ナノサイズ・センシングカプセルの新規開発と医療応用(H14-ナノ-010)(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200769A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノサイズ・センシングカプセルの新規開発と医療応用(H14-ナノ-010)(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大内 憲明(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 武田元博(東北大学医学部附属病院)
  • 川添良幸(東北大学金属材料研究所)
  • 粕谷厚生(東北大学学際科学研究センター)
  • 佐竹正延(東北大学加齢医学研究所)
  • 小林正樹(東北工業大学)
  • 水関 博(東北大学金属材料研究所)
  • 石田孝宣(東北大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
74,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1985年に発表されたフラーレンおよびナノチューブ構造はその強固かつ特異なかご状、および円筒状構造から、多くの分野での応用が期待される。医学薬学分野では、有用性が期待されるがそのままでは有害な薬物を構造内に取り込むことで、無害化することが期待されている。しかし構造が強固なため内部に原子や分子を挿入することが困難であり、医療に応用された例はない。本研究はフラーレン・ネットワーク、コーティング剤を薬剤のカプセルとして用いることで、これまで生体に応用できなかった試薬を医療検査薬として活用し、かつアレルギー等の副作用が問題となっている検査薬品の副作用を完全に取り除く技術の確立を目的とする。
研究方法
上記目的のために、スーパーコンピューティングによるフラーレンネットワーク等分子設計グループ(川添、水関ら)、フラーレンネットワーク並びにコーティングビーズ作製グループ(粕谷ら)、応用法研究グループ(武田、佐竹、石田、樋口ら)をそれぞれ作り、それぞれが下記のテーマについて研究を行う。
1. 医療用蛍光試薬の開発(粕谷):Gd/Seの蛍光ビーズの試験的作製。また市販蛍光ビーズをシリカコーティングし、動物実験モデルによる有用性、並びに最適な計測条件の検討を行う。 
2.X線造影剤の開発(粕谷):ヨードを用いたセンシングナノカプセルを作製し、X線透過性、粒径の計測をおこない、実用化に向けた検討を行う。
3.生体分子標的検査試薬の開発(佐竹):ナノサイズセンシングカプセルを用いてin vivo, in vitroにおける新たな用途の検討により分子標的検査試薬を作製する。
4.新規蛍光画像装置の試作(小林、武田):高感度蛍光画像計測、および高分解能蛍光画像計測の基礎データ収集に最適な装置を極微弱光計測技術を基に試作する。
5.スーパーコンピュータを用いたフラーレンネットワークの分子設計(川添、水関):第一原理計算に基づく分子設計により、有用な分子構造の薬品を設計する。
6.新規検査試薬の動物実験による有用性検証(武田、石田):上記で得られた試薬を実際に動物モデルに応用し、目的とする分子・病変の検出を試み、有効性、安全性についての検証を行い、臨床への応用を目指す。
結果と考察
1.医療用蛍光試薬の開発(粕谷):Gd/Seのナノクラスターを試験的に作製し、蛍光特性の検討を行った。Gd/Seナノクラスターは蛍光強度、蛍光寿命とも従来の蛍光色素をはるかに上回り、蛍光強度は20倍以上、蛍光寿命は3分以上を示す事がわかった。また市販の蛍光ビーズをシリカコーティングし、武田らの動物実験に供した。蛍光ビーズを用いた実験により、センチネルリンパ節生検に最適なナノサイズセンシングビーズのサイズおよび蛍光波長が明らかになった。この結果に基づいて、現在センチネルリンパ節蛍光検出法に関して特許申請中である。なお、当初計画において参加していなかったが、本研究においてコーティング技術は極めて重要と考えられることから東北大学工学系研究科、小林芳男が参加することとなった。
2.X線造影剤の開発(粕谷ら):ヨード内包コーティングビーズの製造に着手した。今後、X線撮影装置による評価と最適なサイズ、化学的安定性について検討を行う予定である。
3.生体分子標的検査試薬の開発(佐竹ら):市販のquantum dotsと抗腫瘍モノクローナル抗体を結合させたマーカーを用いて培養細胞の表面抗原をマーキングし、蛍光顕微鏡による撮影に成功した。
4.新規蛍光画像装置の試作(小林、武田ら):生体極微弱発光計測技術を応用した新規高感度蛍光画像計測装置、および高分解能蛍光画像計測装置をそれぞれ1台試作した。高感度蛍光画像計測装置は幅広いダイナミックレンジをもち、様々な蛍光強度に対応可能であり、高分解能蛍光画像計測装置は、蛍光寿命といった経時変化を微弱な光領域で計測可能である。この装置を用いて実験動物をモデルとしたセンチネルリンパ節生検モデルの検討を進めていく予定である(この実験計画は本学動物実験委員会の審査を受け承認されたものである)。
5.スーパーコンピューターを用いたフラーレンネットワークの分子設計(川添、水関ら):スーパーコンピューターを用い、従来存在し得ないと考えられた遷移金属内包切頭二十面体シリコンフラーレンの存在を2001年初めて予測することに成功し、2002年にその実在が中島らによって実証された。第一原理に基づく分子設計の有用さが改めて実証された。今回の研究でシリコンフラーレンもセンシングナノカプセルのケージとして有力な候補となることがはっきりした。
6.新規検査試薬の動物実験による有用性検証(武田、石田ら):ラットをモデルとして体表からのセンチネルリンパ節検出を目的とした蛍光計測実験を行った。この計測で、生体計測においての最適なビーズの蛍光波長とサイズを決定した。さらにこの内容に基づいて特許申請を行った。今後、更なるあらたな診断応用の道を探る予定である(この実験計画は本学動物実験委員会の審査を受け承認されたものである)。
7.ナノサイズセンシングカプセルの新たな応用法開発:当初計画には盛り込まれていなかったが、この目的のため以前から単分子計測を行っていて蛍光計測に詳しい東北大学工学系研究科、樋口が参加することとなった。樋口は今後、単分子計測についての新規応用、計測法の検討を行う予定である。
結論
新規ナノサイズセンシングカプセルは従来の試薬をはるかに上回る特性を有することがわかってきた。また、これまでの動物実験の結果、センチネルリンパ節生検等新規の医療応用に有用であることが強く示唆されている。一方医療分野ではテーラーメイド診療、EBMに代表されるように個々の患者の病態に応じた、科学的根拠に基づいた治療法が求められつつある。このような社会的な要求に対して、ナノサイズセンシングカプセルは分子標的治療、センチネルリンパ節生検等、テーラーメイド診療にとって有力な新しい診断、治療法への応用が強く期待される。今後、この基盤的ともいえる技術がより幅広く臨床応用されるよう、有効性のみでなく、安全性についても検討を進め、国民の健康に資する研究としたい。

公開日・更新日

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