細胞機能・組織修復・再生のナノ・マニピュレーション;生体機能材料のナノ設計・ナノ加工技術および医療応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200771A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞機能・組織修復・再生のナノ・マニピュレーション;生体機能材料のナノ設計・ナノ加工技術および医療応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松田 武久(九州大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下川宏明(九州大学)
  • 片山佳樹(九州大学)
  • 新名主輝男(九州大学)
  • 木戸秋悟(九州大学)
  • 新海征治(九州大学)
  • 高原淳(九州大学)
  • 藤井康雄(九州大学)
  • 岩本幸英(九州大学)
  • 田中雅夫(九州大学)
  • 安井久喬(九州大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
革新的な設計概念・精密制御による分子設計、革新的加工技術によって作製した人工材料による生体組織の反応性の制御、および細胞内シグナルに応答して細胞機能を制御する生体機能材料のナノカプセル・ナノ超分子構造体による組織修復・再構築技術は、新しい高品位の医療を近未来に提供するものと大いに期待される。このためには、ナノレベルでの材料の組成・構造およびこれらが集合した超分子構造体であるメゾスコピックからナノレベルでの形状を制御できる超微細加工技術および機能付与技術の開発、これらを統合したデバイス化および医療システム化が重要と考える。本研究は九州大学の医学研究院と工学研究院の医工連携として有機的に組織化し、ナノレベルでの新しい材料開発から加工技術、デバイス化を経て、臨床応用可能な新しい医療を創出することを目的とする。具体的には、1)従来から独自に開発してきた精密合成技術によって、ナノ組成・ナノ構造を制御し、細胞の接着・非接着および生分解性を高精度で制御した機能的生体材料(人工骨格、人工細胞外マトリックス、液状生分解性材料)の開発、2)新しく開発しているナノ加工技術(二光子光造形技術、高電圧紡糸技術)による超分子構造化と形状制御、3)全く新しい概念による細胞機能を制御するナノカプセル(特定の細胞内シグナルに応答して活性を制御あるいは増大あるいは遺伝子発現させる)、および精密立体構造化した多糖・核酸の共らせん複合体による遺伝子導入、4)これらをシステム化した新しい医療技術の開発である。本研究によって、病的細胞のみに作用して、多様な細胞機能を多面的に制御することによって組織修復(動脈硬化・癌)、および新しい加工技術と材料による三次元組織体形成による再生医療が可能になる。これによって国内外に例をみない、全く新規で高効率・高精度・高品位の医療を提供できる。また、本技術の産業への応用および製品化による産業化活性化を促進できると大いに期待できる。産業界からは産学連携機構九州、新産業技術研究所(福岡)、東海メディカル(株)(名古屋)、鐘ヶ淵化学(大阪)、三洋化成工業(株)(京都)、新田ゼラチン(大阪)が参加している。
研究方法
研究方法、研究結果および考察=(1)ナノレベルでの細胞外マトリックス・人工骨格:本研究では、生体高分子のゼラチン、アルブミン、ヘパリンにラジカル重合性のスチレン基を導入した光重合性生体高分子を合成し、光開始剤との混合溶液から光構造体(筒状、棒状、プレート状)を形成した。電子顕微鏡観察でナノスケールの粒状分子が三次元的な網目構造を形成していた。一方、生体由来のエラスチンの低分子量体の光重合性付与およびエラスチン構造の繰り返しアミノ酸配列の合成オリゴペプチドの両末端に光重合性基を導入したものを作製した。同様の方法で三次元構造体を形成しつつある(松田・新名主・高原)。以上の技術は、国内外に先駆けた多様な光反応性バイオマテリアル技術であり、これらを用いて新しい表面生体適合化技術を開発し、ステント、人工血管の血液接触面の生体適合化を実現した。動物実験でその有効性を検証した。また、感温性および感光性人工細胞外マトリックスの分子設計を行い、ナノスケールの超分子構造化体からなるデバイスを開発した(松田・木戸秋)。既に開発している液状生分解性プレポリマーのsurface erosion機構による生
分解性制御と高速光硬化を可能にする分子パラメータを設定し、また新しい液状生分解性高分子を開発し、光造形技術による三次元微細立体マイクロ構造化(松田・新名主・木戸秋)を行った。(2)超微細ナノ加工技術:高電圧紡糸(自作装置)技術により、生体高分子、合成高分子の超微細紡糸(数十?数百ナノメートル径)およびそのマクロ構造(メッシュ・チューヴ)を形成する技術を完成させた(木戸秋・高原)。また、二光子光造形技術を改良して三次元立体構造体を上記の光反応性材料によって作製した。以上の機能材料を組み合わせて組織再生を行った。再生軟骨には上記で作製したnano-spring(岩本)、微小血管には筒状ナノメッシュ(安井)を作製し、一部動物実験にて検証しつつある。特に対象となる臓器が常時さらされている生体力学場でのストレスに感応するmechano-active人工骨格を開発しつつある。(3)ナノカプセルの創製と医療への応用:細胞内伝達系の異常シグナルを発生している細胞を感知して、これらの病的細胞にのみ選択的に薬剤・遺伝子を送達するナノカプセルを作製した。具体的には、九州大学発信の新しい治療技術(Rho-kinase阻害剤による臨床応用)の展開としてプロテインキナーゼ・Rho-kinaseの活性が亢進している細胞を感知するナノカプセルのプロトタイプを開発し、動物実験を開始した。内皮細胞剥離部位を感知するナノサイズの機能化造影剤を開発し、動物実験でその有効性を検証した(片山・下川)。抗癌剤含有ナノカプセル(日本化薬・東大片山教授)が動脈硬化病変の治療に大いに有効であることを動物実験で検証した(下川・片山)。感温性人工細胞外マトリックスによる差分接着能マトリックスの概念提出と実証を行い、またこれを用いて血管前駆細胞の選別・純化技術の開発とハイブリッド内膜の内張技術(松田・藤井・下川)を行った。



結果と考察
結論
本研究では、下記に示すナノ生体材料、ナノ加工およびナノ構造体を開発し、細胞・組織のナノ・マニピュレーションを可能にした。可視光照射による硬化と生分解性の表面制御(surface erosion)のできる液状光反応性生体適合材料、マイクロ・レベルの光造形技術およびより超微細な二光子光造形技術は国内外に例がない。また、高電圧紡糸(electro-spining)自作装置を用いる人工細胞外マトリックスのナノfiber、およびそれらの積層した複合ナノmeshおよび三次元化によるマイクロ筒状構造体形成の技術の開発は全く新しい加工技術を提供し、再生医療の新しいplatform又はscaffoldを提供できる独自の技術である。このような生分解性材料の機能性およびマイクロ・ナノ加工技術との人工臓器製作に応用できるものと期待している。組織特性(透過性の亢進、内皮剥離、プロテインキナーゼ活性化、等)を感知するナノカプセルに,任意の薬剤や遺伝子を組み込んで動脈硬化組織にのみ送達する研究を実際に行っているのは国内外で我々の研究グループ(下川・片山)のみであり、抗増殖薬を選択的に送達することにより、バルーン傷害後の再狭窄病変が著明に抑制される実験結果を得た。以上、細胞機能・組織再構築のnano-manipulationの要素材料と要素加工技術を各々開発し、これらを組み合わせることによってシステムとしてのナノ医療の基盤を構築しつつあり、初年度の目標を達成できたと考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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