RI標識分子と半導体型ガンマカメラによる分子病態の画像化の研究

文献情報

文献番号
200200767A
報告書区分
総括
研究課題名
RI標識分子と半導体型ガンマカメラによる分子病態の画像化の研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
久保 敦司(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井博史(慶應義塾大学医学部)
  • 尾川浩一(法政大学工学部)
  • 國枝悦夫(慶應義塾大学医学部)
  • 中原理紀(慶應義塾大学医学部)
  • 小林弘明(東芝医用システム社)
  • 本村信篤(東芝医用システム社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来のシンチレータを用いたアンガー型ガンマカメラは、改良が重ねられているものの、大幅な性能の向上は見込めない。このため、シンチレータよりも放射線の検出能が優れた半導体素子を用いて、ガンマカメラを製作し、エネルギー分解能、空間分解能などの物理学的性能の改善をはかり、分子レベルでの病態の解明に役立つ診断機器の研究開発を目指した。
研究方法
本研究は、1)半導体型ガンマカメラの開発とその性能評価(小林、本村、藤井)、2)半導体型ガンマカメラの特長を生かした画像処理システムの開発(尾川、中原)、3)半導体型ガンマカメラの特徴を活かせる分子病態モデルの開発(国枝、藤井)を中心に行なった。
1)半導体型ガンマカメラは、CdTe素子を平面上に配置して、作成した。作成したガンマカメラを用いて、以下の5点について、シンチレータを利用した従来型のアンガー型ガンマカメラと比較検討した。1.エネルギースペクトラムの形状による評価、2.低集積と高集積が近傍にある場合の評価(センチネルリンパ節検索のシミュレーション)、3.線線源によるボケ関数(FWTM)の評価、4.Cold Spot付き面線源によるコントラストの評価、5.心筋ファントムによる画質の評価
2-1)半導体型ガンマカメラの小型軽量であるという特長を生かした画像処理システムとして、従来のアンガー型ガンマカメラによるSPECT撮像のように、ガンマカメラを体軸を中心に回転させるのではなく、有用な画像情報を含んだ収集データが得られる少数方向からの撮像により断層画像を再構成する方法を検討した。
2-2)SPECT画像の評価方法として、関心領域を設置してそのカウント値を測定し、定量的に解析することが一般的に行なわれている。しかし、その評価を正確に行なうには、適正な関心領域の設定が重要である。半導体型ガンマカメラの性能評価への応用を念頭に、適正な関心領域の設定法について検討した。
3)半導体型ガンマカメラの特徴を活かせる分子病態モデルとして、センチネルリンパ節の検索と定位的放射線治療に伴い生じる放射線性肺臓炎について検討を加えた。
結果と考察
1)半導体型ガンマカメラの開発とその性能評価 エネルギースペクトラムの形状による評価については、140keVのピークを有するTc-99mのガンマ線についてのエネルギー分解能は、アンガー型ガンマカメラが10%であったのに対して、半導体型ガンマカメラでは、5%であった。122keVと136keVと比較的近接する2つのピークを有するCo-57については、エネルギー分解能は、アンガー型ガンマカメラが11%であったのに対して、半導体型ガンマカメラでは、7%であった。半導体型ガンマカメラでのみ、136keVのピークを分離して観察することが可能であった。低集積と高集積が近傍にある場合の評価については、センチネルリンパ節検索のシミュレーションを行なった。10.4mCiの線源(投与部位のradioactivityを模した線源)の近くに0.07mCiの線源(sentinel リンパ節を模した線源)をおいて撮像を行なった。アンガー型ガンマカメラでは、両者の線源を分離して描出することが困難であったが、半導体型ガンマカメラでは、両者の線源を分離して描出することが可能であった。線線源によるボケ関数(FWTM)の評価については、散乱体がない場合と散乱体として5cm厚のアクリル板を使用した場合、10cmの厚さのアクリル板を使用した場合について検討を進めた。結果は、FWTMで評価した。散乱体がない場合は、13.8mm:16.6mm、5cm厚の散乱体を用いた場合は、14.8mm:19.4mm、10cm厚の散乱体を用いた場合は、15.1mm:23.1mmでいずれにおいても、半導体型ガンマカメラの方が優れていた。Cold Spot付き面線源によるコントラストの評価については、Cold spotによるカウント値の落ち込みは、半導体型ガンマカメラの方が明らかで、半導体型ガンマカメラのコントラスト分解能が優れていることが示された。心筋ファントムによる画質の評価については、アンガー型ガンマカメラで撮像した心筋ファントムの画像に比較して、半導体型ガンマカメラで撮像した心筋ファントムの画像は、コントラストが明瞭で、散乱線などに起因する雑音の影響が少ない画像が得られた。血流低下部位についても良好な検出能が示されるものと期待された。
試作器は、半導体検出器の優れた性能を反映しており、従来型のアンガー型ガンマカメラに比較して、固有分解能、エネルギー分解能の点で優れていた。素子ブロック化法による半導体素子の配置により、実用可能な検出器が作成できるものと考えられる。
2)半導体型ガンマカメラの特長を生かした画像処理システムの開発 ガンマカメラを回転させないで断層画像を撮像する方法については、体軸に直交する平面(水平断面)に関して、30°ずつの5方向と、体軸に平行の前後方向の平面(冠状断面)上で30°ずつの5方向を組み合わせて得られる25方向からの投影データから、信号成分の強い画像を選択し、少数の画像データから再構成画像を得る方法を検討した。信号強度は各投影データをフーリエ変換し、そのパワースペクトルで評価した。パワースペクトルの強いものから順に9画像を選択して得られた断像画像は、シミュレーション実験においては、臨床応用が可能な程度の画質の画像であった。
半導体検出器は小型軽量であるという特長もあり、検出器としての撮像方向の自由度を高めるのに有用である。撮像方向を任意に設定できるため、アンガー型ガンマカメラでは困難と考えられていた撮像法が適用できる。本年度の研究で、少数の収集データを利用することにより、臨床応用可能な程度の画質の断層画像が作成できることが示せた。これは、これまで、ポータブルガンマカメラでは困難と考えられてきた断層画像の撮像を可能にするものであり、これからの展開が期待できる。
SPECT画像における関心領域の設定の方法の検討では、内部に2.6kBq/cc, 1.3kBq/cc, 0.65kBq/ccの3種類の濃度のTc-99mを充填した小型円柱ファントム(内径22mm)を作成し、これらの画像のカウント分布を測定した。いずれの濃度においても、最大カウント値の50-60%の値を閾値とすると、そのカウント分布の輪郭が、ファントムの辺縁とおおむね合致した。半導体検出器の性能評価に客観性を持たせることが可能と考えられた。
3)半導体型ガンマカメラの特徴を活かせる分子病態モデルの開発 センチネルリンパ節検索に関しては、センチネルリンパ節中のマクロファージ細胞の表面に発現するマンノースレセプターを標的とした薬剤の利用について検討した。検討の結果、California大学のVera博士の開発したマンノース化合物Tc-99m diethylenetriamine- pentacetic acid-mannosyl-dextranの導入により、従来のコロイド製剤がリンパ球に貪食される作用に依存する方法より高感度でセンチネルリンパ節検索が行える可能性があることが明らかになった。このため、Vera博士らとの協議により、この放射性薬剤を導入し、検討を進めることにした。放射線性肺臓炎に関しては、定位放射線照射により、肺の一部に限局した放射線照射が可能となったため、実験動物(ウサギ)を用いて、照射野外に炎症性変化が拡大するsporadic radiation pneumonitisのモデルを作成した。炎症性変化が照射野外に進展する機序として過敏性変化が考えられているので、今後、RI標識サイトカイン等の利用により、病態の解明を行うことにした。
結論
半導体素子 CdTe を用いたガンマカメラを試作し、従来型ガンマカメラより優れたエネルギー分解能、固有位置分解能を有していることを確認した。半導体型ガンマカメラの特長を活かし、少数方向からの収集データを用いたSPECT撮像法を提案した。また、SPECT撮像における定量評価法についての検討を加え、実測値に近い結果を得るための閾値の大まかな値を設定することができた。半導体型ガンマカメラの導入により、分子レベルでの病態解明への貢献が期待できる病態モデルについて検討を行ない、今後の研究方向を示すことができた。

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