

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