薬物トランスポーターの分子多様性と機能解析および副作用発現との連鎖解析

文献情報

文献番号
200200785A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物トランスポーターの分子多様性と機能解析および副作用発現との連鎖解析
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 雄一(東京大学・大学院薬学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 家入一郎(鳥取大学・医学部付属病院薬剤部)
  • 山下直秀(東京大学・医科学研究所附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
78,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規医薬品の開発において、その安全性確保には最大限の注意が払われなければならないが、現時点においても、市販後に死亡例を含む重篤な副作用が観察される例が少なくない。このような重篤な副作用の発現においては、大きな個人差が存在するが、その個人差を規定する重要な因子の一つとして、薬物の体内動態があげられる。現在まで、薬物の体内動態の個人間変動については、主に代謝酵素に焦点が当たっていたが、近年、薬物の体内での吸収、分布、排泄に関与するトランスポーターが多数同定、機能解析され、薬物動態における重要性が注目を集めつつある。一方で、トランスポーター機能の個人差やトランスポーターレベルでの相互作用で説明されるであろう臨床の事象がいくつか報告されていることから、医薬品の安全性を確保するにあたり、トランスポーター研究が必須となるものと結論できる。そこで本件旧では、in vitroトランスポーター遺伝子発現系・ヒト凍結肝細胞などをもちいた研究、ならびにラットやノックアウトマウスを用いたin vivoにおける体内動態研究を比較することで、ヒトin vivoにおける薬物動態を予測し、重篤な副作用発現に関与するトランスポーター遺伝子を同定し、新規医薬品開発段階において、副作用発現を予測しうるシステムを構築することを目的とする。そのために新規トランスポーターのクローニング、機能解析、薬物動態における寄与の評価、遺伝子多型に基づく機能変動、薬物間相互作用による検討を行っていく。
研究方法
1)cerivastatin(CER)とcyclosporin A(CsA)の薬物間相互作用メカニズムの解析
CERの14C標識体ならびに非標識体を用いて、OATP2遺伝子発現MDCKII細胞ならびにヒト凍結肝細胞による取り込み実験およびCsAによる取り込み阻害実験を試みた。また、代謝阻害の影響を考慮するため、ヒト肝臓ミクロソームを用いた代謝阻害実験も試みた。
2)biguanide系化合物(metforminを中心に)の乳酸アシドーシス発現におけるOct1の関与
biguanide系化合物(metformin, phenformin, buformin)の輸送を、Oct1遺伝子発現CHO細胞を用いて検討した。また、Oct1(-/-)ノックアウトマウスと正常マウスにそれぞれ化合物を投与し、血中濃度推移や全身の薬物分布について検討した。また、同時に両マウスにbiguanide化合物を定速静脈内投与時の血中乳酸値の変動を確認し、同時にラット遊離肝細胞において化合物の共存下における酸素消費量の変動も合わせて評価した。
3)副作用発現の原因となるトランスポーターに関する臨床研究
1. 遺伝子解析:OATP-C, OAT3, BCRP、3種のトランスポーター遺伝子多型解析を行った。対象は120名の健常成人日本人で、翻訳領域を中心に実施した。SSCPによるスクリーニングの後、direct sequence、cloning→sequenceにより同定した。                     
2. 臨床試験:OATP-C, OAT3, MRP2遺伝子型が既知の健常成人ボランティア23名を対象とし、共通の基質薬物であるプラバスタチン(PST)を投与し、体内動態との関連を評価した。OATP-Cは体内動態パラメーター全般で、OAT3は腎クリアランスで、MRP2機能は血中のビリルビン濃度で評価した。
4)悪性腫瘍に対する樹状細胞療法の効果と副作用の検討
治験審査委員会で承認されたプロトコルをもとに、他の治療が無効な第Ⅳ期メラノーマ症例で適切な条件を有している患者を選択し、本治験を行った。患者からアフェレーシスとフィコール法にて末梢血単核球を得、フラスコ付着細胞にGM-CSFとIL-4を添加して1週間培養、未熟DCを作製した。その後腫瘍溶解液を加えさらにTNF-αを添加して4日間培養し、成熟DCとした細胞(1×107個)を患者皮内に接種した。細胞接種は規定のプロトコールに従い、時にIL-2との併用で行われた。腫瘍増殖をモニターするとともに、免疫反応性についても同時に検討した。
結果と考察
cerivastatin(CER)とcyclosporin A(CsA)の薬物間相互作用メカニズムの解析においては、ヒト凍結肝細胞を用いてCERの取り込みを観察したところ、飽和性ある取り込みがみられ、また、CsAは、その取り込みを濃度依存的に阻害し、その阻害定数Ki=0.28~0.69?Mとかなり高親和性の阻害を示した。これは、OATP2発現細胞におけるKi値とほぼ同等であること、さらに、CsAの肝臓での最大非結合型濃度も大体同じ値をとることから、実際のヒト臨床においても、肝取り込み過程の相互作用がおきうることが示唆され、またその作用点は、おそらくOATP2であろうことが考えられた。一方で、CERは肝臓中で、CYP2C8と3A4により代謝を受けることから、代謝過程における相互作用の可能性も考えられたが、代謝実験の結果から、CsAは、高濃度用いてもCERの代謝は部分的にしか阻害されず、臨床での濃度から考察すると代謝の相互作用は考えにくいという結論に至った。OATP2は、ヒト肝臓に特異的に発現が認められるトランスポーターであり、多様な基質特異性を示すことから、多くの主に有機アニオン系薬物の取り込みに重要な役割を果たしていることが考えられており、このトランスポーターを介した相互作用が多くの薬物でおこりうることが示唆され、今後いろんな事例がでてくることが推察される。
biguanide系化合物(metforminを中心に)の乳酸アシドーシス発現におけるOct1の関与については、biguanide系化合物3種(metformin, phenformin, buformin)についてOct1発現系を用いて取り込み実験を試みた結果、各化合物ともベクター導入細胞と比較して有意な取り込みが観察された。また、metforminに関して、Oct1(-/-)ノックアウトマウスと、正常マウスに静脈内投与した後の、血漿中濃度推移ならびに臓器分布を検討したところ、血漿中濃度推移は大差ないものの、肝臓中濃度については、Oct1(-/-)において、正常マウスの約30倍もの顕著に低い分布が見られた。一方、血中乳酸濃度をmetforminのi.v.持続投与下でOct1(-/-)と正常マウスで測定したところ上昇の程度は、正常マウスの方が有意に高かった。またその上昇具合は、3種の薬物を用いたところいずれも投与量依存性を示し、定常状態の非結合型薬物の血漿中濃度と乳酸値のAUCの上昇との間には、いずれの薬物においてもsigmoid curveの関係が成立した。また、ラット遊離肝細胞を用いて、3種の薬物と濃度を変えて接触させ、そのときの酸素消費量を測定したところ、酸素消費が75%まで阻害される濃度IC75と、乳酸値の上昇のEC50との間には順位の相関が見られた。これらから、Oct1によって肝臓中に取り込まれる能力が副作用の発現を決定付けることが示唆された。今後、Oct1により取り込まれる能力が小さく、かつ、肝取り込み過程のKm値が、ミトコンドリアでの呼吸鎖阻害のIC50値より小さい値をとるような薬物を創生できれば、より安全なbiguanide系薬物が実現するかもしれないと考えている。
副作用発現の原因となるトランスポーターに関する臨床研究においては、OATP-C, OAT3遺伝子解析の結果、それぞれ5, 1種類がアミノ酸の置換を伴う変異を見出した。また、BCRPについては6種類がアミノ酸置換やstop codonの原因となる変異を見つけた。また、臨床試験の結果、被検者に認めたMRP2変異(V417I, S789F)、OAT3変異(T723A, S789V)はそれぞれの表現型の指標に影響を及ぼさなかった。一方、OATP-C遺伝子多型とPST体内動態について検討を行った結果、N130D変異の有無による体内動態の変化は見られなかった。これに対し、V174A保有群では、有意なAUCの上昇、腎外クリアランスの低下が観察された。また、ホモ型変異保有者は少ないが、体内動態の変化にはgene dose effectが観察された。さらに、P336R変異保有者もV174Aと同程度の体内動態挙動が観察された。この結果から、OATP-C遺伝子多型の一部が基質薬物の体内動態に大きく関与することが明らかとなった。変異の中では、特に、V174A, P336Rが重要と言え、基質選択性の広さから考えて他の薬物でも同じことが起きる可能性が考えられ、今後in vitroによる機能解析や臨床試験を進めていく。
悪性黒色腫に対する樹状細胞療法に関する検討については、これ以上の治療法が望めない遠隔転移を伴う第Ⅳ期悪性黒色腫患者10名がエントリーした。樹状細胞の誘導に関して、すべての患者より安定した数のDCの誘導を行なうことが可能であった。表面マーカーをフローサイトメトリーで解析し、誘導したDCの確認を全症例で行なった(CD14陰性、CD86、HLA-classI、HLA-classⅡ陽性など)。計10回のDC接種を行なうプロトコルであったが、原病の進行が著しく途中で治療を中止した症例が4症例あり、最終的に10症例中SD1名、MR2名、PD7名の結果となった。免疫学的効果の評価について、DTHと治療反応性との相関は認めなかった。CTL活性については、SD、MRの症例でその増加が認められたが、PDの症例でも同様の結果が得られ、解釈は困難であった。追加接種を行なったMRの2症例では経過中、複数ヶ所で炎症反応を伴った腫瘍壊死反応、その後の腫瘍の縮小や消失が認められた。抗核抗体、リウマチ因子などの自己抗体については治療後に陽性となった症例はいなかった。以前から様々なサイトカインを用いるような非特異的免疫を賦活化させる試みなどが報告されているが、奏功率がひくいことから、樹状細胞の抗原提示能を用いた免疫療法が期待されてきた。本プロトコールでは、DCに患者腫瘍溶解液を組み合わせているが、抗原ペプチドを用いたプロトコールよりも、腫瘍特異性が低いものの、多剤耐性トランスポーターなどを含む未知の抗原、複数の抗原を含む点で、誰にでも応用可能である利点を持つ。我々は、今回繰り返し炎症に続く腫瘍壊死反応を体験しているが、その機序は現時点では不明であるが、腫瘍血管の閉塞で腫瘍に虚血が引き起こされた可能性が考えられる。副作用についても多少のアレルギー反応が見られており、今後自己抗体の検索を行う必要があると思われる。
結論
cerivastatinとcyclosporin Aとの相互作用のメカニズムとしては、代謝過程を考えることは、臨床濃度から考えて困難であり、OATP2を介した肝取り込み過程における阻害は、臨床上ありえる濃度範囲で起こりうることから、少なくとも一部は、トランスポーターが作用点となる相互作用であることを示唆する結果を得た。
また、biguanide系化合物の乳酸アシドーシスの発現には、Oct1による肝取り込み能力が寄与することがあきらかとなり、また、肝における暴露量と、血中乳酸値上昇、また、ミトコンドリア呼吸鎖阻害活性がすべて相関することが明らかとなった。
OATP-遺伝子に見る変異の中で、V174A, P336Rは基質薬物の体内動態に影響し、肝への取り込み能の低下が原因と考えられる。従って、肝が薬効発現の標的臓器である場合、効果減弱が予想される。また、血中濃度は上昇することから、副作用発現にも留意する必要があると考えられる。
第IV期悪性黒色腫患者10例に対して樹状細胞療法を行った。明らかな副作用は認められなかった。10例中3例において腫瘍に対する反応が認められ、うち2例で複数の転移巣の壊死が認められた。DTH反応やCTL活性と腫瘍反応とは相関がなく液性免疫について検討中である。
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