既存薬剤の副作用に関与する遺伝子の探索技術の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200778A
報告書区分
総括
研究課題名
既存薬剤の副作用に関与する遺伝子の探索技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 弘志(慶応義塾大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(トキシコゲノミクス分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、遺伝子型(核酸)と表現型(蛋白質)の対応付け手法であるin vitro virus (IVV)法やSTABLE法を用いて、薬剤と相互作用する蛋白質を迅速かつ網羅的にスクリーニングするプロテオーム解析技術を開発することであり、平成14年度の計画は、標的蛋白質既知の既存モデル薬剤を樹脂に固定したアフィニティプローブを作製後、対応付け分子のアフィニティ選択系の構築を行い、モデル系での選択的分離条件を検討することであった。
研究方法
研究方法と結果=本研究は、以下の工程(1)から(5)により構成される。(1)薬剤を固定したアフィニティプローブの作製。(2)cDNAライブラリー由来遺伝子蛋白質対応付け分子ライブラリーの構築(IVV法あるいはSTABLE法)。(3)アフィニティ選択による薬剤と相互作用する蛋白質(対応付け分子)の分離。(4)蛋白質に連結した核酸部分のPCRによる増幅。(5)塩基配列解析による蛋白質の同定。平成14年度は、標的蛋白質既知のモデル薬剤として、免疫抑制剤FK506、FK506低分子アナローグ(FKL)、および蛋白質リン酸化酵素阻害剤purvalanol Bを固定したアフィニティプローブの作製、FK506とFKLの標的蛋白質であるFK506結合蛋白質(FKBP-12)、およびpurvalanol Bの標的蛋白質であるCDC-2とcyclin B1のcDNAのクローニング、転写、PEGスペーサーとのライゲーション、コムギ胚芽無細胞蛋白質合成系を用いた翻訳を行い、IVV 対応付け分子を作製を作製した。IVVの作製に関し、PEGスペーサーとのライゲーション収率、対応付け効率は50%以上であった。磁性体樹脂(ダイナル社 Dynabeads M-270)とNeutrAvidin agarose(Pierce社)を担体とした、FK506とFKLを固定したアフィニティプローブを用いモデル系でのアフィニティ選択条件の検討を行った。アフィニティ選択時の各溶液を逆転写PCR(RT-PCR)し、アガロース電気泳動やリアルタイムPCR装置で、陰性対照蛋白質であるグルタチオン-S-転移酵素(GST)の断片蛋白質に対するFKBP-12の濃縮度を調べた。FKBP-12とGSTを1:1の割合で混合しアフィニティ選択を行った時、Dynabeads M-270を担体に用いた場合では、FKBP-12のGSTに対する濃縮は数倍以下程度に留まった。一方、NeutrAvidin agaroseを担体に用いた場合、FKBP-12の選択的濃縮が顕著に認められた。リアルタイムRT-PCRで定量した結果、FK506が固定リガンドの場合のFKBP-12のGSTに対する最大濃縮率は190倍、FKLの場合は26倍であった。細胞や組織より抽出したmRNAより作製した、実際のスクリーニングに用いるIVVライブラリーは、多様な蛋白質-核酸対応付け分子の混合物であり、極微量の薬剤特異的結合蛋白質が含有しているにすぎない。対応付け分子を用いたアフィニティ選択法の特徴として、選択工程サイクルを回転させ、選択ラウンドを複数回行うことにより、標的蛋白質(対応付け分子)が相乗的に濃縮されることが期待される。多量の夾雑蛋白質(対応付け分子)存在下、微量の特異的結合蛋白質(対応付け分子)が濃縮されるか、また、複数回の選択ラウンドによる相乗的な濃縮が認められるか、それらを検証する目的で、FKBP-12とGSTのIVVを1:10,000の割合で混合し、アフニティ選択を2ラウンド行った。その結果、FK-506とFKLをアフィニティプローブにした両方とも、各ラウンドでFKBP-12がGSTに対し濃縮された。リアルタイムRT-PCRで定量した結果、2ラウンドトータルで、FK-506をアフィニティプローブにした場合2x106倍、FKLの場合2600倍、FKBP-12がGSTに対し濃縮されていた。平成15年度に行う予定であった、副作用機序未知の薬剤固定アフィニティプローブ作製に関し、前倒しにて、サリドマイドのアフィニティ樹脂固定のため
のビオチンリンカーを導入した誘導体を合成した。一般に、リンカー導入部位により薬剤の活性(蛋白質との親和性)は大きく変化する。活性を保持したリンカー導入が可能な部位を調べるため、イレッサおよびトログリタゾンの構造活性相関に関する文献調査を行い、化合物デザインを行った。
結果と考察
考察=先にも述べたが、平成14年度の計画はモデル系での選択的分離・濃縮条件を検討することであった。筆者は上記目的を達成するため、FK506およびFKLを固定したアフィニティプローブを作製し、標的蛋白質であるFKBP-12のIVVの選択的分離・濃縮を試みた。IVVの作製に関し、PEGスペーサーとのライゲーション収率、対応付け効率は50%以上であり、アフィニティ選択実験には充分な量のIVVビリオンが得られた。アフィニティ選択実験において、Dynabeads M-270を担体として用いた場合、FKBP-12とGST IVVを等量混合しinputした後、結合、洗浄条件を検討したが、FKBP-12のGSTに対する選択的濃縮率は数倍以下程度であった。一方、NeutrAvidin agaroseを用いた場合、選択的濃縮率は上昇し、FK506を固定した場合は最大190倍、FKLの場合は最大26倍であった。FKLのFKBP-12に対するアフニティは、FK506のそれに比べ1/20~1/100程度であり、上記の濃縮率の結果とFKBP-12に対するアフニティは相関があると考えられる。細胞や組織より抽出したmRNAより作製した、実際のスクリーニングに用いるIVVライブラリーは、多様な蛋白質-核酸対応付け分子の混合物であり、極微量の薬剤特異的結合蛋白質が含有しているにすぎない。そのようなIVVライブラリーのモデルとして、FKBP-12とGST IVVを1:10,000の割合で混合し、アフィニティ選択を行った。その結果、FK-506とFKLをアフィニティプローブにした両方において、FKBP-12の選択的濃縮が確認できた。また、対応付け分子を用いたアフィニティ選択法の特徴として、複数ラウンドのアフニティ選択サイクルを行い、標的蛋白質(対応付け分子)の濃縮度を上げることが期待される。今回の実験ではアフニティ選択サイクルを2ラウンド行い、各ラウンドのFKBP-12の濃縮度を調べた。その結果ラウンド毎の濃縮が確認でき、2ラウンドトータルで、FK-506をアフィニティプローブにした場合2x106倍、FKLの場合2600倍、FKBP-12がGSTに対し濃縮された。この結果は、薬剤を結合したアフィニティプローブを用いたIVVライブラリーのスクリーニングにより、薬剤結合蛋白質の濃縮が可能であることを示し、IVV法を用いた薬剤と相互作用するプロテオーム解析が、実現可能であることをモデル系で示すことができたと考えられる。来年度は、組織抽出mRNAよりIVVライブラリーを作製し、スクリーニングを行い、さらなるモデル系での検証を行うとともに、副作用機序未知の薬剤のアフィニティプローブ作製のため、イレッサとトログリタゾン誘導体の合成を行う予定である。
結論
薬剤結合蛋白質のIVVを用いたスクリーニングのモデル系として、FKBP-12・FK506 (FKL)系を採用し、結合蛋白質であるFKBP-12、陰性対照蛋白質であるGST断片蛋白質のIVVを作製した。またアフィニティプローブとして、FK506とFKLを固定した樹脂を作製した。アフィニティ樹脂の検討等、選択・分離条件を検討し、FKBP-12・FK506 (FKL) を用いたモデル系で、IVVが選択的に濃縮されることを確認した。副作用機序未知の薬剤のアフィニティプローブ作製のため、ビオチンリンカーを付与したサリドマイド誘導体を合成し、イレッサとトログリタゾンの構造活性相関を調査、化合物デザインを行った。

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