文献情報
文献番号
200200779A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロアレー、プロテインチップを活用した、ヒト正常神経細胞を用いた薬剤安全性評価システムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
金村 米博(産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 角田達彦(理化学研究所遺伝子多型研究センター)
- 岡野栄之(慶応義塾大学医学部生理学)
- 伊藤允好(神戸薬科大学薬学部機器分析学研究室)
- 山崎麻美(国立大阪病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究開発は、ヒトに対する安全性の確立された有用な薬剤開発を行うための支援技術として、ヒト神経幹細胞あるいはそこから人為的に分化誘導したヒト神経・グリア細胞をin vitro評価用基準細胞として用いる投与薬剤の遺伝子・たんぱく質発現に及ぼす影響を包括的に解析する手法を確立させ、それを駆使したヒト中枢神経細胞・組織に対する薬剤の副作用、催奇性を効率的、客観的にスクリーニングする、高感度安全性評価システムの開発を目指すものである。さらに、一塩基多型(SNP)情報の明らかなヒト神経幹細胞を複数用いて、遺伝子素因の異なるヒト神経系細胞における薬効の差異の判定を行い、SNP情報に基くヒト神経系の副作用予測システムを構築することを目指す。
研究方法
研究目的を遂行するため、次の研究開発を実施する。1)ヒト神経幹細胞からの効率的神経細胞ならびにグリア細胞作成技術の開発:ヒト神経細胞のソースとなる神経幹細胞の分離技術の開発、及び幹細胞からの各種神経細胞の分化誘導技術の開発を実施する。細胞ソースとしては、倫理性ならび多数の異なるSNPを有する神経細胞の作成を目指すことを考慮して、臍帯血細胞、骨髄細胞あるいは胎盤組織など、非神経組織に存在するヒト多能性幹細胞、もしくはヒト神経幹細胞の利用を第一に考え、必要な細胞分離技術および分化誘導技術の開発を実施する。
2)マイクロアレーシステムを主体とした、薬剤投与後の遺伝子発現の包括的解析システムの開発:マイクロアレーシステム等を駆使して、ヒト神経幹細胞もしくはそこから分化誘導したヒト神経・グリア細胞に薬剤投与した後の遺伝子発現プロファイルを包括的に取得する。そこで得られた遺伝子情報に基づき、薬剤の副作用関連遺伝子群を同定する。そして、それら遺伝子情報に基き、薬剤の安全性を遺伝子発現のレベルで、短時間にかつ大量に検討するための評価システムの開発を行う。最終的に、副作用関連遺伝子の解析に重点を置いた、新たなマイクロアレーセットの開発を目指す。3)プロテインチップシステムを主体とした、薬剤投与後のタンパク質発現の包括的解析システムの開発:TOF-Mass方式を利用したプロテインチップシステムなどを駆使して、ヒト神経幹細胞もしくはそこから分化誘導したヒト神経・グリア細胞に薬剤投与した後のタンパク質発現プロファイルを、主に分子量2万以下のタンパク質に注目して包括的に取得する。得られた情報に基づき、薬剤の副作用関連タンパク質群を同定し、薬剤の安全性をタンパク質発現のレベルで、短時間にかつ大量に検討するための評価システムの開発を行う。最終的に、各々の副作用関連たんぱく質に対する抗体を基板上に貼り付けて作成される独自の抗体結合型プロテインチップシステムの開発を目指す。さらに、新たなプロテインチップシステムの開発を実施し、それを用いた薬剤評価システムを開発する。4)遺伝的多型情報の差異に基づく、薬剤の神経系に対する安全性の評価システムの開発:遺伝子素因(SNP)が判明した、複数のヒト神経幹細胞、あるいは分化誘導したヒト神経細胞を用いて、各種薬剤投与後の遺伝子、たんぱく質発現の変化を包括的に解析する。その情報に基き、SNPに応じた薬剤の神経組織に対する安全性の評価システムを開発する。
2)マイクロアレーシステムを主体とした、薬剤投与後の遺伝子発現の包括的解析システムの開発:マイクロアレーシステム等を駆使して、ヒト神経幹細胞もしくはそこから分化誘導したヒト神経・グリア細胞に薬剤投与した後の遺伝子発現プロファイルを包括的に取得する。そこで得られた遺伝子情報に基づき、薬剤の副作用関連遺伝子群を同定する。そして、それら遺伝子情報に基き、薬剤の安全性を遺伝子発現のレベルで、短時間にかつ大量に検討するための評価システムの開発を行う。最終的に、副作用関連遺伝子の解析に重点を置いた、新たなマイクロアレーセットの開発を目指す。3)プロテインチップシステムを主体とした、薬剤投与後のタンパク質発現の包括的解析システムの開発:TOF-Mass方式を利用したプロテインチップシステムなどを駆使して、ヒト神経幹細胞もしくはそこから分化誘導したヒト神経・グリア細胞に薬剤投与した後のタンパク質発現プロファイルを、主に分子量2万以下のタンパク質に注目して包括的に取得する。得られた情報に基づき、薬剤の副作用関連タンパク質群を同定し、薬剤の安全性をタンパク質発現のレベルで、短時間にかつ大量に検討するための評価システムの開発を行う。最終的に、各々の副作用関連たんぱく質に対する抗体を基板上に貼り付けて作成される独自の抗体結合型プロテインチップシステムの開発を目指す。さらに、新たなプロテインチップシステムの開発を実施し、それを用いた薬剤評価システムを開発する。4)遺伝的多型情報の差異に基づく、薬剤の神経系に対する安全性の評価システムの開発:遺伝子素因(SNP)が判明した、複数のヒト神経幹細胞、あるいは分化誘導したヒト神経細胞を用いて、各種薬剤投与後の遺伝子、たんぱく質発現の変化を包括的に解析する。その情報に基き、SNPに応じた薬剤の神経組織に対する安全性の評価システムを開発する。
結果と考察
今年度は研究開発初年度であり、まず今後3年間の研究開発の方向性と具体的なアプローチ、さらに個々の分担研究者の役割に関して明確にし、共同研究開発グループとして、有機的に連携して研究開発を実施するための体制を構築した。研究開発に関しては、提案時に想定した研究方法をより具体的にし、1)評価用ヒト神経系細胞の開発、2)遺伝子およびタンパク質発現の包括的な取得・解析・評価技術の開発、3)検討を実施する薬剤の選定、そして4)遺伝的多型情報の差異と薬剤の副作用との関連性の解析、の4本の柱で検討を行い、今年度の研究を実施した。1)評価用ヒト神経系細胞の開発:ヒト臍帯血細胞からの神経系細胞の分化誘導の可能性について検討した結果、非神経細胞であるヒト臍帯血細胞は少なくともGFAP陽性細胞を作成するための細胞ソースになる可能性があることが示唆された。次年度以降は、平行して実施している神経幹細胞の未分化維持機構の解析により得られる基礎的研究の知見を組み込みながら、更なる技術の開発を実施し、in vitro評価用ヒト神経系細胞の開発を継続して行う予定である。そして作成されたヒト神経系細胞が当研究開発の目的を満たす品質であるかどうかに関しての検討も開始する予定である。2)遺伝子およびタンパク質発現の包括的な取得・解析・評価技術の開発:今年度はマイクロアレーを用いて薬剤投与後の遺伝子発現を包括的に解析するための評価系の確立をほぼ終了した。次年度は実際にヒト神経系細胞に薬剤を投与して、遺伝子発現情報の取得を開始する予定である。タンパク質の解析に関しては、プロテインチップを用いた解析を行うための準備を開始した。次年度以降、遺伝子発現解析を同時系列でのタンパク質発現情報の取得を開始する予定である。3)検討を実施する薬剤の選定:神経系に作用する薬剤のうちで本プロジェクトで検討を行う薬剤としては、①使用頻度が高い薬剤(抗けいれん薬、抗うつ薬、睡眠薬など)②長期投与を行う薬剤(特に若年者あるいは高齢者)、③神経系への催奇性を有する薬剤(レチノイン酸、葉酸代謝経路関連など)、④依存性を有する薬剤(覚せい剤など)を中心に検討を加えることした。そして具体的なアプローチ方法としては、1.薬理作
用が判明して、すでに各種用途で販売されている薬剤の原薬(各種配合剤の混入のある市販薬ではない)を用いた解析と、2.各種リード化合物ならびにその異性体を用いて、薬剤の化学構造の違いに基づく副作用発現メカニズムの解析、の2通りで実施することとした。今年度はその中で、中枢神経系に対して催奇性を有する代表的な薬剤であるレチノイド類の薬理作用に注目し、各種レチノイド類の合成とその薬理作用についての検討を行った。次年度以降、各種レチノイド類をヒト神経系細胞に投与し、遺伝子、タンパク質発現に及ぼす影響を解析する予定である。さらに、他のリード化合物を用いた解析も平行して行い、薬剤の化学構造と副作用関連遺伝子、タンパク質との関連性について検討を行う予定である。4)遺伝的多型情報の差異と薬剤の副作用との関連性の解析:遺伝的多型情報と薬剤の関連性に関しては、今年度は脊髄髄膜瘤の発症を予防する作用があると報告のある葉酸と、その代謝酵素MTHFR遺伝子のSNPとの関連性について解析を実施した。今回の検討ではMTHFR遺伝子のSNPは遺伝的危険因子とならないと結論であった。しかし、妊娠初期に葉酸を投与することで脊髄髄膜瘤の発症を有意に予防することができるとの疫学的報告は複数あり、葉酸と脊髄髄膜瘤の発症に何らかの関連性があることは十分に予想される。次年度以降は他の遺伝的多型情報の検討に加えて、遺伝的多型情報が異なる複数のヒト神経系細胞を用いてのin vitroでの解析を実施していく予定である。
用が判明して、すでに各種用途で販売されている薬剤の原薬(各種配合剤の混入のある市販薬ではない)を用いた解析と、2.各種リード化合物ならびにその異性体を用いて、薬剤の化学構造の違いに基づく副作用発現メカニズムの解析、の2通りで実施することとした。今年度はその中で、中枢神経系に対して催奇性を有する代表的な薬剤であるレチノイド類の薬理作用に注目し、各種レチノイド類の合成とその薬理作用についての検討を行った。次年度以降、各種レチノイド類をヒト神経系細胞に投与し、遺伝子、タンパク質発現に及ぼす影響を解析する予定である。さらに、他のリード化合物を用いた解析も平行して行い、薬剤の化学構造と副作用関連遺伝子、タンパク質との関連性について検討を行う予定である。4)遺伝的多型情報の差異と薬剤の副作用との関連性の解析:遺伝的多型情報と薬剤の関連性に関しては、今年度は脊髄髄膜瘤の発症を予防する作用があると報告のある葉酸と、その代謝酵素MTHFR遺伝子のSNPとの関連性について解析を実施した。今回の検討ではMTHFR遺伝子のSNPは遺伝的危険因子とならないと結論であった。しかし、妊娠初期に葉酸を投与することで脊髄髄膜瘤の発症を有意に予防することができるとの疫学的報告は複数あり、葉酸と脊髄髄膜瘤の発症に何らかの関連性があることは十分に予想される。次年度以降は他の遺伝的多型情報の検討に加えて、遺伝的多型情報が異なる複数のヒト神経系細胞を用いてのin vitroでの解析を実施していく予定である。
結論
研究開発初年度は、今後3年間の研究開発の方向性と具体的なアプローチ、さらに個々の分担研究者の役割に関して明確にし、実際の研究開発に着手した。次年度以降、より本格的に研究開発を遂行する予定である。
公開日・更新日
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