微細加工技術(FIB)を応用した細胞配列化チップの創製(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200775A
報告書区分
総括
研究課題名
微細加工技術(FIB)を応用した細胞配列化チップの創製(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松村 一成(芝浦工業大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膜タンパク質のリガンド探索や機能解明の研究は、創薬を始め産業応用上極めて重要な分野である.その研究分野で必要とされる要素技術の一つである、ターゲットとなる膜タンパク質をもつ特定の細胞やウイルスを固相上に固定化するような技術は、すでに様々な展開がはかられている.すなわち、膜貫通型分子や細胞接着性リガンド、特異的リガンド、金-タンパク接着、His-tag/Ni錯体など、様々な結合因子をモチーフとした細胞固定化技術が開発されている.しかし、これら材料平面に強固な結合因子を固定化したものでは細胞の形態変化や、対象となる膜タンパクの失活を伴うため、より高度な細胞固定化技術が求められている.本研究では、集束イオンビーム(FIB)による材料微細加工と非特異的な細胞膜吸着分子による分子インプリントを組み合わせることにより、細胞・ウイルスに影響を与えず材料上に固定化する技術の確立を目的とする.
研究方法
本研究で行う細胞吸着材料の構築法は、i) 材料表面にFIB加工と化学修飾を適用し、細孔内に細胞を固定化するアンカー分子を導入するii) 材料にリポソームを吸着させ、そのリポソームを鋳型として細胞吸着分子を材料表面上に修飾する iii) 鋳型リポソームを破壊、除去して細胞を配列化可能な吸着材料を得る、というものである.この方法で、アンカー分子の密度と修飾面積を最低限度に制御することができ、かつSPMやQCMなどの分析法が適用可能な安定な細胞の配列的固定化を可能にする.以上のような微細加工、微細領域の化学修飾、リポソームの吸着など、各処理の結果を蛍光顕微鏡、プローブ型顕微鏡など検討した.また、リポソームを細胞・ウイルスの模倣体として、その吸着挙動の評価を蛍光分光光度計で分析することで行った.
結果と考察
本年度の研究結果および考察の概要は次の通りであり、a)は研究方法i)-ii)、b),c)は研究方法ii)の段階に対応する.
a) FIB加工による材料加工と化学修飾によるリポソーム吸着能の付与
カルボキシル基をアミノ基で保護し、金蒸着したポリブチレンテレフタレート材料をFIB加工装置を用いて加工し、100nm×100nm 、1×1μm、5×5μmなどの大きさ(深さ方向2μm)の方形細孔を配列的に生成した.その後細孔部分にポリリシンをカップリングさせてリポソーム吸着能を付与した.ホスファチジルコリン/ホスファチジルセリンを組成とした蛍光修飾リポソームを吸着させた後、蛍光顕微観察することによって細孔にリポソームが吸着していることが確認できた.また、FIB加工材料への直接的な蛍光修飾を行い、細孔内、細孔外の選択的化学修飾を確認した.同様の手法をもってITO(インジウム・スズ酸化物)導電性ガラスをFIB加工し、細孔内部分にポリリシンを修飾させた導電性リポソーム吸着材料の構築も行った.
b) 固相結合ペプチドのリポソーム吸着能の評価
アンカー分子、または吸着分子の機能評価を目的として、以下に述べるような合成オリゴペプチドの細胞膜との親和性の評価系を構築した.ポリスチレン(PS)粒子上にFmoc法で各種配列のペプチドを合成し、蛍光修飾リポソームを、50nm、100nmなどに粒径制御して調製した.ペプチド修飾PS粒子にリポソームを吸着反応後、非吸着リポソームを蛍光分光光度計で定量することで固相ペプチドのリポソーム吸着量を決定した.細胞膜リンカーのモデル分子である長鎖ペプチドと同様のアミノ酸構成の短鎖(10mer-15mer)ペプチドでリポソーム吸着を有しているか検討したところ、リシン残基とトリプトファン残基の共同効果による吸着効果を示していることが確認された.
c)カチオン場へのリポソームの吸着評価系の構築
カチオン性脂質の自己組織化単分子層を細孔表面の細胞吸着場に利用することを目的として、上記リポソームのカチオン導入リポソームへの吸着・膜融合反応をTb(III)-ジピコリン酸錯体の蛍光挙動を利用して評価する分析系の構築を行った.
結論
高分子材料および導電性材料の表面処理(キャッピング)とFIBによる微細加工を行い、リポソームが吸着することが確認された.すなわち、このアプローチで、微細に吸着場が制御された細胞・ウイルス配列吸着チップの構築が可能であることを実証した.同時に、吸着場に使用する化合物として短鎖オリゴペプチドやカチオン性脂質の機能評価を行い、残基の膜貫通効果と静電効果の共同効果が示された.

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