プライマリーヒト肝・腎細胞を用いた薬剤曝露、遺伝子発現に関する研究(H14-トキシコ-006)

文献情報

文献番号
200200782A
報告書区分
総括
研究課題名
プライマリーヒト肝・腎細胞を用いた薬剤曝露、遺伝子発現に関する研究(H14-トキシコ-006)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
藤村 昭夫(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大島康雄(自治医科大学)
  • 永井秀雄(自治医科大学)
  • 安田是和(自治医科大学)
  • 徳江章彦(自治医科大学)
  • 斎藤建(自治医科大学)
  • 今井正(自治医科大学)
  • 間野博行(自治医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
96,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は日本人における医薬品の安全性を、前臨床試験において予測するシステムを構築するとともに、ヒト組織を用いた研究に関する基盤を整備することを目的とする。
現在、医薬品の研究開発においては、まず最初に動物を用いた前臨床試験が行われて、その有効性や安全性が確認され、その後にヒトに薬物を投与する臨床試験が実施されている。しかし、薬物の代謝や反応性にはヒト-動物間に種差が存在するために、動物実験では予期されなかった毒性が発現する例も知られている。したがって、ヒト組織を用いた試験を行うことによって、動物実験では明らかにできなかった有害反応が予測可能となることが期待される。
一方、医薬品の有効性や体内動態に人種差が存在することは広く知られている。したがって、日本人ヒト組織を用いて医薬品の研究開発を行うことは、日本人にとってより有効で安全性の高い医薬品を創製するために必要である。また、医療の現場では患者に対して、複数の薬物が同時に投与されることが多い。この際の薬物相互作用による有害反応の発現については、その組合せが多数に及ぶために臨床試験で全てを明らかにすることは困難であり、薬物が市販された後に、その危険性が明らかになることも少なくない。この様な場合においても、ヒト組織を用いて薬物の代謝や反応性を遺伝子発現レベルで検討することにより、薬物相互作用の発現を予測することが可能である。
医薬品の研究開発は、日米欧で共通の基準に沿って行われることになっている。欧米では、既にヒト組織を用いた有効性および安全性の評価が医薬品の研究開発に取り入れられており、我が国も同様にヒト組織を用いた研究開発を推進していく必要がある。さらに、ヒト組織の研究開発を推進することにより、画期的な医薬品の発見や人工臓器作成なども可能となるものと期待される。以上のように、ヒト組織を研究開発に利用することは保健医療の向上に必要不可欠なものであり、その利用については公明で且つ厳正な一定の要件を守りつつ、積極的な推進を図ることが重要である。
こうした流れの中で、本研究の特徴はこの動物とヒトという異種間の遺伝子発現情報のブリッジング、および不死化された細胞株とプライマリー細胞の間の遺伝子発現情報のブリッジングを視野に入れ、ヒト肝・腎由来のプライマリー細胞を用いて遺伝子発現解析を行う点にある。
研究方法
腎臓・肝臓を切除する際にやむを得ず正常の腎臓・肝臓組織も切除されることがある。本研究ではこれらの組織を用いてプライマリー細胞を作成する。
ヒト組織を利用するために、当大学における遺伝子解析研究倫理審査委員会、生命倫理委員会、個人情報識別管理者、病理診断部からなる倫理評価ワーキンググループにおいて、組織採取の方法や、採取量、インフォームドコンセントの取得方法や説明文書の内容、各責任体制の明確化やアフターケアーの対応を審査し、さらに切除部位を病理標本より評価するとともに、患者さんの匿名化を行う。
臨床検体採取部門はインフォームドコンセントを患者さんより得た後、外科手術中に得られた組織を細胞プロセシング部門へ送る。
細胞プロセシング部門は採取部門より得た細胞を処理し、プライマリーカルチャーを行うとともに、細胞の由来を担保するためのデータを得る。腎臓尿細管由来の細胞は、形態・Glut2発現・γGTP発現・NAG発現で評価する。また、肝細胞由来の細胞は、形態・アルブミン産生能・およびチトクロームP450発現で評価する。
遺伝子発現解析部門では、上記の方法で腎臓尿細管あるいは肝細胞由来であると担保された細胞を用いて、それぞれ腎・肝毒性の知られている薬物と知られていない薬物へ暴露させ、適当な時間の後に、細胞を回収して、total RNAとしてAffymetrix社のGeneChipで解析する。
バイオインフォマティクス部門では発現解析して得られたデータを処理し、知識データベースを構築する。
結果と考察
当大学における遺伝子解析研究倫理審査委員会、生命倫理委員会、個人情報識別管理者、病理診断部からなる倫理評価ワーキンググループは、本研究の計画書を審査し、連結不可匿名化を行うことを条件のひとつとして本研究計画を承認した。これらの委員会は実施計画承認後も、手術検体一つ一つの切除状態を病理診断部が検討することにより、不適切な手術が行われないように監視を行っている。さらに、研究計画の実施が適切であるか否かについて、遺伝子解析研究倫理審査委員会は部外委員も参加して平成15年3月24日に査察を行った。
臨床検体採取部門では、当病院で肝臓および腎臓の手術の適応があると診断された患者さんに研究の内容等の倫理評価ワーキンググループで承認された研究計画を説明し、インフォームドコンセントを取得した後、検体を採取した。患者さんの治療を優先するために、エントリーした症例のうち肝臓では約40%、腎臓では約20%で研究目的の組織採取を断念した。
細胞プロセシング部門では採取された細胞を処理し、得られた培養細胞の評価を行った。腎臓由来の細胞では形態・Glut2発現・γGTP発現・NAG発現より、主たる成分は尿細管由来であると判断した。肝臓由来の細胞は形態・アルブミン産生能より肝細胞であると考えられたが、さらに確認のための評価実験を行っている。
遺伝子発現解析部門では、得られた尿細管プライマリー細胞を用いて、濃度依存性や時間依存性が評価できるように様々な条件下で腎毒性の知られている薬物を暴露させて遺伝子発現解析を行った。すでに膨大な遺伝子発現解析データを得ているが、これらデータへ意味づけを行い知識として整理するバイオインフォマティクス部門では、まずデータの精度を検討した。本研究グループで得た遺伝子発現解析データを検討したところ、RNAの状態は良好で、おおむね信頼できるデータが得られていると考えられた。信頼できない、あるいはRNAの状態の不良であったと推定された1実験についてはデータを解析に利用しないこととした。
結論
倫理的監視の元で手術時に得られたヒト組織(肝臓・腎臓)を使用して、臨床検体を得るシステムを構築することができた。さらに、これらの検体より尿細管細胞・肝細胞を得ることができ、これらの細胞に薬物を暴露して遺伝子発現解析を行った。遺伝子発現解析のデータの精度は良好と考えられた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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