化学修飾によるプラスミドDNAのナノ粒子化とDDS(総合研究報告書)

文献情報

文献番号
200200774A
報告書区分
総括
研究課題名
化学修飾によるプラスミドDNAのナノ粒子化とDDS(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
西川 元也(京都大学大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プラスミドDNA(pDNA)は、in vivo遺伝子治療を目的とした検討において汎用されるがそのサイズならびに強い負電荷のために標的細胞内への取り込みなどが制限され、十分な遺伝子発現が得られないことが多い。正電荷リポソームまたは正電荷高分子を用いた複合体化は、pDNAの凝集を可能にすると同時に全体として正電荷を付与することで細胞との相互作用を促進し、in vitroでの遺伝子導入を大幅に改善可能である。しかしながら得られる凝集体は巨大であり、in vivoでの精密な体内動態制御・標的細胞内へのデリバリーが困難な場合が多い。その一因として、複数個のpDNAが一粒子を形成していることが考えられ、単分子pDNAからなる複合体形成がpDNAのナノ粒子化には重要と考える。本研究では、直接化学修飾によるpDNAのナノ粒子化を目指す。また、官能基を導入したpDNAは、ナノ粒子化だけでなくpDNAの放射標識体を合成するのにも適していると考えられる。さらに、抗癌剤の癌組織へのデリバリーにおいてもナノ粒子が有望視されており、またpDNAはアドリアマイシンなど各種抗癌剤に対し結合親和性を有することからナノ粒子化pDNAは抗癌剤キャリアとしても期待される。癌へのターゲティングを行う上では全身動態の制御が重要であることから、pDNAに直接ポリエチレングリコールなどのポリマーを結合することで血清因子との相互作用を回避すると共に正電荷化合物の添加によりナノ粒子化を促進することで癌組織への抗癌剤デリバリー型pDNAナノ粒子の開発が可能と考える。pDNAにはCpGモチーフと呼ばれる免疫賦活化配列が存在するため、抗癌剤のターゲティングにおいては不活性なキャリア分子ではなく、抗癌剤による殺細胞効果との相乗効果も期待される。
研究方法
(1)pDNAへのスペーサーの導入:モデルpDNAとしてルシフェラーゼをコードしたpDNAを用いた。予め4-[p-azidosalicylamido]butylamine(ASBA)のアミノ基にDTPA無水物を縮合したものを紫外線照射によりpDNAの塩基中アミノ基と共有結合した。(2)111In標識を利用したスペーサー導入効率の定量化:光反応時のpDNAとASBAのモル比を種々変化させて合成を行い、常法に従い111Inを施した。遊離DTPA共存下での標識効率からpDNA一分子あたりのDTPA結合数を求めた。(3)遺伝子発現特性の評価:pDNAの遺伝子発現活性に対するスペーサー導入の影響について、HepG2およびCOS7細胞へのトランスフェクションを行った。遺伝子導入試薬LipofectAMINE2000と各種修飾pDNAとを混合することでリポプレックスを調製し、細胞に添加後のルシフェラーゼ活性を測定した。また、マウス腓腹筋に各種pDNA誘導体単独を1μg/マウスの投与量で注射し、投与部位に電気パルス(200 V/cm、20 ms、6パルス)を加え、2日後に組織を回収し、遺伝子発現量を定量した。(4)111In-pDNAによるpDNA体内動態評価:111In-pDNAを10μg/マウスの投与量で静脈内投与し、経時的に血漿および尿、主要臓器を回収した。各サンプル中放射活性をγ-カウンターで測定し、投与量に対する割合で示した。対照として、ニックトランスレーション法により32P標識したpDNAについても同様の体内分布実験を行った。(5)ポリエチレンイミン(PEI)/pDNA複合体投与時の肺移行動態と遺伝子発現の相関:分岐型PEI(平均分子量約10,000)を用い、pDNA誘導体と複合体を形成した。調製時のPEI中のN原子の数と、pDNA中のP原子の数の比(N/P比)を、3、10、15と変化させることにより、物性の異なる複合体を得た。各複合体を30μg pDNA/マウスの投与量で尾静脈内投与し、6時間後に肺を摘出、遺伝子発現を定量した。別途、111In-pDNAを用いて同様に調製した複合体を投与し、30分
後の肺中放射活性を測定した。
結果と考察
(1)化学修飾pDNAの合成:光反応時のpDNAとASBAのモル比を種々変化させて合成を行い、常法に従い111Inを施した。遊離DTPA共存下競合的放射標識を行い、そのときの標識効率からpDNA一分子あたりのDTPA結合数を算出した。その結果、pDNA100μgに対してASBA量を250、500、1000と変化させることによりそれぞれ2.3、4.1、および15.8個のDTPAが結合したpDNAを得た。得られたDTPA結合pDNAをアガロースゲルで電気泳動したところ、泳動パターンに若干の変化は見られたものの、pDNA構造は化学修飾のあともほぼ保たれていることが示された。(2)遺伝子発現活性の評価:未修飾およびDTPA結合pDNAを用い、HepG2およびCOS7細胞へのトランスフェクションを行ったところ、DTPA結合数が2~4個の修飾pDNAは、未修飾pDNAの場合と比較して90%以上の遺伝子発現効率を示した。最も修飾数の多い誘導体においても55%であり、化学修飾による遺伝子発現活性への影響は極めて低いことが示された。マウス筋肉注射後の遺伝子発現においてもほぼ同様の結果が得られた。(3)静脈内投与後のpDNA体内動態評価:111In-pDNAを静脈内投与したところ、血漿中111In放射活性は速やかに消失し、速やかに肝臓に約60%が集積し、長時間肝臓中に検出された。一方、ニックトランスレーション法により32P標識を施した場合には、これまでに示されたのと同様、肝臓からの比較的速やかな放射活性の消失が認められた。以上の結果から、111In標識pDNAはpDNAの体内動態、特に組織分布過程の定量的評価をする上で非常に有効な化合物であることが示された。(4)組織移行と遺伝子発現の相関:PEI/pDNA複合体を投与したときの肺での遺伝子発現は、複合体中のPEI量の増加に伴い上昇した。別途、111In-pDNA/PEI複合体を投与したときの肺組織中放射活性もPEI量の増加とともに上昇し、両者の間には良好な相関が認められた。
結論
pDNAの構造および遺伝子発現活性を大きく損なうことなく、化学修飾によりpDNAへの官能基の効率的な導入に成功した。得られた修飾pDNAは、111In標識を施すことにより、in vivo分布実験に用いることが可能であり、これまでに報告されている種々の放射標識pDNAと比較して優れた特性を有することが示された。本研究で用いた官能基の導入法を用い、種々のリガンドあるいは正電荷化合物を結合することにより、pDNAのナノ粒子化のみならず、pDNAの機能改善が達成されるものと考える。

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