極細ファイバー関節鏡とその付属機器の開発に関する研究  

文献情報

文献番号
200200772A
報告書区分
総括
研究課題名
極細ファイバー関節鏡とその付属機器の開発に関する研究  
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 陽一(大阪市立大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節鏡検査及び関節鏡視下手術は日常よく行われている検査方法あるいは手術方法である。最も頻繁に行われている関節は膝関節であるが、最近では肩関節、肘関節、足関節、手関節等にその範囲は拡大されつつある。また、場所により若干異なるが、一般的には関節鏡には約3から4mm径の鏡が必要である。原則として、関節鏡はあくまで一方向刺入のみであり、関節内での鏡の動きに関して、多くの制限を有する。さらに、解剖学的構造によって、一方向のみの鏡視しか出来ない場合があり、関節内構造物の位置関係から死角になる部分もあり得る。これらの改善のためには、鏡の先端が多方向を向くことが可能であったり、より細い径で深部までの進入が可能であったりすると、現在の鏡視像よりも改善が期待でき、より低侵襲で十分な病態把握が可能になると思われる。一方、関節鏡視下手術の際には、関節鏡刺入とは別の場所よりポータルを作成し、組織切除用あるいは組織縫合用の機具を関節内に挿入することによって、鏡視下手術が可能になる。これらの一連の操作上で煩雑であることは、鏡自体には操作用の機具がついていない点である。現在の技術では鏡自体に約3から4mm径必要であり、鏡に手術操作用の機具を付加させると、鏡の径がより増大するため、手術侵襲と関節内での鏡の動きの自由度の両方においてマイナスである。つまり、鏡の径を小さくすることが必要不可欠である。そこで、本研究においては、関節鏡の径を極限まで細くすることの挑戦と、鏡視下手術に必要な機具を関節鏡に付加させて、より安全な関節鏡視下低侵襲手術方法の確立を目的とする。現在使用されている内視鏡はグラスファイバーが用いられているため、極細ファイバー関節鏡の開発が必須であろうと考えている。整形外科疾患の中で、変型性関節症を中心とした関節疾患は大多数をしめている。極細ファイバー関節鏡の開発が可能になれば、それらの治療に際して、低侵襲での正確な鏡視下手術が可能になり、患者にとってより安全、安心な医療技術の提供を図ることが可能になり、さらには、入院を必要としない外来手術によって、医療費の軽減にもつながる。
研究方法
日本は内視鏡の分野では独自の発展をし、技術的にもすぐれた製品を開発しており、特にグラスファイバーの進歩は著しい。今回、外科領域や耳鼻科領域において広く使用されているグラスファイバー内視鏡に対して、<Ⅰ>整形外科領域においての応用の可能性の有無の検討、<ⅠⅠ>改良項目の抽出と改良方法の検討を行った。実際の研究実施においては、(1)現在のグラスファイバー内視鏡の使用の可能性の検討、(2)グラスファイバー内視鏡の耐水性の獲得、(3)グラスファイバー内視鏡の耐圧性、耐久性の獲得、(4)関節内での実際の鏡視と可動性の確認、(5)鏡視画像の評価の順に行った。本研究計画の初年度においては、耳鼻科領域において広く使用されているグラスファイバー内視鏡に関する、基本的な情報収集を行う。最も情報交換が容易な手段として、当大学病院の耳鼻科において、実際に臨床使用されている機器の特徴、サイズ、利便性およびそれらの作成機器メーカーの特定を行う。現在、硬性関節鏡で最も普及しているサイズは4mmの30°斜視鏡である。鏡は基本的には外筒により保護されている。その外筒の中に、外科及び耳鼻科領域に使用中のグラスファイバー内視鏡を挿入して、動物実験(羊使用)において、実際に関節鏡視を行い、実際の鏡視可能性及び内視鏡の操作性等を判断する。関節鏡手術中に、鏡視画像をパーソナルコンピューターに取り込み、記録する。さらに、鏡視写真もあわせて記録する。これらは、以下に
記載した軟性内視鏡と、従来の硬性関節鏡の両方で行い、両者の比較検討を行う。画像検討事項としては、静止画像の鮮明度、動画画像の鮮明度と画像の振れの有無を中心に行う。
結果と考察
当大学病院耳鼻科医師に信頼性の高い内視鏡は、ペンタックス社製であったため、同社の内視鏡の使用可能性を検討することにした。最初に検討した内視鏡は、鼻咽喉ファイバースコープ FNL-7RP3 (有効長300mm 直径2.4mm アングル角度上下130度)であった。関節腔内の鏡視はかろうじて可能であったが、画像鮮明度は乏しく、既存の硬性関節鏡に大きく劣っていた。しかし、グラスファイバー内視鏡の耐水性は十分と判断出来た。そこで、ファイバー内視鏡の直径をやや大きくして、臨床使用上で許容可能な画像鮮明度が得られるかを判断するために、ビデオ鼻咽喉スコープ VNL-1130 (有効長300mm 直径3.7mm アングル角度上下130度)を次ぎに検討した。画像鮮明度は若干硬性関節鏡に劣るが、臨床使用上では、何とか許容範囲内と判断出来た。しかし、アングル角度130°を得るために約3cmのアングル長を必要とする事と、有効長が300mmと必要以上に長い事は、操作を困難にさせている要因と判断できた。そこで、有効長の短縮とアングル角度を低下させたアングル付鼻腔鏡 VNL-1130R (有効長 150mm 直径3.7mm アングル角度上下90度)を次ぎに検討した。画像鮮明度は許容範囲であり、十分な視野確保も得られた。しかし、有効長等の低下による操作性の向上はあるが、前2機種と同様に、鏡視の方向が正確に把握出来ず、動画画像評価において、明らかに画像の振れを大きく認めた。さらに、本機種の検討中に、アングル基部が関節軟骨間に挟み込まれて損傷を受けた。今回検討した耳鼻科用ファイバースコープ全機種において、鏡視の方向が正確に把握出来なかったのは、ファイバー内視鏡自体が硬性鏡の外套内を容易に回転してしまうためと考えられた。そして、動画画像評価における、明らかな画像の振れの原因は、ファイバー内視鏡自体が関節内の灌流液の影響を受けて、微少振動を起こすためと推測できた。以上の問題の解決策として、外套とファイバー内視鏡の間に、ロック機構をつける必要があると判断出来た。ロック機構により、軟性鏡の鏡視の方向が正確に把握出来る事と、軟性鏡の微少振動を低下させる事が可能であると考え、外套ロック機構の作成準備を、現在進めている。さらに、アングル基部の破損に関しては、ファイバー内視鏡のアングル必要長の検討と、ファイバー内視鏡の外側被覆のゴム素材の改良が必要と判断し、同様に改良を進めている。
結論
初年度の結果、既存の耳鼻科用の内視鏡において、整形外科関節鏡目的の使用において、耐水性には特に問題を認めなかった。さらに、ペンタックス社製品の、アングル付鼻腔鏡VNL-1130R(有効長 150mm 直径3.7mm アングル角度上下90度)であれば、実際の臨床上、使用可能な画像鮮明度と視野確保が得られると判断出来た。しかし、鏡視方向の正確な把握と、微少振動を低下させるために、外套とファイバー内視鏡の間にロック機構をつける必要がある。また、グラスファイバー内視鏡の耐圧性に対しては、アングル必要長の検討と被覆ゴム素材の改良が必要である。

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