高磁場NMR及びMRIを用いた脳虚血病変診断技術の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200763A
報告書区分
総括
研究課題名
高磁場NMR及びMRIを用いた脳虚血病変診断技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 秀博(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原英明(大阪大学)
  • 菅野巌(秋田県立脳血管研究センター)
  • 安里令人(京都大学)
  • 服部憲明(BF研究所)
  • 永田泉(国立循環器病センター)
  • 峰松一夫(国立循環器病センター)
  • 成富博章(国立循環器病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、MRIを用いた機能画像診断において、脳虚血性疾患の病態生理を新しい視点で定量的に把握し、これにより新しい治療指針の樹立に有効な情報を提供するような評価システムを確立することを目標とする。特にMRI装置を使ったトレーサ追跡を、極めて高感度で実現する方法を開発し、従来の核医学的手法などでは得られないような、しかし脳虚血病態生理を理解するために基本的な生理的な情報をイメージとしてとらえることのできる定量評価システムを構築する。虚血急性期におけるニューロンの代謝異常および変性の検出、脳虚血時のグルタミン酸グルタミンサイクルの観察、低体温治療に応用できるような脳組織の温度計測法の確立、また臨床診断の場においては、脳血流量および酸素摂取量の定量化を実現する撮像法とトレーサ解析理論の確立を目指す。
研究方法
1.Gd造影剤を用いた灌流画像の定量化の正当性を評価する。多くの解析手法が提案される中、いずれも実験的に正当性が証明されたわけではく、灌流画像は報告ごとに異なった結果を呈し、正当性がすでに確認されている核医学的手法の結果とも必ずしも一致しない。我々は、Gd造影剤の動態解析プログラムを独自に開発し、解析方法ごとに灌流画像がどのように異なるのかについて検討した。動態解析モデルを、Oestergardの方法とLemppの方法のふたつに分類し、これらの解析手法間での相違について調査する。
2. T2*(横緩和時間)の絶対値を正確に定量することを目的としたパルスシーケンスをMRI装置に移植し、T2*定量の臨床的意義について検討する。このシーケンスでは、90度パルスに引き続き傾斜磁場の反転を繰り返して撮像し、信号強度の減衰曲線を単一指数関数でフィッティングすることでがT2*が定量できると考えられる。実際に、ファントム実験でこの正当性を確認し、さらに健常者および脳虚血患者にて評価を行い、PETと比較する。
3.Xe-129希ガスをルビジウム蒸気と混合させ、これに強力な円偏光レーザーを照射することで、超偏極Xe-129を安定して供給するシステムのプロトタイプを製作する。これを応用して、従来のプロトンMRIではできなかった新しい生体情報が観察できることを確認する。
結果と考察
1.Gd造影剤を用いた灌流画像は、ふたつの異なる解析法で大きく異なり、また共にPETで観察した血流分布とも異なることが示された。この理由として、Gd造影剤の虚血領域における遅延および形の歪みが正しく補正されていないことが明らかになった。これらの治験に基づき、遅延と歪みを同時に補正する新しい動態解析モデルの構築に着手し、今後PET血流量画像にどのように一致するかについて検討を開始する。
2.T2*を正確に定量するシーケンスプログラムにおいては、ファントム実験でこの正当性を確認し、さらに健常者、脳虚血患者および麻酔管理下のカニクイザル実験にて評価を行った。この結果、十分に高い精度でT2*の定量が可能であること、ただし理論通りに従わない現象も観察しており、磁化率アーチファクトに基づく磁場の不均一性が原因と推察された。また、T2*は脳局所における微小血管内の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの比率に影響することが予想されるので、この定量化によって脳局所の酸素摂取率が計測できることが期待できる。実際に、一側性の内頚動脈閉塞により半球の局所酸素摂取率が上昇していることをPETで確認した症例において、T2*値がPETで測定した酸素摂取率と良好な相関を示していた。またカニクイザルにおいては、呼吸数を変化された時のT2*値が血中の二酸化炭素によく反応して変化することを確認した。これらのことから、将来はMRIを用いても脳局所酸素摂取率の定量は可能であることが確認できた。今後は、理論に従わない減衰曲線の物理的理由付けを行い、さらに精度の高いT2*定量化プロトコルの確立を試みる予定である。
3.1回当たりの取り出し量が約60mlの条件下で偏極度が10%以上の純Xeガスを約30分間隔で繰り返し単離することが出来た。このような高感度のXe-129の臨床応用として、MRS共鳴周波数から体内温度を精密測定する方法の基礎検討を行い、絶対周波数スケール(absolute frequency scale)の考えに基づいた多核種標準法(multinucleus standard method)を考案した。ファントム実験から、十分に高い精度を有することが示された。外部磁場の空間的および時間的変動や磁化率の不均一性などを補償した精度の高い体内温度測定法となることが期待できた。今後実験動物に適用を行い、周波数シフトから精密な脳温度計測法を確立させる予定でいる。また、T1緩和時間の計測を行い、赤血球の還元プロセス、および酸素摂取率の定量評価を行う予定である。さらにXe-129スピンをプロトンに移行させ、これにより従来のMRIの撮像感度を飛躍的に上昇させる技術についても検討する。
結論
NMRおよびMRI撮像装置を用いて、従来にない新しいトレーサ追跡が可能であることが示された。脳組織の灌流画像の定量化は、まだ解析法に問題を有することが明らかとなり、今後撮像シーケンスの改良と合わせて系統的な研究が不可欠である。プロトンのT2*の定量も可能であり、酸素摂取率の定量化へ応用可能であると考えられた。超偏極Xe-129は安定して生成でき、今後新しい機能画像の定量化法が臨床研究に応用可能であると考えられた。

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